見出し画像

VORTEX ヴォルテックス(2021)

僕ら世代でホラー映画を観てきた人にとっては最重要人物のひとり、「サスペリア」「フェノミナ」等のダリオ・アルジェント監督が、ギャスパー・ノエ監督の熱いリクエストに応えて主演を受け、一世一代の見事な演技を見せる、ギャスパー・ノエ監督作品「VORTEX ヴォルテックス」を観た。いやもうこれが、真に迫る本当に素晴らしい演技で感服です。

映画評論家である夫と元精神科医の妻が2人で暮らすアパートメント。バルコニーで2人で食事する微笑ましい姿から映画は始まるが、実は夫は心臓に持病を抱えながら、日に日に認知症の症状が重くなる妻に悩まされている。

離れて暮らす息子は薬物で問題を起こした過去があるようで、今も薬から足を洗えていない。たまに老夫婦の家を訪れて2人を心配してみせるものの、結局「僕には何もできない」とか言って、逆に金をせびっていく。

冒頭、同じベッドで寝ている老夫婦の映像をゆっくりと左右に分割して、その後、映画はスプリットスクリーンで左右それぞれに夫と妻を中心とした映像を主に捉えながら進行していく。さほど広くないアパートメントで暮らす2人を、別々のカメラで追い続ける演出は何気に新鮮で、人はそれぞれが個人として生きていることを改めて痛切に感じさせる。

映画は画面を分割したまま、仕事をする夫、認知症のためにものを忘れてボンヤリする妻、長年の愛人に電話する夫、ドアを開けっぱなしで外に出てしまう妻、妻を探す夫、自分の夫を「この男は誰!?」と怖がる妻… と、この老夫婦の暮らしを静かに淡々と追っていき、やがて2人に人生最期の時が近づいてくる。

誰もが避けて通れない「老い」とその果てにある「死」をテーマに、老夫婦の人生の終着点をじっくりとたっぷりと見せる143分。派手な展開はないのに全く目が離せない見事な演出。いつもどぎつすぎる強烈な映画を撮るギャスパー・ノエ監督が、こんなに静かすぎて強烈な映画を撮るとは!!!

妻役のフランソワーズ・ルブランも素晴らしい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?