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第20回 その人事評価制度の見直しは“何のため?

1 日本企業の人事評価制度はどう変わってきたのか?

 前回までの「表彰制度」に続き、今回は社長の思いや理念を共有浸透するための「褒める(Admire)仕組み」のもう1つの制度、「人事評価制度」の説明に進んでいきましょう。

 既にお話しした通り、社長の思いや理念を共有して実現に向けて行動した人、実現した人を認めながら、より高い次元でのその実現を目指すためには「褒める(Admire)仕組み」が必要です。

 その場で褒める、日常的に褒めること、さらには「表彰制度」で褒めることも大切ですが、最終的には「人事評価制度」を通して褒めてあげることが重要です。なぜなら従業員は昇給や昇進昇格を、会社からの“正式(公式)な”評価と考えるからです。

 従って、制度の構築やトライアル期間などを含めて1年、2年と時間がかかろうとも、最終的には社長の思いや理念実現の評価を反映した「人事評価制度」をスタートするべきなのです。

 さて、ここで質問です。皆さんは自社の人事評価制度全体をどれくらいご存じでしょうか。他社についてはどうでしょうか。

 人事ご担当の方であれば、当然自社については全てご存じでしょう。では他社はどうでしょう。業界同士の交流や独自に研究されるなどでご存じの場合もあるかと思います。専門誌などで取り上げられるケースもありますので、いくつか特定の会社についてはご存じかもしれません。ただ詳細までとなると数は限られるでしょう。

 人事ご担当以外の方は、自社の制度といえども人に説明できるほど全体や詳細をご存じないかもしれません。いわんや他社については、転職経験などで当時のその会社の制度、自分に関わる部分だけなら分かるという程度ではないでしょうか。

 私ももちろん全ての会社を見てきたわけではありません。が、大中小さまざまな規模やいろいろな業種の会社の人事評価制度を拝見する機会を頂きました。理念経営のご支援を通して会社全体、全従業員への共有浸透を目指すとなると、最後は人事評価制度に行きつくからです。

 はたして日本企業の人事評価制度はどう変わってきているのでしょうか。遡ること戦後の高度成長期を支えた日本独自の終身雇用・年功序列型から、欧米の成果主義や能力主義の影響を受けて変化してきたことは申し上げるまでもありません。

 他にもコンピテンシーや目標管理制度(MBO)などさまざまな考え方や仕組みが次々とやって来て、試しに導入してはうまく取り込めずに元に戻す、あるいは少しだけ取り入れて修正するといったことを繰り返しているようにもみえます。

 もちろん中には、完全成果主義を標榜する会社、逆に完全終身雇用・年功序列を宣言するなど特徴を打ち出している会社も登場しています。

 大手企業や海外展開を進める企業では、グローバルに受け入れやすい仕組みに移行しつつあるところも増えています。年次や年齢などには一切よらず、能力に合った仕事を用意しその成果のみで評価するといった新しい制度にトライしているところもあるようです。

 勤める側からすれば従来に比べて人事評価制度のバリエーションが増えたことは歓迎していいのではないでしょうか。あまたある会社の中から、他の条件と同じように自分に合った人事評価制度を持つ1社を選べるのですから。

 しかしながら私が実際各社に入り込んで人事評価制度の中身を伺っていて感じるのは、まだまだ多くの日本企業が終身雇用や年功序列の仕組みをベースに残しているという事実です。

 世の中の変化やグローバル化に対して何もしていないというわけではなく、成果主義や能力主義の要素を取り込んでみたり、目標管理の手法をまねてみたりしながら、なかなかベストな仕組みが見つからず試行錯誤を繰り返しているというのが実態のようです。


2 「制度」と「運用」のギャップというもう1つの課題

 人事評価制度にはもう1つ忘れてはいけない側面があります。「制度」と「運用」のギャップです。「制度」自体は文字となってしっかりと存在していても、「運用」はまったく違うものになっているということが珍しくないようです。

 目標管理制度を例に挙げてみましょう。なじみの無い方のために簡単にご説明すると、まず会社や部門長・上司がこの半年や1年で目指すべき会社や所属事業部・部・課の方向性や数字を示し、従業員一人ひとりがそれぞれの職務に沿った半期や通期(1年)の達成目標を自ら考えて設定。上司と話し合って擦り合わせた上で決定し、期間終了後に目標の達成度合いによって人事評価を行う仕組みです。

