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途中【考察】水星の魔女総括-3 これはなんだったの水星の魔女

まだ途中なのですが、どうしても画像を交えた説明をした方がいいよな…な部分が出てしまい、ぷらいべったーが画像を途中で入れるのが面倒だったり、編集がnoteの方が楽なので、こちらでやっていこうかな~と思います。そろそろお疲れ様本が出ちゃうよ!というところもありますので……。ベッターはこの伏線深堀しないんですか、までやっているので、新しいのはラウダの設定もっとあったんじゃないかなぁからになります。途中ですけど、いろいろ、言いたいことがあれば、もう言ってくだせぇ!

【考察】水星の魔女総括-3 これはなんだったの水星の魔女

総括も3にきましたが、皆様、水星の魔女は楽しく視聴されていたと思いますが、結局これどういう意味があったのっていう描写だったり、結局これ何だったの、つまり何が言いたいの?っていうことはありませんでしたか?

私はありました!

というわけで、こういう展開にするつもりだったら理解できる、こういう伏線のためにやっていたんじゃないかっていう、また幻覚妄想を出力していきたいと思います。

※なお、この考察はあくまで私の考えであり、確定情報ではありませんので、この先設定が明らかにされて否定されても、私自身に責任は発生しないものとします。
当ページに載せているスクリーンショットは考察による説明の補足として引用しているものであり、三次利用はいかなる理由があろうとも禁止とします。


グエル、その意味深な視線はなんなんだ…と、ラウダの能力本当にそれだけ?


何を言おうかな~と迷っていましたが、やはりジェターク芸人なのでグエルとラウダからかな!

二期に入ってからですが、グエルの視線や動きが意味深なんですが結局意味なかったんじゃないかな…ということが増えているんですよね。

まず何と言ってもこの、シュバルゼッテをミオリネとプロスペラに紹介して、それに対して怒っているミオリネを見ているのと、ガンダムを実績にしようっていうのにミオリネが反対しているのを見ているんですが…お前当事者なのに何でこんな他人事みたいな顔してるのよ…なんか言いなさいよ。

M「ガンダムぅ!?」
G「次世代コンセプトモデル、シュバルゼッテ。父さんが開発を進めていたとは聞いていたんだが…」
M「あんた!何勝手にガンダムの技術を提供してんのよ!」
  グエルも!なんで黙ってたわけ!?」
G「俺だって知らなかったんだ!」
P「まだ買収される前でしたし、ぜひともドローン事業を一緒にって、熱烈に要望されちゃいましてぇ~。シン・セーは末端ですから、ねえ?」
M「……はあ。で?提案って?」
P「その機体、株式会社ガンダムとジェターク社の共同開発として発表するのはいかがでしょう。」
G「なっ」
P「そうすれば、お二人の結束をグループ内でアピールできますわ」
M「…吞めないわね。株式会社ガンダムは、モビルスーツの開発には関与しない。ガンダムの技術は、医療のために役立てるって決めたから」
P「総裁選を勝つためには、先ほどと同様、実績が必要です。理念を守りたいのなら、それを生かしたコンセプトにすればいい。どうかお忘れなく」
M「…わかってるわ。今度はこっちが約束守る番」
G「……」
P「ありがとうございます」

最後、ミオリネとプロスペラの約束だけ眉をひそめていましたが、それ以外にはぽけーっと突っ立って反論するのはミオリネだけです。お前の会社とシン・セーで作っちゃってるモビルスーツの話をしているんだぞ、グエル!!

プロスペラにシュバルゼッテのことをつつかれた時には冷や汗を流して、露骨に「ヤッベ」とでも言いたげな顔をしていたので、何かしらグエルはシュバルゼッテを「隠したかった」。でもその理由もわからない。

グエルが見せているシュバルゼッテは、顔も後に出てきたシュバルゼッテとは違いジェターク社製モビルスーツの顔をしているし、足の装甲もできていなければ、ケーブルもあちこち繋がっている未完成品だし、シェルユニットもないので、どう見ても「本当のガンダムシュバルゼッテ」ではないんですよね。

そしてまたもや、どうしてグエルがこの未完成品のなんちゃってシュバルゼッテを見せたのかはわからない。

私は視聴当初、なるほどグエルはシュバルゼッテの計画を凍結させたんだなと思ったんですよ。この時は別ラインでシュバルゼッテを作っているのも知らなかったので、ガンダムを作る気はさらさらなく、プロスペラに適当に作ったガンダムもどき、またはジェターク社のシュバルゼッテを見せた。ガンダムシュバルゼッテを未だに作っていないし、暗いドックに独りぼっちだったので、ジェターク社はガンダム事業からすでに手を引いているというのをアピールするつもりだったのかなと。

でも改めて見ると、プロスペラはシュバルゼッテの状態を見ていないっぽい?(引き続きシュバルゼッテを実績として使おうと言っている)し、グエルもミオリネの「ガンダムは軍事利用しない」に、「そうだ。ジェターク社もガンダム事業からは手を引く。計画もすでに凍結させている」というようなことを言ってもいないので、マジで何を意図してこれが出たのか、なぜガンダムシュバルゼッテではなく、ただのシュバルゼッテを見せたのか、というところが全くもって訳が分からなくなってしまったんですよね。

偽物のシュバルゼッテを見せたということで、実は裏でちゃっかりガンダムを作っていましたという、実はグエル、プロスペラを騙そうとしていた説も、プロスペラに「凍結した」と嘘を言っていないので、意味がないんですよね。

グエルは言ってないだけでガンダムを凍結させていないとしても、だったらやはりなぜ偽物を見せたのかというのがわからない。そもそもなぜ偽物が存在するのか。ガンダムシュバルゼッテは元々のシュバルゼッテをガンダムに改造したもので、シュバルゼッテは量産品ではなく試験段階で凍結されているので、何機もいないはず。予備含めてそれこそ2機ですかね?

ミオリネに一番に「ガンダム~!?」と言われているので「ガンダム」だと確認したかった、というのももしかしたらあるかもしれませんが、じゃあなぜガンダムかどうかの疑問を持ったのか?

マジでグエルはこの偽物をガンダムシュバルゼッテだと思っていたのなら、今度は社内でグエルに嘘をついた人間がいるんですよね。それはラウダではないので、社内の従業員です。めちゃくちゃ舐められとるし、仮にもCEOに嘘を教えるってヤバすぎるだろう。
一介の従業員が個人的判断でCEOに虚偽報告するとか、やっぱりジェターク社、コンプライアンスとか諸々いてはいけない企業過ぎるので、子会社統合とかの前に一回監査受けて社内人事を一新しようぜ。

とまぁ、何をどう考えても必然もなければ、考えるだにおかしくなってしまうので、一回全部リセットして考えます。そうです、妄想のお時間ですわよ。

まず、グエルですが、多分彼は「あれ」をシュバルゼッテだと思っていると思います。裏で画策するタイプのキャラではないですし。

だから「誰か」がグエルに「あれ」がガンダムシュバルゼッテだと報告している。

なぜ嘘をつく必要があったのか?プロスペラに買収されていた人間がいたとして、それはかなり上の立場の人間のはずですが(恐らく平の従業員はあっさり株式会社ガンダムと合同とラウダにゲロってるので)ジェターク社の従業員ってヴィムへの対応見るにそんな自主性があるとも思えないですし、これが同じ御三家とならともかく、末端のシン・セー開発公社と手を組んで会社を裏切ってまで手に入れられるメリットisなに?むしろバレたら路頭に迷っちゃうんだよなぁのデメリットの方が大きいでしょうから、従業員ではない。多分。

では「誰」が、「何のため」にグエルにあの未完成品をシュバルゼッテだと思わせたのか?と、考えると……

やっぱりラウダ・ニールに行きついちゃうんですよねぇ…

Gund-armとは呪いのモビルスーツです。父親が亡くなっても引き継がなければならない計画ということで、比喩ではなくジェターク社にとってはマジもんの呪いになっている。

プロスペラはなぜジェターク社と共同でガンダムを開発しているのか。ジェターク社からオファーがあったと言いますが、多分違って、ヴィムが最初に「例の件の再取引を」とカードを切ってしまっているので、その「例の件」をガンダム開発を約束していたということにして共同開発をさせた、つまり脅したんじゃないかと思います。

どうしてヴィムが飲まざるを得なかったのか?それは「例の件」の本当のところが「デリング暗殺」だからです。それをプロスペラから「ラウダに教える」と言われたら、恐らくヴィムは飲まざるを得ない。ラウダたち息子には知られたくはないでしょうから。

それにプロスペラは得体の知れない魔女です。その魔女とラウダはすでに接触してしまっていて、あの時結局プロスペラが「例の件お引き受けしますわ」と言っていたとしたら、ラウダはメッセンジャーとしてヴィムに報告しなければならない。

何も知らない息子が魔女のメッセンジャーに使われるって、これ要するにわかりやすい「脅し」として親は受け取るのではないでしょうか?もしくは後日改めて連絡があって当然突っぱねたら「ご子息」の第一印象なんて喋られたら怖すぎでしょう。

プロスペラがそこまでシュバルゼッテ開発にこだわる理由があるとすれば、ジェターク社の技術が欲しかったというものがあります。

ガンドノードは、ザウォートのティックバランのような外付け装置を持っています。ベルメリアは並列分散の応用の専門家として呼ばれたそうですが、このティックバランの技術提供もしたのではないでしょうか?「プログラムの調整は、もう少し時間をください」と言っていて、もっと前から参加しており、「は」と言っているということはプログラム以外にも協力したことがありそうなニュアンスですし。

ガンドノードと戦った宇宙議会連合の兵士は「機動力が違う」と言っていて、この部分にジェターク社の技術を使ったのではないでしょうか?

ガンダムはパーメットを効率よく使えるので、機動力がスコアを上げれば他のモビルスーツよりも高いと思いますが、それでも機体性能による限界はあるはずです。例えば100kmしか出せない車で120kmは絶対に出せないので、120kmを出したければ120kmまで出せる車か、それ以上に出せる車に乗り換えたり改造する必要がある。

そしてジェターク社のモビルスーツは、装甲と出力をどんどん上げていくスタイルの会社、装甲を厚くして防御を高め、機動力が落ちればスラスターを強化してまた装甲を厚くしていく。つまり普通の装甲だと普通に機動力が高い可能性があるんですよね。むしろディランザ・ソルなんかは普通の装甲だとぶっ飛ぶレベルのスラスターを積んでいてもおかしくありません。

高機動と言えばペイル社ですが、あそこ装甲を犠牲に機動力を確保している、要はペラペラなんじゃないかな、とも思えてですね。

学生も使っているザウォートの重量は41.0t、実戦用のザウォート・ヘヴィは40.3tと、逆に軽くなっているんですよね。画像の通りミサイルランチャーとビームキャノンによる重武装仕様を選択しているのに。まぁこの重量が総重量なのか機体重量なのかによっても変わりますが、どっちにしても重武装なのに銃一丁持っているザウォートより軽いのはおかしいし、機体重量だとしたらむしろ武装の分を減らしているんですよ。多分。

同じ重武装選択のディランザ・ソルとはお話にならないぐらいのウェイト差ですが、実戦用モビルスーツで重武装じゃないハインドリー・シュトルムと比べても55.9tなので、10t以上の差がある。ハインドリーは中・長距離戦闘を主眼とした武装構成とありますが、元のハインドリーが52.0tで、4t程度しか差がないどころか、順当に重くなっているので、やはりザウォートは何かおかしい。

これは多分、学生用のザウォートは彼らの命を守るために装甲を逆に厚くしていて、ザウォート・ヘヴィは武装が重いのとどうせ当たれば木っ端みじんよ理論で装甲を薄くして機動力を高めることを重視しているのではないか?と。

しかし装甲の厚さというのは、ガンドノードはエリイの盾でもあるので、そう簡単に壊れられてしまうと困るのではないかと思います。その点、ジェターク社は、装甲の厚さには一家言ありますし、機動力についてもディランザの時点で低重力ならザウォートになら食らいつける程度にはあるようなので(グエルはペイル社の高機動モビルスーツをザウォートしかまだ比較できるほど知らないはずなので)、ガンダムをもしジェターク社が作ったのなら、それはかなり高性能なものが出来上がるだろうと、私なら考えます。

エアリアルは言うて21年前のモビルスーツを17年前に、しかもシン・セー開発公社か、プロスペラが独力で改修したモビルスーツなので、どうしたって古いんですよね。エアリアルぐらいしかモビルスーツがありませんし、彼らにモビルスーツの開発ノウハウはない。

ウルやソーンはドミニコス隊に本気で狙われたら勝てず、エアリアルはスコアを上げることができなくなると「凡庸ね」とエナオに言われ、じり貧になるぐらいには決定打がない。エアリアルは17年前の機体で、ミカエリスは最新型なので、むしろ食らいついているスレッタ、すげぇ…という感じではあるんですが、それでも機体性能の差はガンビットという外部装置がないと覆せない。

上のように例えるなら、今までのルブリス量産型やルブリス試作型を改造していくガンダムは、100kmしか出せない車です。

シュバルゼッテはMAX120kmを出せるポテンシャルのある機体です。ガンプラの説明書を見ると、シュバルゼッテは「操縦系統の技術的問題によって開発ラインは長らく凍結状態にあった」とあるので、出力自体はGUNDを使わずにできてしまう。ドローン時点であのとんでも極太ビームも撃てるし、ビームを細かくバラバラに動かしても出力オーバーになることはない。と考えると、高いスコアで出力を高めたライフルに、さらにアタッチメントとしてガンビットを装着して一発撃てるエアリアルより上か同等の火力がある。(Ⓒ創通・サンライズ・MBS BANDAI SPIRITS HGガンダムシュバルゼッテの説明書から引用)

プロスペラからすれば、120kmを出すことができる車のノウハウが手に入る。ペイル社も長年ガンダムを研究しファラクトを作っていますし、腐っても結構購入されているモビルスーツの製造メーカーなので、110kmぐらい?までなら出ると思いますが、高機動がペイル社は売りなので、ファラクトは例えばスポーツカーみたいなタイプなのかなと。

ジェターク社は4WDみたいな感じなので、それで120km出せるとなれば、ジェターク社の方に軍配が上がります。実際ベルメリアに求められているのは「並列分散の応用のプログラム」なので、あまり機体についてのノウハウは求められておらず、もうほとんど設計もできている。

ベルメリアを計画に引き込むのは、彼女と再会した時からプロスペラの頭の中にあったとは思います。ただこの時はデリングがピンピンしていたので、いざとなればデリングを動かせばいいし、プログラムも今すぐ必要というわけではないので、そこまで積極的に引き込もうとはしていないような印象を受けます。

ジェターク社についても「お互い関わらないようにしましょう」ということですが、その後ダリルバルデ戦もありましたし、向こうから隙を見せてきたので、利用してやろうと思ったのかな~と思います。ヴィムはデリングを暗殺したいほど嫌いなので、もしデリングがダメになったときに使えるし、デリングが倒れてからのこのこまた現れたベルメリアに積極的にアプローチをかけて、シャディクとの対談にも応じているので、最終的にはペイル社、ジェターク社、グラスレー社、すべての技術をいただいて、最強の機体を作るつもりだった。

のかな~。と。デリングがいるうちは、デリングに誰も逆らえないので適当な機体でもいいんですが、彼が倒れたとなるとそれこそ宇宙議会連合から何からこぞって殺しに来るので、そのためにもオーバースペックぐらいの機体が欲しくなる。エアリアルは改修しましたが、エリイの身体なのでなるべくいじりたくはないと考えると、外付けパーツであるガンドノードを性能モリモリにするのが最適解になるのではないか。

で、こうなるとヴィムが死んだのがネックになってくる。

デリングが倒れた今、ジェターク社の技術はあればいいのではなく必須のレベルになった。しかしプロスペラが取り引きをしたのはヴィムで、息子とも会いはしたけれどもCEOを継ぐような器の持ち主なのかもわからない。継いだとして、果たしてシュバルゼッテのことを引き継いでやってくれるのか?父親が死んだのを機に契約をご破算にする可能性も高い。

普通にゴダイとコンタクトを取っているので、必ずプロスペラは現状をチェックしたはずです。ミオリネにもちょっかいかけまくって自分に協力するよう要求しているので。

だから、ラウダに接触している。とします。ラウダは本編では知っていませんでしたが、接触されなかったとして、あの神経質なラウダがグエルも概要は知れるようなことを知ることができなかった、とは到底思えないですし、シュバルゼッテを見逃すとも思えないんですよね…。

ラウダはダリルバルデを取り戻そうと動いていたので、関係各所に連絡を取れているぐらいには、社内に繋がりを築いている。そして仕事も手伝っていたのなら、表立った仕事は把握している可能性がある。普通の企業であれば、新CEOへは現在走っているプロジェクトがあれば漏れなく資料を渡しているはずです。従業員としても、ヴィムがなぜシン・セー開発公社なんて木っ端企業との契約で、新しいシュバルゼッテをガンダムなんぞに改修しなければならないというのは全くもって疑問でしょうから、ヴィムが社内で知る者を絞っていたとしても、続けるかどうするか個別に確認したのではないでしょうか。

隠したとしても、あの時ジェターク社はデスルターをどうして地球のテロリスト風情が持てているのかを社を挙げて調べなければならないので、販売ルートはもちろんですが、その前に会社内の在庫を盗まれた可能性をまず調べるんじゃないかと思います。

何せデスルターは一介のテロリスト風情がおいそれと入手できるモビルスーツではないので。購入するとか無理無理な状態なら、まず自社製品が盗まれた可能性の方が高いと判断するのではないでしょうか?相手はテロリストで、それこそプラント・クエタにカチコミかけてきて逃げおおせているので、型落ち品を保管しているもう使っていないような倉庫に侵入してきて盗むぐらい躊躇いなくやるでしょう。そもそも型落ち品って、すぐに処分せずにパーツ流用だとか、テストで使ったりとかで、適当な倉庫にとりあえずぶち込んでおくとかもしておきますし、身の潔白を示すためには資料は多ければ多いほどいい。すべての倉庫を調べても、記録している在庫数と齟齬がないと誰が見ても明らかにすれば、少なくともジェターク社の管理体制に問題はなかったということを証明できる。

というのがすべて済んでの、「販売ルート」を調べている、ということだと思います。ジェターク社の手を離れた購入先が横に流したしか、もう可能性はないところまで済ませている。

だからペイル社も「顧客管理がなってないわね~」と、ジェターク社がテロリストに提供したのではなく、顧客が横に流した、そういう顧客を見抜けないというところを非難している。

んではないかな~。仮に隠し通せたとして、やはりお金や材料の流れは隠し通せない。シュバルゼッテは「父さんが開発を進めていたとは聞いていたんだが」なので、進めていた、聞いていた、と過去形で、凍結されていたことはグエルも知っている。

ということは、シュバルゼッテへのお金は使途不明金です。ディランザ・ソルやダリルバルデとして報告しても、在庫や生産計画、金額の合計が必ず合わない。材料についても同様なはずなので、それらを比較すれば虚偽報告はおのずとわかる。合わせて変えたとしても、変更した日付が直近になるなんて、どのプロジェクトのせいで予算計画が狂ったのか調べればやはりわかる。それにジェターク社は大手企業なので、そういう企業の生産計画は年単位で決められているので、突発的に割り込むにはかなり大きな理由が必要になる。そういう巨大プロジェクトの詳細を確認しないで放置するわけにもいかないでしょう。

だからむしろ、ラウダが知らないことがおかしいんですよね。

ラウダの能力不足ではないとしても、ジェターク社社員は、勝手に継続プロジェクトをCEOを引き継ぐ予定の人間に報告をしないという判断をするという連中の集まりになる。この時点で社内人事を一新して新しく立て直さないといけないレベルにヤバイ。そんなワンマンプレイな人間しかいないような企業が、御三家になれるのか?モビルスーツを作るのに何人が関わるかはわかりませんが、誰かが秘密裏に報告するわけでもないので、ラウダは舐められているか、対処する能力はないと過保護に守ろうとされている。

しかしそれにしてもおかしいんですよ。

舐められているのならCEO代理として推挙され、わずか2週間でCEOになる手筈を整えられているはずがない。しかも平時ではなく、絶対君主である前CEOがテロに巻き込まれて亡くなり引き継ぎなどあるはずもなく、ジェターク社には「テロに自社製品が使われる」という嫌疑がかかっているような状態で、外部からも内部からも圧をかけられているのを上手くやり過ごし、乗り越えられる人間でなければ会社が丸ごと潰れてしまう。

もしくは御三家のどちらかに吸収合併されてしまうか、傘下に入るか。いずれにせよ大企業の勤め人で、彼らとバチバチやりあってきたであろう人々にとって、受け入れがたい状況のはずです。

それにラウダはずっとCEO代理ではなく、CEOになる予定なので、「ヴィムに何かあった」と取引先やメディアに公表するというリスクまで負っている。ヴィムは自然死するにもまだ早いし、野心家で生涯現役でいると言ってそうな人間で、何よりラウダは学生です。卒業してからならいざ知らず、未だ学生であるラウダにCEOの座を譲り渡さなければならないほどの「何かが起きた」ということは絶対に知られてしまう。

ニュースで「先日のプラント・クエタの事故にも関与したとされ」とあるので、テロによるものというのは伏せられていますが、プラント・クエタにおいて「事故」が起きたことは恐らく報道されている。間をあけずにラウダが「CEO代理に就任し、近くCEOに正式就任する」とアナウンスがあれば、「あ(察し)」と、ヴィムが死亡したとまでは思わなくとも、重傷をこの事故で負ったんだろうとは思うでしょう。

そうなったら、少なからず離れた顧客もいるはずです。ジェターク社はヴィムのワンマン社長で回っていたので、支柱が抜けたようなものだからです。しかしそれでも、ジェターク社の人々はラウダをCEOに据えることを選んだ。この難局を乗り越えるには誰でもなくラウダがふさわしいと考えた、という結果のはずです。誰もジェターク社を、自分の勤め先を失いたくはないでしょうから。

それはジェターク社に融資をしてくれている人たちについても同じです。彼らは融資をする条件を具体的に提示しているからです。

グエルがCEOに就任したのは、17話の翌日か遅くとも数日後だと思います。その時点で「期日はいつだったかな?」と言っているので、グエルの前任者がこの融資条件をのんだ本当の相手です。つまり、ラウダです。

ヴィムは「それで?」と、ヴィムがもたらす新しい手を期待しているという間柄なので、内側の「子会社の統合」というコスト削減案を提案しているとは考えづらい。

そしてこの子会社の統合ですが、言葉のとおりであるならばかなり優しい提案です。

統合とは
「持ち株を管理する持株会社(ホールディングカンパニー)となる新設会社を設立し、複数の会社が100%子会社として傘下に収まる手法です。持株会社は子会社の株式を保有し、子会社を管理していくことになります。」(©fundbook,inc. M&Aの合併と統合の違いとは?事例を含めて解説 https://fundbook.co.jp/column/understanding-ma/difference-between-merger-and-integration/ より引用)

