たけなが

絵や文章を描きます。 子どもの頃から夢見ていたファンタジーの世界と、日常との境界線が混…

たけなが

絵や文章を描きます。 子どもの頃から夢見ていたファンタジーの世界と、日常との境界線が混ざり合うような世界観が作れたらと思います。 よろしくお願いします。石川県のひと。 X(旧Twitter)はこちら→ https://twitter.com/takenaga_draw

マガジン

  • がらくた入れ

    まだ空想段階みたいなお話を入れたりします。 他にもいろいろ入れます。

  • 海中果樹園(ショートショート)

    果物と海のショートショートなどです。

  • イラストまとめ

    今までに描いてきたイラストをまとめています。

  • 紫陽花と水機関(ショートショート)

    紫陽花や水に関わる話をまとめてあります。 水機関(みずからくり)を自由に操る少年が、語り部のように不思議な話をします。

  • チョコレート(ショートショート)

    チョコレートに関するショートショートなどを集めています。

記事一覧

海とノート(雑記)

 少年は海を眺めるのがとても好きだった。  暇があればいつでも海へ出かけ、飽きもせず、その波の行き来に、静かに心を動かしていた。  やがて彼は、その波を、海を、い…

たけなが
8時間前
1
+5

海中果樹園(イラスト)

たけなが
21時間前
3

ウェーブメロン(ショートショート)

 海中で育つメロン。いつしかそれは、波の輝きを吸い込んで生長するようになった。  波の光を吸い込んだメロンは、特有の網目が、波のように揺れるようになる。  その実…

たけなが
2日前
4

モモと花火(ショートショート)

 ひと夏の恋に胸を焦がしたモモは、その種に花火を宿すそうです。  実際のところ、種が火花を散らす品種のモモがあるだけらしいのですが、もしそうならちょっと素敵です…

たけなが
2日前
3

浮標スイカ(ショートショート)

 海で採れる果物の中でも一風変わったものがあります。それが、浮標(ふひょう)スイカです。まあ、正確にはスイカは野菜ですが。  浮標というのは、俗にいうブイ。海に…

たけなが
4日前
6

海とぶどうジュース(ショートショート)

 海の色を吸い込んだブドウは、深い深い紫色になります。その色の奥に宿った青色は、食味に、突き抜けるような爽やかさとともに、海底を漂うような底知れない深みを与えま…

たけなが
5日前
3

海とアップルパイ(ショートショート)

 海中で採れるリンゴがある。  半透明で、ガラスのような光沢を持ちながら夕陽のように赤々と輝くリンゴ。  時々漁船の網に引っ掛ることがあり、それを貰ったパティシエ…

たけなが
6日前
5

海中果樹園③(ショートストーリー)

 海にやってきた。一週間ぶりくらいだろうか?  ちょうど一週間前、僕は海に潜ろうとする人と話をした。  彼女は、見た目の印象ではだいたい同い年。快活な声をしていた…

たけなが
7日前
3

海中果樹園②(ショートストーリー)

「大丈夫ですか!?」  いつものように海に潜ろうとしたときだった。岸の方から誰かの声が聞こえた。  波の揺れる音のせいでしっかり聞き取れたわけではないけれど、そ…

たけなが
8日前
2

海中果樹園①(ショートストーリー)

 期末テストが終わって、あとは夏を待つだけになった。  友達というものを作るのが苦手な僕は、何となく違和感を覚えながらも、クラスの中でどうにか居場所を確保してい…

たけなが
9日前
1

朝(雑記)

 透明なグラスについで一口  飲んでみたくなるような朝焼けだった  空気の味は  おろしたての鉛筆の  削ったそばから香る透明の匂い  幾重にも連なった  透き通る…

たけなが
10日前

縁側と海(雑記)

 夏の縁側が海につながっているような感触がする  有効層の中を漂うような、緩やかな冷たさがそこに滞留している  扇風機は波の泡立つ音  座卓や座敷は岩礁  日差しは…

たけなが
10日前
2

夜桜

たけなが
12日前
1

水を吸った本の話(ショートショート)

