大枝 岳志

物書きと音楽、たまに模型。3〜5000字の短編をメインに投稿しています。 人の恐怖、不…

大枝 岳志

物書きと音楽、たまに模型。3〜5000字の短編をメインに投稿しています。 人の恐怖、不気味な世界観、孤独感をテーマにした作品多めです。エッセイも書いてますが、文は何かと長めです。 ※【小説】とか無いものがエッセイです。 敬愛する作家は太宰治、原田宗典、西村賢太、等。

マガジン

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    一話完結〜数話完結の短編集を載せています。 あなたの息抜きのひとつに添えて頂けたら嬉しいです。

  • エッセイ&脳内のおしゃべり

    せきららな思いをぶち込んだりする場所でごんす。

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    神出鬼没のリサイクルショップ「酒井商店」が出てくる作品をまとめています。 ここで物を買う人は大抵えらい目に遭ったりしますが、酒井の店主はいつも飄々としてますね。 ちなみに実在する店舗をモデルにしてます。 どこに在るのかは、あなたの日々の行動次第で変わるかも。

  • 清世展覧会2022"note to exhibition"

    • 98本

    2022.1.29-30 各12:00-20:00 JOINT HARAJUKU 2F(東京)にて開催いたしました清世の展覧会ログです。マガジン限定で、2022清世組による汗と鼻水が滲み砂糖が舞う運営・制作プロセス・エッセイなども公開しております。協賛:有限会社MOALIS

  • 夕刻に死す

    あらすじ 五十五歳の鶴巻は日雇いで得た金をその日のうちに散財してしまう癖があった。 どうせ後のない人生だと言わんばかりに自らの人生を振り返ることなく、人を妬み、毒付き、欺き、破滅への道を歩み続けていた。 ある日、鶴巻の派遣先に新しく新人が派遣された。聞けば鶴巻と同じ五十五歳の広瀬という男であった。 同じ歳とは思えぬ健全な肉体を持つ広瀬であったが、実は元ヤクザなのだと言う。 ひょんなことから広瀬の自宅へ転がり込むことになり、五十五歳の親父二人の同居生活が始まったのであった。 ------------------------ 中年独身男性二人が織りなす、所謂「まとも」とは縁のない最底辺の社会を描いた連載小説のまとめです。

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【小説】 思い出タクシー 【ショートショート】

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 六月十日。その日、五回目となるお母さんの命日を迎えていた。母子家庭で育った私は、大人になるとお母さんのことを疎ましく感じるようになった。お母さんは年齢を重ねるたびに物覚えが悪くなり、そのたびに私を頼った。更年期のせいでやたらと心配性になり、三十を越えても独身のままでいた私の将来をお母さんは異常なほど心配し、離れて暮らす私に日を追うごとに干渉するようになった。
 彼氏はいるの? なんで作らないの?

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 小学校へ続く通り沿いに建つ駄菓子屋の「ひのや」は夕方になると、子供達が集まって来る。
 狭い店内には駄菓子がぎっしりと並べられていて、店主のヨネ子は今年八十を迎えるが頭は呆ける素振りすらない。

「赤いのが三個、青いのが三つで百二十円ね。毎度」

 特に愛想が良い訳ではなし、おまけにヨネ子自身特に子供達が好きな訳ではなかった。ただ単に家で暇を弄んでいるのに耐え兼ね、店を始めたのであった。
 そん

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便利過ぎて不明

便利過ぎて不明

世の中いろんなことが便利になっていて、小さな頃に思い描いていた未来になりつつあるような気がしている。

とは言っても現実の「空飛ぶ車」を映像などで観るたびに「ドローンじゃねぇか!」とも思うし、動く巨大ロボの稼働実験を観るたび、そのあまりの遅さに「ジジイか!」と心の中で、たまに実際に口に出して突っ込んでみたりしている。

そんな中、昔は思いもよらなかったのが決済方法の多様なる利便性だ。
世の中、やは

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【小説】 嘘っ子バー 【ショートショート】

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 男も四十を過ぎると自然、女に興味が無くなってしまう。よほどの病的物好きでもない限り、若い女の尻の匂いをいつまでも追い掛け回すのは時間の無駄以外の何者でもないのは確かだけれど、困ったことにアニメや漫画、映画や音楽といった娯楽全般に対してすら段々と興味も感受性も色褪せて行くばかり。

 こうなるのは何も自分だけではなく、男性の中年期特有の症状らしかったのだが、何を見ても楽しめやしないので近頃の私は生

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底の街

底の街

 生まれてから間もない頃、おぼつかない足取りで手をついた場所に座り込んでみたら、そこから見る景色が自分にとっての「常識」になってしまった。
 間違いようもなく、その場所が地の底だったことを知ったのは日頃から家庭内で家族に対し暴力を行う父を恨む母親の言葉だった。

「まったく、ブラックカイホ―ドウメイの癖に」

 まだ幼かった私は、その言葉が一体どんな意味を指しているのか不明だった。
 ただ何となく

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【小説】 木になった日 【ショートショート】

【小説】 木になった日 【ショートショート】

 ちょうど雲が切れるように、熱を持った飴が千切れるように、繋いだ手が離れる瞬間のように、私の日常に継ぎ手のない空白が生まれた。
 元は継いでいる状態にあるはずの日々はその一部の形を突如失くしてしまい、当の私本人が一体何でそうなったのだろうか、これは一体どういう状態なのかと幾ら思案してみても見当がまるでつかないのである。

