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編集スパルタ塾 | 過去最高得点差MVPの企画書全公開

編集スパルタ塾11期で年間MVPを受賞しました。
2位と史上最も得点差をつけていたことをその場で告げられました。自分の視点では、何度もアイデアでは負けていたし、自分に負けたこともあったし、あくまで一つの指標で評価していただくことができた、という認識です。謙遜とかではなく、「編集」や「クリエイティブ」の評価とはそういうことだと思います。


勝ちたい人のための水鉄砲理論

さて、この記事を読んでいるあなたは「さっさと企画書を出せや」と思っていますよね。ですが、もしあなたが編集スパルタ塾やその他の場面で「勝つ」ことを考えているなら、先に話しておきたいことがあります。プレゼンの評価を安定させるための原理「水鉄砲理論」についてです。

水鉄砲の威力はどのように決まるかご存知ですか? ここではシンプルな構造の水鉄砲を想定します。

水鉄砲理論の図

まずは水量です。これが十分にないと始まりませんよね。クリエイティブのプレゼンでは「アイデア」にあたるものです。

次に、押し出す力です。これも当たり前ですよね。ここでは「パッション」に置き換えましょう。微妙な案でも、熱がこもっていると、人の心を動かします。ちなみに水がなくても空気砲撃てちゃう人もいます。

さて、最後に地味に大事なのが、射出口の絞りです。これがガバガバだと、前述の2点がイケてても、でろりと水が漏れて周囲がビショビショになってしまいます。プレゼンにおいては「論点の絞り込み」と言えます。

勝てるプレゼンと負けるプレゼンの比較イメージ図


アイデアもパッションもあるのに、冗長なお題確認・無闇なデータの列挙・不要な言い訳などなどで論点が曖昧になって、台無しになっているプレゼンをいくつも見てきました。はっきり言って私の企画書はすべて素晴らしいアイデアばかり、というわけではないです。ただ、言いたいことが伝わるという点では毎回それなりに成功していると思います。

12本の企画書より1丁の水鉄砲(という編集)

そんなわけで、勝ちたいあなたに私がお渡ししたいのは、12本の企画書ではなく、1丁の水鉄砲です。ちなみにこの提案自体が帰納法やアナロジー法を組み合わせたアイデアの編集行為だと言えます。

水鉄砲理論もアイデアの編集行為

アイデアの編集に自覚的になり構造的に理解することは、AIを使いこなす技術にもつながります。最終課題の「編集の定義と自分なりの編集による貢献」ではこのあたりの体系化についてプレゼンをさせていただきました。

論点の絞り込み≒思いやり

さて、水鉄砲理論の3要素は掛け算の関係にあります。よって「論点の絞り込み」の重要性に早い段階で気づき、反映できた人は勝率が上がります。実はそれは難しいことではなく、プレゼンを聞く相手の立場を思いやることだったりします。

たとえば、菅付さんやゲスト講師は老眼に苦しみ、細かい文字を読むのが辛いかもしれない。夜遅くの講義でプレゼンをいくつも聞かされて疲れているかもしれない。今日、めちゃくちゃ機嫌が悪くてストレス発散しにきたかもしれない。

そういう想像が出来る人のプレゼンは押し付けがましくない、優しく聞きやすく、内容が整理された読みやすいものになり、必然的に勝率が上がると思います。私が一社目に勤めていた会社の当時の社長(フランス人)は営業をやっていた私に対して、「クリエイティブエージェンシーで働く人は、また会いたいと思われる人でなければならない」と言っていました。今はちょっとその意味がわかる気がします。

では、もったいぶったようで申し訳ないですが、企画書を掲載します。
※守秘性などの観点からここでは12点中9点の掲載に留めることをご了承ください。

1. LAST DISH -ラスメシ

人生最後の日に何を食いたいのか? という普遍的かつエンタメ的なテーマをコンテンツ化。死刑囚のために最後の食事を提供するアメリカの法律(現在は廃止)から着想。タイトルが好評でした。これ本当にやりたいので、興味ある方いればお声がけください。僕のラスメシは、卵かけご飯です。

