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ペットフード

「ラブペットランドはどちらですか?」

永野芽郁さんを少しクールにしたような雰囲気の女性だ。
僕は妖怪めいた容貌で、おまけに挙動不審なので、人に道を訊かれたりすることは滅多に無い。
そんな僕に声を掛けるなんて、よほど勇敢か、よほど変人なのに違いない。

「ラブペットランド?
店名に自信は無いのですが、できたばかりのペットショップですよね?
すぐそこのショッピングモールにあった気がしますけど…」

「多分、そのお店だと思います」

目と鼻の先だったし、道順を説明すると却って面倒そうなので、直接案内することにした。
会話を繋ぐのは苦手なのだが、不気味な男が黙りこくっていたら、もっと不気味だろうと慮って、無理して話しかける。

「ペットがいらっしゃるんですか?」

「いえ、これから飼おうと思って、餌を…」

「犬ですか?
猫ですか?」

「どっちでもないんです」

「鳥とか爬虫類とか…」

「…でもないんです」

「珍しい動物なんですね?」

「珍しいわけでもないですけど、内緒ということで…」

「あっ、すみません。
通りすがりの者なのに、立ち入ったことをお聞きしてしまって。
失礼致しました」

着いた店はやはり、「ラブペットランド」だった。
ペット同伴で入店できるように、スペースを広々と取ってあるが、店そのものはそんなに大きいわけではない
場所を取る大型のグッズなどはなく、フード類が中心だった。
ありとあらゆる種類のペットに対応できるというのが、売りらしい。

彼女はスタッフの女性と、何か話し始めた。
何やら下心でもあるのかと勘繰られたくないので、黙ってそっと店を出ようとしたら、不意に彼女の視線がこちらに転じた。
ちょっと待ってくれと、暗黙のサインを送っているのがわかった。
場所が場所だけに、「蛇に睨まれた蛙」という陳腐な慣用句が思い浮かんだ。
なぜか本当に、動けなくなってしまったのだ。

彼女は緑の袋に白抜きのロゴの入った大きな袋を携えて、こちらにやって来た。

「買い物が終わりました。
さあ、行きましょう」 

有無を言わせず、連れていかれる。

それからしばらくすると、僕は彼女の家にいた。
ラブペットランドのシンボルマーク、LPLの3文字をアレンジしたロゴの入ったお皿を前にして、山盛りのドライフードを食べている。

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