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完璧なネーミング

さりとて、「フジテレビヤングシナリオ大賞」に向けた執筆が続いている。2日後の3月31日が締め切りなので、さすがに規定の60枚は既にクリアしており、残りの日数で細かい直しをしていくという感じだ。タイトルは「物語る人」にした。本当は「物語る人たち」にしたかったのだが、同名のカナダ映画が既存していたのでそれは回避。

結果発表は秋。良い知らせがあるといいな。

脚本執筆をしていて痛感するのが「ネーミング」の難しさだ。タイトルのネーミングもそうだし、登場人物のネーミング、また作中に出てくる架空の場所やサービスにおいてもやはりネーミングセンスが問われる。
短く、なおかつ分かりやすくて想像がしやすい言葉を考え出すのは一見スタイリッシュだが、その過程は途方もなく泥臭い。

20代前後の頃は糸井重里さんに憧れていたため、コピーライターになりたかった。理由は単純だ。「生きろ。」とか「おいしい生活」などに代表されるように、短い言葉でお金を稼ぐという職業そのものが、当時の僕にはおしゃれでスタイリッシュに見えたからだ。

しかしコピーライターという仕事を調べれば調べるほど、僕が思い描いていた理想からは随分と遠いところにある仕事だということに僕は気づく。
1000作ったとしたら、999.9は無駄になり捨てなければならない世界。しかも、その絞り出した0.1はクライアントがNoと言えばNo。またイチから。
それにコピーが書けるのは広告の人間でもごくわずか。狭き門なのだ。

それならば、1000作って990くらいを捨てる脚本や小説の世界の方が自分に向いているのではないかと思い、現在の自堕落な生活に至る。

それでも「コピー年鑑」とかを買って、コピーライティングを見たり読んだりするのは今も好きなので、コピーへのアンテナは常に張ってある状態だ。

中でも忘れられないネーミングが一つある。初めて「それ」を見たのは姫路市警察署が出したポスターだったはずだが、これはコピーライターの仕事なのか、はたまた警察署の広報部が出したアイデアなのか出典は不明なのだが、子供ながらに「すげえ」と感動した記憶が焼きついている。

姫路城周辺では毎年6月に「姫路ゆかたまつり」というものが開催される。一般的な夏祭りだと思ってもらえればいい。お城がライトアップされ、至る所に出店が並び、多くの人が賑わう。最近はその規模は大幅に縮小されてしまったが、僕が子供の頃は「ゆかたまつり」といえば姫路の街が1年で一番盛り上がる行事だったことは確かだ。

そのゆかたまつりが盛り上がっていたころ、当日になると毎年のように姫路警察は「ある集団」に手を焼いていた。それは特攻服を着て、周りを威嚇するように練り歩くいわゆるヤンキー集団たちだ。
ガラの悪い団体が道を塞ぐように歩き、そいつらが別の団体を見つけると吸い寄せられるように喧嘩へと突入する。ポイ捨ては当然するし、ヤンキーの一部はバイクさながら「バーリバリ」と叫びながら歩いていたようだ。

苦肉の策として姫路警察署はこんな警告を出した。

徒歩暴走族

徒歩なのに暴走である。一見矛盾しているように見えるが、これは最高のネーミング、コピーライティングセンスだと思う。これしかないといった感じだ。
なぜなら絶妙にダサいから。

ああいう奴らは調子に乗らせるのが一番よくない。そういう意味では「暴走族」というネーミングは完全にミスだったと僕は考える。調子に乗りやすい語感があるからだ。
では、逆に「徒歩暴走族」はどうだろう。これを命名されるまで我が物顔で姫路の街を練り歩いていた若者が、ある日突然自分たちが「徒歩暴走族」にカテゴライズされた時の心情やいかに。

周りからの視線もまた変わってくるだろう。「危なげな怖い人たち」だと思っていたが、よく考えれば「どっちつかずの中途半端なかわいそう人たち」に過ぎないじゃん。。という風に。全てネーミングのおかげだ。

実際に「徒歩暴走族」という言葉が広まってからというもの、奴らの勢力は確実に衰えていった。これは姫路警察並びに兵庫県警の類稀なる努力があってのことだろうが、徒歩暴走族という絶妙なダサさも一役買っていることは確かだろう。これをネーミングした人が、もし一警察官だとしたら、その人には安定したポジションを与えて、残りの警官人生はゆっくり過ごしていただきたい。もうすでに一生分の犯罪は防いだだろう。

【今週観た映画・読んだ本】

映画。

完璧な他人
韓国映画。古くからの友達が、それぞれのガールフレンドを連れて7人で食事会をするというもの。途中、「これからスマホに届くメッセージや、電話の内容を全て公開しよう」という遊びが始まり、楽しげな会が一変する……
ラストがよく分からなかったけど、解説を読んだら何となく理解できました。設定も展開も個人的にとても好きです。ラスト以外は。

ヒメアノ〜ル
「ヒミズ」でお馴染みの古谷実の漫画を実写化した日本映画。濱田岳もムロツヨシももちろん素晴らしいのだけれど、森田剛が全部持っていった。「ランチの女王」の時の暴れっぷりを彷彿とさせた。「俺の家の話」の長瀬くんもそうだが、ジャニーズでずっと売れてる人って不変的な力がすごいよね。

三度目の殺人
タイトルの意味が最後になって分かる演出。おしゃれな是枝作品。

本。

監督不行届
「プロフェッショナル」を見て庵野さんの虜になったので、奥様からの視点で彼を覗いてみたいと思い購入、読了。期待を裏切ることなく変人で面白かった。大学の後輩として誇らしいかぎり。

サポートしていただいたお金を使って何かしら体験し、ここに書きたいと思います。