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海中果樹園③(ショートストーリー)
海にやってきた。一週間ぶりくらいだろうか?
ちょうど一週間前、僕は海に潜ろうとする人と話をした。
彼女は、見た目の印象ではだいたい同い年。快活な声をしていた。
海に潜るのが好きだと言っていた。へえ、放課後に海に潜りに来る人なんているんだ、と、正直、結構驚いた。
その後、海でしばらく時間を潰そうとしていたはずの僕は、そんなこともすっかり忘れて、すぐさま帰宅してしまった。
ずいぶん海から
海中果樹園②(ショートストーリー)
「大丈夫ですか!?」
いつものように海に潜ろうとしたときだった。岸の方から誰かの声が聞こえた。
波の揺れる音のせいでしっかり聞き取れたわけではないけれど、それは私を心配する声だった。
ざば、と顔を出す。ふり返ると、一人の男子高校生が、波の向こう側でこちらを見ていた。
時間帯からすると放課後、学校からの帰り道にここへ寄ったらしい。
その表情は困惑と、恐怖と焦りの入り混じったものになってい
海中果樹園①(ショートストーリー)
期末テストが終わって、あとは夏を待つだけになった。
友達というものを作るのが苦手な僕は、何となく違和感を覚えながらも、クラスの中でどうにか居場所を確保している。
ただそれも、馴染めていないのは僕が一番理解しているし、きっと一緒に居てくれている人たちもどこかでズレた感覚があるはずだ。
笑みは自然とぎこちなくなってしまうし、絞り出した言葉も、それによる会話も、彼らと僕との、言葉の接触部分に不自
雨を買いたい話(ショートショート)
お姉さんは少年に話をしました。
「雨を買ってみたいな」
少年は何が何やら分からなくなって聞き返しました。すると彼女はこんな話をします。
「この世界のどこかには、海や空を買おうとした人たちがいるんだって。だから私も、その人たちみたいに雨を買ってみたいと思ったの」
少年は雨をバケツに溜めてしまえば、買う必要はないと教えてあげました。けれどどうもそういう話ではないらしいのです。
「雨はバケツに溜め