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後ろ歩きにすすむ旅 石井ゆかり

私がこの本の著者である石井ゆかりさんを知ったのは、昨年末のことでした。

年末になると、本屋さんにところ狭しと並ぶ手帳と来年の運勢を描いた占いの本。

その中で知人が紹介してくれて、購入した「3年占い」というものでした。

占いなのに、まるで小説みたいで言葉選びが優しい。
言い当てたり行動を左右するような語り口じゃない占いです。


そんな石井ゆかりさんの書かれた、旅エッセイを読みました。

この本は、石井ゆかりさんのひとり旅のエッセイ集。
前半は海外、後半は国内旅です。

石井さん自身が特に旅に慣れている人でも、とりわけ語学が達者な方でも無いようです。
そんな手探りで等身大のひとり旅の姿は、共感の嵐。

海外はベトナム、フィリピン、そしてオーストラリア。
国内は京都と日光。

旅エッセイとはいえ、
ここに行きたい!というようなお店紹介があったり、旅先のあれこれはこの本には書かれていません。

だけれど
なんだろう、優しくて暖かくて染み込んでくれる感覚がとっても心地いい。

砂蒸し風呂のようであり
温かいお湯が衣服に染み込んでいくような、じんわりとしたあたたかさ。

海外旅行に行き慣れていない自分が、著者に憑依して旅しているかのような感覚。
世界を他者のフィルターを通して楽しむ、その面白さを教えてもらった気がしています。

後ろ歩きにすすむ?

最初、私は題名を読み間違えていました。
「後ろ向きにすすむ旅」だと思って読み進めていました。
だから、ネガティブなことと向き合う旅をされているのかと思っていたのです。
傷心旅行とか自分を探す旅みたいなものかと。

そしたら、後ろ歩きでした。笑

後ろ歩きってことは、視覚で情報を捉えずに少しずつ進んでいる。
怖いから、見れないのに歩みを止めずに進んでいるってこと。

これってすごいこと。すっごくおもしろい。

新しいことに飛び込むって、年齢問わず誰でも怖い。
初めてってだけでも怖いのに、目の前に怖い景色が見えていたら尚更怖い。

プールサイドからプールに飛び込むことや、バンジージャンプに飛び立つことのように。
目の前に景色が広がっている景色を敢えて、見ない。
みなければ、案外飛び込めたりするのかも知れない。

そんな「後ろ歩き」。
後ろって聞くと進んでないようで、後ずさっているようなのに、ちゃんと歩いている。

この発想が私にはなかったです、素敵。

旅先で特に何もしない豊かさ

このエッセイの中では、特に特定のお店が紹介されることもないし旅程も特に書かれていません。
そう、著者は特に計画を練っていない。何もしていない。

気の向くままに出歩いて、気に入ったお店に何回も通って店員さんと交流する、暮らすように旅をしていました。

それが心地いいのです。

ゆっくり、時間をかけて、「待てば海路の日和あり」で行けばいいのだ。
たぶん、本当はいつだって、そういうふうに生きていけばいいのだ。
なんで普段、あんなに飛ばしてるんだろう

「後ろ歩きにすすむ旅」より

日常、何気ないルーティンや習慣。
効率的に、タイムパフォーマンスやコストパフォーマンスなどにばかり気を取られている私。

余白、ゆとり。
豊かさはそんなところからうまれてくるのではないかと改めて気付かされました。

自信を取り戻す感覚

日常を過ごしていると、新しくはじめることって少しパワーが必要。
毎日が習慣やルーティン化していることが私は多いです。

その習慣の積み重ねによって、自分が作られているような感覚で日々を送っています。

けれど、旅先にひとりで行くと
その日何をするのか
どこに行くのか
自分で決めて、行動しなければなりません。

ご飯を食べに行くお店
観光に行く先
海外であれば、文化の違いも相まって当たり前が当たり前じゃなくなります。

その小さな挑戦が、やむを得ずやることが自分自身を成長させてくれるのかもしれません。

自分には無理そうだけど、やりたいこと。
やりたいけれど、できそうもないこと。
そういうことを敢えてムリしてやったときの喜びは、誰にもわからない、完全に自分だけの充足だ。

「後ろ歩きにすすむ旅」より

日常だと敢えてやる必要もないからやらない。
だからこそ、環境を変えてゆとりのある中で挑戦してみる。

とてもおもしろいです

怖いことを認識すること

この本を読んで感じたのは「怖がっていい」ということ。

大人になったからって、知らないものがたくさんある。
怖いものだってたくさんある。

でも、年齢を重ねるうちに中々それを言い出せないし
行動にうつそうとするともっと億劫になる。

怖がっていい。
怖くて当たり前だし、怖いって言っちゃっていい。

その怖さを誰かと共有することで進めることもあれば
怖いけどエイっ!てやれるかも知れない。
後ろ向きでジリジリ進んでみてもいいい。

やり方は色々あるから、まずは「怖がっている」っていう現状を素直に受け入れてみることにする。

自分にとっての後ろ歩きをやってみる

小さな子どももいるし、お金もない今の私に海外ひとり旅は正直なところ難しい。

でも、私には私にできる「後ろ歩きにすすむ旅」があるように感じています。


人とのコミュニケーションが苦手な私。

出産後も、子育てママさんたちとの交流は極力避けてきた。
そんな私でも
少しずつ話しかけたり、自分の小さな悩みを吐露してみたり
人とのコミュニケーションをジリジリ進めてみようかなという気持ちになった。

ママ友とか平日昼間の井戸端会議みたいなランチ会に苦手意識があったから、これまでは避けてきました。
それは遡れば、学生時代の女の子グループの経験のせいもあるかもしれない。

私にとっては食わず嫌いしていたことにも
後ろ歩きで挑戦することも一つのスモールステップ。

ステップじゃなくていい。
ジリジリ後ろ歩きでいいじゃない。

そんな背中をあたためてもらった気がしています。


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