 ならば後は手順に沿って進めればいいだけではないかと見えるわけですが、例えば目標設定のレベルが人によってかなりばらつくことがよくあります。

 意欲にあふれて荷の重い目標をたくさん掲げる人もいれば、1カ月で楽に達成できるだろうという目標を少しだけ並べる人もいる。たとえ個々の目標にある程度の重み度を付けたとしても、後者の人は毎回楽に目標達成し、前者の人は達成できなくて評価も低くなる。これではかえって意欲の高い社員の不満が増すばかりでしょう。

 他にも運用上の問題はたくさん挙がります。個人が意思を持って一旦目標設定しても、結局は上司が会社の方針に沿って上意下達で決めてしまう。目標の達成レベルを測るための数値化ができない、数字が独り歩きする、検証がしっかりとできないといった問題。

 そして終了後の評価においても上司が一方的に行い、本人にその理由のフィードバックが十分に無いなど。制度を文字にすると後は実行するだけに見えても、「制度」と「運用」のギャップを生む要因はいろいろとあることが分かります。

 数十人規模のオーナー会社でよくあるのは、絵に描いただけの人事評価制度となっているケースです。

 お願いすると人事評価制度と表紙に書かれた冊子が出てくるのですが、よくよくインタビューをすると、実態は「上司から評価シートは上がってくるが、結局は社長が鉛筆なめなめ決めている」といったことが少なくありません。

 そこまで社長がワンマンでなかったとしても、「評価シートの内容に関係なく、役員会の議論で決まっている」「役員の力関係が大きく、〇〇部はいつも損をしている」などといった話が出てきます。

 公平なる評価基準を示すはずの制度が存在していないに等しいのです。これでは従業員のやる気を喚起することはできません。

 さらには「人事評価制度は導入した瞬間から古くなる」という問題も存在します。

 現状に合わせて策定しても、実際の本格導入までには1年から2年以上かかってしまいます。導入後も組織のほうは時代に合わせて次々と変化していくのに、人事評価制度は導入時点のまま。こうして人事評価制度だけがどんどん古くなり、現実と合わなくなっていくのです。

 これら人事評価制度の課題が見え隠れするたびに従業員が感じるのは、「結局会社は何を目指しているのだろう、何がしたいのだろう」という不信です。人事評価制度を見直すたびに、ますます見えにくくなっているのです。


3 人事評価制度が変わろうと、変わらないものは何ですか?

 人事評価制度が見直されるたびに現場は混乱します。「何のために」が見えないからです。

 見直しのタイミングで人事や会社から一通りの説明はされるのでしょうが、そもそも「何のために」見直すのかをしっかりと話されているでしょうか。「何のために」とは今年や来年の売り上げ達成のことではなく、会社が目指す目的や価値観、すなわち企業理念のことです。

 本当に企業理念の実現を目指しているのであれば、それが会社が目指す目的となるはずです。その実現のために力を合わせるべく人が集まり、会社という組織がつくられます。理念の実現に向けて活動するに当たっては、一人ひとりの仕事を公平・公正に評価し、働く者のやる気を喚起するルールが必要で、「人事評価制度」が求められるのです。

 人事評価制度の見直しに当たって、「目指す目的の実現に近づくために、時代の流れや市場の変化、雇用環境の変化などに対応するため、人事評価制度を次のように変えます」と説明があればどうでしょう。

 見直しが結果少々迷走しても、目指す目的がしっかりと共有できていれば、「今回の制度改定は全体的には失敗だったが、あの部分はうまくいったのではないか」とか、「今回の改定の良かったところを生かして次回の見直しを行えばいいのではないか」といった前向きな意見が現場からも聞かれるでしょう。

 変わらない会社の目指す目的「何のために」が常に基準として存在するからこそ、制度を適用される側も判断ができるというものです。常に鏡となる明確な判断基準があればこそ、積極的な試行錯誤こそすれ、迷走することは無くなります。

 運用上の問題も、同じように理念という判断基準を基に、どうあるべきかを議論していけばいいことになります。「目標管理制度(MBO)は導入してみたいが、うちの理念実現のためには運用上はどんな点に配慮すべきだろう」と。

 例えばお客様の満足を目指すのであれば、その実現に向けて一人ひとりが任された役割の中で最大限できることを目標に掲げるべきとなります。目的がはっきりすれば、簡単に達成できる目標ばかりで消極的なメンバーに対して、上司は「お客様の満足のためにもっとできることがあるんじゃないか」と要望することができます。

 数値化や検証方法も、可能な限りお客様目線で探ったほうがいいという判断になるでしょう。意欲ばかり高くて目標が独り歩きしがちなメンバーに対しても、「達成できなければお客様の満足は得られないのだよ」と指導できます。

