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ロイホのハンバーグを食べるとサイゼのハンバーグを6.5個食べれる

渋谷の道玄坂の真ん中にロイヤルホストがある。
ファミレス界の中でも特上ランクに位置する高級店だ(と思っている)

僕は10年以上前、ここに入店するのが夢だった。

渋谷kinotoでライブをした後、トボトボ歩きながら「今は貧乏だが…いつか1000円以上するものを食ってやる…!しかも渋谷のど真ん中でな!」などとハングリー精神と呼ぶにはあまりにも浅いドリームを育んでいた。

ずっと育み続けたわけでもなく、むしろその植木鉢の存在はすっかり忘れてしまっていたが今日いきなり叶った。夢というものはそのほとんどが叶う頃にはどうでもよくなっている。その過程で拾ったものに価値があるのだ(と思う)

そのどうでもよさは『渋谷で時間を潰さなきゃいけなくなり、本屋だの町ブラだのを繰り返していたのだが突如雨に降られ天空を仰ぐとそこにロイヤルホストがあっただけ』というものだった。

「そういえばロイホあったな」ぐらいのテンションでしかなく、かつてのドリームを忘れていたどころか、店舗の営業が続いていたことすら知らなかった。
入店し水をお姉さんが運んでくる。「ファミレスなのにセルフじゃないところがラグジュアリーだな」と徐々にむかしここを目指していた記憶が蘇る。

ロイヤルホストのメニュー表は笑えることに同じメニューが数ページごとに登場する。何がやりたいのかは分からないが、選んでいるうちに脳がバグってくることだけは分かる。
食べ物を選んでいるのか催眠をかけられているのかの区別がつかなくなった頃、すべてがどうでもよくなり、どれでもよくなりピンポンを押す。お姉さんが来るまでのロスタイムでまた考えてさっきまで全然見ていなかったやつにしてしまう。

ちなみにどれを頼んでも頭の回線が千切ちぎれるぐらい美味いので安心してほしい。席も病的に広い。でもふと頭の中で「こんなに美味かったっけ?」と声がしたのだ。

ロイヤルホストに初めて行ったのは二十歳の頃だった。当時やっていたバンドのツアー中、始発まで時間を潰す場所がなくて逃げ込んだことを覚えている。

月収が10万に満たない当時の僕にあの価格帯は衝撃だった。「水だけでいいっす」と言える根性も持ち合わせておらず、泣く泣くハンバーグか何かを食べた。「高いがギリ払える」がロイヤルホストだ。

これは記憶が改ざんされている気もするし、失礼の極致なのだが、印象としてはさほど美味くもなかった。不味いとかではなく、ガストやサイゼリヤなどと比べて価格ほどの味の差を感じとれなかったのだ。

今はむしろガストやサイゼリヤが『安かろう悪かろう』になっていない凄さに目を向けられるが、当時の僕は「大して内容変わんないくせに高額」という怒気をはらむ感想を持っていた。
僕は「2,000円も出すのだから人生史上最高記録を更新して二度と他のハンバーグを口にできなくなるぐらいのものを提供してください」と祈るモンスターカスタマーの卵になったのだ。

もちろん美味いは美味い。「本当にやりかねない。ロイホのハンバーグ一個のために……強盗だって…!」とは思う。

だけどいまだに「価格差ほどの味の差」というのは感じない。逆にサイゼリヤは物価高騰の令和5年現在、400円でハンバーグを提供してくれる。これは凄まじいことだ。

たとえば後輩に立ち飲み屋でおごると、二人で4,000円の支払いは簡単に超える。これだけで税込み4,400円だ。誰かに奢るとハンバーグが一個付いてくる計算だ。

他行の銀行に振り込むと額によっては400円ぐらい余裕で手数料を取られる。「おい銀行、じゃあハンバーグよこせよ」と強盗もやりかねない。

『400円でハンバーグ‼️』という相場感がどれほどメガトン級のことなのか。
この文章をロイヤルホストで書き綴っているのだが、顔を上げてみると、いつの間にか席がそれなりに埋まっていることに気付いた。

これは個人的な感覚だが「みんなほぼイケてる」ことに気付く。「客の属性」なんて差別的表現は嫌悪感を示すひともいるかもしれないが、そういうものを感じる。感じてしまうものは感じないわけにもいかない。この空間には端的に述べると多様性がないのだ。

これは僕の地元の変な激安飲み屋などには見られない現象だ。ああいう空間特有の「指名手配犯などいろんなやつが雑多にゴチャゴチャ詰め込まれたかんじ」がロイヤルホスト道玄坂店にはないのだ。『ちびまる子ちゃん』みたいな状態がない。

あれは昭和の公立小学校の典型ともいえるクラスメイトたちが織りなす日常を描いた作品だが、ちょっと前に「ちびまる子ちゃんは大金持ちの子どもも知能ギリギリの子どもも同じクラスにいる」というXの投稿があった。

僕が平成初期に味わった小中学校も似たようなものだった。

東大に行くような子どももいたし、世界的クラシック指揮者の子どもも社長の息子もいた。一方、先生が何度注意してもアハアハふざけたり、集団下校時に脱走してしまう子もいた(僕)

知能の発達が遅かったのか先天的に足りなかったのだろう。

世の中の多様性を知るにはいい環境だけど、大人になるにつれああいう「いろんなひとがいる空間」に触れる回数は減っている。

巨大ロックフェスのバックヤードでは「バイト何してる?30歳まで売れなかったらバンドやめる?」みたいな人生の世紀末的会話はあまり行われないし、キャパ100のライブハウスの打ち上げでは「この前、女優の〇〇と六本木で飲んでさ」なんて話題にもならない。

昔住んでいた安アパートは警察の出入りがあったり、分裂病の隣人が暴れたりしていたが、今の家は超高級というわけではないが犯罪の臭気はしなくなった。

きっとプロ野球の二軍とメジャーリーグのロッカールームでは話題が違うのだろうし、サイゼリヤの客とロイヤルホストの客もハンバーグに対する感じ方が違う。

これは『話が合わない』という現象なのだろうし、合わないひと同士が同空間にいることが良いのか悪いのかは分からない。

ただ、多様性に触れることが楽しい日もあるし、微妙な価値観のズレを見たくない日もある。

ロイヤルホストのハンバーグは2,618円。サイゼリヤは400円。なんとロイヤルホストのハンバーグを6個食べることができる。

たぶん、僕はこの店に来たかったわけではない。こういうことを考えなくてもいい人間になりたかった。でももういいのだ。そういうことにももう疲れたのだ。

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