 深く冷たい水の底に長い間浸かっていた本は、やがて波の色が染み込み、表紙だけを見ると本物の水と見分けがつかなくなる。  ごく稀に街の古い雑貨店でそれが置かれてい…

たけなが
12日前
5

雨を買いたい話(ショートショート)

 お姉さんは少年に話をしました。 「雨を買ってみたいな」  少年は何が何やら分からなくなって聞き返しました。すると彼女はこんな話をします。 「この世界のどこかには…

たけなが
2週間前
3

月を食べる

たけなが
2週間前
海とノート(雑記)

海とノート(雑記)

 少年は海を眺めるのがとても好きだった。
 暇があればいつでも海へ出かけ、飽きもせず、その波の行き来に、静かに心を動かしていた。
 やがて彼は、その波を、海を、いつでも見られるようにしたくなった。
 けれど、とても大きな海の存在は、彼を困らせた。
 どうやっても、海を持ち歩くことができなかったのだ。
 バケツに汲んでみても、ただの塩水になるだけ。いっそ海中で生活しようとも思ったけれど、そんなことは

もっとみる
ウェーブメロン(ショートショート)

ウェーブメロン(ショートショート)

 海中で育つメロン。いつしかそれは、波の輝きを吸い込んで生長するようになった。
 波の光を吸い込んだメロンは、特有の網目が、波のように揺れるようになる。
 その実をパッカリ開くと、薄緑の、空想世界にある月光のような淡い光が漏れ出す。
 しばらくの間、それは光を放ち続けるため、食後のデザートとして楽しむ間、間接照明として使うこともできる。

***

「わ、結構まぶしいね」
 彼女は目を細めながら言

もっとみる
モモと花火(ショートショート)

モモと花火(ショートショート)

 ひと夏の恋に胸を焦がしたモモは、その種に花火を宿すそうです。
 実際のところ、種が火花を散らす品種のモモがあるだけらしいのですが、もしそうならちょっと素敵ですね、というお話です。

***

 モモはひとりの青年に恋をしていました。
 けれど彼女は、人間と話すことができません。当然、人間の彼も、モモの言葉を理解することは出来ません。
 そんな中でも、モモは彼の優しさに胸を打たれ、恋をしたのです。

もっとみる
浮標スイカ(ショートショート)

浮標スイカ(ショートショート)

 海で採れる果物の中でも一風変わったものがあります。それが、浮標(ふひょう)スイカです。まあ、正確にはスイカは野菜ですが。
 浮標というのは、俗にいうブイ。海に浮かんでいる、船の航路を示す標識の事です。
 このスイカがまさにその役割をするのです。
 芋づる式に繋がっているスイカ。植物の容姿を別の植物の容姿で例えるのも変な感じですが。
 そのスイカによって、船は道に迷うことなく港へたどり着くことがで

もっとみる
海とぶどうジュース(ショートショート)

海とぶどうジュース(ショートショート)

 海の色を吸い込んだブドウは、深い深い紫色になります。その色の奥に宿った青色は、食味に、突き抜けるような爽やかさとともに、海底を漂うような底知れない深みを与えます。

***

 恐怖の飲み物という触れ込みが気になり、手に入れたジュース。
 どうやらぶどうジュースらしい。
 正直、どこにでもある普通のぶどうジュースにしか見えない。
 噂では、これを飲むと、形容しがたい恐怖に飲まれてしまうらしいのだ

もっとみる
海とアップルパイ(ショートショート)

海とアップルパイ(ショートショート)

 海中で採れるリンゴがある。
 半透明で、ガラスのような光沢を持ちながら夕陽のように赤々と輝くリンゴ。
 時々漁船の網に引っ掛ることがあり、それを貰ったパティシエが、スイーツの材料として使うこともある。

***
 
「まだ食べちゃだめよ」
 お母さんは、女の子に言います。お皿の上にはおいしそうなアップルパイが乗っています。
 お母さんに止められてしまいましたが彼女はもう、我慢ができません。そわそ

もっとみる
海中果樹園③(ショートストーリー)

海中果樹園③(ショートストーリー)

