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尿検査、異常なし。

「待って、尿検査キットないんだが!!!!」

桜が春の温かい風に撫でられて舞い散る中、私は友人にそう言い放った。


春の陽射しに照らされているとは思えないほど、手に握る汗は冷たく、世界はどんどん色づき、私はみるみる蒼ざめていく。

「尿検査キットに名前書いてるから誰かが届けてくれるかな?その場合大学に問い合わせるべき?」
「そもそも尿を拾ってくれる人がいるのだろうか」
「むしろ名前を書いていない方が身バレしないからよかったのか」
「尿落とすって新手の犯罪?梶井基次郎のレモンより爆弾落としてるわ」
「放尿って犯罪だよね?これって違法?」

頭の中でいろんな不安要素が浮かんでくる。

そうして立ちすくんで数十秒。

私は今来た道を戻ろうと踵を返した。しかもただの踵ではない。キビスッ!!!!くらいにそれはもう誰がどう見ても団体行動のテキパキのそれを彷彿とさせる動きで180度回転し猛ダッシュで引き返した。


「誰よりも先に尿を見つけなくてわ」

自分1人だけハイリスク、他人からしたらノーリターン、いやマイナスリターンなお宝探し(尿)が始まった。

検査会場に向かうまでご飯を食べていたのだが、その道中を半分行っても、尿は見つからなかった。


もしかして、いやでもそれは流石に、、、。
ある不安が私の脳裏をよぎり、足取りを重くし呼吸を浅くする。


私はあろうことかご飯を食べた場所に尿を落としているのではないか、、。


歩くたびに不安が確信に近づいていく。

とうとう昼食をとった、建物に着いてしまう。


私は、ご飯と排泄を同時にこなす便所メシ野郎が確定してしまった。

自分の中で何かが崩れる音がした。


テーブルの上にないか、床に落ちていないか、ソファーにないか、ゴミ箱に捨てられていないか、探せる場所全て、どこを探しても見つからない。


結局、尿は見つからず、家に忘れてきたのかもと思って後日提出することにした。


ここからも、怖い話なのだが

家になかったのである。

家中どこを探してもやはりないのである。


「やーい、犯罪者の放尿魔!」


法で捌けなくても、くそがきみたいな口調の良心が私を許さない。

私は一生この業を背負って生きていかねばならない。


放尿事件から、しばらくの月日が経った。

例の便所メシ場所で友達と集まって飲み会をした時のこと。

皆グダグダに酔って、およそ軟体動物のごとくソファーに項垂れているものが居たり、上裸になって服を回して乱痴気騒ぎしているものが居たりと喧騒甚だしい夜を過ごしていた。


するとその時である、ソファにもたれていた軟体動物野郎がソファの間に何かを見つけたようだ。

手にとって一同、爆笑の渦に巻かれる。



なんと、そこには数ヶ月前に無くした尿検査キットがあったのだ!!!


ソファーの間に挟まっているなんて、誰が予想できだろうか!!

このタイミングで見つけるなんて!!!

笑い上戸の私たちには面白すぎる状況で夜中でも笑い声を抑えきれるはずがなかった。


私は息ができず、本当に死ぬほどおもろいタイミングで出てきやがった。


「汚ねえ」
「臭そう」
「カビ生えてるくね?」


『「「カビ!!??」」』


よく見てみると若干黒っぽい何かが浮遊していた、あまりにも汚すぎて即捨てた。



あれから約一年、また今年も健康診断の季節がやってきた。
「カビの生えた尿を提出していたらどうなっていたんだろう」ふと最近の尿検査の際に思い出してこの文章を書こうと思った。

何はともあれ、今年の尿検査に異常はなかった。








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