とあるので、厳密には子会社同士で使うのはちょっと違うような気がしますが、2つの会社を1つの会社名に統合する、という意味で使っているとするならば、こうなります。

例えばA会社とB会社、この2つの会社は時計店であるとします。当然別々の会社なのでそれぞれに時計を開発し、発表します。当然、2つ分の時計の開発費と、時計を購入する客を子会社同士で食い合うことになる。これを統合して新しくAB時計店を立ち上げたとすると、時計はAB会社で合同で開発し、1つの時計を販売する。開発費は当然1つ分で済み、客も1つの時計に集中して利益を上げることができる。

例えばC会社とD会社、この2つの会社はC会社がC部品を作り、それをD会社が作るD部品に組み込んで、E部品を作るとします。C会社とD会社を統合しCD会社とすると、CD会社で工場を共有することができて、C部品とD部品のラインを1つの工場にまとめるのはもちろん、E部品を作るのにも工場を1つに集約することができるかもしれない。つまり、コストカットができるんです。

そして統合のメリットは、何と言っても人事やシステムを刷新する必要がないことです。合併などでは、人事を見直して相応にリストラなども行われますが、会社はそれぞれ存続するので、会社の人員を減らしたり別部署に異動させたりしなくていいし、それまで使っていたシステムも変える必要がない。

デメリットは、合併で1つの会社になるのではなく、あくまで個々の会社なので、連携がとりづらいというところですが、元々ジェターク社の子会社同士なのでここはクリアできるはず。グループ内で重複する部門や機能が発生して、総合的にコストが増加するというのもありますが、そもそもジェターク社で事業が被っていたり、ラインが別々で輸送コストがかかったりするのを統合するのであれば、これも問題ない。

ただしコストカットはあまり期待できないと思います。できるのは生産ライン上の無駄を削ったり、売り上げを少しアップさせたり、競合がひとつ消えるので廃盤になる前にすべてを売り切ることが可能になったり、そういうのや、子会社同士でライバル関係になるのを防いだり、そういうのだと思います。

そう考えると、彼らが提示してくれているのはかなり破格の条件ではないでしょうか。

彼らが要求しているのは、ジェターク社の構造をなるべく変えずにコストカットを行うこと。それを期日までに行うこと。そうしたら会社存続に必要なだけの融資を行う。なので、ジェターク社にダメージがあまりなく、融資元の意見を取り入れることを示してくれれば、それでいい。要はポーズを内外に示してほしい、ということなのだと思います。

ビジネスの世界において大切なのは実績やプランもそうですが、信用もかなりの部分を占めているはずです。

営業では「あなたが紹介してくれた商品なら」「君の会社の製品はいつも買っているから新製品ももちろん購入するよ」
裏方でも「あなたから頼まれたんじゃ断れないね」「スケジュール厳しいけど、君の頼みなら何とかするよ」

それこそ融資では、「君なら融資をするだけの価値がある」「私の金を使って応援するよ」と思わせなければいけない。プランがどれだけよくても、「いや君こんなプランをできるだけの能力ないでしょ?」と思われたらそこで終了です。

グエルが融資を頼んですげなく断られ、「俺に足りないのは実績か」と言っていましたが、恐らく彼に足りないのは実績ではなく信用です。

グエル、多分彼はラウダを守りたくてCEOの座についたと思うのですが、周りから見たらどう考えても、異母弟から嫡男というだけでCEOの座をこれまた素晴らしいタイミングで奪ったろくでなし御曹司、なんですよね。

今もジェターク社はピンチですが、一番ピンチだったのはやはりヴィムが死んだ直後でしょう。先ほども言いましたが、ジェターク社はヴィムのワンマン社長によって回っていた会社です。いきなり司令塔が何も言わずに蒸発してしまったので、行動の指針をジェターク社は奪われた形になります。

しかもどうやらデスルターがテロに使われたらしいというおまけまで付いていて、当然彼らも事情聴取されたでしょうし、他の御三家にはわざわざ攻撃する隙を与えてしまったことになる。

しかしその難局も続いてはいますが、混乱期は恐らくラウダが陣頭指揮を執って乗り越え、苦しいながらも地道に信用回復に努めようと、その一番の混迷期を乗り越えたところにグエルが帰ってきたので、傍から見れば一番大変な局面をラウダに押し付けて、自分はいいところだけをいただこうと戻ってきた、という風に見えます。

さらに可能性として、「ジェターク社が潰れる」という噂は、デスルターの件やヴィムの死も秘匿されていたとすると、ヴィムがテロに巻き込まれて死亡していたという報道が出てからされ始めた、とすると、この噂が出始めて「今なら混乱に乗じてCEOの座を弟から奪い取れる」と判断して戻った、として見られていてもおかしくない。

あのラウダがいじめられている会議を見ていたから私も最初からジェターク社が潰れるだろうという報道がされていたと考えていましたが、よくよく考えると、プラント・クエタの件は「事故があった」程度なら、ジェターク社へのマイナスイメージがベネリットグループ外へ漏れることはあんまりないんですよね。ジェターク社が追い詰められた原因はシャディクにもあるようですが、恐らく彼ができるのは噂を流す程度で、その後もカテドラルすらディランザ・ソルを使っているので(多分)、この時点でシェアが失われていたのかというと、今までの顧客層はこの噂にもまともに取り合ったりはしなかったのではないか、と思います。

そもそも噂レベルで即切るというのはよっぽど相手がイメージ戦略していたり、零細企業だったりならするでしょうが、今回はジェターク社、御三家です。ならまず「ところで、こういう噂が出ているそうなのですが…」と確認したりする方が先なのではないかな~と思います。それでヴィムからラウダにCEOに就任すると聞かされれば、あとは「新CEOを信じるか否か」になるのではないか?

ヴィムに何かあった、ということは確定ですが、社長に何かあっても会社は存続します。例えば社長が逮捕されても会社は変わらず営業し続けます。注目するべきはその跡を継ぐ人間です。

で、ジェターク社の取引先は、少なくとも「ジェターク社の不利益になる情報をリークして後足で砂をかける」ような不義理な真似はしなかったのではないでしょうか。そういうことをしていたら、ヴィムが何やら重篤な病気を患っていて表舞台には出てこれない、または死亡しているのではないか、と憶測が飛び交い、ジェターク社は早くに説明して混乱を収める必要が出てくるのでは?と。

でも多分そこまで大混乱は起きていないし、ヴィムの死はマスコミが飛びつけないぐらいには信憑性の低い「噂」だった。だから気づいて取り引きを停止させた企業はあっても、ジェターク社に不利益をもたらすヴィムの情報を誰も漏らすことはなかった。

「何かあったんだろうな~、新CEOに代替わりか~、この機会に取り引きを停止させていただけませんか?」ということはあっても、「じゃあこの情報をリークして自分たちの利益をあげよう」と考えるような顧客はいなかった。

それに融資元が信用回復とかそういうのは条件にしていないので、取り引き停止を申し込む人々もあんまりいなかったんではないかな~と。

まぁジェターク社は腐っても大企業ですし、ペイル社やグラスレー社にはない強みがある。あの頑強なモビルスーツは、現場で働く人間からはかなり好評価を得られたでしょうし、武装もライフルとミサイルで堅実、その武装も煙幕用の銃など選ばずに変更でき、人々に威圧感を与えるデザインと、テロリストや民間のデモ隊を鎮圧したい地球でも、低重力下なら悪くない機動性があるのなら宇宙でも需要がある。

なら別に、すぐに手を切る必要はないし、普通に部品発注や修理なんか依頼していたんじゃないですかね。真相が明らかになってからはわかりませんが、これも融資元はもっと具体的なところまで把握していそうですし。

上にも出しましたが、金を払うにはそれなりの信用がないと人は払わない。それに彼らは恐らく投資家なので、そういう嘘や、人を見抜く審美眼は確かなはずです。

ヴィムと彼らは軽口を叩くぐらいには親しみがあり、恐らく長い付き合いだと思われるので、ラウダがCEO代理から足早にCEOになると聞かされたら、何かあっただろうと絶対に気づくはずです。ラウダでさえ怪我を押して出ているので、ヴィムがしないはずがありませんしね。

ということは、入院レベルの何かがあった。個人的に思うところのある相手が入院していたり、何かがあれば当然知りたいと思うのが人情ですし、彼らは融資元なので、なぜ説明もなく急遽そうせざるを得なかったのか知る権利がある。

そして恐らく、ラウダは真実は言えなくとも「箝口令がしかれている」ということは伝えたんだと思います。そしてこれだけで、二度とヴィムがCEOに復帰することはないのだと彼らも恐らく悟った。箝口令がしかれているということは、ヴィムは犯罪に巻き込まれたと言っているのと同義ですし、CEO代理で済ませるのではなくCEOになるということは、彼が戻ることは二度とない。

ラウダは真実を話してはいませんが、箝口令がしかれているのなら話せるわけがない。もしかしたら箝口令がしかれていることすら話すことはリスキーかもしれない。CEOのなにがしかを隠さなければならないレベルでヤバイことが起きました。と言っているも同然ですからね。

誤魔化すこともできただろうと思います。でもラウダは真実を話し、その上で協力を申し出た。だからこそ、彼らもラウダを信用して子会社の統合で何とかしようとしている。

ベネリットグループが何で儲けているかと言えば戦争シェアリングです。手っ取り早く利益をあげさせたいなら戦争をさせればいい。しかし融資元はそうしたものではなく、あくまでジェターク社内のコストダウンをしてくれればいい、と求めている。

この子会社の統合も、彼らが考えて提示してあげた条件なんではないかな~と感じます。彼らは期日を守ることを繰り返し求めていて、そちらが提示したとは言っていないので(削られただけかもしれませんが)、融資元であるこちらが提示した条件も守れないようじゃ融資なんてするわけないよね?ということなんではないかと。

いずれにせよ、彼らはラウダに戦争シェアリングで実績と金稼ぎを手っ取り早くさせるのではなく、あえて子会社の統合なんて回りくどいことをさせているのは確かで、それはまだ子供で、継いだばかりで、ヴィムのような暴力的なマッチョプレイを好まないラウダに、かなり忖度してあげている。とすれば恐らく、ラウダは自分ができる精一杯の誠実さを示した。だから信頼を彼らも寄せた。

いやまぁ、特に子会社の統合については水星の魔女のビジネス用語がどのくらい正しいのかもよるんですが…いやすでに正しくはないし、そもそも信用できるかというとびみょ~!なんですけれども…

というのも、「デューデリジェンスを急いでくれ」と18話でシャディクが言うのですが、これは買収側の企業が行うべきもので、売却側の企業が行うものではないらしいのです。

グラスレー社が地球側の企業を適正価格よりも高く買い取る、というのも、資金を地球に流す方法のひとつとしてはあります。しかし「事業譲渡順調ね」のエナオの発言や、「先のグラスレー社同様、ベネリットグループ資産を売却」というミオリネの発言からも、地球の企業を買収するのではなく、地球の企業にグラスレー社の事業を買収させる計画です。ということは、買収側は地球の企業、売却側はグラスレー社です。

なのでデューデリジェンスをグラスレー社にさせているというのは、売却側が買収側の企業に対して何か調べている?もしくは自分の企業を調べているということになるので、意味が逆だったり全く違う意味になっています。

というわけで誤用になるので、本当にことビジネスや会社周りのことはどこまでちゃんと意味を調べたうえでやっているのかわからないのです……実は。

ただ、このシャディクに関しては、彼がやろうとしていたのは地球と宇宙の格差を縮めて、武力による膠着状態を作り出したいと考えていて、この時彼が渡そうとしている事業や施設は、モビルスーツ開発関連のものだと思われて、それを適正価格よりも大安売りで売却という名の「譲渡」をしたいのと、地球側にそういう細かな調整をできるような人材はいないと考えると、グラスレー社が代わりに調査をしてやる、いわば不正取引をするつもりだったので、そういう意味で本来地球が行うべきデューデリジェンスをグラスレー社が行う。という意味でのデューデリジェンスなら、あながち誤用というわけではなくなります。

それに統合とは「経営統合」で、再三言っていますが子会社レベルではなく大きな会社同士で使われる言葉です。そしてこの経営統合をしたのは、バンダイとナムコ、今のバンダイナムコホールディングスがまさに経営統合した会社なので、ここを間違えてしまうのはグループ会社であるバンダイナムコフィルムワークス (サンライズ)としてはかなり問題なので、ここをあえて子会社の統合で使っているということは、誤用として使っている気はない。

https://www.bandai.co.jp/releases/images/3/21567.pdf

とするとやはり、上のようなかなりソフトな要求として融資元がジェターク社、およびラウダに要求していたのだ、という可能性は高い。それに本当に子会社の買収や売却を求めるならば「整理」という言葉を使うような気がしますしね。

会社の人員を削減させたり大幅に変えることなく、戦争シェアリングによって利益を早急に上げ信頼回復をしろと要求するでもなく、自分たちに恭順して共に頑張っていく姿勢を見せてくれれば、融資を行ってこれからもジェターク社を支えていく。

これが融資元からの要求であり、今厳しく絞れるだけ絞るのではなく、それだけ甘く手をかけて、将来的にそれ以上のリターンや、手をかける価値があるのだと、ラウダは示してみせた。

ラウダは前から仕事を手伝っていたと思われるので、融資元の彼らもラウダのことを知っていて、昔から知っているヴィムの息子に手心を与えていたというのももちろんあるでしょうが、彼らはやはり投資家なので、損切をするとなれば容赦はないはずです。人を見る目がなければ、投資金額を全額失うどころか、大損をするかもしれず、彼らは投資によって生計を立てているので、失敗はすなわち自分たちの生活が崩れる危険性があるので。

しかし、ヴィムが死亡したジェターク社でも、ラウダがいて、自分たちがサポートすれば立て直すことは十分可能だと彼らは判断した。だから融資条件も提示した。助けると見せかけてジェターク社を貪る方法はいくらでもあるのに、ゆるい条件を提示しているということは、ラウダ個人を信用したから、と、私は感じました。ビジネスで、彼らが投資家だとすれば、ですが。

で、グエルに対してかなり厳しくしているのも、実績ではなく信用がないからです。

先の通りグエルはラウダからCEOの座を奪おうとした嫡男、という印象なので、この時点でも心象は悪いですが、投資家という観点から見れば、ジェターク社を立て直すだけの実力さえあればまだ目はつむれます。

しかしグエルは、「期日はいつだったかな?」という言葉から、ラウダと約束していた子会社の統合を白紙にしているか、凍結させているか、全く手を回せていない状態だと思われます。

ラウダが期日までに子会社統合を完遂させようと方々に手を回し、手続きを行い、整えたその計画を、突然現れたグエルがぶち壊しにした、という構図にもなります。

これだけでもどういうことなんだよと、ラウダからグエルに窓口や投資先が変わっただけでも驚きなのに、じゃあグエルにはどんなプランがあるのかと思えば、こちら頼りで彼自身のプランは何もない。

こちらの約束も守らない、自分たちとやり取りをして信頼を勝ち取ったラウダを窓口から追い落とす、約束を守らないくせに自分のプランもない、しかもラウダではなくミオリネという別会社でジェターク社が関わらなくていい総裁選の選挙候補を側に置くという、意味不明な行動までしている。

会社と会社、組織と組織で直接やり取りをしている人間は、会社や組織の顔です。それを「変える」というのは、引き継ぎや顔合わせがうまくいっていないと全体の縁さえ切れかねないリスキーな対応です。

新しい担当がポカをやらかしたら「もうあなたのところには頼まない」と全体の縁が切れ、やらかしていなくとも「やっぱりあの人に変えてほしいな~」と要求されるのは、世代交代という理由だとか、先の担当も引き続きバックアップしますという体制ができていてもされるのが常です。

それが全くされていない、グエルに対する信頼など何もない状態での窓口交代。この状態でグエルに求めるものは、とっととラウダと交代するか、グエルとビジネスができると示すことです。ビジネスができるということは、最低限でもいいので会話ができること、そしてこちらの信頼を得ようと努力する姿勢を見せることです。

何度も言いますが、金を払う際に必要なのは、それだけの料金を払っても惜しくない、払いたいと思わせるだけの信頼です。例えばチョコレートをひとつ買うのでも、このメーカーが好きだから、この味が好きだから買う。もしメーカーが何か不祥事を起こしたり、突然味が変わってしまったら途端に商品は売れなくなる。

人間に対してはもっと複雑で、時に商品の価値よりもそれを売り込む人間の方に価値の軍配が上がる。しょうじきもっとコストダウンで信頼性のある商品があるけど、この人が売り込むから買おう、ということはやはりあります。

そして投資に関しては、その人間自体に価値があるか見定めなければならない。いくらグエルがパイロットとして優秀でも、経営者という視点で言えばまだまだ未熟。そうであればグエルに必要なのは、自分は未熟であるという自覚であり、彼ら融資元は自分よりも格上で、ジェターク社を守るためにあなた方先達の指導を仰ぎますという姿勢です。

しかしグエルは全く正反対なことをしている。彼は「あなたたちの力が必要なんです!」と言いながら、彼らが「これなら融資を行うよ」とわざわざ提示してくれた条件を守っていない。しかもこの条件は前任のラウダと結び、進めていたものなので、それをすべてひっくり返してご破算にしたグエルを、どうして信じられるというのか。というレベルです。

だからグエルが必要なのは実績ではなく信頼です。それに実績ならもう実は持っているんですよね。

エアリアルは常勝無敗のモビルスーツであり、ガンダムであり、ヴィムの遺作であるダリルバルデを下した相手です。それを、新体制になり、リニューアルしたダリルバルデが見事リベンジマッチを果たした。敗北して一気に落ちたダリルバルデの評判が一発大逆転勝利です。

敗北して落ちた評判なら、勝利すれば覆せる。決闘の録画なんかを見せれば、正々堂々戦い、そして勝利したダリルバルデとグエルの映像が収まっている。最初に苦戦していたのすら、機体に小細工をしていない証明になる。

だから実績、というならもうグエルは持っている。グエルがモビルスーツを実際に駆ってパフォーマンスすればモビルスーツの宣伝効果もある。それがCEOなら、ヴィムのマッチョイズムの後継者としてもふさわしい。

けれども彼らにとってその実績はグエルに投資するだけの価値にはならない。もっと実績が欲しいのかと言われればそうではなく、彼らが欲しいのは信用だから。ということではないかと思います。

なぜなら彼らはラウダに実績を求めていない。彼らが求めているのは子会社の統合で、戦争シェアリングも、総裁選に協力することも求めていない。そんなものなくても協力すると、ラウダを信頼しているから、実績は必要ない。今は会社を立て直すのが最優先で、実績なんてものは後からいくらでも補填できる。

ジェターク社はそれだけの実績をすでに稼いでいて、今をしのいで落ち着けば、必ずラウダならば立て直すことができる。それだけの信頼がある。

…24話後に、ジェターク社を支援しているのがケレスだけで、もうあの融資元は手を引いているようなのも、グエルは最後まで彼らを裏切ることしかしていなかったからでしょう。

ミオリネが独断で決めたのだとしても、グエルが贔屓していた総裁はベネリットグループを解体し、その資産を放り出されたグループ企業ではなく地球の救済に使う。その救済も中途半端。そしてラウダがあの後検査をしていたら高パーメット症の検査をしたことは必ず伝わり、ラウダにガンダムに乗らせたか、ガンダムに乗らなければならない事態を作り出した。

3年後にラウダはジェターク社から離れているので、ジェターク社を共に支えていくのではなく離れるつもりだった。ならもう、融資元にジェターク社を支援する理由はありません。だってグエルには彼らが金を払うだけの価値はないのだから。

最初から好感度が最底辺なグエルをすぐに見捨てなかったのは、ラウダがグエルを信じているからなのではないか、とも思います。ラウダはすぐにグエルにCEOの座を譲り渡し引き継いだ。ラウダにとってはジェターク社CEOの座をすぐに渡せるほど、そのために被るあらゆる負債も問題ないほど、グエルを信頼している。さらにラウダはグエルから手放され、ジェターク社にタッチできなくなった。それでもグエルに対し反旗を翻していないのなら、それはラウダが、グエルを信頼しているだけでなく、深く愛していることの証明になる。

グエルがやることを信じ、彼がCEOの器だと信じている。ならば融資元の彼らが、ラウダを信じている彼らがすることは、ラウダのグエルへの信頼よりも心証を優先してグエルと彼のジェターク社から手を引くか、それともラウダの信頼を信じて融資をし続けるか。

彼らは後者を選んだ。信じている相手の判断を信じた。だからグエルを信じたわけじゃない。正直ラウダを出せと言いたかっただろうけど、ラウダがグエルを選んだのなら彼の顔に泥を塗ることになる。だから間違いを指摘し、ラウダのやっていたことをちゃんと引き継げと言った。「ヴィム・ジェタークの息子くん」という言い方だったので、またしてもラウダが薄いんですが、しかし本当にラウダが薄ければ、彼らは「子会社の統合」という甘い条件は出さなかった。はずです。

だから、う~ん。どうにもこうにもラウダの能力というのが、めちゃくちゃ薄くなっちゃってるというか、本来なら高い能力があり、こと経営者としてなら、グエルよりもラウダの方が現時点で有能である、というぐらいにはあったはずなのに、まるっとなくなってしまっているっぽいんですよね。

そしてそのために、24話で彼は「兄さんに頼ってられないよ」と言った。兄さんに頼っていたことになってしまったんじゃあないかなと。

支えるはずなのに頼っていた、つまりラウダは無価値になった。だから離れた。自分はもうグエルの役に立てないから。

酷なことを言いますが、本編の描写ではラウダは「無能」なんです。少なくとも、ラウダが求める能力には達していない。

ジェターク社のピンチを脱せていないのでピンチをしのぐ能力もグエルと同等、子会社の統合もどこまで進んでいたのか、本当はラウダが進めていなくてグエルが割を食っているのではとも取れる描写なので、私が熱く語っていた融資元との信頼関係の構築や交渉ができていたのかも不明どころか下の可能性もある、グエルはシュバルゼッテのことを知っていてガンダムに改修されていたのも知っていたのにラウダは知らないので、情報収集能力や社内の情報が共有されないということで社内から孤立してしまっていることになる。

つまり、ラウダは何の役にも立っていない。いてもいなくても変わらないどころか、おろおろするばかりで突然プッツンする可能性があるのなら、いない方がマシということになります。

しかしそんなはずがないんですよ。むしろ逆の可能性の方が高い。

一期でラウダは、グエルがスレッタを守りたいという私情ですべてをぶち壊してジェターク寮から追い出され、そのすべての仕事をひっかぶっても、全く問題なく回していました。

元々の副寮長業務に、寮長業務、決闘委員会のジェターク寮代表と、自分が背負っていたものもグエルが背負っていたものも全部を突然渡されても、すべてを卒なくこなしている。ジェターク寮が空中分解することもなく、決闘委員会でもすべての決闘に出ていた筆頭のシャディクが決闘に出て、ラウダが実質的なトップになっても問題なく決闘を終了させていて、グエルが家出したというトップスキャンダルが出ても、彼を追いかけたり彼のことしか考えられないという状態になることもなく、きちんと留まってジェターク寮を守るという全体的な判断を下している。

こと頼りになるリーダーということなら、グエルは不安定だけれどラウダは安定です。彼はグエルが大事でもそれに盲目的になることもなく、ジェターク家の子供であるという責任から決して逃げない。

