防災士の資格を取得したのでアウトドア×防災イベントを開催してみました。
2023年秋のある日。
「ねえ、ちょっといいアイデア思いついたんだけど」
これは、バーベキュー場「タマリバー」を運営する弊社代表であり、私の夫の口グセです。
そしてそのアイデアを話した後、必ず続く言葉があります。
「でさ、このアイデアを実現するには、どうしてもこれを買わなくちゃいけなくて・・・」
そして、メンバーである私たちに熱い熱いプレゼンを開始します。
いままでの勝敗は50:50くらいでしょうか。
ちなみに、過去に夫のプレゼン開始後0.0000001秒後にメンバーから却下されたのは、レーザー彫刻機でした。
レーザー彫刻機のように「どう考えてもいらない」とメンバーに一蹴されるものもあれば、満場一致で購入を決めるものもあります。
今回は後者で、かつ夫がプレゼンしたのは、珍しく「モノ」ではありませんでした。
「防災士の資格を取りたいんだよね」
防災士・・・?
夫の熱いプレゼンを聞くと、ふむふむなるほど、確かにバーベキュー場を運営する上で、防災の知識は大切かもしれません。
そして人の命がかかっているので、正しい知識を得る必要もあります。
これは大事だね、ということで「資格とっておいで〜」と送り出し、夫は2023年11月に講習を受けました。
そして「年明けには資格が取得できるから、こんなことをやってみたいね」と三人で楽しみにしていた矢先。
2024年1月1日の能登半島地震が起こりました。
私たちにできることは本当に小さなことだけど、できることはやりたい。
こうして仕事の合間に少しずつ準備を進め、先日タマリバーで防災体験イベントを実施しました。
どんな経緯で何をやったのか、イベントレポートとしてまとめています。
(1)あらためて、開催に至った経緯
・タマリバーのある多摩川河川敷は「広域避難場所」
弊社が運営しているバーベキュー施設「タマリバー」は多摩川河川敷の一角にあり、多摩川河川敷エリアは「広域避難場所」に指定されています。
多くの人が集まることができるので、河川敷エリアは一時的に避難する場所として重要な意味を持っています。
一方で、台風や豪雨の時は、河川敷は一気に危険度が増します。
台風の時期になると、毎年タマリバー近くの多摩川河川敷の水は増水し、ハラハラすることもしばしば。
豪雨があるたびに、タマリバーに行政の方から連絡が入ります。
「タマリバーさん!今、多摩川の水の様子、どんな感じですか?」
タマリバースタッフは完全に「多摩川の住人」と認識されているようです。
それくらい、タマリバーは多摩川から近いのです。
不測の事態が起きた時、タマリバーを利用されるお客様の安全をどのように確保するか、広域避難場所に多くの人が避難してきた時に私たちには何ができるか。
タマリバーとしても防災に関する知識や経験を積んでおくことは、社会的意義の観点からも重要だと考えました。
・防災体験イベントを「子ども向け」にした理由
私自身、未就学児の子を持つ親ということもあり、子どもを産んでから一気に防災に関する意識が高まりました。
「絶対に守らなければならない小さな人間がいる」と思うだけで、焦りも本気度も段違いです。
家には災害用リュックと、在宅避難時の防災食を備蓄しています。
子どもと一緒に、防災について学べるイベントに参加したこともあります。
ただ、そのイベントは座学がメインで、人の話を5分と聞いていられない我が子と、そんな我が子を優しくたしなめる精神的余裕のない私にとっては、なかなかしんどい時間でした。
そのイベントで子どもが唯一興味を示したのは「携帯トイレの使い方実習」で、コーヒーを"おしっこ"に、味噌を"うんち"に見立て、携帯トイレの効力を学ぶものでした。
子どもは、味噌をぐにゅ〜〜っと出して「うっひゃ〜うんち〜〜〜!!!」と大喜びしていました。
泣きたかったです。
そんな経緯もあり、タマリバーのアウトドア環境を活かし、「親子で楽しみながら、昨日よりちょっとだけ防災の意識が芽生える」、そんな防災コンテンツが作れないかと考えました。
(2)当日実施したコンテンツ
当日は、4家族(大人8名、年中~小5の子ども6名)の計14名が集まり、「タマリバー防災体験イベント」を実施しました。
実施したコンテンツは以下4つで、①~③が約1時間半、④が約3時間半(BBQしながらの遊び時間を含む)と、計5時間程度のイベントとなりました。
① 防災についてのお話
まず、新米防災士の夫が「どうしても子どもたちに伝えたかったこと」を1つだけお話しました。
夫が防災士の勉強をする中で一番印象に残ったこと。
それは、「災害時に餓死した人はいない」ということです。
なんとなく、防災というと防災食に目が行きがち(現に我が家は大量の防災食をストックしています)ですが、多くの場合、食べ物は近隣の避難所に備蓄があったり、数日待てば他地域から届くことがほとんどだとか。
大規模災害時はお腹がすいて死亡するのではなく、「倒壊した建物の下敷きになる圧死」が多いんだそうです。今回の能登半島地震でも、死因の第一位が圧死でした。
参加したお子さんたちには簡単な言葉で説明し、「潰されるような場所からはできるだけ遠くに逃げよう」ということを覚えてもらいました。
② ガレキ救出競争
ここからは、アウトドアに強いタマリバーならではコンテンツ。
まずは「ガレキ救出競争」です。
ガレキに囲われた風船を人間に見立て、ロープやバール、ジャッキといったホームセンターで買える道具を使いながら、制限時間以内に割らずに取り出す(救出)というゲーム形式のコンテンツです。
初めての取り組みということもあり子どもたちのリアクションが不安なコンテンツだったのですが、みんな一生懸命考えながら、楽しく取り組んでくれました。
③ 本物の消火器体験
消火器は誰もが見たことはあるけれど、普段触れてはいけないもの。
ただ、いざという時は使わなきゃいけない。
でも・・・「使い方がわからないものを使う」って、怖くないですか?
