見出し画像

【死刑廃止を考える】死刑って必要?

オススメ度(最大☆5つ)
☆☆☆☆

〜死刑に関する個人的な意見〜

本書の内容にうつる前に、僕の死刑に対する個人的な考えを述べる。

僕はどちらかというと「死刑反対派」である。
死刑について考えると、僕は「取り返しのつかない事態になる可能性がある」ことが気になってしまう。
例えば、自分でも自分の家族でも友達でもいいが、「冤罪で死刑を言い渡された」という場面をまず想像してしまうのだ。
死刑になってしまえば、後からそれが間違いだと分かっても取り返しがつかなくなる。
自分が何かの間違いで言われのない犯罪で死刑を言い渡されてしまうかも、というのが先に浮かんでしまう。

じゃあ、逆に自分の大事な家族が誰かに殺されたとして、自分はその犯人を死刑にしてほしいと考えるだろうか?と想像した時に、「死刑でもいいが、それが犯人にとって最も辛い刑ではない」と考えると思うのだ。出来れば「死んで終わり、ではなく、犯人には辛い環境の中で後悔して苦しむ時間を長く過ごして欲しい」と願い、一生刑務所の中で過ごすのを望むだろう。

というわけで、僕は「犯人には最大限に苦しんでほしいが、それが死刑である必要はない」という理由で「死刑は必要ではない」と考えている。
まぁ、刑法や犯罪に無知な僕は、死刑制度に対してはその程度の認識である。


〜死刑廃止は国際的潮流〜

さて、本書の内容について。

死刑の是非については、「冤罪による死刑」や「国家が個人を殺すこと」などが問題点として挙げられるのをよく耳にするが、僕が思う本書が述べる大きなポイントは以下の二つである。

・国際的には死刑は廃止の方向に向かっている。
・日本では「世論」や「国民の意思」を主な理由として死刑制度が存置されている。

国連では、1989年の国連総会において「死刑の廃止を目指す市民的及び政治的権利に関する
国際規約・第二選択議定書」(以下、「死刑廃止条約」)が採択された。国連加盟国の3分の2を超える国家が事実上の死刑廃止国となっていて、死刑廃止条約を批准した国は88カ国。日本は現在未批准である。

2019年12月時点で、法律上の死刑廃止国は106カ国、10年以上死刑執行していない事実上の死刑廃止国(モラトリアム)は28カ国となっており、国連加盟国の7割強が死刑廃止国である。なお、OECD加盟37カ国のうち、死刑執行しているのは日本のみ、G7でも死刑存置国は日本とアメリカのみ。ただし、アメリカは半数の州が死刑廃止している。(さらに著者によると、アメリカの刑事司法は冤罪可能性の有無に時間と莫大な費用をかけているため、日本よりも冤罪を出すことに対する慎重さがある、とも述べている)

日本は国連人権理事会による「普遍的定期的審査」を2008年から3回受けており、2018年の審査の回答では日本は名指して、「生命権の不可侵」「非人道的または体面を汚す待遇」(自由権規約第六条・第七条」に違反していると指摘されている。

ところが日本政府は、国連人権理事会に対し毎回「死刑制度については、国民の多数が極めて悪質、凶悪な犯罪については死刑もやむを得ないと考えており、特別に議論する場所を設けることは現在も考えていない」と回答し、「国民世論」の多数が死刑存置支持である、と死刑廃止に対する反対理由の理由のひとつとして挙げているのである。

要するに「国際的には死刑廃止の方向に進んでいるが、日本は国民が死刑存置を望んでいる」という論理が、日本の死刑廃止を難しくしている状況を生み出す要因のひとつとなっているのだ。

そして、著者はこの世論調査に対する問題点も指摘しており「日本の国民が死刑存置を望んでいる」という理屈にも疑問を呈している。

著者の言い分を全て受け入れるのであれば、確かに「なんでここまで意地張って死刑を残しておくのだろう?」と、日本政府の態度には疑問を持ってしまうし、本当に日本国民は死刑についてキチンと知識を持った上で存置を望んでいるのか?僕ら自身も死刑というもののあり方についてちゃんと学ぶべきだろう、と考えさせられる。


〜日本に「終身刑」は無い〜

さて、冒頭で、僕は「死刑にしてしまったら、後から冤罪だとわかっても取り返しがつかない」「自分が被害者遺族になった時を想像したら、死刑で終わらせてしまうよりも犯人には一生刑務所で後悔しながら生きてほしい」という、死刑に対する考えを述べさせていただいたが(非常に幼稚な意見で申し訳ない)、本書を読んで初めて知ったのだが、なんと、日本には終身刑が無いのである。

日本では、死刑の次に重い刑罰が無期懲役となる、らしい。
というか、僕は「無期懲役=終身刑」と思っていたのだが、それは大きな間違いで、無期懲役は「懲役の期間を決めずに刑務所に服役させること」で、終身刑は「死ぬまで刑務所から出られない」と断言することである(とはいえ、実際、無期懲役でも現行法だと30年は仮釈放されず、仮釈放自体が稀なので、事実上終身刑みたいなものだそうだ)。

本書でも、死刑の代わりに仮釈放のない終身刑を死刑の代わりに導入することを検討しているが、それは当然僕のようなネガティブな理由で終身刑導入について述べているわけではないので、そこは誤解のないように本書を読んでいただきたい。
しかし、「死刑の代わりに仮釈放のない終身刑を導入する」というのは、僕は賛成である。


というわけで、相変わらずページ数は少ないのに、読むカロリーと書評を書くカロリーが高い岩波ブックレットシリーズからのご紹介であった。
死刑についてそんなにちゃんと考えたことはない、という人は、一度読んでみてはいかがだろうか。

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?