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欧州議会による「テロ支援国家指定」の意味

日経新聞のこの記事で報じられていますが、

わりと記事中ではさらっと触れられているだけですが、欧州に住んでいる人間として、私はもうすこし大きな意味があるように感じています。まず、

EU域内に対して

これは散々報じられているから周知だと思うのですが、EUの中でドイツがロシア産天然ガスをはじめとするロシアの資源、それに輸出先として自動車産業をはじめたくさんのビジネスがそこに投資し依存をしており、自動車関係などはほぼ撤退・投資中断・様子見しているものの、医薬品関係などはまだかなり大きな商売を続けているようです。そこに、この「テロ支援国家指定」をすることで、今後取引自体がEU的に「違法」になりうるよ(国内法と違って拘束力は小さいけれど)、そのための準備はできていますか?というメッセージとなっているのではないでしょうか。

また、以前からハンガリーがどうも離反ぎみなので、それに対するメッセージでもあるのかなと。ハンガリーはもともとは「ハンガリー動乱」があったように冷戦時代からソ連に対しては反抗していたはずなんですが、若い世代を中心に「ロシアかっこいいから支持」という声がかなりあるらしい。政策的にもEU諸国による対露経済制裁にほぼ唯一参加していないので、それに対する外圧でもあると思います。

次に、

EU域外に対して

ですが、こないだからNetflixで配信が始まっている「西部戦線異状なし」というものすごい映画

を見て、改めて思ったのは、EUは基本的には経済圏(正確には非関税圏というべきか)ではあるものの、「戦争を起こさないための枠組み」でもあったのではないかと。あのひどい戦争を2度もくぐって、実際に今住んでいるところがどこも戦場(それも市街戦)になっていたわけで、戦争そのものを忌諱する意識も人権蹂躙ももう絶対嫌だとする感覚も、おそらくアメリカとは比較にならないくらい大きいんじゃないかと思います。テロ支援国家指定についても、まずポーランドとバルト三国がかなり早い段階で宣言、

エストニア議会、ロシア連邦をテロリスト政権と認定
Riigikogu declares Russian Federation a terrorist regime | News | ERR

エストニア国営メディアERR

国内での対ロビジネスについても相当圧力をかけてきており、EU全体に対してもエストニアのカーヤ・カラス首相などはEU議会や加盟国にほとんど「日参」して圧力をかけまくっていた。旧ソ連に隣接していたり、バルト三国のように「占領」されて蹂躙されていたわけだから当然でもありますが、それに対しこれまでは他の国々は慎重だった。経済的な考慮もありつつ、「戦火を避けたい、戦場になりたくない」という側面も大きかったはずです。

それを、あえて大きな分断を招きかねないこの宣言を行った、ということは、たとえ戦火を交えることになったとしてももうロシアの暴虐は許さない、そして彼らとビジネスを行って間接的に戦争支援する国・企業にも今後厳しい目を向けるよ?というとても強いメッセージだと思っています。

また、テロ支援国家指定がこのタイミングになったのは、ポーランドが流れ弾を食らって死者まで出たことと無関係ではないと思います。すでにEUの市民を巻き込む事態になった以上、「当事国」になったという意識に変わったのは間違いないと思っています。

日本への影響は?

EUのテロ支援国家指定によって、日本の、特に対露貿易については対岸の火事ではなくなったことを認識すべきです。EU全体で今後法整備も進んで、さらなる経済的制裁として「対露でビジネス関係のある企業の、EU域内でのビジネスを制限する」ということが起こりかねないからです。

たとえば、アメリカがイランをテロ支援国家指定したことにより日本の企業がイランと取引を行うことが著しく制限されたり、原油の輸入禁止を要請されたり、

実際にエストニアの企業がイランの「とても軍事とは関係なさそうな」企業とビジネスを行おうとした瞬間に米国大使館から横やりが入るのを目の当たりにしました(どこで知ったんだろうか…)。

EUが同様にEU域外の国での対露ビジネスについて、アメリカと同様な圧力をかけてくるかどうかは今のところ未知数ですが、ただ今後は「それも辞さない」ことの宣言が「テロ支援国家指定」であると考えたほうがいいと思います。

日本はいまだ天然ガス全輸入量の8.2%をロシアに依存しています。

水産物の輸入や中古車の輸出が止まったという話は聞きませんし、現在適用している経済制裁は、これまでの金額ベースでの対露ビジネスのほんの数パーセントにしかなっていない、いやむしろ「増えてる」というデータもあります。

このサイトで、現在どんな企業が対露ビジネスを行っているか、それがどういう状況か、一覧で見ることが出来ます。

民間大手企業は自主的に撤退したり縮小したりしていますが、それができない中小企業などもまだあるとは思います。とはいえ、たとえば北朝鮮とは民間レベルでも厳しく取引が規制されています(罰則もあったはず)。同じ事態になる可能性はあるということは頭のスミにいれておくべきかもしれません。

参考:
ちなみに輸出は品目によって許可(=原則不許可)が必要とされていますが、輸入を制限するものについては見つけられませんでした。


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