![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/139662206/rectangle_large_type_2_fe51410a1ae23fc5613f8e011f48cd86.jpeg?width=800)
ペットフード
「ラブペットランドはどちらですか?」
永野芽郁さんを少しクールにしたような雰囲気の女性だ。
僕は妖怪めいた容貌で、おまけに挙動不審なので、人に道を訊かれたりすることは滅多に無い。
そんな僕に声を掛けるなんて、よほど勇敢か、よほど変人なのに違いない。
「ラブペットランド?
店名に自信は無いのですが、できたばかりのペットショップですよね?
すぐそこのショッピングモールにあった気がしますけど…」
「多分、そのお店だと思います」
目と鼻の先だったし、道順を説明すると却って面倒そうなので、直接案内することにした。
会話を繋ぐのは苦手なのだが、不気味な男が黙りこくっていたら、もっと不気味だろうと慮って、無理して話しかける。
「ペットがいらっしゃるんですか?」
「いえ、これから飼おうと思って、餌を…」
「犬ですか?
猫ですか?」
「どっちでもないんです」
「鳥とか爬虫類とか…」
「…でもないんです」
「珍しい動物なんですね?」
「珍しいわけでもないですけど、内緒ということで…」
「あっ、すみません。
通りすがりの者なのに、立ち入ったことをお聞きしてしまって。
失礼致しました」
着いた店はやはり、「ラブペットランド」だった。
ペット同伴で入店できるように、スペースを広々と取ってあるが、店そのものはそんなに大きいわけではない
場所を取る大型のグッズなどはなく、フード類が中心だった。
ありとあらゆる種類のペットに対応できるというのが、売りらしい。
彼女はスタッフの女性と、何か話し始めた。
何やら下心でもあるのかと勘繰られたくないので、黙ってそっと店を出ようとしたら、不意に彼女の視線がこちらに転じた。
ちょっと待ってくれと、暗黙のサインを送っているのがわかった。
場所が場所だけに、「蛇に睨まれた蛙」という陳腐な慣用句が思い浮かんだ。
なぜか本当に、動けなくなってしまったのだ。
彼女は緑の袋に白抜きのロゴの入った大きな袋を携えて、こちらにやって来た。
「買い物が終わりました。
さあ、行きましょう」
有無を言わせず、連れていかれる。
それからしばらくすると、僕は彼女の家にいた。
ラブペットランドのシンボルマーク、LPLの3文字をアレンジしたロゴの入ったお皿を前にして、山盛りのドライフードを食べている。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?