 そしてこの異様な日常の変化こそがいよいよ悠久の時間を経る性質のものなのだと

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サヨナラ東京

サヨナラ東京

いきなりだけれど、坂本九の曲についての記事ではない。
こんな想いを抱えながら今もきっと、流れては消えて行く高層ビルの群れを眺めている人がいるんじゃないだろうか。

なんてことをふと思ったのはドラマ『ビーチボーイズ』を観たからだ。
当時流行していた頃、周りの女子達が「キャー!反町!」「ギャー!竹野内!」と騒ぎに騒いでいたので『イケメン陽キャが海の家でバイトしながら夏の恋に勤しむ恋愛ドタバタコメディー

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【小説】 故に、爆ぜ散る 【ショートショート】

【小説】 故に、爆ぜ散る 【ショートショート】

 暁まで、何があっても戸を開いてはいけない。
 その約束を神主としてから二時間後、雨は激しく降り始め、迷いなく吹く風が空に轟き始めた。
 暴力を伴う気象状態、つまり台風の夜だと云うのにも関わらず、先ほどから強く戸を叩く音が聞こえている。
 灯りを消した暗闇の中で、時折風に流されながらも私を呼ぶ声は途切れることなく続いている。

「父ちゃん、父ちゃん! 開けてよ」
「あなたー、あなたー。どうか、開け

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今日と明日の境目

今日と明日の境目

五月だというのに、なんとも暑い一日だった。
春の陽気を限界まで陽気にさせているので、体感的には満員電車に乗り込んでみたら乗客全員メキシコ人だった、くらいの陽気の限界突破だろうか。

子供は愚か、大人達も半袖で外を歩いている。
それは夜になっても変わらず、夕方特有の涼しさが薄れつつあるのかしらと思ったりしながら風景の中をぼんやり歩いていた。

走り出す音が耳に入って来て、振り返ると五歳ほどの男の子が

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【小説】 誰が為に、 【ショートショート】

【小説】 誰が為に、 【ショートショート】

 三十五歳を過ぎた頃から、人と関わりを持つことが極端に億劫に感じるようになった。
 一円にもならない同僚達との世間話、聞くだけで実感のない友人達の平凡な生活の話、時折電話が掛かってくる母親から聞かされる愚痴の数々。

 それら全てに興味のあるフリはいつの間にか限界を越え、俺の心はその形を少しずつ少しずつ、溶かして行った。
 産業医に相談したら「鬱病ですね」と言われ、心の麻痺の原因かもしれないと思い

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【小説】 よーい、どん! 【ショートショート】

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 サッカーとかバスケとか、みんな憧れてやっているけど僕は苦手だ。
 今は小学校六年生だからクラブも仕方なく卓球クラブなんかに入っているけど、中学生になったら陸上部に入りたい。それも、短距離がイイ。
 五十メートル走なら誰にも負けない自信があるのに、僕の小学校には何故か陸上クラブがなかった。
 学校で一番足の速いのは僕だったけれど、今日の昼休みに学校で二番目に速い同じクラスの会田が勝負を挑んで来た。

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【小説】 勿忘草を探して 【ショートショート】

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 庭に咲く季節の花々は、朝から気持ち良さそうに顔を並べている。
 妻の趣味で我が家の庭には数々のプランターが並べられてはいるが、私は花に疎く、どれが何の花か何度説明されてもその名前を覚えられずにいた。
 花は「花」、としか認識出来ない私に妻は呆れ果ててはいるが、幾ら花に慣らそうともそれが私の趣味ではないこともまた、存分に理解していた。

 男の趣味はやはり、バイクに限る。
 休日の朝一番にガレージ

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【小説】 父と私の土曜日 【ショートショート】 

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 三ヵ月ぶりに危急の用件で実家に帰ることになった。キッカケはマネージャーを通して伝えられた番組側の「些細な」要望から。

「未来ちゃん。そんな訳だから小さい頃のお写真、五枚くらい用意してもらえない?」
「オッケー、土曜に実家に帰って取って来ます」
「うん、大事なシゴトだから。よろしくね」

 バラエティ番組の「小さい頃にハマっていたもの」というコーナーアンケートと一緒に、幼少期の写真を提出すること

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【小説】 衛星が通過します 【ショートショート】

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 それはふた昔も前の、初夏の出来事だった。
 田代町の住民は人を絶望的な恐怖を与える「衛星」の到来を告げる町内放送に耳をじっと傾け、戦々恐々としていた。
 町は四方を山に囲まれ、夜の帳は夕刻を過ぎるとすぐに下ろされる。地平を重たく包む紫檀色に点々と暖色の灯りが点いており、町内放送が始まると窓を開け放つ音があちらこちらから聞こえて来る。

『本日、午後六時十四分から十七分に掛け、田代町の上空を衛星が

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【小説】 子供に注意 【ショートショート】

【小説】 子供に注意 【ショートショート】

 地方再生の一環として造られた老齢村へ取材へ行くために、私はハンドルを握っていた。
 地方再生とは言ってもその実態は「シェルター」に違いなく、私は各地で巻き起こっている事件の被害からどのような手立てで老齢者達を守っているのかが非常に気になっていた。

 そんな私自身も今年で七十一歳になるが、超高齢国となってしまった現在ではまだ現役世代の真っただ中にあった。
 人里離れた村を開拓したとあって、目的地

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異常宅地

異常宅地

親が離婚した小学四年時、母と兄妹と共に当時住んでいた家を追い出されてまもなく、後の義父となる母の再婚相手の家へ居候することとなった。

二階建ての4LDKのその家は平地の山陰に近い薄暗い住宅街に在り、無理矢理土地を削って新興住宅街にしたことはあからさまだった。

自分の実家をその手で作った大工の義父が何故建て売り住宅を購入したのかは不明だが、義父もバツ歴があったので元嫁の都合なのかもしれない。

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