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月をめくる #シロクマ文芸部(545字)

「月めくりをしましょうか」

と母が言うので、私たちは黙ってそれを見ていた。

母は慣れた手付きでまんまるの月をめくっていく。パリッ、パリリ……という音が、あたり一面に響いた。少しでも気を抜いたら割れてしまいそうで、ドキドキしながら母の手元を見つめる。

パキン、という音と共に月がめくれた。
今日の月は大きい。

弟は「やったね、大成功!」と喜んでいたけれど、めくる途中で少しだけ欠けてしまった月のカケラが、キラキラと星屑になって消えていく。

その様子を悲しい顔で見つめていると

「大丈夫、また満ちるから」

と母が微笑んだ。

めくられてなお静かに輝く月を、ポチャリと庭の池に浮かべる。

「美味しそうだね。どんな味がするんだろう?」

そう言って弟が月に顔を近付けるから、慌てて止めた。

「だめだよ、舐めちゃ。神さまに怒られちゃう」

めくられた月は神さまに返すのだ。

月は水の中でゆらゆらと揺れて、やがて沈んでいく。月が消えるのはやっぱり悲しい。

「大丈夫、また満ちるから」

悲しくなるたびに母の言葉を思い出す。

何度も満ちては消える月は、一体どこへ行ってしまうのだろう。
満ちたままではいられない月は今日もまためくられる。数億年先も同じように、私はこの月めくりを見守るのだろうか。

また月が満ちる事を信じて。
月が見えなくなるその日まで。

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こちらの企画に参加させていただきます🙏

月めくり。思いっきりファンタジーで書いてしまいましたが、よく考えてみたら月間カレンダーの事だったのか…?日本語ってふしぎ。

今までいただいたサポートを利用して水彩色鉛筆を購入させていただきました☺️優しいお心遣い、ありがとうございました🙏✨