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そこのけそこのけ地蔵が通る

今年もこの季節がやって来た。
地蔵親子のお引越しだ。
ひと組の親子を見つけて、町内は気もそぞろだ。

石月山のお地蔵様が、どこかで石の卵を産み落とす。
それが孵るのが、今頃なのだ。
親地蔵が、よちよち歩きの子地蔵を連れて歩く行列が、この季節の風物詩となっていた。

今回は、幸福公園のブッシュで孵ったものと思われる。
子地蔵は8体を数えることができた。
親地蔵の後に付いて、覚束ない足取りで、保育園の遠足みたいに、しばらくは公園のあちこちを歩き回っていた。

生まれた直後は身長5センチくらいだった子地蔵が15センチくらいになると、そろそろお引越しだ。
地蔵親子の周りにはなんとなく、そんな機運が高まっているのが窺えた。

そして、ある昼下がり、いよいよその時が来た。
ゆったり歩く親地蔵の後ろを、ちょこまかよたよた、時に勝手な方向に寄り道しながら、子地蔵たちが付いて行く。
道中には、様々な障害や危険が待ち受けている。
毎度のことながら、気が気ではなくて、ファンでもありボディーガードでもある「見守り隊」が、勝手に自主的に集まってきている。
時間と動物愛と信仰心には事欠かない、お年寄りが特に熱心だ。
例年通り、テレビの撮影クルーも駆けつけた。

行列は公園から中森街道に出る。
信号の無い車道を横切ろうとすると、車の前に見守り隊が立ちはだかって、地蔵親子への配慮を乞う。

交通事故も心配なのだが、もっと心配なのは、子地蔵が群れを離れてしまうことだ。
見守り隊は、1体なりとも見失わないように目を光らせている。
群から離れそうになると飛んで行き、抱きかかえて群れの中に戻す。

交通事故や迷子以上に怖いのは、天敵の存在だ。
天敵とは人間の幼児のこと。
悪気は無いのだろうけど、面白がって追い掛け回したり、中には勝手に持って行ってしまったりもするのだ。

子地蔵1体が用水路に落ち、別の1体が溝に嵌ってしまったほかは、大きなアクシデントもなく、親子9体揃って、無事石月山の中腹まで来た。
3時間ほどかかった。
ここから先は、立ち入り禁止のサンクチュアリだ。
子地蔵たちは一人前になるまでこの聖域で過ごし、時が来ると山を下りて、人々のために尽くすことになる。
有難いことだ。

おん かかか びさんまえい そわか(地蔵菩薩御真言)

合掌。

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