会社を背負わざるを得なかった2期からもそうです。

本当ならラウダは逃げてしまってもよかった。寮長業務を放棄しなかったのは、継ぐべきフェルシーたちにまだ引き継ぎが済んでいなかったからだとしても、CEO業務は別に逃げてしまってもいい。だってラウダは「ニール姓」で、会社にはジェターク社に何十年と従事してきたであろう大人が大勢いる。

けれども、それでもラウダは責任から逃げなかった。ヴィムの息子で、もうたった一人のジェタークの血を引く人間になってしまったかもしれなかったから。ジェターク家の人間として、ジェターク社を見捨てない。その誇りを守った。

これだけで、長子なのに逃げ出し、判断を誤ってしまったグエルよりも、ラウダはジェターク家の人間としてふさわしい資格があります。

グエルはジェタークの子として、会社経営のノウハウを学ばせ、跡を継がせようとしたヴィムから逃げた。自分がジェターク家の長子として会社を継ぐという責任から逃げた。どんな理由であれ。責任を放棄するのであれば、きちんとケジメをつけなければならなかった。ラウダにきちんと向き合ってからではならなかった。ラウダに責任を押しつけてしまうのですから。

ジェターク社のモビルスーツであるデスルターをテロリストが使っていることに噛みつくまではいいですが、彼が飛び出したのはスレッタという全くもって会社に関係もなければ利益を及ぼすような存在ではない少女のためです。ジェターク家のため、ではなく、百パーセント己のためであり、スレッタのため。

だからこそ、父親を殺す羽目になった。判断を誤ったから。家庭内の責任から逃げ続けたから。

少なくともラウダは、ジェターク社を潰すのではなく存続させ、彼らの結束を最後まで守った。最後のミオリネを殺すという判断すら、百パーセント私怨ではなく、ジェターク社とグエルを守るための判断だろうと思います。グエルを、ジェターク社をたぶらかし寄生する魔女を殺す。それは百パーセント間違いではない。ミオリネと手を切ることを選んでいれば、ラウダだってグエルがもうミオリネにたぶらかされる心配がなくなったとぶつからないでしょうし、ベネリットグループの解散を社内で知ることになるので、指示を出してダメージを最小限に抑えられたかもしれない。

だからどちらがいなくても平気?と言われれば、グエルがいなくてラウダがいた方がジェターク社にとってはありがたい。実際ラウダはグエルが死んだと思っていたとしても、ジェターク社を守るためにCEOを継ぐことをやめはしなかったのですから。

とまあ~、こんな感じで、ラウダはジェターク社に必須だったと思うし、グエルよりもよっぽど社内の人間の信頼を得て、いろいろと裏で表で働いていたと思うのですが、この設定がきれ~になくなっちゃったもんで、上のようにグエルがいなくてラウダがいた方がいい、ではなく、どっちかがいればいいやレベルになってしまったんだと思います。

だからラウダは身を引いた。自分はグエルに必須ではないのなら、いなくてもいいのなら、自分に価値はないから。

彼がしたいのはグエルを支えることであり、グエルがやりたいことに集中できる環境を作り上げることだったはずです。

ドミニコスのエースパイロットになりたい、というグエルを支え、父親にささやかに反抗しながら必死になって彼を守ろうとし、裏ではグエルのためにダリルバルデを取り戻そうと動いたり、そういう有能な人間が彼の目標であり、そこまでできて初めて、グエルを支えることができる、まで目標設定は恐らく高い。

ところが本編のラウダは、現状維持しかできていないどころかジェターク社は存亡の危機にまで陥っていて、グエルが当然知っていた情報も知らなかった。グエルより数倍能力が劣ることになってしまっている。

そのことに気づいてしまった。ラウダが有能であり、ずっと会社を支えて守ってきたのはラウダで、グエルではその代替わりはできない、ラウダがいなければダメなんだ、という設定が消し飛んでしまった。

んなものないって?

何度も言いますが、ラウダはダリルバルデを取り戻そうと動いていたので、ジェターク社に独自のネットワークを持っているし、それはヴィムの次に強い。ちゃんと社内に根回しができているので、グエルが知るような情報が入らないはずがない。

ラウダは神経質な性格なのだから、おかしな金や物品の流れがあれば恐らく気づく。情報がラウダのために秘匿されていたとしても気づけばすぐに確認する。ちょうどデスルターを何とかしなければならないのだから、そういうことには敏感なはずです。情報を隠している人間がテロリストと内通している可能性もあるのですから。

グエルには知らせてラウダには知らせない、という、情報をCEOレベルに報告しないということは、ジェターク社の報連相のネットワークはズタズタです。しかしそんな企業がこんな大企業まで成長できるわけがないし、自分が全部把握して解決したいヴィムのスタンスとも合わないし、ラウダを侮っていたのならヴィムが死んで即レベルでラウダをCEO代理という実質トップに据え、わずか2週間で引き継ぎから得意先へのあいさつから何からを、デスルターの販路を探るというクソ忙しい合間を縫って終わらせるという無茶をするはずもない。

グエルには先代が進めていたプロジェクトを知らせるのにラウダには知らせないのはなぜなのか。知らせていてもどうしてガンダムではない偽物のモビルスーツの場所を伝えているのか。ラウダに知らせなかったのは余計な心労をかけたくなかったにしろ、報告を現場レベルでもみ消すということをジェターク社従業員は行うということになりますし、じゃあなんでグエルに伝えているんだということになります。それすなわち、グエルにはこういう精神的ストレスを与えてもいいと思っているか、ラウダではなくグエルの方がCEOとしてふさわしいと考えているということになります。

ラウダが無能にしたら矛盾があるし、有能にしても本編情報では矛盾がある。一番矛盾がないのがジェターク社が報連相など全くなく、自分たちで勝手に取捨選択をするコンプライアンスも何もない自分勝手な従業員しかいない、ということになり、こんな会社今すぐ潰した方がいいという結論になってしまいますし、何よりグエルとラウダという若者たちに対して絶望的な現実です。

グエルもラウダも、ジェターク社を守るために青春や自分の身を削り、人生を少なからず捧げた。なのに守るべき会社従業員がこんな社会人として落第点もいいところの人間しかいないし、しかもこんな不義理なことを行うような連中は、三年後ものうのうと彼らの人生を吸い上げ続けている。

ケレスと手を組んで、新しいモビルスーツを開発して生産しているということは、モビルスーツ部門はギリギリで残っている。しかしこれをやらかした張本人たちこそ、このモビルスーツ部門の人間たちです。若い世代、これからの世代を困らせるだけ困らせて、世間の矢面に立たせて寄生虫のように甘い汁だけをすすっている。そういう大人たちがいるのが、ジェターク社であると。

そんな大人を出してどうすんだと。そんな子供たちを出してどうすんだと。

これじゃあまるっきり、大人は負債を子供たちに肩代わりさせて自分たちは逃げる卑怯なクズだし、子供はそんな大人たちを逆に守らなきゃならず一生搾取され続ける。そんなメッセージになってしまう。どこが「自分たちのガンダムにしたい」なんだよと。

だから絶対にラウダは有能であったろうし、ジェターク社もラウダをきちんとCEOとして認めていた。けれどもなぜかその設定は途中からなくなった。として見た方が、この後の設定なども見ても色々とつじつまが合うというか……。

とはいえひとつ言えるのは、ラウダはグエルを支えると言っておきながらミオリネなどの他人に置き換わっても全く問題ない程度の貢献しかできていないことになってしまっているので、誰かと恋人関係になっているとか、グエルと離れ離れであるとかよりもよっぽど酷い尊厳凌辱であり屈辱を受けているなぁ…と。

むしろ自ら死を選ばなかっただけいいってことになるんですかねぇ…。私はそんなもの、救いであるとは思えませんが……。

この設定、深堀りしないんですか……


色々と魅力的な設定がありますよね、水星の魔女。だから世界が奥深いものになっています。

一期の時は本当に楽しみでした。ここで生まれた設定をどう使うのだろう、この関わりは2期からどうなるのだろう、12話後からどうなるのだろうと。

お出しされたのは全24話ですが、個人的に「え、この設定使わなかったの?じゃあなんで出したの?」ってのがいくつもあります。

まずは、シャディクのスペーシアンとアーシアンのハーフという設定です。

彼のかなりのパーソナリティーを占めていて、だから彼はこういう人生を送ったんだよ~という部分ですが、サリウスが「そういえばそうだったね…」と一回言ったきりで、そのあとシャディクが自身の出自を使ったり使われたり、誰かが言及することもなくて、結構デカく、そしてこの世界の根本的な歪み、人種差別と密接にかかわっているだろうことなのに、これだけ~?と拍子抜けしてしまったんですよね。

そもそも彼がどうしてそこまで追い詰められてしまったのか。スペーシアンとアーシアンのハーフだからこのふたつを結びつける懸け橋にならなくちゃいけない、という思いは当然あったかと思いますが、彼はどちらかと言えば力を持つ生まれながらの特権階級であるスペーシアンではなく、アーシアンに同情的なのではないかと。グエルに呪詛を叩きつけたのはもちろんミオリネの件もありますが、きっと彼はずっとスペーシアンに対して恨み言を言ってやりたかったし、スペーシアンから力を奪って虐げる側に回りたかった。

多分ですが、現実でもハーフというのはどちらのコミュニティにもやすやすとは所属できないし、一生自分はどちらなのかと思い悩む人は多いと思いますし、明確にスペーシアンは上、アーシアンは下というアド・ステラにおいて、この両者のハーフというのはものすごい差別対象になるのではないかと個人的に考えています。

アーシアンからはスペーシアンのお偉い遺伝子が混ざっているということで、これだけでうらやましいし恵まれた生まれですし、スペーシアンにはぶつけられない鬱憤を晴らしてもいいサンドバッグです。だって彼は、スペーシアンではない。だから殺してしまってもスペーシアンからの強い報復はない。

スペーシアンからすれば、アーシアンの劣った遺伝子が混ざった出来損ないで、汚らわしい存在です。純粋なアーシアンならば戯れにお情けをかけてペットのように扱ってもいいけれど、なまじ自分たちと同じ血が入っているので、自分たちを汚す汚物です。スペーシアンにとってアーシアンとは恐らく人間じゃない。人間じゃないからあそこまで激烈に差別できる。ハーフはその人間じゃない何かと交雑して生まれた穢れそのものです。人の形をして人の言葉を話す化け物。

というぐらい差別されてもおかしくはない。

しかしシャディクは、アーシアンにとって希望の星で、プリンスと呼び慕われている存在です。そして上にも述べたとおり、シャディクはスペーシアンの方に強い憎しみを抱いていて、感性はアーシアン寄りです。

なので最初に彼に手を差し伸べてくれたのはアーシアンなのかなと。いや、恐らくアーシアンの大多数は彼がハーフであることを知らないと思いますが、それでも所属するコミュニティに同情的になるのは人間である以上どうしたってある(例えば愛国心とかがそうですね)。

アカデミーとやらが地球にあるのか宇宙にあるのかもわかりませんが、シャディクは宇宙議会連合側で、そのコネクションがどこで築かれたのかも本編中では明かされませんでした。しかし最初から宇宙議会連合に拾われていて、ある程度の思想教育を受けてからアカデミーに入れられた可能性はあります。

宇宙議会連合は、オックスアースを秘密裏に抱えていて、ガンダムパイロットも彼らが用意しているとすれば、ノレアがガチガチのアーシアン至上主義でスペーシアンアンチだったところからも、そういう教育はオックスアース、そして宇宙議会連合が行っている可能性は高い。

となると、彼らと通じていて交渉まがいのことができているシャディクも、もしかしたらガンダムパイロット候補生であり、素晴らしく優秀だったので、屠殺から手駒に切り替えた、のかもしれません。

アカデミー自体もただの孤児では入れず、なんらかの推薦か、もしくは能力?がないと入れないようなので、宇宙議会連合がバックにいてシャディクを入れたのなら、設定としてもきれいに繋がります。もしくは、ある程度の年齢まで宇宙議会連合が育て、紛争エリアの孤児として受け入れさせた、とかですね。

というところも、別に深掘りされることなく、スペーシアンとアーシアンのハーフがどのぐらいの位置にいるのかもわからず、サリウスと取り巻き以外に、ミオリネすら彼がハーフなのか知っているのもわからず(孤児だとは知っていたのでアーシアンだとはみんな思ってたっぽい?)、彼のこの設定意味があったんだろうか…というぐらい影が薄いんですよね。

むしろ彼がスペーシアンだったら、スペーシアンでもアーシアンのために戦い、虐げられている人もいる、というメッセージになって良かったのではないかというぐらいなんですよね。ガンダムパイロットのエランたちがスペーシアンではというのもありましたが、彼らも全く出自不明ですし、ボロボロのレンガと木を使った家と、多分端が揺らめいているので本物っぽいロウソクと、少なくとも4号はアーシアンっぽいんですよね。

宇宙ではむしろ、木はぜいたく品ではないでしょうか。植物を育てるのが「地球の真似事」になるので、家庭菜園すらお手軽趣味ではありませんし、わざわざ土を持ってきて、木が育つほどの厚みのある量をとなると、相当必要です。レンガというのも、宇宙はフロントを作ってその中で暮らすので、家なども住民の人数によって計画的に作られるでしょうから、安いのならコンクリート製のアパートなどになるのではないでしょうか。レンガでアパートを作るというのも大変ですし。ロウソクもエリイの誕生日は電気のロウソクですし、宇宙の閉鎖空間で酸素を大量消費したり火事の原因になったりするものは、高価かそもそも販売されていないでしょうし。

だから、スペーシアンの貧困層というのは出ていないか、いないかのどちらかです。

個人的にはここまで困窮する人々はいないのではないか、と思います。理由は、何であれ仕事はあるからです。

運送業の人々が出ましたが、彼らは船の掃除も自分たちでやっていて、それはプラント・クエタでも同じです。しかし、雑務であればハロがいるし、モビルスーツがあるのですから、AIを搭載した自動ロボットなどもあるはずです。

しかし恐らくそれらは高価なのではないかと推測はできます。理由は彼らのインフラはすべてパーメットに依存しているので、ハロにもロボットにもなんにでもパーメットを使っていると考えると、初期費用も維持費も人件費の方が安い、という現象が起きているのかなと。

そう考えると、グエルがボブなんていう適当な出自不明の存在でも働けたのは、恐らくそういう出自の人間も雇わないといけないぐらい、慢性的に働き手が不足している。逆に地球側は人間はいても働き場所がない。戦争で手軽に町ごと吹っ飛ばされたりするので、人件費を払っても儲けが丸ごと吹き飛ぶとなると、すべてが不安定で人を雇う余裕も何もないので。

さらにスペーシアンは出自によってどの程度の地位、どのような職業に入るか、就職先すら決まっているようなので(グエルはジェターク社CEO、ジェターク寮の子はジェターク社へ)そうなると、こういう増えていく雑務的な労働力が不足していく。しかし経済が成長し、物量が生まれていくならこういう仕事は増えていって減ることがない。

と考えると、これを支えている労働力は地球上がりの人々です。宇宙でなら働き口があるだろうと、何とか上に登ってきた人々。そうした人々の子孫など。それがあの運送業の人々ではないでしょうか。

アーシアンであれば、ろくなIDも持たずに密入国しているような人々ばかりでしょう。地球行きのホットラインを持つ運び屋なんてものがいて、しかも宇宙議会連合の人間がやっていたりしますからね。2世はなんとか持っていても、スペーシアンと同じ地位はとうてい望めない。それでも命の危険が常にあり、飢餓に苦しむ地球での日々よりは、日銭を稼いで自分たちの食い扶持はなんとか稼ぐ宇宙での日々の方がマシなはずです。

だから、ボブという、若くて世間知らずな訳アリの人間を雇うこともできた。出自不明な人間など珍しいものではないから。

と、考えると、生粋のスペーシアンの貧困層、特に子どもを手放したり子どもが孤児になるようなケースはかなり珍しいんじゃないでしょうか。最底辺クラスで、あの運送業の人々程度であると考えると、地球のアーシアンの貧困とは比べるべくもない。

万が一孤児になったとしても最低限の仕事があり、会社単位や同じぐらいの地位に横のつながりがあるので引き取ってもらえるチャンスも、教育機関に預けられるチャンスもある。宇宙での生活は危険とは言っても、医療があり、ワクチンなどもあり、労働者階級に落ちたとしても、明日のご飯に困るようなことにまでなるのは、多分ない。

だから、アーシアンの貧困層のカウンターとして、スペーシアンでも底辺層はいるという描写はしなかった。というより、そんな人間はいない。

となると、一方的にアーシアンがかわいそうになり、ひたすらスペーシアンだけが悪者になる、搾取する絶対的な打倒すべき権力構造になりますが、そういう一方的なものではなく、そのために二つの属性のハーフであるシャディクがいたんだと思います。ただ何に対するカウンターなのかはわからないのですが……多分アーシアンからですら差別される対象、ということなんだと思いますが、これは本編中に描写されませんでしたし、彼らを支持するアーシアンが知っていたのか、もわからないのでここら辺は保留です。

しかしわざわざアーシアンではなくハーフにしたということは、二つの階層にも属さない第三の属性として出したということは、何かしらの意味があったはずです。

シャディクはハーフですが、その思想ははっきりとアーシアン寄りです。スペーシアンとのハーフだから、双方共の利益を考えている、というのがシャディクだと思うのですが、グエルとの言い争いを見るに彼が一番許せないのは、スペーシアンが圧倒的な権力を有してアーシアンを搾取し、彼らを害して富や生命を奪っているのが許せない、そしてそれに仕返しをしたい、やり返してやりたい、という思いが強いようなので、中立ではなくやはりスペーシアンに対して復讐したいと願うアーシアン寄りです。

なので彼はハーフではなく、アーシアンで良くない?という出自なんですよね。そういう理由がないとなると、サリウスがわざわざハーフだから引き取った、という理由付けが必要ですが、まぁ例のごとくないですし、だから何だよという話ですし、サリウスも実はハーフだったという動機付けぐらい必要ですが、そうなるとスペーシアンの大人の中でもまともな人間はいる、という描写にもならないし……。

だから同じハーフで、スペーシアン寄りの考えを持つ、できれば同い年で境遇も近しい誰かがいたのでは。そうしたら、そうした思考を持つのは生まれではなく育ちであり、ハーフであるからという後ろめたさにとらわれないでいる人がいれば、それは恐らくシャディクに対する強力なカウンターであり、生まれも出自も、その人の生き方には何の関係もない。という大きなメッセージにもなるはずです。

ハーフだからスペーシアンとアーシアンの架け橋にならないなんてことはない、ハーフだからと自分を卑下する必要もない。ただあるがままに生きてよかった。

そうできるんだ。という。

まぁ例のごとくそうはならなかったのですけれどもね。

それから、レネ・コスタについても、もったいないんですよね。

レネは、シャディクガールズの中でもちょっと特殊に感じていました。サビーナのように、命も何もかもをシャディクに捧げているわけでもない。エナオのように確固たる自分を持っているというわけでもない。イリーシャとメイジーのように誰かと深く関係を築いているわけでもない。

レネは、自然に発足したであろうファンクラブの男性、その中でもキープ君という複数の恋人候補の存在を大事にしていて、男性に対しては媚びてキャラクターを作るけれども、女性に対しては高圧的で性格が悪い。しかし、なぜ男性に対してあれだけ媚びるのか、女性に対して敵対心をむき出しにするのか、というところはよくわかりません。

本当にわからないんですよね。推測はできても、それも材料が足りなくて、何となくの現実の傾向からのもので、作中からのものは本当に少ない。

まず、男性に対してちやほやされたい、というのは、根っからの男好きなのか、逆に男性を憎んでいるのか、もしくは何らかのトラウマやコンプレックスを抱えているのか、のどれかなのではないか、と、ニュースやドキュメンタリーを見ていると感じます。私はそういう欲はあまりないので、本当の当事者としての感情はわかりませんが。

男性を憎んでいる、というのは復讐ですね。自分に貢がせたり、しなを作って媚びを売れば簡単に鼻を伸ばして騙されるのを、陰であざ笑う、というタイプ。

一応「学校の男たちよりどれぐらい違うか、見せてよね!」というセリフがあったので、男性を下に見ているという線はありそうですが、それにしてはキープ君に対しては甘いんですよね。(そういえばここでは「学校」ですね。アスティカシア「学園」なのに)

キープ君がやったのは、レネという恋愛対象者がいながらリリッケに粉をかけた、いわゆる浮気なので、レネの性格なら一発でキープ君から外しそうなものですが、わざわざ復讐してやろうというのですから、舎弟に対する兄貴分というか、懐の深い女房というか。リリッケに対する怒りも、キープ君から愛を奪ったというところではなく「あたしの男に恥かかすんじゃねえ!」という男性を立てているような思考なので、本当に男性を見下しているのか?というところが微妙なところ。

そしてトラウマやコンプレックスを抱えている可能性。個人的にはこれが高いのかなと考えていますが、やはり憶測に近いので別立てで記していこうと思っておりますが、どこまでも推測なので、これも確定とは言えない。

結局彼女の性格もよくわからないんですよね。この、男性に対する挙動が彼女の性格の根幹にあるのだろうと思っていたのですが、それがなかったので、作中に出てきただけだと、男性に対するものは度外視とすると……

圧倒的な強さを誇るグエルの戦闘に飽きているようなリアクションをし、「できんの!?私に、あんたが!」「わざと負けるのストレスたまるわ~」と言っているので、自分のモビルスーツの腕に絶対の自信を持っている。

しかし、サリウスへ声をかけるのを任されたり、サビーナにシャディクを「おいしいところはゆずったげる」という言葉で、任せると後押しをしているので、職務に対して真面目で、シャディクたちに対する仲間意識や捨て石になる覚悟を彼女も決めている。そのぐらいには彼に夢を託している。

ただ、う~ん……。ここに出ているだけだと、「驚き」というものはないかな~と。

リリッケに対する態度、サビーナから注意されたら露骨に不貞腐れるなど、彼女は高飛車な女の子という、セセリアなんかと同じような属性ですが、しかしセセリアやフェルシーは、意外性がありました。セセリアは、嫌味な性格ですがメンタルケアもこなせるし、フェルシーはキャンキャン騒ぐ取り巻きですが、責任感や度胸のある、優しい女の子です。

しかしレネにはそれがない。意外性が全くもってない。逆にストレートで水星の魔女では意外なぐらいです。

ただ、それも男性に対する態度の根っこが、例え根っからの男好きだからという理由にせよきちんと描写されていたら、私もそういう子なんだと思いましたが、私的にここが彼女の根幹だと思うのに、その歪さについて触れられすらしなかったので、やはり物足りない。

……いや、彼女の設定にそんなものがなければ、そんなもの、でしかありませんが、しかし同じ女として、男性に対して正反対の仮面をかぶって演技をしている女性は、必ずそうなった理由があるのだと思いましたし、一期の彼女の大部分を占めていた部分であり、地球寮という大切な味方サイドのリリッケとかち合った理由が男性関係なので、何かしらあったというか、ないと不自然じゃない?と。

