この夜空を僕は

今日は弱音を吐く。張り切って吐くぞ。覚悟しろ。

困ったことに最近、「夜」に悩まされている。こちらオーストラリアは現在真冬。17時を過ぎればだんだんと暗くなってきて17時半にはもう真っ暗だ。どういう訳か、その時間帯から僕の心も段々と暗く重たいものになっていき、正体の掴めぬものに対し不安に駆られる。

徐々に鼓動が速くなっていく。息切れするほどではないが、心臓のバウンドがはっきり分かる。ベッドに横たわるも、そのバウンドはおさまる様子を見せず身体と寝具を振動させる。毎日走っているから身体は疲れているはずなのだが、まるで寝れる気がせず汗が止まらない。心臓の動きをこれほどまでに実感できる夜が来るとは思ってもみなかった。

トイレがやけに近くなり、眠れない→トイレに行く→眠れない→トイレの繰り返し。それでもなお寝れない。地獄。台所へ行き、ウォッカを少しだけコップに入れ、一気飲みする。強い酒の力を借りて眠れる夜もあれば、全く効果がなくそのまま朝になる日もある。

もう最悪である。ただ生きるだけなのに、ただ笑っていればいいのに、そんな簡単なことがこんなにも難しいだなんて、聞いてない。説明会とか開いてくれなあかんで。少なくとも子供の頃は、大人ってもっと強いものだと思っていた。とんでもない。むちゃくちゃ弱えよ。子供よく聞け。学校の先生、親、塾の先生、野球チームの監督、そいつらお前らよりもちょっとだけ髭が濃かったり、お前らよりも股を開いた回数がちょっとだけ多いだけやから。たいしたことない。

何かに悩んでいるとか、ストレスがあるとか、そういうわけでもないから余計にしんどい。先日6月29日は僕の誕生日で、ありがたいことにいろんな人からメッセージを頂いたのだが、はっきり言ってそれどころではなかった。寝たいのに眠れない。このまま一生寝れないのではないかという焦りが積もり、自分でも意図しない涙が溢れる。

そんな状態が1週間ほど続いたある夜、例によって寝付けずに苦しんでいる僕を見かねたハウスメイトが「夜の街を散歩しよう」と、外に誘ってくれた。

僕はいま、ブリスベンという街でコロンビア人のカップルが所有する家で一緒に住んでいる。いわゆるシェアハウスというやつだ。今回僕を散歩に誘ってくれたのは彼氏の方で、名はペドロという。

僕たちは23時から歩き出した。ほんとによく歩いた。2時間は歩いていたと思う。そして僕たちは話した。それは友人としての会話というよりも、まるで賢人と悩める少年の対話のようだった。ペドロは今年35になると言っていたからやはり僕よりも大人で、いつも落ち着いているように見える。そんな彼でもこちらへ来る前にパーソナリティ障害のようなものになり、僕と同様眠れない夜が続いたそうだ。

僕たちは2時間、ずっと話していた。僕が28歳になったばかりということもあり「ペドロが28歳の時は何をしていたか」ということも聞いたし、「どんな35歳でありたいか」ということを聞かれたりもした。

歩いて、話していると、不思議と身体が軽くなり眠気もやってきた。今日は寝れるかもなという期待を持って家路を急いだ。
星が綺麗で、ああ、としんみりしてしまった。この夜空の下でペドロと散歩したことを、僕は死ぬまで忘れないのだろうな、と。そう考えると、泥々としたこの苦しみも何か意味はあるのかもしれない。

とにかく今の体が普通ではないことは確か(結局散歩の日も3時ごろまで眠れずウォッカで無理矢理寝た)なので、病院に行ってきた。そこでもらった睡眠導入剤?精神安定剤?がバカ効きしており、ここ3日は寝付きが良く9時間から10時間寝ている。

それでも夜への恐怖感が収まることはない。28歳という新たなステージが僕を煽っているのかもしれないし、満たされない毎日がそうさせているのかもしれない。ただ、優しいハウスメイトがいるから、友達がいるから、何とか今日も立っている。土俵際でギリギリ踏みとどまれたと言っていいだろう。

全てを飲み込んでしまう夜に負けそうになった時、というかずっと負けているのだけれど、そんな時は竹原ピストルの「Forever Young」を聴くに限る。その曲はこんな歌い出しから始まる。

何をどうしても眠れない夜は
何が何でも眠っちゃいけない夜さ

「毎日何もすることがない」「朝の光を浴びていない」という事実が不眠やストレスにつながっているのだと分析し、最近はついに仕事を探し始めた。英語学校にも行こうと思っている。脚本も書きたいテーマが見つかった。夜の暗さでは覆い隠せないくらいに、明るい時間に暴れてやる。


この記事が参加している募集

眠れない夜に

サポートしていただいたお金を使って何かしら体験し、ここに書きたいと思います。