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赤い光

先日、夜に小3息子と外に出る機会があった。空には雲が無く、キレイに星が見える。

「あら、星がキレイですねぇ」

「うん、キレイ。星は燃えてるんだよね?」

「そうそう。よく知ってますねぇ」

「あの星が、一番光ってる!」

「ホントだねぇ」

しばらく夜空を眺めていると、白い光がスーッと直線を描くように、ゆっくり空を横切るのが見えた。

息子が少し興奮しながら言う。
「あれって、流れ星かな?!」

「うーーーーん、流れ星にしては、ゆっくりすぎるような…?」

「えー。」

「飛行機かも?」

「えー。飛行機にしても、ゆっくりすぎるんじゃない?」

「うーん。なんだろうね?」

「なんだろう?流れ星なら良かったのに…」

「……ゆっくり動く流れ星も、あるかもしれないね」

***

夜空を見上げて、思いを馳せる人はどれくらいいるのだろうか。

私はもう大人になったが、夜空を見上げて『赤い光』を見つけると未だに胸がキュンとなる。

あれは、私が幼稚園の頃。
卒園の思い出作りとして、幼稚園にお泊まりをしたとき。

初めて両親と離れて、友だちと一緒に一晩を過ごす。ワクワクする気持ちよりも不安が大きくて、私はドキドキしていた。

夜ご飯を食べ終わった頃。先生が、宝の地図のようなものを見つけた。

たからもの?!

みんなの目が輝き、宝探しが始まった。暗い幼稚園はいつもと雰囲気が違うから少し怖い。地図を頼りに幼稚園内を歩いていると、なんと、他にも宝を探しているヤツがいた。

もうどんな顔だったのかおぼろ気だが…。確か鬼みたいな顔をした、こわいこわい海賊だった。フック船長みたいなカギ爪だったから、私を含む園児たちは『たぶん海賊』と認識した。

そいつは幼稚園のお宝を狙う海賊だった。たぶん。

こわい海賊は、なんと、先生を人質にとった。わるいやつだ。私は怖すぎてひたすら泣いていた。
それでもクラスの子たちで力を合わせて、なんとか海賊をやっつけた!!

「ちくしょー!」

とかなんとか言って、海賊は幼稚園の外へ逃げて行った。私たちが海賊を追いかけて外に出ると、海賊はもうどこにもいなかった。

「かいぞくは?!」

「いない!」

「はやい!!」

私たちはしばらく辺りを見回して海賊を探したが、外には幼稚園の遊具と、真っ暗な夜があるだけだった。

外には海賊に取られずに済んだ宝箱が置いてあって、みんなで「かいぞくは、あきらめてにげたんだ!」と喜んだ。

すると、誰かが空を指さした。

「あっ、あの赤いのなんだろう?」

夜空を見上げると、赤い小さな光がピカピカと点滅しながらゆっくりと動いているのが見える。

「あれって、カイゾクがのってきたウチュウセンじゃない?」

「えーっ!うちゅうせん?!」

「だから、どこにもいなかったのか!」

私たちがそんな事を言っていると、先生がニコッと笑いながら言った。

「そうかもしれないねぇ」

きっと、そうだよ!!

私たちは、しばらくドキドキしながら赤い光を見つめた。光が消えて、見えなくなるまで。

***

正直、肝心の宝物がどんなものだったのか全く覚えていない。

強く覚えているのは、幼稚園のみんなで見上げた『赤い光』。

あの赤い光の正体が、もしかしたら飛行機かもしれない事を、私は大きくなってから気付いた。

それでも、赤い光を見ると懐かしさで胸がキューンとなってしまう。
怖かったけどみんなで先生を助けようとしたこと。海賊をやっつけたこと。海賊が宇宙に帰ったこと。そして、先生が私たちの話を否定せず、優しく笑ってくれて安心したこと。

小さい頃にかけられた言葉は大人になるまでにほとんど忘れてしまうけれど、心のどこかに残っていて、ふとした瞬間に鮮やかによみがえる。良い言葉だけならいいけど、悪い言葉も同じようによみがえる。だから、言葉はできるだけ大切に選んでいきたいなと思う。

あの時の『赤い光』は、飛行機だったかもしれない。でも、飛行機ではなかったかもしれない。

それはもう、きっと誰にもわからない。
そういうものが、世の中にはたくさんある。

答えは、自分で見つけたら良い。
自分が納得できる答えを、納得するまで考えられたら、それが一番良い。

私は、あの光が流れ星だったら良いなと言う息子がとても愛しく思えた。

もし流れ星を見たとき、子ども達は何を願うのかな?そして私は、何を願おうかな。

そんな事を考えた夜だった。

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