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セミダブル

あくまで凡人的な生活を送っている私ですが、稀にフィクションのような出来事もある。

ずっと友達だった年下の男の子とセックスした。(よければ前回記事もどうぞ!)普通の女の日常にも、こんなキラッとした瞬間があるんだな、世の中ってちょっと面白いかも。そう思ってもらえれば本望です!

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今年の1月はイベントフルな月だった。仕事では昨年の後半から悩みの種だったプロジェクトが収束を迎えた。ストレス満載の毎日をどうにか切り抜けた自分を、しばらくは甘やかしてあげたい。スワロフスキーのジュエリーとかMIU MIUのバッグを買ってあげたい。散財月が続きそうだ!

辛い局面の連続だったプロジェクトだけど、私生活にドラマをもたらしてくれた仕事でもあった。この仕事で音を上げていなければ、私がバンビ君に泣きついて、それを切掛に二人の距離が縮まることもなかったから。

プロジェクトは終わって、泣きつくネタも慰めてもらう理由もないけど、私は何かにつけてバンビ君と一緒に過ごす理由をつくり出していた。

「少し暖かくなってきたし、一緒に走ろ」
「今日そっち方面行くけど、お家にいるー?」

とかとか。会ってしまえば自然と会話は盛り上がって、夜ならば一緒にお酒を飲んで、そしてバンビ君のお家に結局泊まるというのがいつもの流れ。

『恋人なら、理由が無くても一緒にいれるから楽なのに』

そう思う。でも、私とバンビ君はお互い生粋のシングル。付き合うという関係に責任を負うメンタリティーも今は無いのが真実。その弊害はここにありだ。

わざわざ理由を作らなきゃ会えない状況に萎えて、数週間バンビ君断ちをした時期もあった。でも結局は磁石のようにスマホに手が吸い寄せられて、会う約束をしている。

数週間バンビ君断ちをして久しぶりに会う日、彼は私の家に来ると言った。私のお家はかなり狭い。離婚のあと焦って見つけた1Kだし、ベットもセミダブル。それを理由にいつもは彼のお家で過ごしていたけど、「セミダブルでも結構いける」彼は自信満々に主張する。

そして、バンビ君がお家に来た。最初はそれぞれの仕事を一緒にするというのが約束だったけど、頃合いを見てご飯を食べ、お酒を飲む。私たちの会合にお酒は必須だ。なぜって、何の関係もない友達同士がキスしたり抱きついたりする理由なんて、お酒以外に無いからね。

皿洗いをしている私の腰にバンビ君は後ろから抱きついてくる。心臓がドキッとして、飛び出そうになる。危ない、お皿を落とすところだった。なんてあざといヤツなんだろう。

シャワーを浴びて、髪を乾かす。バンビ君のカサカサの唇にリップを塗ってあげる。「おすそわけ〜」とか言いながら、私の唇にテカテカの唇を押し付けてくる。まったく、どこまでもふざけている。

ベッドに入るけど寝る気は毛頭無くて、顔や体をすり寄せる。
キスする。お互いの体を、愛情深く触ったり吸ったりする。

「今日はじっくりやるよ」

バンビ君が言う。なにそれ、どこで覚えたの。
心の中で天を仰ぐけど、言葉にならない声しか出てこない。

ひと通り楽しんで疲れて、ぐっすり眠る。そっか、案外眠れるんだ、セミダブルでも。前は狭いと思ったけど、バンビ君となら眠れるんだ。

朝になってカーテンをあける。
裸体が朝日に照らされるのを見て、また彼が言う。

「何も着てないのが一番綺麗」

まただ。ねえ、どこで覚えたの。どうしてそんなロマンチックなこと言うの。
そう思うんだけど、実際には何も口から出てこなくて、ぼんやり彼の顔を見つめる。それだけ。

その日はお互い予定があったから、昨夜の残りのミネストローネを朝ご飯に食べて、解散することになった。自分の家に誰かが泊まって、出ていく時は結構寂しい。バンビ君に最後のハグをねだる。

「わたしが死んでも代わりはいるわ」

彼はそう言いながら抱きついてくる。分かるよ、綾波レイのセリフでしょ。でもね、そう思っているの?自分の代わりはいくらでもいる、そう思っていたんだっけ。胸の奥が少し痛む。

『バンビ君はわかってない。
私は君のことが、もう好きになっちゃってるんだよ』

そう思うけど、やっぱり言葉は出てこない。休日朝の私はどこまでもIQが低い。「君の代わりがいるなんて、過信しないで欲しい」そう伝えたかったけど、私達がどこにもカテゴライズされない微妙な関係にあるのは事実で、この熱い気持ちは場違いだ。私はそんな気持ちを表現する方法を持ち合わせていない。誰か、知っていたら教えて欲しい。

そしてその日も、普通にサヨナラした。

バンビ君の形の空気のかたまりが、部屋に残っているように感じる。私はその残像を肌で感じて、でも実態にはもう存在していないことを理解して、寂しくなる。彼のにおいが残るクッションにうらめしい視線を投げる。

『よくもこんな恋しい気持ちにさせてくれるね』

この気持ちをなんと呼ぶかは知っている。
もう恋に落ちているんだ。すっかりね。

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