 残念ながら、オーナー経営者が行ってきた独断評価を食い止めるのは容易ではありません。けれども社長の思いや理念を一旦言葉にして客観的に置いてしまえば、判断基準となる鏡は既に社長ではなく理念の言葉に移っています。

 その鏡に映しながら「今回の社長の判断は、自分の思いだとおっしゃったこの理念とずれていませんか」と少しずつ指摘していくしかないでしょう。

 理念と照らし合わせることができれば、新たな人事評価制度と運用上の問題点について現場からはさまざまな意見が上がってくることでしょう。

 となれば10年に一度人事評価制度の大幅な改定を敢行しなくとも、随時細かな修正を加えていけばいいのではないでしょうか。そうすれば制度が導入した先から古くなっていくことも無くなります。


4 変更点は理念に照らし合わせて説明できる必要がある

 逆にいえば、人事評価制度の全ての変更点は、「会社の目指す目的の実現に近づける改定なのか」あるいは「会社が大切にしたい価値観に沿っているのか」を説明できなければならないともいえます。

 例えば定年制度です。ある取引先企業では、人事部主導で高年齢者雇用安定法の改正を受けた定年制度の見直しを行っていました。人事部から上がってきた改定案は既に対応を済ませた他企業で見てきたものとよく似ていました。説明を受けたのですが、他社での先行導入事例の話が中心です。「他でもこのようにやっています」「一般的にはこんな感じです」と。

 私は質問しました。「で、今回の改定はこの会社の掲げる理念の実現に向かっているのでしょうか。その点を説明してください」。人事の責任者は言葉に詰まりました。他社ばかり見て、自分の会社に合っているかどうかを十分に検討できていなかったからです。

 会社は理念実現に向けた価値観の1つとして、「和の精神」を掲げていました。同社でいう「和」とは「従業員はみな家族」という考え方であり、和気あいあいとした中にも互いに要望し合う関係。

 そして法人であるお客様との関係にも「和」の考え方が表れており、東日本大震災発生時も、他社が電話1本かけて様子をみる中、すぐに現地に駆け付けて復旧に向けて共に奔走したそうです。人事評価制度を見直すのであれば、理念の実現に向けて「和」の精神という価値観を生かし、従業員がより働きやすくなる方向でなければなりません。

 とはいえ具体的にどうすればいいかのアイデアが人事からは出てきません。私は提案してみました。「〇歳で一旦区切りをつけて本人の意思を確認するのであれば、会社としての基本スタンスは“好きな選択肢を選んでください”ではなく、“力と意欲のある方は全員〇歳まで残ってほしい”であるべきではないでしょうか。

 また再雇用後の給与は一律に現役時代の何割とせず、頑張りに応じた評価と処遇で応える。それが家族としての『和』、年配者への配慮ではないでしょうか。

 もちろん理念の実現のためには会社は成長しなければならず、力や意欲の尽きた方には話し合った上で他の仕事を用意し、できるだけ雇用を確保してあげることも『和』の精神を生かすためには必要かもしれません」と。

 結果的に同じような制度になったとしても、背景となる考え方や基本スタンスに理念の目的や価値観が反映されているのかいないのかで、従業員からの見え方は全く違ってくるのではないでしょうか。

 社長の思いや理念を共有浸透するための「褒める(Admire)仕組み」として、会社からの“正式(公式)な”評価として「人事評価制度」は重要です。

 社長の思いや理念を掲げてそれに向かっていくら鼓舞してみんなが頑張ったとしても、会社から正式に褒めてもらえないのであれば、従業員は「掛け声ばかりだ」「やったかいが無い」という気持ちになり、理念の実現どころか共有浸透自体が進まなくなるのです。

 一方で、新たな人事評価制度の変更点が全て理念の実現に向かっていて、実現に向けて頑張った人をより評価する見直しになっていれば、従業員はもっと頑張ろうとやる気になれるはずなのです。

 今回も最後までお付き合いいただきありがとうございました。

 次回は「人事評価制度」への反映についてお話ししていきたいと思います。前回、今回とお話ししてきた「表彰制度」とは互いの長所と短所を補い合える制度として、セットで導入を検討していただきたい仕組みです。


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(著作:ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田 斉紀)
※上記は、某金融機関の法人会員向けに執筆した内容をリライトしたものです。本文中に特別なことわりがない限り、2021年11月時点のものであり、将来変更される可能性があります。※転載される場合は著者名とコラムタイトルを必ず明記ください。




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