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恐怖の引越し

何度も言うが僕はオーストラリアの引越し業者で働いている。
そして何度も言うが僕は体がヒョロい。力がない。背が低いから高いところに手が届かない。毎日難しいことに挑戦しているのだ。

今日の現場はすごかった。驚いた。まず何に驚いたかというと、行きの道中に襲ってきた突発的な便意に驚いた。今から引っ越しを手伝う人間がお尻に茶色いものをつけていてはどうしたって説得力がないだろう。「この人信頼できないわ。私物とか取られたらどうしよう」「あ、やっぱりあれがない。あの人が盗んだんだわ。通報通報」。こんなことだって十分にありえるだろう。

結局トイレはお客さんの家でやらせていただいた。荷物を運び出すのかと思いきやトイレに直行したので驚いただろう。

そして次に驚いたのは、作業員3人での作業予定だったが、一人が陽性になってしまい2人になった。しかもその1人というのが、元々予定していた作業員の「代わりの代わり」だから驚きだ。3人とも陽性反応が出たのだ。流行りすぎやろ。

2人になった僕たち(パートナーは所長)はお客様の家に驚く。エレベーターがないのだ。3階なのにエレベーターがない。しかも割とイカつい家具がいくつかある。こういうときはもう何も考えない。何も考えてはいけない。これが引っ越しだということも考えてはいけない。

そこからの9時間はあまり記憶がない。一体どうやって僕たちはあれほどの家具を階段で降ろしたのだろう。覚えているのは途中から体に力が入らなくなり天板を落としかけたことと、普段温厚な所長が5回ほど「え、え、何してるの?」と半ばキレ気味で僕に呆れていたことだ。申し訳ない。しんどかった。

最後の方は空の段ボールを持つのですら「重い」と思っていた。トラックに荷物を入れて次の荷物を取りに行く流れでそのまま逃げてやろうかと一瞬頭をよぎった。それでも僕たちは「俺らいますごいことやってるよな?」と確認し合った。何度も何度も、自分達の存在意義を確認した。

死に物狂いになりながら、疲労とは別のポジティブな実感があった。それは「いま成長している」という実感だ。自分は今、難しいことをやっている。壁を越えようとしている。重いものを持っている。それは長らく避けてきた感情だった。でも実際に地獄を経た今、思う。苦しいことをやりなさい。今なら書店のスピリチュアル部門に置けそうな本を書ける気がする。苦しみ抜きなさい。苦しみをどう切り抜けるかが知恵となり、将来のあなたを助けるだろう。持てなかったものが持てるようになる時は、持てなかったものを「持とうとした時」だ。

【1月22日の日記】

I've worked from the morning to the evening today. Bringing much heavy luggage is good for me because I can ignore the shock of the stock market and the script that I get stuck in then. The process that we change to an empty room from a messy room is also refreshing for me. But, of course, a reality waits for me after work. I have to face my works. I have to star at the chart of Nasdaq. 

今日は朝から夕方まで仕事。重い荷物を運んでいると、株の暴落や、煮詰まっている脚本とかを忘れることができるから良い。荷物でいっぱいの家を空っぽにしていく過程もスッキリする。しかし仕事が終わると現実が待っている。俺は物語と向き合わなければならない。俺はナスダックのチャートを睨まないといけない。

サポートしていただいたお金を使って何かしら体験し、ここに書きたいと思います。