電車の非常停止ボタンやマンションの非常ベルだって、押したいけど押しちゃダメ。
でも本当に必要な時は、勇気を出して押さなくてはいけません。
なお、普段は非常停止ボタンを鳴らす練習ができないので、私は子どもとこの絵本で練習しています。
押しちゃいけないものを思いっきり押すという、この背徳感。
日々真面目な顔をして「XXしなさい」「XXしちゃだめ」と世間一般の常識にがんじがらめの大人にとっても、うさ晴らしができる本です。
消火器は他の防災体験でもよく使われるツールですが、そのほとんどは、水鉄砲のように水を発射するレプリカです。
本物の消火器は粉塵の片付けが大変なため、なかなか体験できる機会はありません。
アウトドアのタマリバーにおいては、汚れを気にする必要がないので、今回は本物の消火器を子どもたちに体験してもらいました。
レバーをどのくらい押したら、どんな風に消火剤が出るのか・・・ドキドキしながら楽しんでくれたようです。
④ 防災食品試食 with BBQ
「防災食を備蓄しているけれど食べたことがない」という方は意外といらっしゃるのではないでしょうか。
特にお子さんだと、普段と違う味でおいしくない!そもそも知らないものを食べるのってなんか怖い!と嫌がる子が一定数いると聞きました。
であれば「防災食を食べてみる」ということも大切では?という考えのもと用意したコンテンツです。
せっかくバーベキュー場に来ていただいたので、BBQと一緒にフリーズドライのごはんと缶詰のパンを食べてもらいましたが、意外とリアクションは悪くありませんでした。
一通り食べ終わった後の子どもたちは施設の遊具で遊び、大人たちはお酒を飲みながらじっくりBBQという形で楽しんでいただけたようです。
なお、我が家には「ビスコの保存缶」があります。
これは食べるまでもなくおいしいと分かりきっているので、試し食べはしません。
子どももこの存在を知っており、家のおやつがなくなるたびに、「1つでいいから・・・あのビスコをちょうだい」と懇願してきます。
でも、絶対にあげません。
「本当に困ったときに取っておくからね」というのが表向きの回答ですが、単に「ビスコ缶の値段が通常ビスコの二倍するから」です。
(3)開催してみての感想と今後の課題
「防災体験イベント」は初の試みだったので不安もありましたが、参加者の皆さんは終始和やかな様子でホッとしました。
11:00集合~16:00解散と丸一日楽しんでいただき、ただの防災体験ではなく「バーベキューを楽しみながら防災を学ぶ」という、親子の休日遊びとしても成立していたのではないかと思います。
・参加者の声
保護者の方むけにアンケートも実施したのですが、こんな反応をいただきました。
一方で、こんなご意見も。
・今後の課題
「防災は大切じゃない」という人はいないと思いますが、そのために限られた時間やお金をかけるかといったら、それはまた別の話。
日々他にも忙しいことがたくさんある中、防災への意識の優先度を上げられるかというと、なかなか難しいのかもしれません。
どうしたら、より多くの人が、より身近に防災について感じてもらえるのか。
そう考えると、タマリバー単体ではなく、一緒に防災コンテンツを盛り上げてくれるようなパートナーに出会えたらな、とも考えています。
また、今回はトライアルのため参加費は少額で赤字状態で開催したのですが、継続的に実施し、なおかつ新しいコンテンツを作っていくとなると、それなりに費用が必要になってきます。
「防災」という体験にわざわざお金を払って参加する需要があるのか?
あるとすれば、適正な価格はどのくらいなのか?
といったマネタイズも、今後の重要課題です。
全社員の3分の1が防災士の資格を持っている弊社(全社員3名)としてできることを、今後も実行していきたいと思います。