思う、んですけどね~……。

あった方がいいと言えば、オルコット。そしてナジもよくわからないんですよね。

グエルの再起のために必要だった、にしても、「自分の罪は自分で背負わなければならない、そのためには勝手に死ぬことは許されない」というのは、別に軍人であるケナンジに言わせてもよかったんじゃないか?と。彼はグエルの憧れのドミニコス隊の隊長ですし、ヴァナディース事変を経験し、恐らく魔女を何人も殺し、部下や同僚、上官を何人も見送って生き残ってきた人でしょうから。

グエルが影響を受けたのは、どちらかと言えばシーシア、そして彼女の死だったと感じるんですよね。

彼女も父親を失い、その仇であるグエルを殺したいほど憎んだ。グエルも父親を失い、それを殺した犯人である自分を呪い殺してやりたかったでしょう。瓦礫に埋まり、シーシアの「父さん」と父親を呼ぶ、自分と同じ父親を失った子供の声によって再び立ち上がり、生きるために、生かすために必死にあがいた。けれども救えなかった。自分は何をするべきなのか、それに少女も答えず、ただ死によって答えた。

私はグエルは、オルコットに言われなくてもいずれ自分で同じ答えを出して宇宙に戻ったんじゃないか、と思います。

それまでのグエルは死を願うばかりでしたが、シーシアという自分と同じ怒りと悲しみを持つ少女と出会ったことで、初めて意味のある言葉を話して、生者の世界にまた戻ってこれた。それからは、やっと涙を流したり、ジェターク社のことを尋ねたり、かなり人間らしさを取り戻しているし、現実が見えている。そんな少女が目の前で死んでしまった。だったらその少女の死を無為にしないためにも、グエルは再び立ち上がったでしょう。

彼は生きていて、そして大切なものはまだ宇宙にある。ならばまた立ち上がらなければならない。

だからオルコットがグエルの成長に寄与したか、と言われると、すこぶる微妙というか、そもそも彼はグエルに対して全然同情していないし、同情する理由もないんですよね。

そもそもグエルの口に無理やり飯突っ込んで、無理やり生かしてるんで、グエル視点から見ても恩義のある相手か?というと……。あれ虐待ですからね。普通は点滴とかでしのぎますので。まぁ点滴とかもなさそうですけど。

オルコット視点では、シーシアの死を看取ってくれたというところはありますが、それだけです。それはもう、シーシアのお墓を立てて、服をやっただけでチャラでしょう(まぁ服設定を描かれた人が言っているだけなので、オルコットが与えたのかもわからんのですが)。それに守ると言うならオルコットにはまだセドがいますから。

セドは、かわいそうにまだ子供なのに、あのドンパチしていたところから歩いて合流ポイントに向かわされていると思うので(車も迎撃に駆け付けたし、モビルスーツで送っていくって、めちゃくちゃ目立つので)もしかしたらまだ到着していないかもしれないんですよね。

そもそもオルコットはお尋ね者なので、都心部に行きたいグエルと行動を共にしていたら逮捕されるリスクが爆上がりしますし、ナジを待たせているのでそんな留守にはできないと思うと、グエルが自分で違う道を行くと聞いたら、それで恐らく終わったんだと思います。そこから先は、大人の男の行く道で、そしてそれは自分の道とは交わらない。

多分わざわざ留まっているので、グエルが自分たちと行くと言うなら、迎え入れる気はあったろうとは思いますが、グエルは宇宙に帰ることを自分で選択しているので、もう大人が庇護する必要のある子供ではない。

それならオルコットが手をかけてやる理由はない。彼には、セド、ナジ、彼らを受け入れてくれた避難民と、守るべき人々はたくさんいる。

だからむしろ、あれは守るべきものを見失っていた男同士が出会い、空っぽだと思っていた自分たちの手には、まだこの手で守れるものがあるのだと気づく、オルコットの物語でもあったのだろうと思います。あれはグエルの再起の物語でもありますが、「父と子」であったオルコットの新しい物語でもあった。

なぜならオルコットは、ずっと息子のことを記憶のかなたに追いやろうとしていたので、それがシーシアたちによって呼び起こされた。なぜ、自分はここにいるのか、という原初の願いを。

だからこの二人の大切なキーマンは、お互いではなくシーシアであり、守るべき存在です。

いやまぁ、オルコットにはそんな描写がまるでなかったので、ここも憶測なんですが!ただ、オルコットは守るべきもの(息子)を失った父親で、グエルは守るべきもの(ラウダ)がまだある兄、という対比には確実になっている、二人とも「守られるもの」ではなく「守るもの」なんですよ。

だからこの二人が絡むとしたら、同じ庇護者としての立場からです。その中でもオルコットは守るべきものを失っている状態なので、これでグエルに優しくしろというのは、かなり心が菩薩クラスに広くないと難しくない?と私は思うんですけど……まぁ、うん。

これについても後で考えようと思っていますが、ナジもこれがまたよくわからない。あの人結局何がしたかったんですかね?

明確にアーシアンサイドの人間だし、結構穏健な人っぽいんですが、過去には難民キャンプにかくまってもらわないといけない何かをしたことがあるし、ソフィとノレアを命を蝕むガンダムパイロットだと知っていて使っているので、この人もクリーンではないんですよね。そもそもニカを連絡係として送り込んでんだから真っ黒だったわ。

でも彼が何をしたかったのか、というのはよくわからない。スペーシアンと話す気はあったらしいですが、それも拉致監禁して銃を見せながら話し合いたいって言われてもねぇ、だし、その後もよくわからない……。慕われているんでご立派な理想や主張はあるようですが、その後のフォルドの夜明けの要求などは、シャディクが作ったものでしょうから、彼の政治思想がわからない。

でもテロ組織ってそれが一番大事じゃないですか?彼、抵抗したかったのか、権利を得たかったのか、何を得て何をしたかったのか、という思想については全く明らかになっていないんですよね。何がしたかったのか謎。

24話でUSB?パキっとしましたけど、このファイルも何なんだよ!!

シャディクがフォルドの夜明けと結託してやった、ということはもう吐かれているので、証拠消しても大して意味ないし、むしろその証拠品、シャディクの有罪のためにも必要だったんでは?彼を無罪にするため、だとしても、あれだけの大事件全部盛りに自白しているのを裁かないわけにもいかないし、グエルもミオリネもプラント・クエタのテロ事件や一連の暗躍については知っているから、証言しないこともないだろうから、よく、わからん……。実際3年たっても公判が終わらないぐらい長引いて、「さようなら」という言葉からも実刑はまず免れないと考えると、な、何の意味もない!

顔出し映像の記録ファイル、だったんなら、多分まだナジの顔は割れていない?んじゃないかと思うので(現時点で明らかになっているのはオルコットだったので)、シャディクとは顔を合わせたことがお互いにないので、フォルドの夜明けのリーダーが誰かはわからない、ということにするつもりだった、んですかねぇ…本編に出ていて使えそうな情報それぐらいだし。

だとしたら何で面が割れてるオルコットと一緒にいるんだ?ってことになって、やはり矛盾が!矛盾が発生している!

顔がわからないナジだけだったら、一般人に紛れて今度は町ブラすることも可能なんですが、顔がわかられてしまっているオルコットと一緒だと、言い訳もくそもないんですよね。ベネリットグループが解散したにせよ、スペーシアンの意識と支配体制が変わるわけじゃない。あの段階でも、すぐに変わるかどうかはまだわからなかった。

ならスペーシアンにもし見つかったら、スペーシアンの支配地域に行ってしまったら。まぁよくて裁判、悪くてなぶり殺しでしょうね。解散を宣言したのはミオリネですが、もとをただせば彼らのテロ行為のせいで、死者も大勢出たでしょうから。

あそこにオルコットがいなければ、雲隠れ作戦もわかるんですが、一言も説明なしにいい顔で「行こうか」だけなので、マジであれ何か謎過ぎる。そして結局スペーシアンに資金が巻き上げられているので、ナジは何もしていないし、24話の近況にも出てこなかったので、何をしているのかも謎。そもそも生きてんのか。

生死不明と言えば、グエルのバイト先の船員たちも無事なのか謎なんですよね。

何もなければ生きて帰れたでしょうが、「何か」しちゃいましたからね。グエルが。

グエルがやったことは、テロ組織のリーダーに面と向かって歯向かい、拘束していた部屋から逃げ出し、彼らの貴重なモビルスーツを奪い、クワイエット・ゼロ方面へ逃げ、よくわからんが戦闘行為をして、捕縛に成功。

なんですが、この逃げ出した瞬間から、もうグエルはもちろん、彼の仲間である船員たちも殺害対象になるんですよね。

何せ彼らはテロリストなので、国際法(ないかもしれませんが)を遵守する必要もなければ、人道に配慮する必要もない。彼らには大義があり、彼らを信じてくれている人々のために戦っている、レジスタンスの意識すらある。だから、正義はただ彼らにあり、他にはない。

しかも船員たちは「いなくなってもいい命」なんですよね。彼らは労働者階級の中でも恐らく底辺であり、天秤の片っぽに載っているのはベネリットグループ総裁、デリング・レンブランの命なのだから、彼らが殺害されたことを報じられたところで、別にまぁトップニュースにはならない。憎悪をさらに燃え上がらせる材料になっても、それはフォルドの夜明けにとっても上等でしょうから、問題にはならない。

そして彼らを運送会社が助けようとするかというと、まぁまず助けないでしょうね。それだけコストがかかるし、彼らの職場は危険な宇宙なので、何かの弾みで死んだりすることもあれば、もし爆散してしまったら破片を確認しに行くのも手間がかかるし、結局見つからないかもしれない。「行方不明」で処理するのが一番丸いんですよね。

しかもねぇ、クワイエット・ゼロ付近の宙域なんてそりゃねぇ。行けますかいなという。

結局彼らがどうなったのかわからないので、まさに生死不明なんですよね。ニュースでもちらとも出ず、話題にも上がらず。

別に彼らはサブのサブどころかモブキャラに近いので、彼らの生死は物語にとってどうでもいいのだろうとは思いますが、フォルドの夜明けが民間人で下層民であるスペーシアンであろうと殺害するのかというスタンスがわかりやすくわかるのに触れない。グエルが一切気にしていないというのもまた倫理観よ…というところですし、喉に小骨が引っかかったレベルでは引っかかる。

これも後で色々考えてみたら、「使う予定」だったんじゃないかな~というレベルの難癖は付けられるので、うぅん。

影も形も出なかった設定と言えば、ケナンジがプラント・クエタのテロにおいて、ジェターク社の警備隊が離脱しているのに気づいた描写。これもまーったく拾われていない。

ドミニコス隊の隊長であり、ラジャンの腹心の部下が気づいた情報なのだから、かなり重要度は高い。実際にテロ事件が起きて、ジェターク社は駆け付けたのかすらわからない状況なので、どう考えてもフォルドの夜明けを手引きしたのはジェターク社です。

ヴィムが死にましたが、ではここで可能性が高くなるのは、彼と誰かが組んでいる可能性、もしくは他に真犯人がいるか、です。ヴィムが死んだ後も統率を失わず、タイミングよく逃げているし、その後もカテドラルの捜索網にかからず逃げおおせている。しかも再びアスティカシア学園のテロに加担し、内部から食い破られているので、ベネリットグループの内部に裏切者がいるのは確定です。

じゃあ誰だ、となれば、真っ先に疑われるのはジェターク社でありラウダです。ラウダがテロを起こしたとして考えても、十分筋が通る。

ラウダは庶子です。だから跡を継ぐには嫡子であり兄であるグエルは邪魔者です。そのグエルがいなくなったタイミングで、さらに父親が死んでいる。そうなれば、自動的に次代のジェターク社を率いるのはラウダになるし、万が一グエルが戻ってきたとしても、すでにラウダが椅子に座っているのなら容易には奪えない。ラウダが最高学年でもう少しで卒業というのも見ても、なかなか悪くないタイミングです。

実はデリング暗殺が目的ではなく、ヴィムを排除するのが目的だった。その証拠にデリングは死んでおらず、ヴィムは死んだ。木を隠すには森の中ですが、犯罪の真の目的を覆い隠すには別のカバーストーリーを作る方がいい。殺人が目的だったらターゲット以外を無作為に殺害したり、強盗に見せかけたりですね。

しかし、ラウダは本編開始時点で全く警戒されていない。ドミニコスからマークされてもいなければ、学園テロが起こってもケナンジもラジャンも別のことを心配していてラウダはまるでいないものです。

なら2週間の間にラウダが犯人ではない、という証拠をつかんだのでしょうけれど、ここは大人の情報戦になり、シャディクがなぜラウダに接触しなかったのか、という理由も付けられるんですが、ここら辺が本当にまるっとないので、企業という腹の探り合い、権謀術数の舞台に移ったのにどうして肝心なところをやらないのか。ここら辺の一番面白い裏事情がすっぽり抜けているし、本編でもこういうゲームをまともにやっているのがシャディクとペイルCEOたちだけで、主人公たちが運だけ野郎になっちゃっているのが、本当に、本当に納得がいかない。会社が舞台なのにまともに会社経営をしている描写がないんですよ。株式会社ガンダムに至っては、クレーム対応に追われているし、ガンダムは破壊しろ~で憎悪の対象になっているし、なのに3年後まで存続しているし、一番まともにやっていない。おかしい。

ケナンジが優秀でラジャンに忠誠を誓っているのに、気づいた情報(しかもかなりでかい)の裏付けもろくにしていないというところで、どうしても私にとって優秀な軍人ではないですしね。こういう情報戦を怠るのは直球に人が死ぬので。本編ではこれがなくても何とかなるあっさい描写になっちゃったんでいいのかもしれませんけれども。

ラジャンの「あるいはそれが狙いか」も、これも宙に浮いちゃっているセリフなんですよね。ドミニコスではなく企業が独断で武力行使をした。それが問題なのはわかりますが、特にそれで何かベネリットグループがダメージを負った描写がないですし、総裁選が始まってそれどころではなくなって、何が狙いだったんだラジャンさーん!って感じなんですよね。ただこれも、上の空白期間に起きた何かしらの情報戦で、一定の答えが出た、っていうことなんじゃないかな~とは思うんですけどね。全体的にやはり実社会での振る舞いや、会社での活動や仕事などの描写がとてつもなく薄いし疑問符だらけなので、社会人としては気持ち悪いんですよね、水星の魔女。

そして一番は、やはり何と言っても私はカミル・ケーシンクですね。

最上級生で、チーフメカニックで、男性。どう考えてもジェターク兄弟と絡ませる気満々だろ!!!

普通に、素直に考えれば、彼はグエルとラウダの親友ポジションであり、弟であるラウダがサブキャラクターならば、グエルはむしろカミルとの絡みの方が濃くなるはずなんではないのか!?っていうぐらい、おいしい立場なんですよ。

チーフメカニックということは、メカニックの中でトップなので、ジェターク寮でトップパイロットであるグエルとラウダの機体の整備を務めているでしょうし、同い年なので3年間を共に過ごした仲。あの学園は会社ごとの寮であり、卒業すればジェターク寮はジェターク社へ入社するので、この関係性もポジションもずっと続きます。それこそグエルやラウダがジェターク社のトップに立った時、それを支えるモビルスーツ開発事業のトップはカミルになる。そういう関係です。

だから、グエルを支えるならば本来はカミルが大適任です。ラウダはパイロットで、その技術は重なり、グエルの方が腕前は上なので、彼のできないところをサポートする、というところでは、カミルにラウダは及ばない。

ラウダは元からペトラと一緒に二人で巣立つのなら、グエルの側にいるのはカミルであるはずです。グエルが会社を継ぐのなら余計に、優秀な技術者が必要です。しかし、カミルは最終的にグエルの継いだジェターク社ではなく、他の会社にいる。しかもその技術を活かせそうなモビルスーツ開発企業ではなく、運送業者っぽいところです。

技術はいつも日進月歩。知識も衰え、腕も錆びついていく。いくら陰で努力を重ねようと、ジェターク社はモビルスーツ開発事業なので、設備は大型で、最新技術も素人がおいそれと知れるようなものでもない。知ったところで、それをどう使い、どこまで使えるのか、というのは実際に触れないと実感がわかない。

恐らく、カミルはどんどん技術者としては使い物にならなくなっていく。新しい仕事に知識が圧迫され、カタログでジェターク社のモビルスーツを見るようになって、どんどん遠い世界になっていく。フェルシーも、それは同じです。

それにカミルがグエルと近しい関係になる予定だったのか、というところも実は私は疑問でして。

彼はグエルに対して最初敬語からのスタートで、実際に話したのは2期からです。しかし彼がグエルと友達ではなかったのかと言ったら、もちろん違うでしょうが、彼はメカニックとしてはグエルを立てようとしている、公私を分けるタイプなのではないかなと。

一線を引く、というと印象が悪いかもしれませんが、グエルはどこまでいってもグエル・ジェタークである限りジェターク社の御曹司です。そしてカミルは、彼に仕える従業員の立場です。友人でも、いや、友人だからこそ、カミルはメカニックとして、仕事としてグエルと接するときには明確に御曹司と従業員の立場をとろうとした。

グエルが友人だからとカミルを依怙贔屓してはいけないし、カミルはグエルが友人だからと雑に扱ってはいけない。

依怙贔屓してしまっては、他の従業員に示しがつかず、カミルに余計な嫉妬が集まってしまうし、グエルを雑に扱ってしまっては他の人間に勘違いさせてしまうし、仕事はきちんと抜かりなくやらなければならない。そういう甘えを、カミルは取り除こうとしていたのではないでしょうか。初めは。

だから、カミルがそういう壁もなく付き合えたのは、弟であるラウダだったのではないか?と。

カミルとラウダは、共にグエルを支える立場です。つまり、本当に志を共にする「仲間」というのは、グエルではなくラウダです。

まぁジェターク寮は皆そうですが、グエルは自分たちの上に戴いて、それを支える。という関係性です。

友達、ではなく仲間っていうのは、やはり特別なんじゃないかな~と思います。友達、というフランクなだけの間柄ではなく、友達のようにフランクな付き合いだけれども仕事や役割というオフィシャルなものを共有する、というのが仲間。であれば、カミルと本当に親友である、というのはラウダなのではないかと。

まぁ、2期からのカミルって存在感がないというか、ジェターク社の大人たちと同じく、ラウダやグエルのサポートを全然しないから、なんともなんともなんですが。彼がサポートできる場面でもやらないので。

ラウダのディランザを整備するのはペトラ、なのは、恐らく彼女はフェルシーが寮長決闘委員会に所属するとして、副寮長になるのだろうし、チーフメカニックになるのでしょうから、それはいいとしても、なぜ会社の手伝いをしているのか……。むしろ、次代の副寮長やチーフメカニックになるのでしたら、会社の手伝いをしている場合ではありません。メカニックとしての勉強をして、ラウダがまだ所属しているうちに引き継ぎを済ませなければならないはずです。ラウダと一緒に退学して専属秘書として働くならそれでいいんですが、それでいいのか?フェルシーを一人にしてしまうのか?自分はラウダと明るい未来にレッツゴーでしょうか。なんとも恋の前に友情とは儚いものですね……。っていうことになっちゃうんですが、うん。

カミルは3年生なのだから、もうそろそろ卒業ですし、必要単位もそれほどないはずです。一足早いインターンになりますから、学園も融通してくれるでしょうし、彼は上でも述べた通りいずれはジェターク社でもチーフメカニックとしてラウダたちを支える立場になるはずです。なら、この機会にラウダと一緒に働くのは全然アリですし、なんなら一緒に一足早く学園を去って本格的に働いてしまってもいい。なのになぜ、友達を放っておき、後輩にイバラの道を歩かせようとするのか……。

それから、20話のシャディクとの戦いでグエルにダリルバルデを届けるのも、これこそメカニックの仕事じゃないんか……?輸送途中に壊しちゃったり、不具合がないかを確かめたりしないのか……?そもそもあの大混乱の時、カミルはメカニックとしてフェルシーのディランザを整備していましたが、チーフとして最高学年としてジェターク寮の子たちをまとめて避難させたり、守ったりする方が先では?あの中で今一番誰もが頼りにするのはカミルしかいないですし、専用機ではないフェルシーのディランザなら、チーフメカニックであるカミル以外にも全然整備できるでしょうし。ん~……。

他にも、株式会社ガンダム含めた会社の描写だったりPROLOGUEのパーメット含めたSF設定だったり、色々言いたいことはあるんですが、しかし、シャディク、を初めとしたこれらの疑問の大半について、間にラウダを挟むとうま~く説明できるような気がするんですよね~……。

ラウダの設定もっとあったんじゃないのかなぁ……


はい、ラウダに対してしつけぇよと思われていると思いますが、でもねぇ~……彼、いくらでも設定盛っていい、最高の人材なんですよね。

なぜなら、彼はどんな重い過去や設定を持っていても、決して芯がぶれないからです。

シャディクのようにハーフだったとしても、彼にはそれ以上に大切な、「ジェタークの子息」で「グエル・ジェタークの弟」という強力なアイデンティティがあるので、ハーフだからという重圧や差別を受けても全く気にしないで、我が道を行ける。
レネに嫌われたところで彼女に興味など微塵もないでしょうし。
彼は弟なので、永遠にグエルにとっては庇護すべきものです。

だから、グエルの物語としても、人種問題としても、ラウダはこの上なく都合がいいんですよね。

例えばスレッタがスペーシアンとアーシアンのハーフだとして、それを糾弾されたら、彼女はきっと苦しむ。しかしラウダは、グエルが気にするなと言えばそれ以上関わろうとはしないでしょう。そしてグエルにとっても、ハーフだからなんだ、ラウダは俺の弟だ、という風にスタンスが変わらない。彼にとってラウダがハーフなんてことはどうでもいい。自分の愛すべき弟であるというのが絶対的な価値だからです。

だからラウダはハーフであったとしても芯が決してぶれない。彼の中にはグエルの弟という確固たるアイデンティティが刻まれていて、グエルの弟である限りグエルはラウダを肯定し続けるからです。お前は俺の弟だ、と。

彼らが揺らぐとすれば、本当はヴィムと血が繋がっていなかったというぐらいのものでしょうが、そんなことはさすがにあり得ないと思うし、それは非常にプライベートな、ミクロな問題です。

反対にハーフであることはマクロな問題です。このように、ラウダはマクロな問題ではなくミクロな問題の方が恐らくダメージを食らうので、社会的な問題をバンバン入れ込んでもキャラクターとしてダメージがゼロという、稀有な特性を持っているんですよね。ミオリネに対して怒ったのも、グエルを変えたというミクロな問題ですからね。

そしてキャラクターメイキングの段階で、わざとそのような特性を入れている。ラウダがグエルを大好きで、彼のために心を砕いているというのは初期から一貫していますし、そのためなら仕事だって会社だって背負い込んでみせるし、人殺しの罪だって厭わない、というのは、恐らくラウダの設定として最初から作られている。そうじゃなかったら、さすがにどこかでグエルに対して憎悪の感情が出ていると思いますが、唯一出した恨み言が「どこに行ったんだ兄さんは」という、音信不通になったことに対する不満といらだちなので、至極まっとう。グエルと再会したら気絶するというのも、大好きの表現としては少し常軌を逸しているので、こういうのがポンポン出てきて、兄に対する感情だけは誰が脚本をしてもぶれないところを見るに、これはラウダの芯として定められているものです。

