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オリジナル小説1話集

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オリジナル小説の置き場所です。第1話と目次、目録を置いています。
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自作小説一覧です。随時更新。 ◆ぼくが運命を嫌うわけジャンル:青春、恋愛 全4話 <第1話> 大学生の寺田正志は"運命"が嫌いだ。その理由は中学の同級生であり、大学で再開した前野明日香にあった。高校からの友人・嘉瀬智也と遊んでいると、前野明日香の姿が。当時の悪夢が再びよみがえる。 R5.8.30完 <あとがき> 約12,000W/約20分 ◆自己中恋愛ラプソディジャンル:恋愛 全15話 <第1話> かつて付き合っていた雅史とエリが7年ぶりに再会。純粋に過去をなつかしむ

「バグ・ストーリー」第1話

◁あらすじ      第2話▷ 「うおおおー!!!!」 新井理人は鳥のように大空を自由自在に飛び回っていた。完全なる自由、そして世界のすべてを手に入れたような喜びをからだ全体で味わう。 目下には、緑とまちが融合したユートピアが広がっている。近代的な生活と環境保全がバランスよく保たれており、空は澄み渡り、緑は生き生きと生い茂る。はるか下方、ゴマつぶのように小さく見える人々も朗らかで、街には活気があった。 「ああ、そうだ」 思う存分に空中遊泳を楽しんだ理人は用事を思い出

小説・自己中恋愛ラプソディ①

次▷   14話 ある休日、彼と彼女は再会した。 地元大学を卒業後、就職のため上京した雅史は、年に数回だけ地元に帰るのが習慣になっていた。この日の夜は古い友人と会う約束をしていたので、繁華街へと足を向けたのだった。 せっかく久しぶりの地元だから、かつてよく行っていたお気に入りの店にでも顔を出そうかと昼間から出かけることにした。 駅に到着して歩いていると、どこかで見たことがある後ろ姿があった。こんなにも雑多な人混みの中、しかも久しぶりの地元繁華街で一瞬で分かる人物などそ

小説・ココイロ談義①

次▷ 通学途中にある神社に2人はいた。 「ねえ、恋って何色だと思う?」 どこか1点を見つめていた沖野晴子は、ひとり言のようにいった。 少し離れた場所で本を読んでいた古賀海月は、自分に向けていったのかと振り返ったが、晴子は考えにふけっているらしかった。 しばらくポカンと晴子を見つめた後、海月は何かをつぶやいた。しかしセミの合唱にかき消されて晴子の耳には届かない。直後に1匹のセミが木漏れ日を縫って、強い日差しの中へと吸い込まれてゆく。   「え? なに?」晴子は我に返り

小説・あるく香りはキンモクセイ①

次へ▷ キンモクセイの香りに包まれ、思わず足を止めた。スマホを持つ手をおろし、辺りを見まわす。 ─ここ、どこだっけ と数秒だけ考えた。 スマホを見ながら歩いても、知らない間に人や車をちゃんとよけられる。慣れた場所なら足が勝手に動くので、放っておいても目的地に着く。周囲の景色なんて見なくても大丈夫だった。 そこは大学近くの公園だった。この日は休日の午後で、友達との約束のため待ち合わせ場所に向かっている途中だったことを思い出した。 まだ緑が残る木々がざわめき、目の前に

小説・誕生日のフライト

残業はしない派だが、月末はどうしても遅くなる。 静はある程度の仕事を片付け、今日中に送らなければいけないメールを打ち終わったところで、ひんやりした空気を吸い込み我に返った。お昼を食べて以降、休憩を取っていなかった。 3月初旬。 最近は感染症対策のため、事務所の窓は開けっぱなし。時おり冷たい風が吹き込むが、それに負けじと暖房が精を出していた。 静は一息つこうと非常口から外へ出た。 火照った体を冷まそうと思ったら、予想外に寒い。そういえば冬だった、と当たり前のことに気づ

小説・強制天職エージェント —研究者の女―①

目次  次へ▷ Ⅰ.来店  子供の頃は誰もが天才だ。しかし成長と共に、社会性や常識といった檻の中に入り、あるいは親のエゴで、子供は自身の才能や本心を見失ってゆく。 ─────── その事務所は、ファッションビルが立ち並ぶ繁華街のど真ん中にあった。デジタルサイネージや華やかなディスプレイが並び、店先で店員がチラシやらサンプルを配ったりする間に、ひっそりと佇む古いビル。視界には入っているはずだが、道行く人々は見向きもしない。 こんなところに来る客がいるのだろうか? 窓から

小説・強制天職エージェント《目次とあらすじ》

これまで書いた中で一番自分の書きたいテーマだったので固定記事にします。処女作なのが皮肉だけど<22.2.17追記> お客様に最適な仕事をお探ししましょう。 ただし条件があります── 人材派遣会社に勤める水島は 元同僚の小早川が始めた転職エージェントの手伝いをすることになった そこのルールは非常識だった 転職先はこちらが強制的に決めて 3か月は辞めてはならない── そんなふざけた会社に客として来たのは 化粧品メーカー勤務の八重子 小早川は研究者だった八重子に まった

小説・祭りのあと① —学生運動から日常に戻った青年の話―

次へ▷  ▷▷ 遠くから、聞き慣れたシュプレヒコールの声が、新緑の風に乗ってやってくる。以学館の地下の学食で、久しぶりに一番豪華な80円のA定食を食べ、眠気が催してきたところだった。今の私には、心地よい子守唄のようなものかもしれない。去年までの生活に比べ、落ち着いてはいるが変化のない平穏な日々が過ぎていく。何とは無い虚無感に浸りながら6号館前のベンチに寝転びウトウトしている。 と、突然にまったりとした空間を裂くように、軽やかだが私の嫌いなエンジン音が近づいてくる。 (あ