 海にやってきた。一週間ぶりくらいだろうか?
 ちょうど一週間前、僕は海に潜ろうとする人と話をした。
 彼女は、見た目の印象ではだいたい同い年。快活な声をしていた。
 海に潜るのが好きだと言っていた。へえ、放課後に海に潜りに来る人なんているんだ、と、正直、結構驚いた。

 その後、海でしばらく時間を潰そうとしていたはずの僕は、そんなこともすっかり忘れて、すぐさま帰宅してしまった。
 ずいぶん海から

もっとみる
海中果樹園②(ショートストーリー)

海中果樹園②(ショートストーリー)

「大丈夫ですか!?」

 いつものように海に潜ろうとしたときだった。岸の方から誰かの声が聞こえた。
 波の揺れる音のせいでしっかり聞き取れたわけではないけれど、それは私を心配する声だった。
 ざば、と顔を出す。ふり返ると、一人の男子高校生が、波の向こう側でこちらを見ていた。
 時間帯からすると放課後、学校からの帰り道にここへ寄ったらしい。
 その表情は困惑と、恐怖と焦りの入り混じったものになってい

もっとみる
海中果樹園①(ショートストーリー)

海中果樹園①(ショートストーリー)

 期末テストが終わって、あとは夏を待つだけになった。
 友達というものを作るのが苦手な僕は、何となく違和感を覚えながらも、クラスの中でどうにか居場所を確保している。
 ただそれも、馴染めていないのは僕が一番理解しているし、きっと一緒に居てくれている人たちもどこかでズレた感覚があるはずだ。
 笑みは自然とぎこちなくなってしまうし、絞り出した言葉も、それによる会話も、彼らと僕との、言葉の接触部分に不自

もっとみる
朝(雑記)

朝(雑記)

 透明なグラスについで一口
 飲んでみたくなるような朝焼けだった
 空気の味は
 おろしたての鉛筆の
 削ったそばから香る透明の匂い

 幾重にも連なった
 透き通る雲母のように層をなして
 うす紫の
 うまれたばかりの柔い光を透かしている

 そのいちまいを剥ぎ取って
 削って作った粉末を
 濾して作った陽光溶液の
 葡萄糖に似たあまい一口を
 私は唇でふれる

 夜を濾過した紅掛空色の
 雲母

もっとみる
縁側と海(雑記)

縁側と海(雑記)

 夏の縁側が海につながっているような感触がする
 有効層の中を漂うような、緩やかな冷たさがそこに滞留している
 扇風機は波の泡立つ音
 座卓や座敷は岩礁
 日差しはカクレクマノミやナンヨウハギ、オニハタタテダイの
 虹色をした影の集まり
 描きかけのクレヨンは色とりどりの珊瑚
 深くふかく潜っていく
 水の肌触りが柔らかい
 蝉の声は延々と続き、脳みその奥を揺らす
 蒸し暑さとは無縁の夏
 湿り気

もっとみる
水を吸った本の話(ショートショート)

水を吸った本の話(ショートショート)

 深く冷たい水の底に長い間浸かっていた本は、やがて波の色が染み込み、表紙だけを見ると本物の水と見分けがつかなくなる。
 ごく稀に街の古い雑貨店でそれが置かれていることがあるが、たいてい店主はそれを売りたがらない。
 むしろ大切に保管していて、例えば店に有名人がやってきたときのサイン色紙のような扱いをしていることが常である。
 その本の中の文字一つひとつには意思が宿り、本の中でだけ自由に泳ぎ回ること

もっとみる
雨を買いたい話(ショートショート)

雨を買いたい話(ショートショート)

 お姉さんは少年に話をしました。
「雨を買ってみたいな」
 少年は何が何やら分からなくなって聞き返しました。すると彼女はこんな話をします。
「この世界のどこかには、海や空を買おうとした人たちがいるんだって。だから私も、その人たちみたいに雨を買ってみたいと思ったの」
 少年は雨をバケツに溜めてしまえば、買う必要はないと教えてあげました。けれどどうもそういう話ではないらしいのです。
「雨はバケツに溜め

もっとみる