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2‐5 「動く」から「動かされる」へ

 運動イメージは自由です。身体が長くなってもいいし、身体を超えちゃってもいい。運動自体が、前頭前野で想起された運動イメージの具現化ですから

「この運動はこのような運動イメージを持たなければならない」

という縛りは全く無いのです。(私もボールを遠くまで投げたくて、冥王星まで投げるイメージで投げてみたんです。そしたら肩を痛めました。自由過ぎました)

 では次はこんな実験をやってみましょう。中身の入った500~600㎖ほどのペットボトルをひとつご用意ください。左足を前に、右足を後にして、右手にペットボトルをしっかりもってください。この状態で右のストレートパンチを打ってみます。その時、次の2つのパターンを試してみてください。

 A:手に持ったペットボトルを前に突き出してパンチを打ちます。
 B:5メートルほど先に大きな木があり、木とペットボトルが強力なゴムバンドで連結しています。そこからペットボトルを右手でグググと引っ張ってきて構えます。ゴムバンドの張力がマックスの状態を全身で感じながら、一気に解放してペットボトルが勢いよくふっ飛んでいくようなイメージでパンチを打ちます。


 

ここでペットボトルを使用するのは「突きだす感覚」と「ふっ飛んでいく感覚」の違いを感じるためです。

 AとB、もはやパンチという名前が同じなだけで、ほとんど別の運動だったのではないでしょうか? AのパンチとBのパンチ、その内容を比較してみます。


・運動イメージの大きさと動員される筋群
 Aはペットボトルを数十センチ前に押し出す運動イメージですから、動員される筋肉は「押し出すのに使う筋群」となります。対するBは5メートル先に木がイメージされ、そこから引いたゴムバンドが勢いよく縮まる運動イメージですから、動員される筋肉は「全身がゴムバンドの張力から解放される際に収縮する筋群」となります。運動イメージはBの方が断然大きく、動員される筋群の量も違います。


・引くの効用
 Bの「引く」動きは、大きな筋力発揮につながります。筋肉は「ある程度縮んだところからさらに縮む」よりも、「適度に引き伸ばされたところから縮む」ほうが、大きな筋力を発揮できるという性質がありますから、身体全体で引く動きで、今から収縮させる筋群を引き伸ばすことができるのです。


・技の正確性とタイミング
 Bは運動イメージの時点ですでに「技のコース」が仮想の線としてできていますから、Bでつくっておけばパンチを打つ対象がコース上に乗った瞬間、あるいはコースに乗りそうな状況を脳がとらえやすくなります。「技で相手を追いかける」のではなく、「技のコースに相手を乗せる」ため、技の正確性は格段に上がるでしょう。


・スピードの向上
 ではスピードはどうでしょうか? Bは「ペットボトルが前に出ながら、身体全体も前に出る」ため、新幹線(身体全体)の中を進行方向に向かって走る人(ペットボトル)の状態となりスピードは速くなります。(悪い子のみなさん、走っちゃダメです)


・主体の変化
 この運動イメージの変化の面白いところは、パンチという動きが「A:こちらが出す」から「B:向こうに引っ張られる」に変わることです。「自分で自分を動かす」ではなく、「ゴールが自分を動かす」になる。主体が変わり、外からの視点で運動イメージを想起することになります。

 ですから「出す」パンチではなく、「もっていかれるような」「導かれるような」「吸い込まれるような」パンチに変わるでしょう。実際にゴムバンドを使用して練習してみると、その感覚を記憶しやすいでしょう。
 
 ハイプレッシャー下での「焦り」は意識を小さくしてしまいます。焦れば焦るほど、「いっぱいいっぱい」「自分、自分、自分」になりがちです。外とつながり、外から見た自分をどう動かすか。主体の変化は意識の拡大につながるでしょう。


「動く」から「動かされる」へ。


ピッチャーの「キャッチャーミットにボールが吸い込まれるような」投球とは?ラグビーやバスケでの「受け取りやすいパス」、バレーボールでアタッカーが打ちやすいトスとは?サッカーでの「ゴールに吸い込まれるようなシュート」と「ゴールに蹴り込むシュート」の違いは?シンガーの「聴衆に届く歌声」、ダンサーの「観客に伝わる」モーションとは? 

各スポーツやパフォーマンスへの応用を楽しんでほしいと思います。

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