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「わにのういろう売り」〜今井雅子作「わにのだんす」アレンジ作品〜

今井雅子(文)、島袋千栄(絵)の絵本「わにのだんす」。これがClubhouseで毎日誰かに朗読されています。もともとは同じく今井雅子氏が書いた「膝枕」の朗読のブームの中、こんな絵本も書いているよと紹介され、それをきっかけに朗読されるようになったというものです。

さて、この「わにのだんす」。ワニが街中でダンスを披露してお金持ちになって……という話で、ダンスをしているときのオノマトペ表現がとっても楽しいのですが、そのダンス部分を「外郎売」にしたら……と考えた人がいました。はい、私です。それで、一度、今井雅子氏の許可を得てClubhouseで朗読を披露したところ、たいへん評判が良く、私も読みたいという方も出てきたのです。

多くの方に読んで頂きたいのですが、出版されている原作を含むテキストはおいそれとは公開できません。どうしようかと思っていたところ、Clubhouseでの朗読につづき、テキストの noteでの公開の許可が作者の今井雅子氏より出ましたので、ここに公開いたします。

なお、本テキストの転載、営利目的の朗読は許可されていません。現在、OKだとわかっているのはClubhouseでの朗読です。詳しい条件や交渉は作者の今井雅子氏に直接連絡をお取りください。
https://lit.link/masakoimai

翻案、朗読、そしてテキストの公開を快諾してくださった今井雅子先生に感謝しつつ、ここに全文を掲載いたします。

わにのういろう売り

        原作 今井雅子/古典歌舞伎
        翻案 河崎卓也

おかねもうけがだいすきな わにが
みちばたで しょうばいをはじめました。

あしを どんどん
しっぽを ばんばん
じめんを ちからづよく うちならしたり
しっぽを みぎへ ひだりへ
ぶんぶん ふりまわしながら
いせいよく こうじょうをとなえます。


「せっしゃ おやかたともうすは おたちあいのうちに ごぞんじのおかたも ござりましょうが おえどをたって にじゅうりかみかた そうしゅうおだわら いっしきまちをおすぎなされて あおものちょうをのぼりへ おいでなさるれば らんかんばし わにやだんじゅうろう ただいまは ていはついたして えんさいとなのりまする。
 がんちょうより おおつごもりまで おてにいれまするこのくすりは むかし ちんのくにのとうじん ういろうというひと わがちょうへきたり。 みかどへさんだいのおりから このくすりをふかくこめおき もちゆるときは いちりゅうずつ かんむりのすきまより とりいだす。よってそのなを みかどより とうちんこうと たまわる。すなわち もんじには いただき すく においとかいて とうちんこうともうす。
 ただいまはこのくすり ことのほかせじょうにひろまり ほうぼうににせかんばんをいだし いや おだわらの はいだわらの さんだわらの すみだわらのと いろいろにもうせども ひらがなをもって ういろうとしるせしは おやかたえんさいばかり。
 もしや おたちあいのうちに あたみかとうのさわへ とうじにおいでなさるるか または いせさんぐうのおりからは かならず かどちがい なされまするな。おのぼりならば みぎのかた おくだりなれば ひだりがわ はっぽうがやつむね おもてがみつむね ぎょくどうづくり はふにはきくに きりのとうの ごもんをごしゃめんあって けいずただしき くすりでござる」

さくらのわにたちが あつまってきて
いいぞいいぞと はやしたて
おかねが たくさんあつまりました。

そのおかねで ういろうわには
きらきらひかる
かぶとをかいました。

きらきらひかる
かぶとをかぶった わには
かいどうにでて ちゃみせのまえで
ういろうを うりはじめました。

「いや さいぜんより かめいのじまんばかりもうしても ごぞんじないかたには しょうしんのこしょうのまるのみ しらかわよふね。さらば いちりゅうたべかけて そのきみあいを おめにかけましょう。
 まず このくすりを かようにいちりゅう したのうえにのせまして ふくないにおさめますると いや どうもいえぬは い しん はい かんがすこやかになって くんぷうのんどよりきたり こうちゅうびりょうをしょうずるがごとし。ぎょちょう きのこ めんるいのくいあわせ そのほか まんびょう そっこうあること かみのごとし。さて このくすり だいいちのきみょうには したのまわることが ぜにごまがはだしでにげる。ひょっと したがまわりだすと やもたてもたまらぬじゃ」

