イエス・キリストの顔は西洋絵画でどう変化したか
我々が想像するキリストの顔と言えば、
肩まで垂れた長髪
面長な輪郭
二重でぱっちりした目
こけた頬
口元とあごに生えたヒゲ
のような感じです。 絵が下手な人に「キリスト描いてみて」って無茶ぶりしても、だいたいこのイメージに従って書いているような気がします。それにしてもいつの時代からこのイメージが出来上がっているのでしょうか?
初期キリスト教時代のイエス像
キリストがゴルコダの丘で十字架に磔にされて死亡してから、イエスの弟子たちはローマ帝国各地にイエスの教えを伝えるべく伝道の旅に出ます。
徐々に信者数は増えていったのですが、どうも最初の頃はキリスト像など特に存在しなかったようです。ヨハネによる黙示録には、イエスの姿についてこのように記述がなされています。
人間というより、人間を超越した超生命体のように描かれています。
偉大で、神々しくて、尊くて、とにかくめちゃくちゃすげー人
というイメージが伝われば充分だったのかもしれません。あるいは、「魚」「子羊」「孔雀」のように別の姿で暗喩するのが一般的でした。
上記はシリアの遺跡ドゥラ・エウロパスに残された、世界最古のキリストの絵で2世紀頃のものと考えられています。
この頃からキリストの教えのみならず、その歩みや物語が重視されるようになってきたので、お話とセットになる絵が必須になってきたようです。
上記はキリストが病人を治癒する様子が描かれた絵で、若く、ヒゲははやしておらず、ローマの哲学者の服を身につけています。
上記は3世紀頃のローマ市内のカタコンベにあるキリストの絵です。
そばには鶏が描かれており、神々しい姿とは遠い「そこらへんのニイちゃん」のように描かれています。
初期キリスト教ではこのように、キリストは若くて壮健な青年のイメージが一般的でした。
王者の象徴・髭
4世紀頃になると、キリストの絵にある変化が見られます。それは「髭」です。
380年にテオドシウス帝によってキリスト教がローマの国教に認定されたことに影響があるかもしれません。
ギリシア・ローマ的感覚では「髭」こそ「王者の威厳」や「知性の風格」を備えさせるもの。ギリシアの神・ゼウスも、ローマ皇帝も、ギリシア・ローマの哲学者たちもみんな立派な髭を生やしていました。
「王者の宗教」としてふさわしい風格を与えるために、伝統に則ってキリストにも髭を生やさせたというわけです。
おそらくこれがいま我々がイメージするキリスト像の原点のようなものなのでしょう。
「天上の王」としてのイメージ訴求
一方で、王権とキリスト像が結びつくことを嫌う人たちは、あくまで「天上の王」「審判者」としてのキリストを描こうとしました。
彼らにとっては別に髭の有無は重要なことではなく、いかにキリストが「万物の支配者」であるかが分かる "ギミック"のほうが大事でした。
それは例えば、建物の天上のドームの中央にキリストを描く技法で、見ている人に神が天の国から自分を見下ろしているような錯覚を与えるなどの工夫を凝らしました。
6世紀頃になると西ヨーロッパではいま我々が想像するような「長髪・面長・髭・こけた頬」に統一されていきますが、東方協会では12世紀ごろまでは「髭なし」のキリストが多く見られました。上記の絵は6世紀頃のモザイクなのですが、これ言われなきゃキリストだって分かんないですよね。
徐々に固まっていくイメージ
これは1164年に描かれたビザンチンのフレスコ画です。髭が生えて、面長、長髪という一般イメージにかなり近づいています。
12世紀以降は、その地域の人の顔に寄せることはあるにせよ、ほとんどが現在のイメージと近い顔で描かれるようになります。
これは15世紀の作品。イタリアの画家 ピエロ・フランチェスカの作。
18世紀のフランスの画家ノエル・コヨーペルの作。
これは19世紀の作品。スペインの画家エンリケ・シモーネの作。
本当のキリストの顔はどうだったのか?
これはイギリスのテレビ番組が作った、キリストの顔の想像CGです。
後世に様々に描かれたキリストの顔を元にして、当時のヘブライ人の肌の色や特徴などを適応させて作ったもの。
当たり前ですけど、普通の人ですね。秋葉原でケバブ売ってても気づかなそう。キリストの顔が本当のところどうだったかのかは色々論争があり、YouTubeで「face of jesus」とかで検索すると色々出てきます。
まとめ
すごいのが、4世紀ごろに何となく固まったキリストのイメージが変わらず受け継がれているところです。
諸先輩方の定型フォーマットを踏襲する、というのもあるでしょうが、やっぱり「公正で力があり優しくて正義」な人物というのが、時代・国を問わずこういう姿なのだろうと思います。
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