しかし述べたように、ラウダのグエルに対する思いの表現は過剰なんですよ。ここまでやらなくても伝わる。ならばこの頑強さは製作陣にとって必要だった、と考える方が自然ではないでしょうか。何のためにそんなトラック並みの強度が必要なのかと言えば、当然荷物を背負い込ませるためです。

というわけで、ハーフ設定。シャディクとのものを考えてみましょう。

まず。ラウダはグエルとの異母兄弟ですが、出自が明かされていないんですよね。グエルは確実に、スペーシアンであるヴィムと、ジェタークの正妻なのでちゃんとしたところのお嬢さんを迎えているとすれば、正妻もスペーシアンの、純正スペーシアンです。だから彼の弟であり、わざわざヴィムに迎えられたラウダもスペーシアンであると考えられますが、逆も考えられます。母親はアーシアンなのではないか、と。

ヴィムがスペーシアンなので、ラウダの属性は、純正スペーシアン、スペーシアンとアーシアンのハーフの二つです。なぜなら共通する父親であるヴィムはスペーシアンなのが確定しているので、純正のアーシアンは絶対にない。しかしハーフはスペーシアンとも言えない。つまり、彼は母親が違うので、兄とは種族が違う、ということが可能なんです。

で、ヴィムはアーシアンに対する偏見、というのは、実は定かではありません。先代である父親は、「アーシアン風情が」と露骨に差別意識をむき出しにしていましたが、ヴィムはテロ行為が始まって「あの養子野郎が!」とシャディクに対するヘイトは向けますが、デスルターを使っている面々はテロリストで、ベネリットグループに対して来ているので、アーシアンであるというのはヴィムもわかっていると思うのですが、ディランザ・ソルで向かうときもシャディクにやり返してやるということしか言いませんし、デスルターが実際に使われているのを見ると「わが社の製品を使ってよくも!」と、テロ行為に使うことに対するような言葉なので、アーシアンごときが、ということなのかは実はわからないんですよね。

で、グエルもアーシアンに対しての差別意識、というのはわからない。地球の真似事と、地球を下げているようなことは言っていますが、彼はミオリネが嫌いなのでミオリネへの皮肉の方が強いでしょうし、地球寮との交流が少なすぎてわからないのですが、共闘もできているので多分まぁそこまで強くはない。

で、シャディクとラウダがどちらもスペーシアンとアーシアンのハーフであるとすると、シャディクが妙にグエルに大きな期待をかけていることにも、説得力が生まれます。

シャディクはグエルに対して、愛しているミオリネを一期から託しているんですが、グエルとミオリネはまぁ相性が最悪ですし、何よりグエルが歩み寄っても、彼女を決闘でトロフィーとして得てしまった以上、ミオリネがグエルに心を開くことはない。

それを、トロフィーとして得てしまったらミオリネは一生自分を許さないだろうと諦めたシャディクが、わかっていないはずがないのに、なぜかグエルになら託せると思って実際に託しているんですよね。でも結果は冒頭一話の通りなので、何もうまくいっていない。

そして二期でも、「穢したな、ミオリネを」と、グエルなら「上手く立ち回れる」と思っていた。そして総裁選で自分はミオリネを擁立せずに、バックにグエルが立ったので、またもやシャディクはグエルにミオリネを託しているんですよね。全くもってグエルに言ってないので、後方何面なんだよという感じですが。

しかし、もしラウダがシャディクと同じくハーフであったら、シャディクは自分とラウダを重ね、だから「自分の兄であるグエルなら」言わずともわかっているし、自分が大切にしている人を同じように大切にしてくれる、と一方的に期待した。だから大切なミオリネを託せる男だと思ったし、その後もその働きに期待していた。そして見事に裏切られ、失望した。あの激しい怒りにはそういう大きな失望が含まれていた。

まぁグエルからすれば知ったこっちゃないんですが……。だってシャディクはグエルの弟でも何でもない、むしろライバルですからね。グエルの弟はラウダだけで、ラウダとシャディクが同じだと言われ、だから自分だって愛される権利があるとか言ってきたらグーパンで殴ると思いますが。

しかしシャディクって、勝手に誰かに期待して、勝手に誰かに失望して、勝手に諦めるキャラなんですよね。

そして彼は孤独です。スペーシアンとアーシアンのハーフという、どちらにも属することのできないアイデンティティが希薄な生まれで。肉親から捨てられた孤児で。指導者として励んで。アーシアンからは過度な期待を一身に背負っていて。理解して従属する人はいても、共に歩んでくれる人はいない。

そんな中でもし、自分と同じスペーシアンとアーシアンのハーフで。血のつながった母親に育てられ。捨てられるのではなく父親に引き取られて。大切な存在を共有して指示を仰ぐのではなく進んで助けてくれるスペーシアンの仲間がいて。指導者だけでなく誰かに頼る立場も許されて。腹違いの兄を愛していると声高に言える、自分を偽らなくてもいい環境にいて。何より、愛して守ってくれる、血のつながった兄がいる。スペーシアンとアーシアンのハーフなのに、そんなもの関係なく愛してくれる、スペーシアンの兄が。

そりゃもううらやましくて仕方ないでしょうね。自分もこんな兄が欲しかった、と必ず思うでしょう。そして空想するんじゃないですか?「もしグエルが自分の兄だったら」と。重ねるんじゃないですか?「今あそこでグエルが構っているのがラウダではなく自分ならいいのに」と。

だからグエルに対して非常に期待していたし、優しく接するし、あわよくばと勧誘するし、ラウダに対しては少し突き放すような態度を取り、利用する。

誰に対してもなつっこい態度を取りますが、ラウダに対してはあくまで本編に出ている限りですが、少し試したり嫌味な態度を取っているように私には見えるんですよね。どうも含みがあるような。

グエルを止めたいラウダに「悪いねラウダ。俺もこの戦い、見たいんだ」
グエルの代わりに決闘委員会に来たラウダに「ようこそ、歓迎するよ。ジェターク寮寮長、ラウダ・ニール」

この決闘委員会に来たラウダに対しての、値踏みするような言い回しや目線、かなり意外だったんですよね。なんの意味があるんだろうなと。グエルの代わりとして、どれだけできるかの確認なのかな~とも思ったんですが。

しかし、この後スレッタに勝つために、ラウダ個人としてはあまり乗り気ではなかった交渉を持ち掛けた(乗り気ではなかった、というのは、ラウダが地球寮の子たちを見ないようにしていたり、裏工作をする父親に「こんなことしなくても兄さんは勝ちます」と言ったり、どんな条件でも逃げなかったグエルを尊敬しているので)。という縁を築いた割には、2期ではまーったく接触がなかったので、上記もこれも結局なんだったのか謎。だったんですが。

ただもし、ラウダがシャディクと同じハーフであるのにも関わらず、彼と違って「何の苦労もないような恵まれた環境」にいるように見えたら、内心許せず、気に食わない相手として、こうしてチクチクする時を待ちわびていた可能性もあり、それが上のような態度に出ていた。とすると、まぁシャディクのキャラクター性としてこういうネチネチした態度を取り、彼を守ってくれるグエルのいないこの絶好の好機に、どうしてやろうか、これすら乗り切れるのかどうなのかと値踏みしていたのが、この一連の行動だった。として見ることも可能です。あくまでラウダのバックボーンがこうであったら、ですが。

この設定を私が考えついたのは、ラウダの母親が明確に出てきていなくて、話題にもなっていない以上、こういう可能性もある、ということもできるからではありますが、本編でこういう描写もあったからです。

それが20話でのグエルとシャディクのモビルスーツ戦です。熱い戦いではあるんですが…こうして写真で並べてみると、グエルが一方的にやられてないか?と。

ちゃんとライフルで撃ったりもしているので一方的というにはちゃんと戦っていますが、それにしても押され過ぎでは?と。

グエルはシャディクに右腕を落とされたりサーベルを失ったりしていて、それからはほぼ防戦を強いられているのですが、ひるがえってシャディクは腕どころか最初のわざと当てさせた攻撃以外に何も当たっていない。かすってすらいないんですよね。すべての攻撃を避けているかガードしている。

つまりグエルはミカエリス相手にボロボロにされているんですよね。

しかしそれって、ガンダムに乗っていないパイロットの中で最強はシャディクになってしまうんでは?と。ミカエリスはドローンによる多角的な攻撃や、仕込み武器によるトリッキーな戦い方をしていますが、11基のガンビット+エアリアルに攻撃されても、反撃して攻撃をさばいて、あと一歩まで追い詰めていたグエルが、あくまで機体を入れて3方向の攻撃しかできないミカエリスに苦戦するってあり得るのか?と。

そしてそうなると、やはりシャディクが最強になるんですよね。とっととグエルと戦ってミオリネを奪っていれば、晴れて結婚できたのに、というおいたわしい設定でもそれもシャディクらしいんですが、一般モビルスーツ最強がグエルの魅力の一つでもあります。

その魅力の一つは存在していなかったのか?あんなにモビルスーツにぶいぶい乗って、初見モビルスーツや型落ち機でも乗りこなし、ガンダムにあれだけアンチドートなしでガチンコ勝負をしてきたパイロットに、わざわざ最強ではない、という設定をつけるというのもおかしな話ではないのか?とも。

それに、グエルの戦い方もちょっとおかしいんですよね。グエルの得意なダリルバルデの使い方は、ドローンをアシストに自分が戦う戦い方であり、ドローンを両腕に装備しての接近戦からの粘りが印象的です。

ところが、両腕を失ってもドローン4つで攻撃し続けたりしていて、一向に自分の腕に付けないんですよね。なぜなのか。

シャディクにドローンの攻撃は防がれたり払われたりしているので、ドローンだけの攻撃は有効ではないし、グエルの戦闘スタイルでもない。のに、グエルはついぞドローンを腕に付け、接近戦を挑まなかった。

スレッタにはしていたのに、どうしてシャディクにはしなかったのか、全くもってよくわからないんですよね…。決闘で勝って総裁の後ろ盾を得なければならなかったスレッタよりも、ストレートに親の仇でジェターク社を脅かす敵であるシャディクの方が手加減する理由なんてないんですけど、どういうわけか本気で戦いきれていない。迷いがあるんですよね。

そしてグエルの様子もなんか変なんですよね。ちょくちょくシャディクに迫られて、それにぼこぼこにされて耐え忍んでいたり。ファラクト相手に鈍重で接近戦しかないディランザでも積極的に距離を詰めたり、盾を囮にしてエアリアルに近づいたりしているのに、シャディク相手には盾の中に隠れて閉じこもってしまっている。なんかど~も、グエルらしくない。

結局耐えて耐えて、一瞬の隙をつくのではなく、真っ向勝負に目を向かせて自分で隙を作り出しているんですが、、もっと早くやらんのかいな?と。

ただ、もしグエルが苦戦する、というのはすでに決まっていて、その原因がラウダがハーフであるからとしたら、苦戦する理由や、一方的で、ドローンを使うという、どちらかというとダリルバルデAIの戦い方をしているというのもわかるんです。

なぜならシャディクは、ラウダの「あったかもしれない悪夢」になるので。

もし、ラウダがヴィムに引き取られることなく、そのまま孤児となっていたら。
ハーフであるという出自に悩んで、スペーシアンの既得権益が許せない、アーシアンがその立場に立つべきだと考えてしまったら。
ミカエリスに乗り、自分に刃を向け、憎しみを叩きつけてきたら。

グエルの精神状態は万全ではありません。外見もカラーも全く正反対なエアリアルにディランザ・ソルを幻視してしまって動けなくなったりしているので、もしシャディクがハーフであると明かされ、ラウダと同じハーフであると結びついたら、シャディクとラウダを重ねてしまうということは、全くもってあり得る事態です。

だからシャディクを倒すために全力を出せず、もしかしたら戦うことすら放棄してしまってダリルバルデが代わりに戦い、そのダリルバルデの戦い方はドローンで牽制し、専守防衛な戦闘スタイルなので、あのように防戦一方だった。というのが本当で、その設定が消し飛んだためになんか理由がないのに苦戦している状態になっている。というね、また邪推です。

ただ、そうであれば、シャディクとグエルの戦いは、身分違いの女の子に恋をしてもがいてきた男の子と、弟を守ろうとする兄の、意地と矜持の戦いであって、アーシアンとスペーシアンの代理戦争ではない、というのもまた、わかりやすく表現することができます。

結局のところ、グエルのシャディクへの返答が「自分の罪は自分のものだ。だが、ケジメはつけさせる!」であり、シャディクが一番グエルに期待して激昂したのは、「穢したな、ミオリネを」「お前がついていながら、ミオリネは手を穢すことになった!」なので、グエルは自分たちの罪の話、シャディクはミオリネを危険にさらしたことをそれぞれ互いに叩きつけているので、シャディクがアーシアン側のスペーシアンへの怨嗟を吐いているのでスケールの大きな話に思えますが、やはり根っこは個人と個人のぶつかり合いです。

シャディクはヴィムの話だったり、アーシアンの主張もグエルを揺さぶるために出していて、どれかが引っかかればいいという気持ちであり、ずっとずっと言ってやりたかった本音を叩きつけているというところでもあり、要は恐らく八つ当たりです。グエルは、シャディクにとっては何か事情のありそうなエランと違い、純粋なトップエリートスペーシアンで、何不自由なく生きてきて無自覚に自分たちアーシアンを踏みつけてきたスペーシアン代表みたいなものに見えているとも思いますが、彼はあくまでまだ子供で、シャディクの言ってきた搾取構造は彼の親世代やその前の世代がやってきたことですし、シャディクは同じアーシアンの底辺層であるノレアたちや、地球寮の子たちを巻き込んでいるし、セドたちを見てきたグエルにとって、シャディクは十分恵まれた側でもあるんですよね。だって彼には、サリウスという親がいる。グラスレー社CEOというスペーシアンのトップ層で、シャディクに十分な養育をし愛情を与えてくれた人が。それつつかれたら、一気にシャディクは舌戦でも負けるんですが、それでええんかいな。

案の定グエルはシャディクのアーシアンとしての嘆きではなく、「いやご高説をのたまおうが結局お前はテロリスト(犯罪者)(俺と同じ)だろう」という部分に着目して断罪しているので、う~ん。グエルが一瞬ハッとなった場面もあるのですが、「テロに加担した逆賊が何を!」「戦争シェアリングですべてを奪い、他者を蹴落とす生き方を強いてきたのは、お前たちだ!」、グエルのその後の言い分は「知っているさ。俺もお前も、自分の罪は自分のものだ」で、どうも直前の発言ではなく「俺は、俺の罪を肯定する!」という、どれだけの大罪をこれからも犯すのだとしても、それをすべて背負う、というところにシンパシーを感じているようですし、最後のシャディクに「俺はお前を許さない。だが、死ぬことも認めん」と、簡単に死ねると思うな、生きて罪を償い続けろ、というオルコットから言われたメッセージを返した。ここでもやはり、俺もお前も同じ大罪人で、罪を背負い償い続けなければならない。それがどんなに苦しくても。英雄として死ぬことも認めない。というような内容、だと私は感じるので、スペーシアンの罪を叩きつけられてハッとなったって、何にハッとなっているのかよくわからないんですよね。

その後スペーシアンのアーシアンを搾取する生き方を変えようとしているのか、というところも結局のところ謎です。グエルはこの後アーシアンとスペーシアンの戦いではなく、打倒クワイエット・ゼロの戦いに巻き込まれていきますし、シャディクたちのバックだった宇宙議会連合はド直球の悪の組織ですし。

3年後の地球との交渉はサリウスとデリングという旧ベネリットグループとミオリネたちが行っていますし、グエルが受け取ったのはアスティカシア学園です。もしかしたらセドたちが学んでいるクラスに寄付をしているかもしれませんが、学園をケレスに借りを作ってでも買い取って、仕事も斡旋してもらっている状態で、孤児院に寄付をするような余裕があるのかと思いますし、もし何かを削って寄付をしているのだとしたら、それは健全な会社経営ではありません。それにセドの映像は、サビーナの話の中で出てくるので、グエルたちではなくミオリネ、もしかしたらアーシアンの互助で成り立っているのかもしれません。ミオリネが開放した資産はすべてスペーシアンに吸収されましたから。

大きくグエルが変わっている、と本編で明確に示されたのはアスティカシア学園の運営ですが、それも「なぜ」なのかよくわかりません。学園ですので、先生になる夢を持っているスレッタを応援し、旧ベネリットグループの総裁で学園の理事長だったデリングの娘で、ひと時とはいえ総裁だったミオリネが継ぐならともかく、なぜグエルが継ぎ、必死になって守る必要があったのか。

グエルは今、ジェターク社が守るべきものの優先リストに入っているので、それを後回しにしてアスティカシア学園を優先する理由は、本来ない。だから何かがあって、そうなったというはずです。セドのことを軽くあしらっていますし、3年前のグエルは教育に対しての関心は全然なさそうですし、学園がひどいことになっても、特段何かをしている様子もなくクワイエット・ゼロに集中しているので、グエルが教育にもとから熱心だったということも、学園に対する思い入れが人一倍あった、ということもないので、やはり何かしらのきっかけがあるはずです。

ただやはり、本編の情報だけではよくわからない。空白の3年間に何かあった、としても、「アスティカシアの存続も助けてやったろ?」存続段階ですので、ベネリットグループ解体で後ろ盾がなくなりどうしようか、というタイミングでグエルが手を挙げたということでしょうから、1年、半年、一か月未満?とにかくすぐにグエルが、ジェターク社もどうなるかわからない状態か、かなりの混迷期にアスティカシア学園の存続に手を挙げたことは確かです。となると、戦いが終わってすぐぐらいに、アスティカシア学園を守ろうと決意するだけの何かがあったはずになりますが、片鱗が見えない。

一応フェルシーたちが2年生なので、卒業させてやりたかったというのもあるでしょうが、それは株式会社ガンダムも、ケレスも、グラスレーもブリオンも条件は同じです。だったらどうしてグエルだけが負担している、ケレスとセセリアから借りているようになっているのか?一番資本があるから出せってことでしょうか?なら地球に流す前にいくらかは流せよミオリネ、って話になります。

…まぁ、ミオリネも経営センスがないって感じなので、こういう不平等契約がまかり通ってしまった、というのも可能性としては全然ありなんですが、それってどうよ…と思うので、やはりここでもラウダがスペーシアンとアーシアンのハーフである、という前提を入れると、これもわかる話になるんですよね。

あそこはグエルにとってラウダと夢を分かち合い、責任を分散して、子供らしい自由を謳歌した青春の場です。いわば、グエルにとって一番輝いていた、宝石の日々を送った場所でしょう。

ヴィムは当初は子供に対してちゃんと目線を合わせて接する父親でしたが、ラウダを引き取ってから徐々にか急激に性格が荒れ始めている。暴力を振るうことはグエルの反応からしてなさそうですが、精神的にプレッシャーをかけて思い通りに子供をコントロールする、というのはやっていたでしょう。グエルもそれに対しての返答は早いし、言い争いもできていたぐらいですからね。

だから、グエルにとって生家はあまり楽しい場所ではなかったはずです。ヴィムに理不尽に怒鳴られたりする場所。グエルもヴィムもそこが家なので必ず帰らなければならず、一緒にいるのなら顔を合わせなければならない。逃げ場がないんですよね。

そんなグエルにとって、16歳になってやっと与えられたのがアスティカシア学園の寮生活です(その前などは全寮制ではないとしてね)。ヴィムが望むような成績や振る舞いをしていれば過干渉されることもなく、自分の部屋という自分だけの城もある。大好きなモビルスーツはいくらでも乗り回していいし、周りのレベルも高い。

なにより、ラウダを独り占めできる。ドミニコス隊に入る、というのは、私はグエルが個人的に持っていた夢で、ヴィムはあずかり知らなかったのではないか、と考えているのですが、だとすればその相談が大っぴらにできる。だってヴィムはいないし、彼に密告するような使用人もいない。

何よりグエルは、ラウダが父親側についてしまったと考えてしまったら、瞬時に肩を跳ねさせて、父親に「黙れよ!」という口をきいてぶん殴って通信をシャットダウンするという、かなり強い怒りを示すので、グエルという人間はラウダという人間が自分から離れたり裏切ったりすることに対して過剰に反応してしまう人間である。ということは、ラウダは自分の絶対的な味方である、という意識がかなり強いタイプなのではないでしょうか。

そして常日頃行動を共にしている。ラウダから引っ付いて歩いているとしても、嫌なら拒否していいし、拒否すれば5話のようにラウダはグエルに近づかないので、グエルからラウダに離れてくれと頼んだことはないか、あっても必ず最後には共にいることを許しているんですよね。これってさぁ、グエル自身がラウダといることを望んでいるってことなんじゃないの?って。

そういう人間であるならば、自分とラウダというツートップでジェターク寮という自分の国を治め、グラスレーもペイルも己の腕っぷしで黙らせて、ナンバーワンとして君臨していた学生時代は、まさに我が世の春のような状態だっただろうと思います。それは、ラウダにとっても。

あそこは職業訓練校のような場所なので、グエルもラウダも己の夢のために研鑽を積んだ場所である。グエルだけでなく、ラウダにとっても輝かしい青春の場所です。それを守りたかった。それがなぜハーフ設定と関与するかと言えば、ハーフであっても差別されない場所であり、夢を自由に見て叶えられる場所にしたかったから。ラウダのように。

シャディクという前例から、ラウダがそのようなダークサイドに落ちずにいられたのは奇跡であり、ラウダから実際に刃を向けられてこの関係は絶対ではなく永遠でもなく、自分が間違えてしまったら、離れてしまったら、ラウダにストレスをため込ませてしまったら、途端に瓦解してしまう脆いものであるともわかったはずです。

ラウダと同じハーフの子供たちが夢をあきらめる必要のない学び舎を作る。それをラウダと一緒に行う。それは、ラウダの「もしかして」を完璧に排除し、ラウダから奪ってしまった青春を償うことにもなり、何より将来の約束になる。ハーフであるラウダを、その過去ごとすべて愛する、という証明にもなる。

「戦争シェアリングですべてを奪い、他者を蹴落とす生き方を強いてきたのは、お前たちだ!」という言葉にハッとしたのも、お前=スペーシアン=グエル自身が、そのような生き方をシャディク=ラウダに強いてきてそしてこのような強行に陥らせてしまったのだ、ということになり実際に奪い蹴落とす生き方をしてきた学生時代を振り返り、もう二度とそのような人間を生み出すまいと、かつての己が生み出された学園を率いてやり直す。そういう理由でということになる。

ラウダにとっても、グエルが自分から「やりたい」という夢をサポートするのが彼の人生の指標ですが、それをグエルから「一緒にやろう」と求められるのは、今まで以上の繋がりであり、彼が自分のやりたいことを尊重し、頼ってくれている、ということにもなる。

今までのグエルとラウダの関係は、グエルが「自分がやりたいこと」に邁進し、ラウダがそれをサポートする、あくまでグエルだけが主役の行為でした。けれども今度は「グエルがラウダと一緒にやりたいこと」になるので、グエルの人生にラウダが関与する権利を得ることができる。ドミニコスのエースパイロットになるグエルを見送るのでも、CEOとなるグエルを仰ぎ見るのでもなく、一緒に学園を経営していく。

