Vol.20「永い言い訳」を観てきました。

観てきました。「永い言い訳」

単刀直入に言わせていただきますと……


西川美和がアカデミー賞を取りにきましたね

僕はもう本当にこの監督が大好きでね。「ゆれる」「ディアドクター」「夢売るふたり」どれも僕にとって大切な作品です。彼女自身は「〇〇賞」とかそういったものには興味がいささかないかもしれない。でも、純粋に今年の「優れた邦画」を選ぶとするなら、僕はこの作品を推したい。審査員でもなんでもないただのサラリーマンですが、これは曲げたくない。

まずね、この映画何がすごいって、ストーリーラインはそんなに強くないんですけど食い入ってしまうんですね。何が凄いかというと、

「絶妙な間」と「静寂」です。

役者一人一人が、一つのセリフをかみしめるようにして吐き出しています。一つの言葉を言うためにたっぷりと時間を使い、そこから生まれた言葉は何とも重い。響きます。スリムクラブの漫才のようです。個人的に好きなセリフは、

「子育てって、男にとって免罪符みたいなもんですからねえ」

という池松壮亮のセリフ。ぜひ劇中で探してみてください。黒木華が不倫相手の本木雅弘に吐き捨てるセリフも良かった。

そして、無駄なBGMは一切使いません。最初から最後まで一貫して静けさが漂っています。それが緊張感を演出し、「リアル」を見ている気にしてくれます。

西川美和さんが作り出す映画には「邦画としてあるべき姿」がいつもそこにあります。日本人がアクション映画を作ったところで、どうしても迫力や壮大さでは欧米に劣ります。じゃあ何で勝負するかというと、それはストーリーであり、人間を丁寧に描く事にたどり着くのではないでしょうか。

「永い言い訳」を観ている間、僕は「人間の汚さ」についてずっと考えていました。主人公がね、とにかく汚いんです。人間として。僕は観ながら「うわ、嫌なやつー」とか思ってたのですが、徐々に感情の軌道がずれていき、「人間とは本来、これくらい汚いのではないか」という新たな仮説が出来上がりました。俺もこいつと変わらないんじゃないか……少し考えてしまいました。

この映画は、「よし!明日から頑張るぞ」という気持ちになるわけでもなく、恋人と手を握り合って観るようなラブストーリーでもありません。「人間とは何か」という根源的な疑問に始まり、ふとした瞬間に涙がこぼれ、なぜ泣いてしまったのだろうという疑問に終わります。

何言ってるか分かりませんよね?観てもらえれば少しは理解できると思います。

サポートしていただいたお金を使って何かしら体験し、ここに書きたいと思います。