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ロケットとミサイルを分けるのは次の2つ

※この記事は4月14日にstand.fmで放送した内容を文字に起こしたものだ。


前回、「ロケットとミサイルの共通点」について解説したが、そこでは主に歴史的な経緯を中心に共通点を探った。

ロケット開発のニュースが流れているときは、同時にミサイルの開発にも関係している。なので宇宙開発と軍事はセットで捉えたほうが良い。なぜなら、もともとロケットは兵器として開発された歴史があるから。要約するとそんな話をした。

ところが、ロケットとミサイルは具体的に何がどう違うのか?という部分については前回詳しく話すことができなかった。
自動車でも、ガソリン車とEVではその構造や応用が多少違うように、ロケットも、宇宙開発用のロケットと兵器用のミサイルとではやはり構造に若干の違いがある。
今回はその違いについて、より技術的な点から解説しよう。

ロケットとミサイルの違いは大きく分けて2つある。
1つは、「酸化剤の量」だ。

以前の放送で、「ロケットの打上げには地球の引力を振り切って宇宙に到達できるだけの推力が必要であり、空気のない宇宙空間でも燃料を燃やし続けるためには酸素の入った酸化剤が大量に積まれる」という話をした。

宇宙へ向かうことを目的としたロケットでは、地上の乗り物とは違い空気が薄くなる空間に飛んでいくことを考慮しなければならない。自動車や飛行機が地上で当たり前に燃料を燃やすことができるのは、地球に大気があり、酸素があるからだ。逆に言うと、酸素のない空間で地上の乗り物と同じような設計をしても動くことはできない。だからこそ、酸素を供給するための「酸化剤」が必要なのだ。

ではミサイルの場合はどうかというと、射程距離の一番長いICBM(大陸間弾道ミサイル)でも、最終的な到達点は地表だ。どのミサイルだろうと放物線を描きながら目標に向かって落ちていくよう設計されるので、むしろ地球の引力に逆らってはいけない。となれば、酸化剤の量はロケットより少なくなる。

つまり、ロケットの場合は宇宙に到達しなければならないため酸化剤の量は多く、ミサイルの場合は大気圏外に出ることがあっても最後は地表へ落下させるので酸化剤の量は少ない。
よって、酸化剤の量の違いが両者の大きな違いとなるということだ。

では、もう1つの違いは何かというと、これは至極単純だ。

ロケットとミサイルの違いは、極論すると「兵器か否か」に尽きる。なので、ロケット先端部に積まれているのが「人工衛星か、弾頭か」の違いだ。

ロケットやミサイルは空気抵抗をより小さくするために先端が尖ったような形状をしているだろう。あの先端の尖った部分は「フェアリング」といって、内部には打ち上げの目的である貨物が積まれている。そのフェアリングに積まれているのが、人工衛星か弾頭(つまり爆弾)かという違いだ。
これら2つの違いがロケットであるかミサイルであるかを分ける大きなポイントとなる。

もちろん、細かいところを挙げようとすれば他にもあるのだが、おおよそ違いを理解する上ではとりあえずこの2つだけで十分だ。

第二次世界大戦後、アメリカとソ連はV2ロケットを開発したドイツのロケット開発者たちを本国に迎え入れ、独自のロケット兼弾道ミサイルの開発を本格的にスタートさせた。

結果、アメリカ陸軍は1950年に弾道ミサイル・レッドストーンの開発に着手し、'52年にその生産を開始する。これは射程距離800km以下の短距離弾道ミサイルで、現在世界を騒がせている北朝鮮のICBMと比べると射程距離はだいぶ短いものだ。

ただ、核兵器の使用についてまだ制限が掛けられていなかった当時のアメリカでは、冷戦の影響もあり、早速このレッドストーンを使って弾頭に原子爆弾を搭載した核実験を行っていた。

レッドストーンはその後も改良が進められ、多段式に変更されたジュピターC、それをさらに改良したジュノーⅠへと派生していく。

宇宙開発のミサイルで優位に立ったと思われていたアメリカだったが、ロケット開発の初期段階でより優位だったのはソ連の方で、レッドストーンの生産開始から数年後の1957年、ソ連は人工衛星・スプートニク1号の打ち上げに世界で初めて成功している。

このニュースに焦ったアメリカは今まで以上にロケット開発に力を入れるようになり、またそれ以外の世界各国でも、ロケット開発を真剣に検討するようになっていくのだ。

戦争が技術を進歩させるというのは皮肉な話ではあるが、僕らがいま当たり前に使っている飛行機や自動車、セキュリティ管理のための暗号技術などのほとんどは、戦時中の技術の名残だ。

現在は自由市場経済のもと、武力ではない競争で技術の進歩が促されているが、僕らの生活を便利に豊かにする技術の中には、戦争によるしのぎの削り合いで生まれたものもたくさんあるという事実は覚えておいたほうがいいだろう。

参考文献:ロケットの科学 改訂版 創成期の仕組みから最新の民間技術まで、宇宙と人類の60年史 (サイエンス・アイ新書)


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