なんでしょうねぇ。全部言えているのかはわかりませんが、会社のことは共同でやるにしても仕事ですが、学園でのことは息抜きに近くなるんではないですかね。彼らは二人とも優秀なパイロットで、成績も優秀でしょうから、パイロット科の授業を主に担当するとなれば、グエルにとってはフレッシュなパイロットを教練し、ラウダにとってはそんな彼らを鍛え上げることでグエルの楽しみへと貢献し、将来的なジェターク社の従業員やお客様を作り出すことができると、一石二鳥です。学校行事を増やすのも楽しいかもしれませんね。

そんな風に明るい未来を描ける。別にハーフという設定がなくてもいいですが、ハーフという設定があれば、この世界のどうしようもない人種差別問題解消へ向けての足がかりになる。物語により深みが増していくんですよね。

だって学園のトップ経営陣であるラウダが、ハーフという弱い立場の人間なので、アーシアンもスペーシアンも、自然と差別意識は低くなっていく、そういう意識を発露させることをグエルは許さないでしょう。それはラウダに対して危害を加える可能性があるということですから。そして学生たちにとっても、自分たちが尊敬する先生がハーフであれば、その差別構造について真剣に考え、答えを出すことに繋がる。

シャディクを救うことはできない。だってそれはもう起きてしまったことなのだから。けれども未来は救える。これからの子供たちは、ハーフであるからと差別する世界も、差別される世界も、アイデンティティに苦しむ世界もなくしていける。

であれば、シャディクとグエルの戦いというのは無駄にならない。シャディクの過去も、慟哭も、未来の子供たちという形で報われる。それは、シャディクにとって幸福ではないでしょうか。彼は未来のために戦おうとしていたのですから。

そしてこれは、現実的な考えでもあるし、同時に実現が難しい問題でもある。今すぐが無理ならば未来に託すべく今すぐ行動するべきだ。しかし今すぐ解決できないのなら、私たちが救われないのなら金も時間も労力も無駄だと動かない。そうしたほうが楽です。けれどもそれでも、アニメの中だけでも、未来が変わっていってそのゆっくりとした変化が許容されるのであれば、それこそ未来があるのではないでしょうか。

だから、グエルはアスティカシア学園の存続にこだわった。そしてこれは、オルコットにも繋がる考え方になる。

オルコットはグエルと同じ守る側の人間です。特に、子供を守りたいと強く願うもののはずです。彼が宇宙から離れ、地球へと身を寄せたのは、息子の喪失が原因で、恐らく彼はアーシアンの子供たちが息子と同じように戦争の犠牲になっていき、それがどれだけの悲劇なのかということがわかったから、失った息子のためにもそういった子供たちを助ける。そのために戦うと、決意したのではないかと思います。彼は正義感が強い人だったので。

大なり小なりね。大きいのは命をアーシアン(多分ナジ)に救われたからだとは思いますが、それからもそこで戦うと決めたのなら、何かしら彼も守りたいものがあったからで、スペーシアンのアーシアンへの歪さを見たからではないか、と思います。それまでもオルコットは上官や命令に反発しながらも、それでもスペーシアンとして戦い、そして息子が死んだのはアーシアンが襲撃してきたからなので、実質的な息子の仇であるアーシアンに敵対する復讐の鬼になるのではなく、協力するようになるのは、かなりの価値観の大転換があったはずです。そしてそれは、彼の息子が大きな理由を占めている。

しかし彼は、ソフィとノレアという子供が、ガンダムパイロットとして命を削る現状に目をつぶり、息子が死んだという思い出からすら目をそらしています。あげく、まさに息子のように瓦礫に潰れ、頭から血を流して今まさに命の火が消えようとしているシーシアを、もう助からないからと冷淡に見捨てます。

助けられないとわかっていて、自分も瓦礫に潰されて死にそうになっているのに、それでも「父さんが助けてやる」と必死に手を伸ばした父親だったにしては、冷たく、そして淡々とした対応です。

しかしオルコットがそれに心が揺り動かされていたのは明らかで、彼はそれから息子のことを思い出していて、それを忌々しげに「捨てただろう」と言っています。彼は息子に対する思いや無念をすべて捨てた。それはなぜなのか。

結局そうするしかできなかったから、だと考えています。私は。

どんなに必死に戦っても子供は容赦なく死んでいく。目の前で、瓦礫の下で。その死を何度も何度も目の当たりにしてしまう。どうしたって犠牲になるのは民間人で、弱いものです。そして、結局ガンダムに頼るしかない戦力しかない、というのも拍車をかけたのでしょう。

プロドロスがどの程度のモビルスーツなのかはわかりませんが、敵機がもう二機もいれば、あるいはグエルが空中に飛び上がって敵の目を引いてくれなければ、確実にオルコットは死んでいたでしょう。そうでなくとも、オルコット以外の戦闘員は一機やっと墜として全滅です。御三家のモビルスーツや、訓練を受けたスペーシアンには、ドミニコス隊でなくとも勝てない。

翻ってスペーシアン側は、ベネリットグループも宇宙議会連合も最新鋭のモビルスーツを当然のように使っている。プロドロス、それから生身のロケット弾や砲弾。これではアーシアンが勝てるわけがない。一機のモビルスーツを倒すのに戦闘員の大半を消耗して道連れにできるかできないかでは、命がいくらあっても足りません。

それを逆転するのがガンダムです。もちろんドミニコスの本隊やエースパイロットには勝てなくても、警備隊ならば何機も墜とせる。アーシアンがスペーシアンに武力で対抗するには、どうしたってガンダムの力が必要です。

そしてそれは、子供の命と交換です。死ぬ前に苦しみすらする。そんな現実を目にして、自分はその現実をどうしたって変えられないのだと痛感していたのなら、現実から逃げるか現実から目をそらすか、どちらかしかありません。

オルコットは自分の中の青臭い正義感や父性を殺した。同情してしまったら自分が辛くなるから。手を伸ばしてしまったら、守りたくなってしまうから。手を握って、戦場から逃がしたくなってしまうから。でもそれはできない。アーシアンのため、レジスタンスのためには彼らには戦ってもらわなければならない。何度だって死んでもらわなければならない。

でも辛くないわけがないし、完全に殺せるわけがない。だって彼は、ケナンジが未だに覚えているほど真っすぐな頑固者だったのですから、ずっとずっと、子供たちが死ななければならない現状に怒っていただろうし、守ってやりたいと思っていたでしょう。彼らは生きている。まだ手を伸ばせば届くのですから。

だからグエルとオルコットが出会った意味があったのなら、その熱い思いを思い出すことであったはずであると私は思います。なぜなら彼には、まだ守れる子供がいる。苦しんで独りぼっちで、本当は助けてもらいたいと強く望んでいた子供が。

ノレア・デュノク。彼女は死ぬことに対して非常に恐れを抱いていた。ガンダムなんて乗りたくなくても、そうするしかなかった。彼女がスペーシアンに対して異常なまでに憎悪を抱き、アーシアンの待遇に対して詳しかったのは、あれは実は大人の受け売りだったのではないでしょうか。

子供は大人の価値観に非常に大きく影響されます。そして、大人に褒められるためならば、しばしば何でもします。

スペーシアンに対して憎悪したら「褒めてくれた」なら、そうするでしょう。スペーシアンを殺したら「褒めてくれた」ならそうするでしょう。

ノレアはソフィのことを親友や姉妹として思っているとは思いますが、親というものはいません。しかし、「きっとナジにも、オルコットにも、あなたにもきっとわからない。スペーシアンより命の軽い、私たちの怒りが!」と、わざわざ名前を出しているので、ナジとオルコットはフォルドの夜明けの数いるメンバーの中でも特別な大人であるだろうと思います。「わからない」と言うことは、「わかってほしい」ということでもあるのだろうとも。エラン5号とは会ったばかりであり、彼のことはスペーシアンであると思っているので、信頼するにはまだ足りない。しかし、ナジとオルコットは、自分たちアーシアンを助けようとしてくれる人たちであり、仲間でもある。例えどのように扱われていようとも。

ニカにあれだけ暴力を振るったのも、彼女は偽物であろうともナジが「父親役」なんですよね。対外的にナジはニカにとって父親である。しかしノレアの父親ではない。自分の方が命を削っているのに、役に立っているのに、傍にいるのに、ノレアはナジの娘にはなれない。もちろんオルコットの娘にも。

彼女にとって親と言えるような大人というのは、ナジとオルコットだけです。もっと言えば、自分を大切にして愛してくれる保護者が欲しかったのでしょう。

ここは孤児の多くに共通しています。みんな愛する誰かが欲しかった。シーシアは愛する父親を失ってグエルを殺そうとするほど激怒し悲しんだ。シャディクはミオリネを得たかった。レネはキープ君や男性からちやほやされたかった。みんな愛してくれる人を求めている。あるいは何かが欠落している。

そうでない孤児たちはとても安定しているというか、長生きする人たちなんでしょうね。セドなんかはシーシアが死んだばかりでもありますが、グエルにアカデミーに行かせてくれるようせがんだり、奪われたことを憎んで復讐に立ち止まるのではなく、貪欲に生きて前に進もうとしている。シャディクの取り巻きたちは、イリーシャとメイジーは、彼女たちで愛し合う完結している関係で、サビーナは愛とは違うでしょうが、シャディクに自分の命を捧げ未来を託しているので、依存はしているのでしょう。

それでいくと、ミステリアスなエナオは、多分彼女は自分というものを持っている。シャディクの秘書的な立場をしているのも、彼女はとても安定しているからなのではないですかね。普通ならサビーナがその位置にいそうなものですから。彼女はイメージ的にも副官、シャディクの右腕的ポジションです。

しかしシャディクは仕事の右腕としては、サビーナではなくエナオを選んでいる。それはなぜか、というと、彼女はシャディクに依存しすぎていない。指示がなくとも自分で判断して動ける。単独行動でニカを発見して確保できているのも、自分でそれが必要だと考えれば素早く動ける。シャディクが完璧だとも思っていないし、自立して考えることができる。だから仕事という大人の位置に、そして汚い手段も惜しげもなく見せることができる。彼女は大人で、割り切れることができるから。

そういうことじゃないんですかねぇ。

そういう意味では、ノレアよりもソフィの方が大人です。

彼女は自分が使い捨ての消耗品で、ガンダムに乗って死ぬことが決まっていることがわかっている。だから戦いに楽しみを見出し、一瞬一瞬生きることを謳歌している。いつ自分が死ぬかわからないのなら、辛気臭く生きるのではなく、楽しんで生きたいと割り切っている。覚悟しているんですよね。そして自分たちが家族から愛されるなんて夢を見ることすらできないこともわかっている。だからぬいぐるみを疑似家族として置いている。父親になってくれる人も母親になってくれる人もいない。なら、空想上に用意すればいい。恐らく友達なども遺されていたぬいぐるみの中にはいたんじゃないですかね。

「お姉ちゃん」を求めたのは「自分を殺そうとする綺麗な声」をしていたから。多分ソフィにとってエリクトは世界で一番美しいものだった。だから求めた。愛されようとして手を伸ばしたのではなく、殺されることを覚悟で、それでももう一度会いたかった。触れてもみたかった。彼女にとって死神であったとしても、それでも求めた。

彼女が見たなかで一番綺麗な人だから。彼女に殺されることはソフィの願いでもあったかもしれない。いずれ死ぬのなら、自分が決めた死に方で死にたい。そういう思いがうっすらとでもあったのなら、ソフィにとってはむしろ福音であったかもしれませんね。自分が見た最も美しいものによって殺されるのですから。

そして、ノレアにはそういう考えはない。

ノレアにとって死は恐ろしいものであり、いずれ死ぬのだとわかっていても到底受け入れられるものではない。自分が使い捨ての道具であることも受け入れられないし、愛されることを諦めることができない。彼女は冷静な性格でスペーシアンに対してアーシアン代表のようなことを言いますが、その実彼女はきっと誰よりも子供で、誰よりも普通だった。

であれば、普通の子供が何を求めるかと言えば、自分を愛してくれる存在です。それは「親」と呼び称される存在です。ナジとオルコットに親となってほしかった。自分を守って、愛してほしかった。優しく接してはいたと思います。ナジは。でもノレアの命を使いつぶそうとしている点では変わりない。そしてそれは、親ではない。少なくともノレアにとっては違います。

だって命をかけることなど、ノレアはしたくなかったのですから。したくないことをさせる、止めたり救うことをしない人間は、親ではない。でもノレアの本音として、二人に親になってほしかった。「もう戦わなくていい」「ガンダムに乗らなくていい」と言ってほしかった。しかしそれは叶わなかった。だからガンダムに乗って死ぬことを選んだ。

彼女の価値や、彼女自身が獲得した信念は、アーシアンのために戦い、そして死ぬことだから。

でもそれってあんまりじゃあないかと思うし、オルコットもナジも、そんな子供を放っておいて死なせたのは、彼女に関わってその教育を施してしまった大人として、あまりにも酷いことではないのかと思います。

彼らは偏った思想教育を受けて、要は自爆テロのための駒として育てられた子供を、そうだと知って引き取り、そのように運用してしまった。それはとても罪深い。

水星の魔女という物語は、私は大人と子供の話でもあると思います。どんな言い訳をしようが、シャディクですら学生である以上子供であり、ノレアたちも子供です。助けを求めていた子供です。それを大人がただただ使いつぶした、独りぼっちで死なせたなんて、あまりにもやるせない物語であるし、それをわかりやすく表現していない以上、現実がそうだからそうなったんだ、と言うには弱すぎる。悲劇的であるのに、その悲喜劇的な部分はどれなのか。という部分が非常に弱い。

ノレアはかわいそうな子供ではありますが、彼女が何を真に望んでいたのかというところがわからない。今のままでは、ただスペーシアンが憎かっただけの子でしかないし、それは彼女が自分で考えたうえでの結論なのか、それとも誰かから植え付けられたものなのかがわからない。つまり、彼女の本当の望みとは、スペーシアンを皆殺しにすることだったのか、それとも他にあったのか、望みすら思いつけないほどの状態だったのか、それがわからない。そうなると、同情するにしてもどれで同情するのかというのが曖昧になってしまっていると思うんですよね。

5号がノレアを助けられなかったのも、私は彼女は理解者が欲しいわけでも恋人が欲しいわけでもなく、ただ親が欲しかったからなのだ、と思うんですよね。5号はどうしたって親にはなれないんですよ。彼の精神性からも、年齢からも。そしてノレアは救ってほしい人をもう決めていた。

オルコットか、それともナジか。自分を知っている、自分が信じたいと願った大人に助けてほしかった。だから5号の手を取り生き延びる道を選ばなかった。それは彼女の救いではないから。

ではないんかな~と。

そしてそれはオルコットの救いにもなったはずなんです。彼は息子を失っています。でもノレアはまだ助けられた。届かなかった手をもう一度届かせることができたはずなんです。オルコットは瓦礫に潰されていない、ノレアも潰されていない。ガンダムから引きはがせば、例え数秒数分でもあっても生き延びることができる。もう一度わが子を救える。そのラストチャンスだった。

セドもいますが、彼は前向きで自分のやりたいことをしっかり決めているので、一人でも大丈夫です。しかしノレアは違う。彼女は親が欲しくて、どう生きていいかもわからなくて、しかし死にたくはないと足掻いている。彼女一人だけではどこにも行けない子供です。

だからこそ、父親が必要になる。あの状況下ならば、オルコットは管理の方のモビルスーツをパクって駆け付けたでしょうから、どんな妨害を受けたとしても、頑丈な体を持って駆け付けられる、ということでもある。ノレアもガンダムという体を持っているから、ちょっとやそっとじゃ死なないし、追われても逃げきることができる。そして逃げることにかけては誰にも負けない5号がいた。全部お膳立てはできていたんですよね。多分!

だからあそこでオルコットが駆け付けて、ノレアは初めて自分を愛して戦いから遠ざけようとしてくれる親を得られた。それだけじゃなく、身を挺して助けようとしてくれる親を得られたのではないでしょうか。だってあそこにはちょうどガンダム絶対殺すべしなドミニコス隊がいて、オルコットは命を落としたわが子に手が届かなかったのですから、今度こそ手を届かせてノレアを死から遠ざけられた。これでオルコットは満点です。せめて一人、子供を助けられた。何人の命を奪おうと決して得られない、あの後悔のリベンジが果たせる。

まぁでも多分オルコットは生き残ったと思います。理由としては、彼は片腕がないし、臓器もないとなれば、GUND実験のテスターとしてうってつけなんですよね。元々ないから、ペトラが足を失ったような倫理観テストのようなことをしなくていいし、ペトラのような子供の犠牲者を出さなくて済む。

そしてこの腕は、かつてのアーシアンとスペーシアンとの憎しみの連鎖の中で失ったものなので、過去の罪をGUNDによって救う、というメッセージにもなる。罪過の輪が、ひとつここで知らないうちに断ち切れる。戦争シェアリングで手足を失った人は大勢いるでしょうから、彼らを助ける、そのために株式会社ガンダムは存在している、というアピールにもなりますしね。

彼が生きているといいメリットはもう一つあって、グエルがやる高校生相当のアスティカシア学園、スレッタがやろうとしている学校、それらから漏れる孤児たちのいる場所、孤児院経営にオルコットを回すことができる。スレッタの能力や性格からして、初等教育が向いていると思うので、幼年、少年、青年と、すべての年代をカバーする教育施設を新たにメインキャラクターで運営していける。

それは、これからの新しい世界、新しい世代を、メインキャラクターたちが担っていき、私たち視聴者が共感して応援するであろう彼らの思想や理想が、あの世界のスタンダードになっていく。それを私たちもリアルタイムで見ることができる。

そして、これはリアル世界の私たち消費者にとって都合がいいだけでなく、キャラクターにとってもとてもいい循環になる。

なぜならオルコットはお父さんなので。子供たちを守り、育てる立場が許されるのなら、そうなりたいと願うでしょう。息子の喪失と、自分がアーシアン側で戦っていた理由を思い出し、弱者が食われる現実にそれでもノレアを助けようと奮起し、失った後のオルコットなら、もう一度戦うのではなく、戦火から生き延びた子供たちを育て、守ることができる立場は、まさに理想と言ってもいい。

ケナンジとの因縁もここで繋がりますしね。ケナンジが所属するドミニコス隊ですが、エースパイロット機はグラスレー社のモビルスーツですし、発足当時からグラスレー社の最新鋭機を採用しているので、グラスレー社に非常に近い。さらにグラスレー社は孤児院を経営していて、アカデミーという学校を経営している。その卒業生はどこにいるのか明かされていませんが、グラスレー社へそのまま行くか、ドミニコス隊へ行くのではないでしょうか。

ドミニコス隊はカテドラル所属なので、親子間で地位を継承していくという水星の魔女の企業世界からは少し外れている。殉職率も高いでしょうから、常に人が減り続けているとなると、じゃあどこから補充するかとなると、アーシアンの孤児は非常に手っ取り早い。

ケナンジが「再教育」という言葉を使ってもいるので、文字通りの教育を施す以外に、スペーシアンの思想教育を再教育しているのならば、シャディクやノレア達とは逆に、アーシアンに憎悪を向ける子たちが生まれても不思議ではない。

だとすれば、アーシアンの孤児というのはケナンジにとっても他人事ではない。その教育に、オルコットを招きたい。任せたい、と思うように、なる、かもしれない。

ケナンジはわざわざ、オルコットを知っている、オルコットがオルコットとなる前リドリック・クルーウェルという本名を知っていて覚えているし、悪印象を抱いてもいなかった、ということを示されているので、彼がスペーシアンである自分たちを裏切ってアーシアン側についているということに、何かを思っているかもしれないし、彼がノレアというアーシアンでありガンダムパイロットである魔女を身を挺して庇ったのを目の当りにしたら、大きく心が動かされるのではないでしょうか。オルコットもケナンジも、共に魔女を狩るドミニコス隊の人間だったのですから。命を奪うのではなく、命を助けようとする、それも自分の命と引き換えにとなれば、もう真逆です。

そしてミオリネの伴侶はガンダムパイロットで、アーシアンとの融和を目指すのなら、ドミニコス隊も役割が変わっていく。ドミニコスという名前も変わるかもしれませんが、もっと大きなものとして、アーシアンスペーシアン、どちらにも味方する、秩序を保つ部隊になっていく。宇宙議会連合は中立的な立場ではなかったですし、タカ派が一掃されたら一気に弱体化する。代わりに治安を維持する部隊が必要です。それにドミニコスが入る、というのは、あまり無理がないのではないでしょうか。

ならば次に必要になるのは、ドミニコス隊の意識改革です。アーシアンを殺し、ガンダムパイロットを殺すのではなく、アーシアンに対しても彼らの間に立てるような人間が求められるようになる。もちろんスペーシアンへの意識も大切です。

それにはやはり幼児期の教育が大切になっていきます。その教育に、オルコットは適任です。彼は一度は苛烈なドミニコス隊に所属し、それから真逆のアーシアンのレジスタンス組織(テロ組織)フォルドの夜明けに所属した、スペーシアンとアーシアンの極端な思考を理解できる人間です。アーシアンとして、あるいはスペーシアンとして反発されても、実体験からそれに反論したり共感したり、議論することができる。思想教育ではなく、今度こそ「教育」を施すことができるし、育てることができる。

その担い手に、オルコットがなり、ケナンジがサポートする。それはやり直しの物語になる。

オルコットは間違えてしまった。確実に彼は間違えているんですよね。息子を失ったことからといって、テロ組織に加入する理由にはならないし、子供たちを冷徹に見捨てる理由にもならない。

ケナンジも後悔のない道を歩んできたわけではない。ガンダムと戦うことにトラウマを抱いていたり、最初のヴァナディース事変では、子供が乗っているルブリス試作型を襲撃したり、妻子を助けようとしたナディムを殺して彼らから父親を奪ったり、その後も第一線で戦い続けたのだから、彼の手も血にまみれている。

けれど、ここで二人が繋がれば、その罪を分かち合い償うことができる。命を奪うのではなく育む、殺すのではなく守る。そういうポジティブな道筋が生まれる。それはやはり、どちらか一方だけではできないのではないかなと思います。

ケナンジだけではアーシアンの気持ちはわからないし、オルコットだけではそもそも助命を考えてくれるような相手がいない。グエルはケナンジに比べれば弱いし、オルコットに比べても弱い。繋がりとしても、物語的に見ても。グエルは父親を殺したという強烈な経験をしましたがまだ子供で、ケナンジとオルコットは共に戦い、地獄を見てきた者同士。分かり合えるものが違う。

ですが、二人が繋がっていれば、グエルは彼らと繋がりを得る機会を得られる。だってグエルはケナンジと知り合いで、オルコットのことを知っているのをケナンジは知っている。そして学園の復興に尽力している、お金のある人脈ならば、孤児院を経営するにあたりスポンサーになってくれないか打診するのはアリです。グラスレー社は存続するかグレーですし、ベネリットグループという安定的な組織がなくなってしまった以上、スポンサーは多ければ多いほどいい。

