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亀の歩み⑤(880字)【完】

【前回のあらすじ】
見知らぬ亀が恩返ししてくれて、グッスリ眠った。(詳しくはこちら→亀の歩み④)

夢を見た。
小さい頃の夢だ。体が熱くてだるくて、遊びに行けず泣いている私のおでこに、誰かが優しく触れた。

「あゆみ、大丈夫か?かき氷、食べるか?」
「……うん」

誰だろう。顔が見えない。

「他にもいっぱい買ってきたぞぉ」

その人は持っているものを一つずつ見せてくれた。たこ焼き、りんごあめ、チョコバナナ、ヨーヨー、お面……そして、
「これは、あゆみの好きな亀だ!」
「かめ?」
「そう!あゆみのリュックにも、亀の絵が付いてるだろう?」
水の入った透明なビニール袋の中に、小さな小さな亀がいた。それまで絵や写真でしか見たことがなかった亀が、目の前で動いている。
「かめ、かわいいねぇ」
「名前は亀吉だ!」
「かめきち!かわいいねぇ」
「たくさん寝て、たくさん食べて、元気になったら、たくさん遊ぼうなぁ」
優しく頭をなでられて、私はとても幸せな気持ちになった。

ああ、そうか。思い出した。小さい頃おじいちゃんの家に行った時の事。
とても元気でパワフルなおじいちゃん。一緒に夏祭りに行こうと約束していたのに、私が熱を出したのだ。お祭りのお土産をたくさん買ってきてくれて、私が眠るまでずっと側にいてくれて。優しくて、大好きだった。

「あゆみ!また遊びに来てくれな。じーちゃん、いつでも亀吉と待ってるから」
「うん!!」
そんな約束もしていたけれど、その後両親が離婚してからは一切会えなくなった。私もいつの間にか、約束自体を忘れてしまった。

***

目が覚めると、亀はいなくなっていた。

「かめきち……?」

綺麗になった部屋にポツンとひとりぼっち。昨日まで確かに一緒にいたのに、まるで何も無かったかのように静かだ。

あの亀は……。亀吉は、おじいちゃんの家に帰ったのだろうか。90日間の道のりをゆっくりと、亀の歩みで。ことわざが好きで、礼儀正しいのに口が悪くて、一歩一歩確実に歩み続ける一生懸命な亀。

こんな私にも心配してくれる人が、いや、亀がいたのかと胸がいっぱいになった。

ありがとう。
たくさん寝て、たくさん食べて、元気になったら、必ず会いに行く。
たとえ少しずつでも。亀の歩みでも。それまで部屋は、自分で片付けておくから。

《おわり🐢》



思いつきの物語でした。
もっと洒落たタイトルにすれば良かったとか、亀吉の初登場のセリフをもっと練れば良かったとか、強引な展開だったかも…など、反省点もありますが、終わりまで書けて楽しかったです。私の頭の中のモヤモヤをスポーン!と吐き出せたような気がいたします。

読んでくださった皆さま、本当にありがとうございました🙇

蛇足ですが、亀吉とおじいちゃんのエピソードを番外編のような形で書こうと思います。
書くつもりは無かったのですが、裏設定を考えているうちに、思ったより亀吉に愛着が湧いてしまったんです😂ふしぎ。書いてみないとわからないものですね。
もし良かったら、もう少しだけお付き合いください🙏

【番外編はこちら】↓

今までいただいたサポートを利用して水彩色鉛筆を購入させていただきました☺️優しいお心遣い、ありがとうございました🙏✨