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エストニアで急性心筋梗塞・闘病記(3)

エストニアで急性心筋梗塞・闘病記(2)|Takumin|note の続き。

Day 7 - ICUから一般病棟へ

朝のルーチンが終わると、7時半のシフト交替時に例の「ジョジョ」お母さん看護師さんがやってきて、「覚えたての日本語を話せてとても楽しかった」「もうICUには来てほしくないけど、でもさみしいわ」的なことを言ってお別れ。まあすでにICUの中ではいちばん長く滞在していたのは間違いない、けど…。いろいろ親切に教えてくれたし、夜更かししてSNS見てると「ネロ!」と叱られたり。意外に快適だったICU生活。彼女たちのおかげでもある。ありがたい。

朝ごはんのあと、両隣にも一般病棟から迎えがきて、ドクターも回診時に
「そろそろ一般病棟に移ってもらえると思う」
「ほんとに今日中?」
「Hopefully」っとちょっと苦笑いして。

昼ご飯を食べたら、ガラガラガラとベッドを引きずる音とともに、制服が違う一般病棟の看護師さんがお迎えに。まとめておいた荷物を持って、入院後初めて立ち上がって歩いてみた…。おお、歩ける。かなりふらつくけど。
そのままお迎えのベッドに座り込み、一般病棟に戻っていく。

去り際、そんなことは他の患者はしていなかったがw、とてもお世話になったので「Thank you、thank you !」とナースステーションの横を通る時に手を振って挨拶したら、みんなにこにこして手を振り返してくれた。

いくつか廊下の角をまがり、ドアをくぐって、ようやく今いる病院の規模を知る。北エストニア、というかエストニアで最大規模の病院だということがようやく実感できた。なんせほら、搬入されたときはほぼ心肺停止だったから(苦笑)。

一般病棟の病室は、心臓科いちばん奥の4人部屋。二人の先客がいる(二人とも高齢のようだ)。いちばん手前のベッドをあてがわれる。個人スペースとしてはかなり広く、圧迫感はない。そしてなにより、目の前がトイレとシャワーだ!あああこがれのトイレ!夜中に看護師さんを呼んで尿瓶を代えてもらわなくてもいいし、おまる付きの椅子を運んでもらわなくてもいい!幸せ!

心臓科 6区の病室

ベッドの枕元にはコンセントがあり、有線LANポートもあったがこちらは試していない。院内にはパブリックなWiFiがあり、自由に使える(ただフィルタがかかっていて、自分のサーバーには繋がらずw)。速度も不自由ない。テレビとかはない(休憩室に行けばある)が、まあ要らないな、普段も見てないし。読書灯は手元で明るさを変えられる。

コンセントは医療用(赤)と一般用(緑)がある。といって、医療用を使っていても特に叱られるわけではない

看護師さんによる問診とアレルギーなどの情報を伝えたあとは、ICUとは格段に静謐な午後。どれだけにぎやかだったかを逆に思い知る。そりゃそうだよね…、ナースステーションとも一体だったので、かなりにぎやかだった。

ICUを離れる時に点滴系はいったん全部抜き取って、再度挿しなおしたのだが、両腕はこんな感じになっていた。

右腕
左腕

主には静脈が穴だらけになってそこから漏れた血液で内出血してたりとかだとは思うが、右腕がことさらひどかったのは、蘇生時になんとかという処置をしていたせいらしい(聞き取れなかった - たぶん専門用語)。これは日々薄れていったのだが、ただこれが「壮絶な」タタカイの跡でもあったので、全部消えてしまうとちょっと残念かなとか。 ほら、飲み屋で自慢できるじゃないですか。飲まないけどさ(笑)。

常時モニター型の心電計は外されたが、代わりに携帯型心電計を装着。これで、
「院内なら、歩いてても倒れたり異常があったらすぐに駆け付けるわよ」
と言われる。つまりもう自分で歩けと。まだ5歩しか、トイレまでしか歩けませんが…。

携帯型心電計 割としょっちゅう電池(単3を2本)交換する

ソバの実?、ソーセージ、スープ、パン、サラダ、ヨーグルトの晩御飯のあとは、かなりぐっすりと。やはり静かだなあ。隣の患者のいびきは多少気になるけれど、きっと自分も似たようなもんだ(笑)。

一般病棟での晩ごはんの一例。毎日変わる

Day 8 (土曜日)

週末なので医師の回診はないらしい。ICUと違って格段にルーチンが減ったので、SNS見たり。ただICUは特例で許可してもらっていた家族との面会が、一般病棟はコロナのため全面禁止になっているので、1階のインフォメーションに持ってきてもらった荷物を届けてもらうだけに。
そこで、家族に連絡して文庫本とともにiPadをもってきてもらい、Kindleで買った昔の小説を読み返す。これができるのが現代の入院生活?快適極まりない。

リハビリを少しづつ始める。まずはテレビのある休憩所まで。距離約50メートル、150歩ぐらいだが、息が切れる。途中2回休む。冷水器があって冷たい水が飲めるので、それが自分へのご褒美。

休憩室。ライブラリもある。大昔のナショジオ(雑誌)もあった

Day 9 (日曜日)

同じく回診はない。昨日とほぼ同じ今日。でも歩ける距離は、自分でびっくりするほど長くなった。からだってすごいね。

休憩室から見える中庭

Day 10 

担当医師と初めて面談。一通り現状の説明と問診。特に痛みもなく、血液検査、胸部X線などの結果も良好。このままなら今週中に退院、ただし明日ではないと。
かねてからの疑問、「再発の危険性はどのくらいあるのか」と「(現在のカテーテルによるステント挿入のほかに)冠動脈バイパスなどの再手術の必要性はあるのか」をぶつけてみると、彼女の答えは、
「再発の可能性はほとんどない。2週間後には飛行機にも乗れる」
「再手術の必要性は全くない」
実は「成人病からの発展形としての心筋梗塞」であれば、これはとてもとても重要な意味を持つのだが、その懸念のどちらも彼女は明確に否定した。