グエルとしても、あの時地球で見聞きしたことについての答えをようやく出せるチャンスでもある。孤児と出会い、為す術なく死んでいく孤児たちを見てどう思ったか、セドが勉強をしたいという願いを受けたらどう答えるべきか、ラウダというハーフの弟がさらに生きやすい世界にするにはどうすればいいか。

孤児の時点からお金を出し、そういった偏見がない教育プログラムに関わる。学園よりもさらに多くの子供たちに触れ合い、4年以上の時間をかけて関わる絶好のチャンス。人もケナンジが関わっているのなら信頼できる。逃さない手はない。

そして物語的にも、グエルとオルコットの邂逅に対しての答えを出せる。彼らの邂逅は何を生み出したのか。未来の子供たちを助ける道を作り出した。というアンサーがもたらされる。

グエルとオルコットというキャラクターの心情としても、互いに守りたいものを見つけ、その最終地点がどうなったのかを確認し、これからも守る立場として関わり合うことが可能になる。互いを、では「がんばれ」となるでしょうが、「子供たちを守る」のであれば、どちらも協力を惜しまない、そういう関係性になることができる。一人前の大人の男同士の結びつき。そうなれる。

まぁここまではないとしたって、片腕が義手で、ぶっきらぼうで寡黙な男が、幼い子供たちが住む孤児院の院長となり、有事の際には悪漢どもをなぎ倒し、もしモビルスーツで来られてもボコボコにできる、っていう展開、お好きでしょう。書いてて思いましたが、これ初代ガンダムのドアンに近いのか。

しかし、彼はテロリストに戻ってしまったので、ここら辺のギミックはまるごと使えない。いや、また3年後マジックで何とでもなりますが、そうなると関われる人間が味方サイドだといないんですよね。相変わらずテロリストで、罪をどうするのか、の話し合いが行われないし、見逃してやる理由もなくなるので、孤児を助けているのならケナンジは目をつむるかもしれませんが、多分二度と関わらないでしょう。彼らの安全のためにも、心情的にも。一応オルコット、裏切者の立場で実害も出してしまいましたからね。プラント・クエタでドミニコス隊も損害を受けましたし。

そうなると、グエルは彼と関わる必要がないですし、そもそも彼がどうしているのかを知る術もないので、関わらない。となると、オルコットと関わったことのある人間は誰もいなくなる。消えちゃうんですよね。ぷっつりと。

そしてなくなったものは恐らくもう一つあります。

それが、高パーメット症の説明です。最終戦というか、最後の最後に「実は私不治の病なの」という感じで出てきた高パーメット症ですが、PROLOGUEでガンダムに乗りすぎてパーメットの光を宿したまま寝たきりになる人々や、ナディムたちを見れば、ガンダムに乗り続ければいずれ死ぬし、それがパーメットのせいであるということも何となくわかるのですが、スコアを上げ続けると突然死ぬか、ぷつりと寝たきりになって体が動かなくなる、ということなのかなという描写しかありません。それまで私は体がその前に不自由になって長く苦しむ、という描写は全く出ていないように見えるんですよね。

24話が開始されても、スレッタが高パーメット症になっているような感じになりましたが、手足が不自由な描写はない。ただ苦しそうなだけでした。エランたちについても、ラウダについても、手足の自由がなくなる、という描写はない。だから最後の最後に突然出てきた設定なんですよね。その割には世の常識みたいな感じなんですが。じゃあ死ぬ以外に一生障害が残る可能性があることも事前に説明する責任があるのでは……障害が残ることを知っていて警告もせずに送り出したベルメリア、やっぱり倫理観が死んでいる……。

しかしこれも、これよりも前にノレアが生き残ったけれども高パーメット症になってしまったのなら、どのような症状なのか、どう死ぬのか、それをスレッタも覚悟してそれでもガンダムに乗る。という、彼女の決意をより強く表現することができますし、ノレアが何を得て最期に死んだのか、という、彼女が死亡数1ではなく、確かに生きて、そしてせめて得られるものを得て死ねた、空っぽではなくなった、そしてそれを見てエラン5号が初めて逃げるのではなく進むことを決めた、という運びにもできます。

ノレアは最期にオルコットに娘として扱われ、スペーシアンよりも安い使い捨ての命ではなく、スペーシアンであるオルコットが命をなげうってでも助けようとしてくれた、という結果を得られる。それは多分、ノレアにとってとてつもなく嬉しいことです。

けれどもノレアにはもう時間がない。スコアを上げ過ぎたから死ななければならない。その最期を見送るのは、彼女と共に逃げたエラン5号になる。彼も彼女も、ノレアがどのような状態にあるのかを知っている。なら最期のその瞬間までノレアは生きようとするでしょう。大好きであろう絵をするかもしれませんね。

だとしたら、彼女の指はだんだんと動かなくなる。高パーメット症だから。最期の望みすら叶えられない。それをエラン5号が手伝う、ということもできるかもしれませんね。

そうしてノレアは苦しみながら死んでいく。それでも彼女はきっと嫌だ嫌だと死ぬよりも、わずかながら満足して死ぬことができる。それは本編と何が違うのかというところですが、ノレアは自分が死ぬことはわかっていたから、エラン5号を道連れにしようとしなかった。生きることを諦めたからこそ、あれだけ美しく笑ったのかもしれない。満足して死ねたか、諦めたのか、その違いがあるのではないでしょうか。

それをエラン5号は見送る。だから再び立ち上がる。この連鎖を食い止めるために。あるいは、スレッタがガンダムに乗ることを知ってやって来るのかもしれない。最後まで保身のために高パーメット症のことを言わなかったベルメリアに代わって教えるかもしれませんね。

でも、スレッタはそれすら覚悟のうえでうなずく。最悪死ぬかもしれない。良くても一生手足が動かなくなるかもしれない。それでもエアリアルの元に行きたい。大切な家族だから。

より展開がドラマチックになるし、プロスペラの願いがより切実なものになる。末路はノレアのようになるとわかりきっているのに、治療よりも何よりも、プロスペラはエリクトを優先させた。母親の妄執と強さ、それを表現できる。同時に、スレッタはそれに立ち向かわなければならないのだ、ということも。

それらの展開が、ノレアからの流れによって自然と描ける。

結局ノレアは死ぬのですが、それは仕方ないことだと私は思います。殺したならスレッタだって殺しましたが、彼女は戦闘員であり、その中でも大人を殺害しました。

大人と子供で命の重さが違うのか、と言うわけではなく、大人と子供の違いは、自分の行為に責任を持ち自分の命をかけることを覚悟し、自分の意思でそれを選択しているかどうか、責任能力があるかないか、というものがあると思います。もちろん、未来があるかどうか、というのもありますが。

スレッタが殺害したのは、テロ組織の戦闘員です。当然、彼は命を奪う覚悟も、命を失う覚悟もしている。そしてフォルドの夜明けは、子持ちの構成員も多いですし、そんな彼らが構成員になっているということは、彼らは子供たちを守るために戦っている。自分で戦うことを選択している。

ノレアが殺害したのは、学園の学生です。パイロット科ではありますが、軍人や警備隊などに入るかどうかはわからない。そして彼らが殺害されたのは、ランブルリングという命の危険が全くないはずの、いわばお祭りに参加していた時の出来事です。言うなれば無差別テロに巻き込まれた形です。

無差別爆破テロなどで、宗教施設や催し物で集まり、楽しんでいる無辜の民を無差別に殺害することは、戦闘員を戦場で殺すのとは訳が違う。たとえ彼が戦闘用モビルスーツに生涯従事する予定であったり、その恩恵にあずかっているからと言って殺されていい理由にはならない。例えその背景にあるものがどれだけ立派でも、自分たちがそうされたのだとしても、子供を虐殺することは、きっと肯定されてはいけない。

私はそう思います。だから、ノレアは死ぬしかなかった。ソフィも。彼女は殺すことを楽しむようになっていた、快楽のために人を殺していたので、ラインを越えてしまっている。それでも、彼女たち自身利用された子供でもあるから、最期にはせめてもの救いを得られたのではないか、と思います。

ソフィは初めて出会えた美しい「お姉ちゃん」に命を終わらせてもらえて、ノレアは渇望していた親からの愛を得て、死ぬ時にも独りぼっちではなく、覚えて悼んでくれる人を得て、ガンダムではなくそこから降りた場所で死ぬ。それぞれが、欲しかったものを得て終わることができる。それはせめてものはなむけとも言えるのではないでしょうか。その悲劇をどうするか、ということにも繋がりますし。

学生の物語である以上、未来へ繋いでいく、というのが大切であり、この時点ですべての問題を解決しろなんて、そんなもの子供である彼らに言えるはずもないし、そういったことを水星の魔女の大人たち自身ができてないですからねぇ。できないから、こうなったのですから。

とはいえ、大人が関わるのがゼロか、と言ったらそれも違う。

ヴィムが死んでからの2週間、先にも申しましたが、ケナンジは異変に気付いているので、この期間に絶対にジェターク社をマークして、内々にも調べたはずです。

テロ組織と繋がっていないか、何が目的か、それを画策したのは誰なのか。

一番怪しいのがやはりラウダなんですよね。あの時点で一番誰が得をするのかと言えばラウダです。

ヴィムが死んでくれれば、CEOに就くことができる。なぜ今のタイミングかと言えば正統継承者であるグエルがいないから。デリング暗殺をカムフラージュにしたとして、デリングが死んでくれれば総裁選も始まりますし、リーダーシップを発揮できれば、御三家の主導権を握ることもできる。ヴィムが生きていたとしても、警備を離していたという状況証拠がありますし、当然計画的な犯行なのですから、ヴィムがやったという裏工作もしている可能性は高いので、前任者であるヴィムを排除し、そのやらかしを後任であるラウダが補填するとなれば、世間からの評判だってヴィムへのヘイトが高まり、ラウダには高まらない。値踏みはされるでしょうが、その後のリカバーさえできれば全く問題ない。このような計画を思いつくのなら、当然リカバリー案だってある。

タイミング、標的、状況、それらすべてがラウダが犯人の可能性を示している。もちろんヴィムがやったという可能性も全然高いですが、彼は死んでいるので、死ぬような計画を立てるのか、というと、そこまで愚かではなかろうと。そうなるとやはりラウダが怪しくなる。

ケナンジは恐らく現場主義です。洞察力もあり、自分が疑念を持ったのなら、自分で調べたいタイプ。セドを直球で尋問しているので、そういうのが苦になるタイプでもないし、グエルに対しても底を見せないので、度胸もある。

多分彼は自分の目でラウダを見定め、そして「彼が犯人ではない」という確証を得たのではないでしょうか。彼自身が判断したから、その後ラウダがカテドラルに問い詰められるようなことはなかったし、マークもされなかった。

むしろ、疑う余地のない安牌として見られていたぐらいではないかと思います。そうじゃなかったら、ケナンジが直接か、部下を派遣して監視対象に入れたのではないかと思います。いつどこで、誰が敵かわからない。テロリストというものは民間に潜むものなのですし、コンタクトを取るには必ずラウダやその周辺が怪しい動きを見せる。だから、少しでも怪しいのであれば、何かしらの監視網を敷くはずです。

ところが、ケナンジはラウダではなくグエルとの繋がりの方が深い。これはラジャンがミオリネを通じてグエルと関わるから繋がった関係ですが、上記のようにジェターク社を直接ケナンジが怪しいと思った描写があった以上、何もなかった、というのは考えづらい。

なので、ラウダはあの用心深く警戒心の高いケナンジの警戒網をパスした。ということのはずです。

そしてラウダがパスしたということは、ジェターク社は警戒の必要のあるリストから名前が外れる。警戒すべきは他ということで、リソースが少し減るんですね。ミオリネがグエルと手を組んだのはシャディクが黒幕であるとバレる前なので、まだ誰がテロリストと組んでいるのかわからない段階です。しかし、一番怪しいラウダがクリアしているので、この時点で外にいたグエルはもっと関われない。だから安全である、としたという可能性もあります。

さらにラウダが警戒網から外れるということは、ラウダ以外が動き出したりラウダを利用する何かをし始めたら、そいつが黒幕であるということにもなる。どう考えてもジェターク社が警戒されるようなことをしているので、裏に誰かがいてジェターク社に罪をなすりつけてやろうという輩がいる。会議の場で、あるいは何らかの形で、ついにそのカードを切ろうと接触してきた人間がいたら、それに気づかずとも誰が一番得をするのかを追えば、そいつが真の犯人である可能性が高まる。

だからあの序盤や2週間は、裏で結構な頭脳ゲームがあったんじゃないか、と思うんですよね。

シャディクが動かなかったというのも、ジェターク社に対してドミニコス隊が動かなかったからという理由ができる。どう考えても怪しいのに動いていないということは、ジェターク社が真犯人ではないということが見抜かれている。いや、ジェターク社は絡んでいたので全くクリーンではありませんが、その跡を継いだラウダは全くもって無関係で、先代のヴィムと協力者がいた前提で動いていると、シャディクは気づいた。

だから表立って動かず、チャンスをうかがった。ヴィムが生きていたら、デスルターが使われていることはわかっているので、堂々と糾弾すれば、証拠はあるしヴィムに責任をなすりつけてジェターク社を大幅に弱体化できる。しかしヴィムが死に、全く無関係のラウダがついてしまったことでそれはできなくなった。ラウダが疑われたならそれもできましたが、逆に彼はクリーンであると太鼓判を押されてしまったので、動いてしまうと今度は自分が怪しくなる。

ペイルあたりが騒いでくれれば便乗もできましたが、ペイルもジェターク社が裏で手を回しているとは考えていない。それはなぜかって言ったら、やっぱりラウダが一番怪しいのに一番堅実に動いていたからなんじゃないかなと思います。

ヴィムが死んだ以上、一番得をするのはヴィムではなくラウダである。ヴィムはかなり腕の立つパイロットであることが御三家の共通認識ならば、ヴィムが型落ち品でろくな訓練を積んだパイロットのいないテロリスト風情に負けるはずがないので、罠にかけられた可能性が一番高い。

しかし、その罠をかけた筆頭であろうラウダが、地道に無実を証明し、ヴィムの敵討ちだと、派手に立ち回って自らのアピールや正当性を証明しようともしない。ただジェターク社を守り、嫌疑を晴らそうとだけ動いていて、社内での評判も悪くなかったとしたら、ラウダがそれを仕組んだという嫌疑はなくなります。

それこそ事故か、それとも第三者がいるのか。可能性は絞られる。おまけにシャディクが何か妨害工作をしていたらしいので、ラウダが黒幕だったらそんな動きも起きないでしょうし、逆に内輪での信頼が高まった可能性もあります。ラウダは犯人ではない、という確証が。

で、そうなったらシャディクは下手に動くことができない。ラウダに何かしたらバレることももちろんありますが、その前にドミニコス隊がバックにいて、彼らが手を組んでいる可能性も浮上してくる。

ドミニコス隊がラウダをしょっぴいていない以上、ラウダが疑われていないことは確定ですが、今度はラウダをドミニコス隊が使う可能性が出てくる。ラウダに接触してくる人間が現れたら、ラウダからドミニコス隊へ報告する。ラウダとドミニコス隊で結託し、御三家のトップとしての立場を利用して色々なものを動かしたり提案し、それに反対するものが誰かを特定する。そういうことも、ドミニコス隊がラウダを取り込めば可能です。

だからシャディクは動けなかった。動くとして、もっと策を弄する必要性があり、自分が疑われない状況を作り出して、可能であればドミニコス隊とラウダが繋がっているのかの確認まで取れれば最高です。

だから、もう一度フォルドの夜明けにコンタクトを取り、ガンダムパイロットを渡してもらい、サリウスを確保した。これで、フォルドの夜明けが動く際にはサリウスの命を交渉カードにするようになるので、自分たちグラスレー社のトップであるサリウスの命をベットするようになるので、警戒対象から抜けられる可能性が高い。裏工作をするとして、サリウスを抜きにできはしないですしね。

そして、その後にカテドラルではなく自分たちが動くことにより、ドミニコス隊の動線を断ち切り、ラウダがその緊急事態にどう動くのかを確かめることができる。カテドラルが動けるように最後まで反対するのか、裏でカテドラルをコンタクトを取り、彼らが動けるように便宜を図ったり、裏工作を始めるのか。

ラジャンの「あるいはそれが狙いか」という言葉も浮いてしまっているのですが、こうすると、ラジャンがなぜこう言ったか、ドミニコス隊を排除してシャディクは何がしたかったのか、ということも出てきます。

ここでの「狙い」は、単純に考えれば「カテドラルに借りを作りたくないのだろう」「企業が独断で動いちゃっていいんですかねぇ」の後なので、これはPROLOGUEと同じく、企業の分を超えているのではという懸念ですが、ヴァナディース事変でも同じように独断専行で行ってしまっているので、今さらです。今さらベネリットグループを声高に非難するようなガッツのある人々が地球以外のどこにいるのか、あるいは宇宙議会連合に付け入るスキを与えるとも捉えられますが、別にこの後も宇宙議会連合は、もう一度学園テロが起こるまで動かなかったし、それもさらにクワイエット・ゼロという大量破壊兵器の秘匿というダメ押しもあってのことなので、この時点で動くかというと可能性がかなり低い。

だからラジャンの推理は全く当たらなかったので、彼には先見の明がないし、どうしてこれを入れたのかわからないのですが、もしラジャンの「それが狙いか」というセリフは元からあったのだとすれば、上のような理由が隠されていた、という可能性もあります。まぁこれも難癖ではあります。シャディクも宇宙議会連合が動くと思っていた。けれど動かなかった。だから「重い腰を上げるだろう」と言ったとも捉えられますからね。あとは地球との対立を深めて、総裁選が起きるように仕向けるとかですかね?それもプラント・クエタのテロがリークされたというのもあるので、この独断専行がどのくらい影響があったのか、というのはよくわからない。

でもわざわざ言わせているということは、何か狙いがあり、それはかなり確度が高かった。しかしそれが外れていてよかった、という会話もなかったので、ラジャンが危惧していた事態とは何だったのか、が浮いてしまっているんですよね。そんなもの起きはしなかったから意味などない、というのなら別にいいですが、水星の魔女は非常にタイトな放映時間なのに、そんな無駄なシーンを入れた理由は全くない、単なる思わせぶりなことでしかなかった。ということになります。それをラジャンという切れ者の軍人にさせる意味って何なんだ、ということになります。

それに、ソフィはラウダを殺しませんでした。それからもフェルシーが守ってはいますが、彼女は非常に好戦的で、情け容赦がないのに、どうしてラウダに対しては殺さなかったのか。それに倒れたぐらいで中の人が気絶してしまうというのは、パイロットスーツやディランザの安全性能上どうよ、という点もあるので、もしかしたら彼女はラウダを「気絶させろ」「怪我をさせろ」という命令を負っていたのかもしれない。

それはなぜかと言えば、ラウダが病院に行っているタイミング、不在のタイミングを作り、そこでカテドラルではなくベネリットグループで勝手に動きたかった。ラウダがいれば、カテドラルが介入するように頼むかもしれない。しかし、ラウダがいなければその心配はない。

どうしてこうしたかったのかというと、ナジは殺さないでフォルドの夜明けの戦闘メンバーを消したかったのではないでしょうか。

ナジはフォルドの夜明けのリーダーなので、一番に顔が割れていてもおかしくありませんが、割れていたのはオルコットです。ですので、実行メンバーから顔や素性がバレていっている。

テロ組織は、民衆に紛れ、彼らを肉壁にして、誰がテロリストなのかわからないというのが重要です。でも完全に秘匿することはできないし、大所帯になればなるほど隠すのは難しい。

ナジは今回、プラント・クエタで戦闘員の大半を失いました。けれども完全には失っていない。いずれ身元がバレて彼らから足がついてしまう可能性は高い。所帯持ちなんかは特に危険です。

ベネリットグループに自分たちの存在が知られ、網が張られている。避難民を見捨てることは彼らもしたくない。だから囮になる。御曹司についてはどっちでもいい。「律儀だね」というのがどっちに向けての言葉かわからないのですが、恐らくオルコットが連れてきてしまった以上、オルコット自身が始末をつける、お前たちに迷惑はかけない。というオルコットに対しての「律儀だね」ではないかと思います。過去の死者についてのことを話していたので、グエルを救ったのは息子の影響は少なからずあったという文脈にも取れますが、オルコットのグエルへの仕打ちを見るに、かなり手荒いので、自分たちへの義憤への反応ではないかなと。ここでグエルの方が大切ですって言われて笑って流すのもよくわかりませんしね。

彼がグエルを逃がすか殺すかについては、まぁどうでもいい。グエルがあの様子ですし、オルコットの顔はもう割れてしまっている。何かしらの交渉が成立すればまぁそれはそれで、というところ。力量差や物量差的に、オルコットすら命を失う可能性は高いので、晴れて顔が割れる可能性のある人間を全員自分の手を汚さず始末できる。

ナジがなぜそんな冷淡なことをするか、と言えば、彼は大義の人だからではないか、と思うからです。ナジの方が彼の性格が全然わからないんですが、腐ってもテロリスト集団のリーダーで、彼には思想があり、理想があり、信念があり、そしてそのためには子供を使うことも厭わない。

ガンダムパイロットであるソフィとノレアはもちろん、ただの孤児であるニカも。利用して搾取する。それはなぜかと言えば、彼が戦争中毒などでなければ、叶えるべき理想のためです。彼には叶えるべき大義があり、そのために組織は使いつぶす。そしてそれは、彼の理想に共感したメンバーも共通する。はずです。そういう集団のはずです。もちろん現実のテロ組織は、金儲けのためだったり、そこまで強力な繋がりがなかったりするでしょうが、彼らはレジスタンス寄りの思考だと思うので、そうなると彼らをつなぐものは「必ず勝利を」という確固たる信念です。

ただ、ナジがそれを積極的に望むのと望まないのは違います。オルコットが少し待って欲しいと言えば待っているので、ナジは望まないけれども、必要であればそうできる、というタイプなのではないかなと思います。カリスマのあるタイプですね。

ここはシャディクとは違うタイプです。彼はアーシアンをという大義は持っていますが、彼が大切にしている人間の範囲はひどく狭い。サビーナ達仲間と、ミオリネ、自分が気に入った人間、サリウス。このぐらいでしょう。

同じ孤児出身であるニカは利用する対象、孤児でガンダムパイロットのノレアは使い捨ての武器、守るべきアーシアンであるはずの地球寮についてもテロの巻き添えにしている。最初のプラント・クエタのテロは、生徒である彼らが来るかどうかはシャディクが関与するところではありませんが、ランブルリングも二回目の学園テロも、地球寮の身の安全を確保していないし、警告すら発していないので、以前も指摘しましたがシャディクはごく狭い人間しか大切にしていない。

それも、自分が気に入った人間であったグエルが、彼の期待にこたえられないと見るや、一気に命を奪おうとすらする。ところが、サビーナはむしろ、自分がグエルを釘付けにして自分ごと撃たせている。サビーナを囮にして自分が決めた方が確実でしょうが、そうはしない。

9話でのスレッタとの戦いでも、彼女たちに足止めを頼み、自分が主にスレッタに攻撃するスタイルを取っていたり、ガンビットを引き付けることを頼みはしますが、自分の囮になれとは言わない。引き付けることなので、深入りはさせない命令だと感じますし。

このように、シャディクはガールズたちも使うような感じなのに、実はそんなに使わない。むしろ自分の命や労力を使い、彼女たちに負荷をあまり与えないようにしている節すら見受けられるんですよね。

この意味で、ナジとシャディクは多分違う。ナジは割り切れる。シャディクは割り切れない。大人と子供、という違いでもありますが、シャディクは大切に思っていないものに関しては非常に冷酷なので、シャディクが情が深いという意味ではないと思います。ナジも、オルコットを切り捨てきれていないので、情はありますしね。ただそれと、組織や大義を天秤にかけてどうするか、ということはまた違う問題ですし。

いずれにせよ、テロリストの顔や経歴がわかられてしまうとその人間を囲っているのは直球のリスクになります。

戦いが始まった時ナジが驚いているので予想外である気もしますが、それは「早すぎる」という意味が全くない、とも限りません。避難作業は途中なので、この状態で襲われてしまうと、避難民たちに飛び火してしまうリスクがある。オルコットたちがいる学校に流れ弾が飛んでいきましたし(あれは学校が拠点だろうとあたりをつけて攻撃された可能性もありますが)

駐留部隊が襲ってきてから、応援も来ていないようですし、そこもシャディクが手を回して止めていた可能性もあります。4機も倒されれば確実に「当たり」なので、今度こそ全戦力を投入するか、もしくは探りが必ず入る。

しかし、のんきに「考える時間をくれ」と言っていますし、そこからグエルと話し、何だったら最低限人に会えるように服を与え、体を清めることすらできた。そしてグエルが逃げるだけの時間もあるので、ほぼほぼ追っ手はかかっていないはずです。つまり、誰かが止めたか、4機も墜とされて確実に当たりなのにひよったということになりますが、地球の駐留部隊は毎日ドンパチしてるような超手練れだと思うので、現場は絶対に出向くんでは?

