見出し画像

ソータとなぎさのカンケイ......

ソータから借りた本とDVDを返してきた。
きのうはソータのお散歩途中やなぎさのバイトの行き帰りでもなく、
ソータのお部屋まで行ってきた。

周りの人や猫さんから見ると、親子に見られるくらいの歳の差。
なぎさは女の子、ソータは男の人。
でも、私たちのカンケイ、親子でもなければ、あやしいカンケイでもないの。

ただ二人には際立ったチガイがある、それが二人を引き寄せてくれたのかもしれない。

「何度も言ってるけど、わたしは過去はキライ、過去は懐かしめない」
「私は、好き嫌いじゃなくって、ただ過去の記憶を取り戻したくてしょうがないんだ」

なぎさが過去に抱く思いと、ソータが抱く過去への願いの背景には、お互いに理解し難いヒストリーがありそう。
いつかソータの話、聞きたいし、なぎさの話もできる日がくるかもしれない。

それから、本。
なぎさは紙の本はほとんど読んだことない。
学校からもらった教科書も何年も開かずにしまってあるし、
読むのはスマホで読んだり、見たりしてるだけだった。
ソータのお部屋に初めて来た時、ほんとびっくりしちゃった。
たくさんの本棚に背表紙の見える本がずっしり。
「これ全部、ああなたが読んだの」って尋ねた。
「一応」とソータ。
「でも、本の読み方もいろいろあるよ。」ってソータは説明してくれた。
なぎさに信じられない世界だった。

でも、ソータのリクエスト曲、上白石萌音さんの「懐かしい未来」に始まって、なぎさが「懐かしい未来」という不思議な言葉の沼に落ちて行った。
そして、ソータからヘレナさんの『懐かしい未来 ラダックから学ぶ』を借りてきてページをめくりながら読んだ。
ソータから聞いたとっておきの本の読み方、何とか読破できちゃった。
もちろん、あのDVDは渚の背中を押してくれた。

ソータのお部屋の本たちの背中の文字を見ていると、頭がクラクラしてくる。
タイトルを見ていると、小説じゃなさそうだし、見たことも聞いたこともない言葉ばっかり、カタカナの言葉もいっぱい。

「これら本はね。私にとっては好奇心をくすぐり、ワクワク引き込まれてきた本なんだ。これらの本を読んで楽しんで終わりじゃなくて、それらに導かれて『時空間旅行』に出かけるのが仕事だったんだ。」とソータがいうやいなやなぎさの口からこんな言葉が飛び出した。
「ええっ?『時空間旅行』ですって?それってSFのお話?」
ソータはびっくりした顔をしながら話の続きをしていった。
「国内外のフィールドに出かけて行ってその土地の様子を観たり、人々の話を聞いたり、お話をし合ったり、記録を取ったり、今そこでのお話だけではなく、過去のお話を聞いたり、さらに資料や文献を紐解き読んだりする仕事だったんだ」
なぎさは怪訝そうな顔をして「それがあなたのお仕事だったの?それでお金は貰えるの?」
「そのフィールドに行って直接お金はもらえない。そのフィールドに行ったり、調査したりする費用は大学で専任講師や非常勤講師をしたり、色々なところの研究助成の申請をし、採択されると研究資金をいただいたりしてまかっていたんだ」とソータが語った。

なぎさは目を丸くして「ソータは学者さんだったの?」と尋ねると、ソータは窓の外に浮かぶ雲に目をやりながら、「ほんとはね。時空間人類学って学問の研究者になりたかったんだ」と呟いた。

しばらく二人の間に「ちんもく」という名の空気が漂っていた。

「なりたかったって過去形よね。ソータは今は何してるの?」となぎさが漂う空気をかき分けながら尋ねた。

すると、ソータは笑いながら、「今はね。お散歩と、この部屋の中にある文献や資料、パソコンの中のデータのお片付けしているところさ。それから時々あのラジオ FM街角を聴いたりね」と語った。

そこで、なぎさがソータの幾つもある書架を眺めながら尋ねた。
「ソータは時々言うじゃない? 過去の記憶を取り戻すとか。それってどういこと? お片付けするってことがそう言うことなの?」

ソータは、なぎさに何をどこまで話そうか、ためらいながら話し始めた。

このあと、ここに書いちゃっていいのか、ソータと相談してからにしようかな。
「過去の記憶を取り戻すって、どう言うことなの?」
「研究者になりたかったけど、なれなかったソータ、それはなぜなの?」





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?