Day 11 

リハビリを続ける。ちょっとづつ息切れしないでたどり着ける距離が長くなるのが、とてもとてもうれしい。赤ん坊が倒れずに歩ける距離が長くなる嬉しさ的な?息が切れるけれど痛みはない。そして、運動量が増えるとごはんがおいしくなる。

ここまでで気づいたことは、「病院内はほとんどロシア語」だということ。もちろん公用語はエストニア語で、病院内の案内などもエストニア語のみなのだが、少なくとも周りの患者たちは「全員」ロシア語をしゃべる。看護師さんたちもロシア語「しか」しゃべらない人もいたりする。比較的若い世代は英語もエストニア語も流暢にしゃべっているが、ロシア語もネイティブっぽい。

それについては、聞きもしないのに看護師さんの一人が話してくれた。彼女は南の方でロシア語ネイティブの家庭で育ったのだが、小学校からロシア語のほかにエストニア語と英語と同時に勉強させられ、とてもつらかったと。友達の中にはそれについていけず国外に出て行った人もいる、と悲しそうに話す。いまでも英語よりもエストニア語のほうが苦手だが、エストニア南部よりも北部のほうがエストニア語を話す機会が多いので、ようやく何とかなってきた…。

この辺の「二重構造」はかねてから気になっていたし、別の人からも「病院内はロシア語」って聞いたことがあったので、まさにそれを実体験する形になった…。問題が微妙すぎるのでここでは深掘りはしないけれど…。

そして午後にはサプライズ!なんと日本にいるエストニア人の友人から、彼のお母様経由でお花が届く!お母様もこの病院で働いていると。いいなあこういう繋がりまくった世界。

鉢植えのお花!メッセージ付き!ありがとうありがとう!

この日の晩御飯はロールキャベツ。なんて美味しいんだろう。

大好きなロールキャベツ。まるまるリンゴもいいね。

Day 12 - "さようなら、いままで魚をありがとう"

これまでとにかく親身にリハビリを指導してくれた理学療法士さんが、退院手続きや最後の医師との面談に妻も同席したい、という無理なお願い(原則面会禁止なので)のためにいろいろアレンジしてくれて、とてもありがたい。なんと彼女はきのうお花をくれた友人のお母様と同じ部署だそう。ってことは自分は結構「有名な患者」だったのか?(笑)

その甲斐あって、昼過ぎに休憩室で妻を交えてドクターと面談。経過と、現状と、そして今後について説明を受ける。まず登録しそびれていたファミリードクターを早く見つけなければならないが、3か月分の初回の処方箋は出してくれるので、当面の投薬はなんとかなると。同時にかなり分厚い詳細な診断・医療報告書を渡してくれて、今後も血糖値とコレステロールの管理が引き続き重要であること。でも全体としては予後はとてもよく、心配する必要はほとんどないこと。リハビリをとにかくしっかり行うこと。

医療報告書。同じものが患者ポータルからダウンロードできた

なんといっても、心停止の救急搬送からたった12日で退院である。救急・蘇生措置はもちろん、ものすごく迅速な治療で、そしてほんとに手厚い看護だった。言葉もあまり通じないし、扱いにくい患者だったかもしれないが、でもとてもとても快適だった。実際とても名残惜しかった。感謝、の一言です。

エストニアの医療保険

この国も、国民皆保険を基本とするが、と言って加入の義務があるわけではない。ただ、

  • 妊婦・18歳未満は自動加入

  • 被雇用者は雇用者が保険加入させる義務を負う

  • 年金受領者も自動加入

  • 個人事業主も事業登録した瞬間に年金とともに自動加入

  • (海外からvisaや留学生などで長期滞在する際は加入必須)

なので、住民登録している人で加入していない人はとても少ないと思われる。雇用主によってはさらに別建ての保険に加入させてくれるところもあるらしい。
月々の保険料は、未成年や年金受領者は一定額だが、被雇用者は給与の何パーセントかを税金とともに「天引き」される。累進課税ではないので、納める率は一定である。
個人事業主でかつ前年の年収が一定額に満たない場合(私の場合(笑)、もっと稼がなくちゃね)、3カ月おきに年金とともに保険料の請求がくるのだが、合わせて大体500ユーロだ。

気になる医療費は…

請求書。チーン

で、こちらが治療費+入院費の請求書。実はICU(救急医療)は無料。あんなに大変な治療なのに…。そして、確か一般病棟では

  • 治療費:6.5ユーロ/日

  • 入院費:6ユーロ/日

つまり1日12.5ユーロ。で、それが5日間だから、合計62.5ユーロとなる。VATはどうやらかからないようだ。もちろんこれはエストニア健保組合加入の条件での自己負担分なので、もし保険に加入していないとそれなりの金額になるはずだ。が、たぶん、だけれど海外旅行保険でも十分支払える金額なのではないだろうか?これだけの高度医療なのにね。ありがたいことです。今後も頑張って保険料で「後払い」しますね(笑)。

おまけ:エストニア・デジタル医療システムの実際

ちょっと長くなってしまったので、別noteとしました。

エストニア・デジタル医療システムの実際|Takumin|note

闘病記(4) - 完結編 につづく。


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