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ショートショート④カット前夜

「どうやら俺のちんちんは明日切られるらしい」
「ええ!大変じゃない、それは」

ユキの家は俺の家から走って1分くらいのところにあって、夜にこうして彼女の家の前でダベるのが俺たちの日課になっている。

ユキは元々足が悪い。一緒に住んでいる親からも付き添いなしで外に出ちゃいけないとキツく言われているらしく、家に行くのはいつも俺。別にいいんだけどね。俺、男だし。

「でもなんで切るの?」
「俺の場合は、ちょっと特殊な病気で」
「病気なの!?大丈夫?」

ユキは目元が本当に綺麗だ。俺はユキが驚いた時に見せる大きなクリクリとした瞳が大好きで、それを見るたびにうっとりしてしまう。もっと驚かせたくなる。

「大丈夫。まだ悪化する前だから。そんなことより、あのジジイ最近来るのか?」
「来るとしたらこの時間くらいにいつも家の前通るけどね。あ、きた、あそこ」

白髪で小太りのジジイがこちらへやって来る。やっと会えたな!お前か、ユキに悪さをするやつは!お菓子で誘って悪さをしようとする魂胆か?俺には通用しないぞ!!

この子は足が悪いのだ!その足を掴まれて、捻られて、必死の思いで逃げてきたって、彼女は泣いて俺に報告してきてんだぞ。分かるか、彼女が気持ちが。親にも相談できずに苦しんでんだぞ!!!

俺はジジイに向かって突進した。向こうの体格は俺の何倍もあるし、力の差は歴然だったが、噛むなり頭突くなり引っ掻くなり俺ができる最大限をぶつけてやった。

ジジイに効いているようには見えなかったが、俺のしつこさに音をあげたのか、ユキに近づくことなく踵を返して去っていった。

「コタロウくん、大丈夫?勝ったね!!ありがとう」
「ああ」
「でもね、戦ってくれた後に言うのも変なんだけど、あの人に足を触られてから痛みがなくなって調子いいんだよね」
「たまたまだ。あいつはただの変態野郎さ。ああいう気持ちの悪い奴はいっぱいるんだよ」

呼吸が乱れる。相当体力を使ってしまったようだ。

「あと、もっと露出度の低い服着せてもらえ。だから変な男が寄ってくるんだ」
「でも、親と口きいてないし……」
「直接交渉する必要はない。『欲しいんだなー』って思わせる行動をするんだ。例えば、今着ているその服をわざと傷めつけるとか」
「そんな子供っぽいことしなきゃいけないのー?」
「現に俺たちはまだ子供だろ。少なくとも俺はそうやって欲しい物を手に入れてきた」

夜が深まり、気温が下がってきた。あ、今日は星がよく見える。暗くてもユキの顔は透き通るように白いからちゃんと確認できる。これが美白ってやつなのかな?

「なあ、ユキ」

俺のちんちんが無くなっても、君は俺のことを好きでいてくれるか?ちんちんがない後の世界は正直怖い。でも病気で死んでしまって君に会えなくなることの方が俺は辛い。

「いや、何でもない。明日も来る」
「明日切るんでしょ?無理しなくていいからね」
「来るよ。あいつもまた来るかもしれない」
「分かった。無理しにゃいでね。へへ」
「かわいこぶんな」

まあ実際かわいいんだけど。

「じゃあ麻酔からしていきますねー。そんなに時間は掛からないので待合室でお待ちください」
「はい。先生お願いします。あれ、コタロウ。こら、ちょっと、落ち着きなさい。すいません、普段はこんなに暴れない子なんですけど」
「あれ?この子、昨日の夜見ましたよ。この首輪と綺麗な毛並みは間違いないです。白い猫ちゃんと一緒にいました」

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