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40代サラリーマン、アメリカMBAに行く vol. 5 〜起業家に聞く1

バブソンMBAでの授業とは別に、ボストン・日本人・起業家をテーマに、起業家に会って学ぶ活動をスタート。今回はハーバードMBA卒でニューヨークでNight Innを起業されたRena Oguraさん。Oguraさんは高校生の4年間をボストンで過ごされた後、ニューヨークで大学生活とコンサルタント業務を経験され、再びボストンへ。ハーバードMBAに進学され、現在はニューヨークにてNight Innの共同創業者を務める。

惚れたことをやる
そして困っている人がいることを知る

Oguraさんが起業されたきっかけは、大学4年生の時にまで遡る。4年生の時にワインに関する授業を受講する機会があった。別学科のクラスだったが少し興味があり受講することにしたところ、そこでワインに出会い、惚れてしまったのだと話す。卒業後そのままニューヨークで就職。コンサルティングファームに入社する。

ワインのどこに惚れたのか。彼女は2つの点を挙げる。1つ目は職人。ワインは葡萄作りから人の手によって作られており、職人の腕次第で品質に違いが出る。そしてワインを提供するソムリエも職人。レストランに来られたお客さまの人数やワインを提供するまでの時間、室温、ペアリングの食事内容も踏まえて、来店客がワインを一番おいしく味わえるようにする。この職人の凄さがワインから伝わってきたのだと話す。そして2つ目がソーシャルな側面。ワインが誰かとの時間に存在するということ。ワインは1人でも飲めるが、なかなか1人で1本を空けるのは難しい。ワインは誰かと飲むものだという点に惹かれたと言う。

ワインが好き。それがコンサルタントとしてクライアントに向き合う中で生きる。クライアントの課題に取り組むだけでなく、若手としてクライアントのケアも担った。クライアントとの懇親会の取り仕切りはもちろん、クライアントが自らホストとして行うイベントに関しても、楽しい時間を過ごせるようにお店を探したり、シチュエーションに合うワインを手配したりした。

そして困っている人がいることを知る。ニューヨークにはレストランやバーはたくさんあるのに、人と人をつなぐ特別な機会を探している人が特別な演出をできないでいる。素晴らしいソムリエやバーテンダーがこんなにたくさんいるのに、彼ら・彼女たちにアクセスする方法もない。ワイン、フードペアリング、カクテルメイキングといった分野のエキスパートがいる場所で、忘れられない特別な人と人をつなぐ機会を持ちたいと考える人がいるのに、それを叶える手立てがない。同じコンサルティングファームで働く同僚に話したら、それなら一緒にこの問題に取り組もうと話が進んだ。人と人をつなぐ特別な体験を提供する事業を始めることになる。ワインに惚れて、人と出会う中で、困っている人がいることを知る。その解決がNight Innという形になった。

2020年の夏に会社を設立。ただ起業の準備と並行して進めていたハーバードMBAの進学が決まり、コロナパンデミックの最中だったこともあって共同創業者と相談。事業は続けるものの、彼女はビジネススクールに進学。コロナの状況を踏まえて、いつからどのように本格的に事業を成長させていくかを考えることになる。

MBAは起業に役立つか
彼女はシナリオプランニングを挙げる

ビジネススクールでの時間は、コロナ後にNight Innをどうするかを考える準備期間だったと言う。ハーバードMBAでの学びは起業にどう生きているか。楽天の創業者である三木谷さんとグロービスの創業者である堀さんは共にハーバードMBAのご出身。2人の対談では、2人ともがMBAでの学びが起業に役立ったと話されていた。Oguraさんの場合はどうか。彼女はシナリオプランニングを挙げる。

「MBAでは、色々な企業の軌跡が見られます。さまざまなケースに触れる中で、自分が考えられるシナリオが多くなったと思います。プランAはこれで、それがうまくいかなかった時にそこであきらめてしまうのではなく、すぐにプランBを検討する。そうした引き出しが増えた」

実際に彼女は事業のピボットを複数回重ねている。Night Innは人と人をつなぐビジネス。コロナになり、すぐに対応を迫られた。Eメールをベースにお客さまとエキスパート(ソムリエやバーテンダーたち)をバーチャルでつなぐマッチングサービスに着手。この時にエキスパートたちのコミュニケーション能力の必要性を知ることになり、現在の企業の強みにつながる。コロナで一緒にいられない家族も、エキスパートの演出次第でとても素敵な時間を過ごすことができる。この学びが、どのようなエキスパートを集めるかを考えることになる。彼女のビジネスの肝は、特別な体験を提供するエキスパートたち。レストラン業界で5年以上の経験を持つトレーニングを受けたプロフェッショナルであるだけでなく、お客さまとのコミュニケーションを取れるSocialな側面を持つ人々。単に食料や飲料を提供しているのではない。お客さまとゲストとのつながりを提供している企業として、その場を演出するエキスパートのコミュニケーション能力が欠かせない。一人一人審査して集まってもらったエキスパートたちによる素晴らしい体験の提供が、企業の成長を支えている。 

シナリオプランニングは、対象顧客の選定にも生きた。ビジネススクールに入学したばかりの頃は個人の顧客層を対象にしていて、法人は対象にしていなかった。しかしビジネススクールで、教授やクラスメイトにも相談しながら、コロナ後にどのように事業を展開していけるかの調査を行っていたところ、B2CだけでなくB2Bも顧客になるかを検討したらどうかとアドバイスを受ける。コンサル時代に知り合った人々にヒアリングしたところ、顧客になり得ることを確認できB2Bにシフトした。

2021年6月に事業を本格的に開始。卒業が迫る2022年初頭には資金調達を行い、現在会社はプレシードステージにいる。ニューヨークを離れてボストンに来る前から築いていたエキスパートたちとのつながりを武器に、サービスを始めてから収益は順調に伸び、現在は3倍にまで成長する。ここまで来る間、アメリカで働く上でビザのことが心配だったが、このビジネスはあなたに合っているよと周りから励まされて続けてこられたと話す。ワインに惚れて、人と出会い、困っている人を知って解決に取組む。彼女から起業とはどういうものかを教わった。

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