2. MUGA - Bodyless Immersion

apple Vision Proの発表を受けて、空間コンピューティング時代のキラーアプリを考えるというお題。存在の消失がどのような体験を生み出すのか、AIの画像生成を使って妄想しながらイメージを広げました。中村勇吾賞をいただきました。

3. TOILETHON

個人的にターニングポイントになったお題。プランニングのフェーズからAIを使用し、トイレ清掃員→清掃→運動・身体性→スポーツ→ランニング→プロギング(北欧のゴミ拾いランニング活動)とたどり着き、トイレとマラソンをMIXする競技を企画。「準清掃員」の顕在化という戦略を評価していただき、高崎卓馬賞をいただきました。

4. BRUTUS SPIRAL SCHOOL

BRUTUSのコンテンツを文系理系を超えた教材と捉え直す動画シリーズ企画。自身の中学の修学旅行が全科目横断の学習体験として設計されていたことをベースに考えました。BRUTUSが好きなので何か面白いことやらなきゃと気負ってしまい、ちょっと悔いの残るお題。西田さんのスパイシーなフィードバックが心に火をつけてくれました。


5. 射精責任を禁欲本へ

最も難しかったお題。フェミニズムについて前提知識が不足しており、調べ、迷い、企画も2本に枝分かれ。この書籍がすでに売れているという事実から、編集者へのリスペクトがますます高まりました。

6. トーキトーク

法人などの登記をした事がある人は分かるのですが、割と大きな岐点であるにも関わらず、あっさり終わるんです。そこを掘り起こして番組にできないだろうか、という企画。「登記より借金が面白いんじゃない!」という菅付さんのフィードバックに深く納得。

7. 墓までもっていくはずだった話

朝吹真理子さんの、戦争の体験を語り継ぐ書籍の企画課題。AIと対話する過程で、そもそも戦争体験者=聖人君子のようなバイアスがあることに気づき、彼らの小さな悪事にフォーカスした短編集を、ポール・オースターのナショナル・ストーリー・プロジェクトのように編集する案へ。自分らしい、ちょっと意地悪な視点でのびのびやれました。

8. WHAT ARE ME?

国連に対してクリエイティブで出来ることを自由に提案するという壮大過ぎるお題。あえて書籍をテーマとして、軍人のA/B面をノーリングという手法で収集する写真集を企画。「国連のアントニオ・グテーレスだったらどうするかな?」という視点は、業務でもときどき取り入れると良い感じです。

9. 雑誌『広告』をサイズ展開する

小野直紀さんが編集長を務める雑誌『広告』が好きすぎて、一番まとめるのが難しかった。「創造性の読み解きをもう一段階深くしてほしい」「創造というより多様というテーマにふさわしい案」など、見事に穴を言い当てられて感動する回でした。


以上になります。

正直、企画書をさらけ出すのは、恥ずかしいです。頭の中の偉人たちから「お前はまだその程度なのか」「本業はどうなんだ」などと囁かれています。しかしながら僕は、重要なのはここでのアウトプットではなく、学びそのものだと考えています。そして少しでも今後の受講生候補にそのおすそ分けをしたいと思っており、まるっと出しちゃうことにしました。それが自分なりの感謝の形です。是非、私を踏み台にして、高みへと到達してください。

次の期はすごくなりそう

この記事を書いた時点で編集スパルタ塾12期の残席はまだあるようです。菅付さんの講義内容が大幅にアップデートされるということで、リピーターの参加もあるのでは、ということは過去最高レベルの切磋琢磨が巻き起こるのでは、と予想しています。

内田樹さんは、現代の学びは単なる「補充(supply)」だと述べています。真の学びとは、主体が変化することです。役に立つかどうかなどという理屈は捨てて、ピンと来る人は飛び込んでみてください。

・・・とはいえ大義名分も必要なのが大人の事情というもの。
私は「編集には何かある」という予感に加えて「実務と隔離されたAIの実験場」「普段のやり方(自分の場合は戦略前提)でつくらない練習」という目的を持ち込みました。様々な理由で業務ではAIが使いにくいと思うので、ここでフル活用してみる、なんてのはいかがでしょうか? 

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