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【マガジン限定小説】 画廊伝説 【ショートショート】

 いつの時代も芸術というものは進化し、その軸になるものさえ移り変わる。三百年前の芸術家達はまさか絵が動き出すとは思ってもいなかっただろうし、百年前の芸術家達はまさか観たい作品が掌の上でいくらでも自由に観られる現実を想像していなかったであろう。

 私は絵描きではないが、物を書く。とても面白い画廊があると喫茶店で日頃詩を書いている知人に聞いた私は電車を乗り継ぎ、大きくも小さくもないこの街まで足を運んだ。
 一体どんな画廊なのかと知人に尋ねてみると、彼は眉を顰めながら首を傾げ、鼻をスンと鳴らして言った。

「企画展は普通ですけど、あそこは常設が面白いんですよ」
「常設? 一体どんな展示がされているんです?」
「それはね、行けば分かります」

 彼は首だけを窓の外を向けたまま、画廊の住所のある名刺を私に差し出した。

「この場所へ行った帰り道に、なぜか言葉が思い浮かぶんです」
「……それが詩になっているんですか?」
「風景に言葉の根拠はないですけどね。行けば、分かりますよ」
「行けば……わかる」

 彼は私の言葉に笑みを漏らすと、すぐに窓の外を向き始めた。窓の縁に目を落とすと、名前の分からない黒くて胴の長い虫の死体が乾いたまま転がっているのが見えた。

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