あしをとめてみていた わにたちは おおよろこび
きらきらひかるかぶとは
おかねで いっぱいになりました。

そのおかねで ういろうわには
きらきらひかる
じんばおりをかいました。

きらきらひかる かぶとをかぶり
きらきらひかる じんばおりをはおった わには
かごにのって
もっとおおきな かいどうへ いき
ういろうを うりはじめました。


「そりゃそりゃ そらそりゃ まわってきたわ まわってくるわ。あわやのんど さたらなしたに かげさしおん はまのふたつは くちびるのけいちょう かいこうさわやかに あかさたなはまやらわ おこそとのほもよろを ひとつへぎへぎに へぎほしはじかみ。
ぼんまめ ぼんごめ ぼんごぼう つみたで つみまめ つみざんしょう。しょしゃざんのしゃそうじょう こごめのなまがみ こごめのなまがみ こんこごめのこなまがみ。しゅす ひじゅす しゅす しゅちん。おやもかへい こもかへい おやかへいこかへい こかへいおやかへい。ふるくりのきのふるきりくち。あまがっぱか ばんがっぱか きさまのきゃはんも かわきゃはん われらがきゃはんも かわきゃはん。しっかわばかまの しっぽころびを みはりはりなかに ちょとぬうて ぬうてちょとぶんだせ かわらなでしこ のぜきちく。のらにょらい のらにょらい みのらにょらいに むのらにょらい。ちょとさきのおこぼとけに おけつまづきゃるな ほそどぶにどじょにょろり。きょうのなまだら ならなままながつお。ちょとしごかんめ おちゃだちょ ちゃだちょ ちゃっとたちょちゃだちょ あおだけちゃせんで おちゃちゃとたちゃあ」

つつうらうらから あつまってきた
わにたちが はくしゅかっさい。
きらきらひかる かぶととじんばおりは
おかねで いっぱいになりました。

そのおかねで ういろうわには
もっととおくへいくために
うまをかいました。

とうげで うまをおりたときには
ういろうわにだけでした。
そこには――

わにのこどもたちだけがくらす
ちいさなむらが ありました。

「たのもう」と あいさつするかわりに
ういろうわには こうじょうをとなえました。

「くるわくるわなにがくる。こうやのやまの おこけらこぞう。たぬきひゃっぴき はしひゃくぜん てんもくひゃっぱい ぼうはっぴゃっぽん。ぶぐ ばぐ ぶぐばぐ みぶぐばぐ あわせてぶぐ ばぐ むぶぐばぐ」

ういろうわにが こうじょうをとなえると
こどもわには おそるおそる ちかづいてきて
いっしょにとなえだしました。

「きくくり きくくり みきくくり あわせてきくくり むきくくり。むぎごみ むぎごみ みむぎごみ あわせてむぎごみ むむぎごみ。あのなげしのながなぎなたは たがながなぎなたぞ。むこうのごまがらは えのごまがらか まごまがらか あれこそほんの まごまがら。がらぴいがらぴいかざぐるま おきゃがれこぼし おきゃがれこぼうし ゆんべもこぼして またこぼした。たあぷぽぽ たおぷぽぽ ちりからちりから つったっぽ たっぽたっぽ いっちょうだこ おちたらにてくお にてもやいてもくわれぬものは
ごとく てっきゅう かなぐまどうじに いしくま いしもち とらぐま とらきす。なかにも とうじのらしょうもんには いばらぎどうじが うでぐりごんごう つかんでおむしゃる。かのらいこうのひざもとさらず」

こどもわには ういろうをかうかわりに
たくさんわらってくれました。

ういろうわには とうげから
うまにのらずに かえりました。
あんまりたのしかったので
こうじょうをとなえながら かえっていきました。

「ふな きんかん しいたけ さだめてごだんな そばきりそうめん うどんかぐどんなこしんぼち。こだなのこしたの こおけにこみそが こあるぞ こしゃくし こもって こすくって こよこせ おっとがってんだ こころえたんぼの かわさき かながわ ほどがや とつかは はしっていけば やいとをすりむく さんりばかりか ふじさわ ひらつか おおいそがしや こいそのしゅくを ななつおきして そうてんそうそう そうしゅうおだわらとうちんこう。かくれござらぬ きせんぐんじゅの はなのおえどのはなういろう。あれ あのはなをみて おこころをおやわらぎやという。うぶこ はうこに いたるまで このういろうのごひょうばん ごぞんじないとは もうされまい まいつぶり つのだせ ぼうだせ ぼうぼうまゆに うす きね すりばち ばちばち がらがらと はめをはずして こんにちおいでのいずれもさまに あげねばならぬ うらねばならぬと いきせいひっぱり とうほうせかいのくすりのもとじめ やくしにょらいもしょうらんあれと ほほ うやまって ういろうは いらっしゃりませぬか」

いえに かえりつくころには
きらきらひかる かぶとと
きらきらひかる じんばおりは
またまた おかねでずっしり
おもくなっていました。

そのおかねで ういろうわには
おくりものを かいました。

おしまい

※ 最後のおくりもの。誰に何を贈ったかは読み手が具体的に示してもいいかもしれません。

(例)
こどもたちに たいこをかいました。
きらきらひかる はっぴをおくりました。
びょうきのおかあさんに くすりをかいました。


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