まぁこれも個人的考えでしかない範囲ですが、しかしシャディクはグエルがヴィムを殺したことを知っていたし、ノレア達を借りていて、フォルドの夜明けの要求ということで好き勝手やってるので、14話あたりまでは連絡を取り合っていたし、その後もナジが「いや、それはフォルドの夜明けじゃないっすね」という声明を行わないような取引をしていた可能性がある。そして24話でナジが破壊したのがシャディクに関する何かしらの資料なら、それは彼らが浅からぬ縁を持っていたということにはならないでしょうか。

ではそんな縁を持っていたのに、どうして駐留部隊のパトロール範囲からフォルドの夜明けを外してやらなかったのか。っていうところが不自然ですし、なぜ仲間たちを間接的に殺し自分たちを見捨てたシャディクに最後に義理立てするようにしたのかが謎です。役員が決めていて、ベネリットグループのセキュリティフォースを出張らせたなら、シャディクがコントロールすることもある程度は可能です。むしろ地球のことなんて知らないし、唯一残った御三家であるペイルはそういうことに詳しくもないでしょうから、シャディクが主立ってパトロール範囲や部隊の規模なども調整できたかもしれない。

あのベネリットグループが嗅ぎつけたとナジたちが知ったのも、シャディクが情報源でしょうからね。そして、なのにパトロールが「いつ」来るのかを伏せられていて、そのせいで戦闘員たちは全滅したのなら、ナジにとってシャディクは仇です。なのに最後まで義理立てしているのはなぜか。と考えれば、元から彼らは手を組んでいて、あの悲劇はナジにとって想定内の出来事だった、と考えられるのではないでしょうか。もちろんナジの「行こうか」というのは後から追加されたシーンで、元からのものではなく、シャディクの次に映ったからその繋がりに見えて本当は全然違うのかもしれない。

けれども、追加されたシーンが全くこれまでと関係のないシーンになるというのもあり得ないというか、むしろ連続された意味を持たせるでしょうし、彼らが壊してメリットのある情報とは何なのか。何を捨てたのか、というところが全くわからない。連続性がないんですよね。彼らだけ何をしたのかが明確にならない。

じゃあ追加したのはなぜなのよ。という話で。

そして、もし上記のようにナジが戦闘員たちを切り捨てたのだとしたら、それはオルコットの原初の理想とは合わない。

彼は思い出も感傷も何もかも捨てた。けれどじゃあ、捨てる前の彼はどうなのかと言えば、青臭く、上官にも噛みつき、その後皮肉なことにというような感じで「最後にはアーシアンに」とケナンジが言っているので、アーシアンの犠牲を少なくするような提言をしていたのでしょう。彼らが死んでいくのも、痛ましい顔をして、もう長くないから最後にオルコットを守ろうと前に出た人には、「下がれ!」と言っているので、合理的な思考をしているようで完全に割り切ることができない。

元から彼らは「囮」なので、その意を汲んでやる方が彼らの命に報いることになりますが、とっさに止めようとしてしまう。の割にはシーシアはすぐに見捨てたので、追い詰められれば素が出ると言いますが、切羽詰まると隠しきれないのでしょう。情は捨てた、思い出も捨てた、いつ死んでも構わない。自分も、他人も。けれども彼の本質はそこにはない。本当は、情があり、思い出に囚われ、誰にも死んでほしくない。

ナジは違う。彼は情はあっても、思い出に囚われるのではなく未来を向き、ある程度の犠牲はやむを得ないと思っている。

オルコットは個人主義で、ナジは全体主義なんだと思います。本質的には。だから、本来は彼らはあまり合わない。15話は、そこのことに気づく話だったのではないか。

で、やっと本題に戻りますが、なぜラウダが必要なのかと言えば、グエルがまさに自分と同じ個人主義の人間で、ラウダという個人のために動く。というのを見たから、なんではないか、と。

どういうことかというと。実はわたくし、シーシアが青色の髪をして、茶色の瞳をしていると思ってたんですよね。実際は黒い髪に青い瞳でしたが。で、なぜそう思ったのかというと。ちょっとシーシアの死のシーンなのでショッキングですが。

このように、コクピットの中では、モニターの光に照らされて暗い青色の髪色になっているんですね。

で、彼女といつもいるセド。彼のことは、ぶつかって顔が見えたらすぐにわかっているので、セドの顔は覚えているとすると。彼の瞳の色は茶色です。

おやおや?青色の髪色に茶色の瞳?

ラウダ・ニールの身体的特徴と一致しますねぇ!

はい。それだけですが、グエルの精神状態は普通じゃありません。全く似ても似つかないエアリアルとディランザ・ソルを重ねたりしている。そこに、ラウダと似た容姿の子どもが、それも死んでしまっていたとしたらどうでしょう。

この前に、グエルはすでに飲まず食わず寝ずと、コンディションは最悪で、自罰意識で精神状態も擦り切れ、見た瞬間に嘔吐するほどの酷い死体を目の当たりにして、その死体を除去する作業すらしている。プロドロスとは全く違うであろうダリルバルデのジェターク製コクピットを死の棺桶として認識してしまっているので、かなりのトラウマです。

何とかしなければならないと、気力だけで持ちこたえていますが、本来ならグエルの精神はズタボロの状態。

そして、グエルはもう、ラウダの瞳から光が消えている状態、それもシーシアと同じ子どもの姿で見ています。

グエルとのファーストコンタクトで、ラウダはその瞳からハイライトが消えている。この状態のラウダの顔をグエルは見ながら近づいているので、彼の瞳をよく見ているし、覚えていたはずです。まぁ子どもが死人のような顔をしているなんて、普通ではないでしょうし、初めて見たでしょうしね。

そして、グエルは家族であるヴィムの死に顔を見たばかりです。彼の瞳も茶色だし、ヘルメット越しでもある。ぐちゃぐちゃの死体ももちろん死を濃厚に感じたでしょうが、肉親の死を目の前で見ている、というのは計り知れない衝撃を与えるでしょう。そして、ラウダはまさにその肉親です。

モニターの光に照らされたシーシアの髪色。セドの瞳の色。ラウダの過去の容姿。ヴィムという肉親の死をまざまざと見てしまったこと。さらにこの直前、会社の危機を聞いて家族、すなわち唯一残ったラウダのことを思い出している。

ラウダとこれらを結びつける材料はこれ以上ないほど揃っています。

だからグエルは、ここで本来は半狂乱になっていないとおかしいぐらいなんじゃないか、と思うんですよね。

死んでも構わないと自暴自棄になったグエルが力を取り戻し、オルコットに縋りついた、自発的に外に向かって行動したのは、会社が崩れかけている、ラウダの危機を聞いたからです。それまで、シーシアに何を言われても、シーシアに対する返答ではなく、ひたすら自分が生きている疑問や父親への贖罪しか口にしていなかった、グエルの意識は内側を向いていましたが、ここからは違う。

シーシアを庇おうとしたり、「父さん」とつぶやいたシーシアを助けようと必死に走り、死体が入ったモビルスーツに乗ってまで助けを求めた。

だから、グエルの行動原理の大きなもの、最後の最後に何のために立ち上がるかと言えば、ラウダなんですよね。

その後「俺と父さんを繋ぐもの」「会社は今ピンチだ」「大切なものは、もう失くしたくないんだ」ということで、主語が会社になってしまっているんですが、間違いなくグエルの行動原理の根っこはラウダです。

会社の危機なら、父親を殺した時点でもう大ピンチのはずですが、しかしジェターク社にはまだラウダがいる。ラウダがまだいるのなら、ジェターク社は大丈夫です。そこまで頭が回っていなかったとしても、本当に会社の方が大事なら、もっと早く正気に立ち返ってもおかしくはないのではないかなと思います。父さんが死んだイコール会社の危機なので、ヴィムのことをずっと思い返していたら、2週間あればどこかで思いつく可能性がありますが、特にそういう発想には至っていないので。ラウダも思い出してないだろというところですが、彼のことを多分グエルは自分よりしっかりしていると思っていると思いますし、「会社」が傾いたのに「家族が」と言っているので、グエルの中では明確に家族、ラウダが一番に来ています。そしてラウダが会社を継いで、守ろうとしているはずだと疑うことなく確信していることも。

別れた原因が、ヴィムが強制的に本社ではなく子会社にグエルを出向させようとしていて、ラウダは元々ヴィムの手伝いをしていたので、「お前に何を期待できる」と戦力外通告に等しいことを告げられたこともあるので、ラウダが順当に継ぐだろうという想像もより強くなったでしょうし。

いずれにせよ、グエルはまずラウダに何かあったのかを心配した。それだけは確かです。

そんな彼の行動原理である「大切なもの」であるラウダの死体を、目の前で息絶えるのを見てしまったら、きっと正気ではいられない。

本編では、グエルの行動原理が「何か」というのはとても曖昧でした。上で示した通り、この時点でも会社とも取れるし、ラウダとも取れる。あるいは「父と子と」というタイトルから、ヴィムへの悔恨とも取れる。

しかし、23話で明確にグエルにとって一番大切なのはラウダである、と示されました。グエルはスレッタならその覚悟を認めてガンダムに乗ることを見送れても、ラウダがガンダムに乗り、命を削るのには必死に説得して止めようとする。止めようとしているのに、なら武力でラウダを止めようとするのかと言えばそれもしない。

ラウダの攻撃を受けて、逃げて、最後には命を投げ出して自分の命と引き換えにラウダの命を救おうとする。

そして、ここでも微妙に誤魔化していますが、「ラウダが許してくれなかったら」と逃げ回っていたことを吐露した。23話での視聴者へのサプライズだったのですが、だとしてもとびきりのサプライズとして隠すにしては匂わせているし、視聴者にグエルの一番はラウダだとわかってほしいというには弱すぎる。

ただ、このくらい示すつもりだったのではないか、というのは、私がグエルとラウダが大好きだから陥っているとして、しかしそれでもここで示すことには意味があると思うんですよね。

上で言ったように、オルコットは個人的な理想を持って戦っていた人で、ここまでその忘れていた理想や理由を思い出している。そこに、自分と同じ弱者を守り戦ったグエルが、ラウダという大切なものを守るために進むのを見送る。それがオルコットの役割で、グエルにとって大切なものとは個人であるというのを示すために必要だったのではないか。

「俺と父さんを繋ぐもの」だと、「何」なのかの具体的なことがわからない。はっきりと「ラウダ」という弟、兄であるグエルにとって守るべき存在であるのか、というところがわからない。だから、オルコットは気づきかけていた理由に気づかずに終わってしまった。気づいていたら、今の自分にとって守るべきものであるノレアのことを思い出したはずです。

ラウダが弟であるということは、グエルが御曹司であることに気づいたオルコットたちにとって、ちょっと調べればすぐにわかったはずです。腹違いの兄弟なんて、話題にならないはずがありませんからね。それに、ラウダはCEO代理で、CEOに近く就任する予定だったので、ニュースレターに載っていてもおかしくはありません。

それに、グエルが半狂乱になってシーシアがラウダに見えて、助けようともう死んでいるのにそれすらわからなくなってしまっていたら、オルコットにとって自分とさらに被ることにもなると思うんですよね。自分は瓦礫に埋まって、半死半生になって、息子も瓦礫に押しつぶされ炎に巻かれてしまうとわかっていても、助けられないとわかっていても、それでも手を伸ばし、「大丈夫だ」と呼びかける。理性としては、大切な存在が助かるわけがないとわかっていても、それでも手を伸ばさずにいられない。諦めることができない。

そんなかつての自分がグエルである。そんな彼を、まだ本物のラウダは生きていると幻想から抜け出させてやり、改めてラウダを救うために宇宙へ戻るラウダを見送るのは、過去のオルコットやグエルを救うことに繋がる。

そこまでしてやっと、オルコットは過去から未来へと目を向けることができる。すべてを捨てるのではなく拾い上げて、助けられなかったと後悔にあえぐのではなく、助けられなかった、だからまだ助けられる子を、残された子を助けよう。そう決意する。

っていうんじゃなかったのかな~と。そして残された子はノレアであり、セドである。セドを送り届け、彼が新しい人生を始めるのを見届けて、ノレアが今どこにいるのかの情報を探る。あるいは、どのタイミングで行けばノレアを助けられるのかを探る。そのためにナジの元に残る。

ナジとシャディクは恐らくこの後も繋がっている。ナジにとって、ベネリットグループにいて、いずれは総裁になるシャディクと繋がり続けることは、メリットしかない。彼がナジを切り捨てる判断をしない限り、この繋がりは持っておくべきです。先に手を離せば、今度こそナジは殺される。それはフォルドの夜明けがなくなることを意味する。

ならば彼の傍にいれば、ノレアに関する情報が手に入る可能性はぐっと上がる。ノレアが学園にいることは、恐らくオルコットも知っていると思いますが、どこにかくまわれているのか、奪還するチャンスはあるのかは、慎重に機を見ないといけない。ドミニコス隊に正体がバレ、学園を襲撃した以上、何の対策もなくのこのこオルコットが行ってしまっては、潜伏するにしても学園の警備を長く欺くのは至難の業です。地の利もありませんし。

だからオルコットは、グエルと別れ、セドを回収しナジとの合流ポイントへと行った。もはや思想が違えど、ナジの元でノレアを助けるチャンスをうかがった。

そういう流れだったのではないか。

そのためのピースが、グエルからのラウダへの思いだった。ラウダを助ける、守る、自分が、という思いを聞いて、それがかつての自分であり、まだ助けられるという運命を背負っているものでもあり、そして自分にも、まだ守ることができる存在がいる。だから、オルコットも進む。今度こそ、守るためにこそ。

そうしてドミニコス隊という、殺すための組織とも合流し、彼らと共に今度こそ守る組織へと進んでいく。欠落した腕をGUNDによって戻し、親を失った子供たちを集めて、今度こそ「父親」として彼らを守り育てる。そんな道を。

けれども本編ではそうならなかった。それは、ラウダがグエルの理由なのか、いまいちわからなかったから。

やっぱりラウダがどうにもこうにも、小さく扱われているような気がするんですよね。

彼の能力がどのくらいあるのかが、本当によくわからないのですが、ドミニコス隊、ケナンジという鷹の目に目を付けられたのに、ほぼ放置されているのはなぜか、ジェターク社がテロ組織の一員ではなく彼らの客が何かしたのだろうと、ライバルでジェターク社が潰れてくれたら嬉しいはずのペイル社でもジェターク社への疑いが強くないのはなぜか、シャディクが動かなかったのはなぜか、融資元が子会社の整理ではなく統合を求めているのはなぜか。すべてにおいて、ラウダの能力や人柄ゆえのはずなのに、ここが全く描写されない。

だから、ラウダのキャラクターとしても、複雑な奥深さがわからない。彼のキャラクターはグエルありきで、グエルがすべてです。しかし本当にそうなのか?グエルがすべてなら、どうしてグエルが死んだと思っても、淡々とジェターク社を継ぐ手続きをして、ジェターク社が非難されて苦しい立場だとしても、嫌味を言われるばかりの会議に出て体裁を守ろうとしているのか。だって彼のすべてであるグエルがいないのなら、そんなことをする必要はないはずではないですか。いずれグエルが戻った時に明け渡すつもりなら、CEOになる必要もない。多分「明日から」が学園襲撃で先延ばしになっているはずなので、彼はグエルが戻るまで恐らくまだ「CEO代理」です。CEOになっていたら、すぐにグエルをCEOにというのは、ちょっと難しいのではないかと思います。一度ポストについた以上、譲るにしろ何にしろ、書類も社内での信用も、作り上げた名刺や書類なども白紙になる。

ここら辺がまた曖昧なんですが、あのスピーディーな交代劇は、ラウダはCEO代理で、正当なCEO継承権第一位のグエルが戻ってきたので、社内での強い承認はなくとも、ラウダの責任範囲でやれたのではないかなと。社内承認が必要だと、すぐに交代は多分できないというか、ラウダが何かしらやらかしたんならできるでしょうが、そういうものではなかったので。ここら辺めちゃくちゃな可能性もあるんですが、でも働いている身としても、社内政治としても、ここら辺を念頭に置いてくれないと、ただただ製作陣の都合のいいように動いていくファンタジーにしかならないので。

いやまぁ正直、どこの会社でも働きたくないですからね……。実際に動いていないし、CEOなのに総裁選とかいう外部に携わって社内をおろそかにする株ガンはもちろん、人体実験上等のペイルも、ジェターク社でさえトップがころころ代わる体たらくなので、絶対に働きたくない。多分一番マシなの、シャディクが好き勝手やらかしていても、グラスレー社が一番ですね。一応あれも、サリウスが捕まったから、という体なので、一番真面目にやっているのはグラスレー社なんですが、他がルールも社内の心情もクソもねぇ好き勝手状態なので、付き合ってられないんですよね。

よくもまぁみんな付き従ってあげてるよな……というぐらい、全員が全員会社という体裁が保てていない。とはいえ、会社を舞台にしてファンタジーにしてしまうっていうのもどうなのよと。そこをファンタジーにしてしまうと、何にも面白くないんじゃないか。むしろ違和感が邪魔をして、ここのところの擦り合わせを自分でしないといけないし、それでもおかしいので物語を見ていても都合がよすぎて上滑りしてしまったんですよね。個人的に。そこら辺をキャラクターのパワーで押しているし、誰も誤りを指摘していないので回っていますが、キャラクターにパワーがあるなら余計、心理戦や情報戦をまともにさせた方が面白いはずなんじゃあないんかいなと。

まぁそれは、いったん置いておいて、もし会社間やドミニコス隊との情報戦や心理戦があったとして、そうなった場合会社という側面で中心になるのは多分ラウダが適任です。ミオリネは16話まで拘束されていて、株式会社ガンダムに関われていないというか、彼女が関わるつもりがないので(プロスペラがゴダイを呼べているし、ラジャンとコンタクトが取れているので、やろうと思えば外部に連絡することは可能です)会社経営をしていないし、その後は総裁選で株式会社ガンダムから遠のくので、関わるタイミングがない。

それに、関わるとしてもベネリットグループというより、外部のクレーム対応などになると思うので、やり取りとしては地味ですし、物語としてはあまり関係がない。株式会社ガンダムを安定させる前にスレッタを守るためという超個人的な理由で総裁選にシフトするので、ミオリネは今の時点では経営者としては多分微妙です。

だから代わりに、堅実に会社経営をしているのを出せるのは誰かというと、ラウダしかいないんですよね。シャディクは自分の野望のためにグラスレー社を利用しているし、フォルドの夜明けの言いなりになっている、というので他の人間が手を出せなくなってしまっている。健全な状態ではない。ペイル社はペイルグレードというAIで経営方針を決定しているので、ちょっと普通じゃない。

この中で唯一、真正面から自社と向き合い、会社のためにと全員が一致団結していると描写できるのは、ジェターク社だけで、CEOは誰かと言えばラウダです。彼が社員や融資元とどういう関係性だったのかという推測は上でしていますのでそこを見ていただければと思いますが、CEO(代理)になったラウダには、会社関係以外にもう一つ関係性が生まれます。

ジェターク寮の誰かが秘書代わりになって手伝ってくれる。という関係性ですね。ローテーションなのか何なのか、本編ではペトラがそれを行っていますが、何度も言いますが二年生であるペトラが学業を犠牲にして先輩を手伝うというのは問題しかなかろうと。

学生の本分は勉強だと言われている昨今で、どうしてまだまだ学生として学ぶことがたくさんあるペトラに手伝わせているのか。ラウダはいいですよ、彼は三年生なので。でもペトラは違います。フェルシーが決闘委員会に代わりに出席しているので、寮長業務も行っているかもしれません。彼女は二年生なので、恐らく元から彼女が次の寮長になる予定だったとは思います。

だったら副寮長は誰だったのかと言えば、順当に行けばペトラであったはずです。少なくとも、次のチーフメカニックは彼女である可能性が高い。ならば彼女が今やるべきことは学ぶことであり、友達としてフェルシーを支えることではないでしょうか。何もペトラ以外にも、会社には多くの大人がいて、ラウダは元からヴィムの手伝いをしていたのなら何人かは顔見知りであり、ダリルバルデを取り戻そうと手を回していたのだから、確実に社内に独自のネットワークを築いている。その人たちが手伝えばいいんです。

ラウダの精神状態を気にして顔見知りの学生をと言うのなら、よっぽど適任がいます。

カミル・ケーシンク。同じく三年生でチーフメカニックということで、グエルとラウダ、どちらの機体も担当していたであろう友達が。

カミルとラウダは長い付き合いであり、グエルを支える同志です。包容力や調整力もあり、三年生なのでラウダと同じく今年卒業で、そろそろ学ぶのではなく実際に働くことを視野に入れてもいい。

先輩と後輩ではなく、同い年で多感な思春期を三年間過ごした同士、気兼ねもない。

これであえてペトラをというのは、弱った男に女をあてがえば万事解決とか、そういう初期ガンダムの妙にリアルな男女のノリをやるというのは、まぁ別にいいですが、彼らは学生同士なんだからそんなどろどろしたものは必要ないでしょうよと。それにラウダがこのクソ忙しいときに、長い付き合いのペトラにふらっと行くような人間か?というところでもありますし。彼はそこまで無責任ではないと思います。

それに、恋愛関係を出すというのはリスキーです。

水星の魔女は主人公同士の恋愛の帰結がどう向かうのか、という物語でもある。つまり根幹がラブロマンスものなんですよね。そこに他の恋愛を入れるというのは、主人公同士の恋愛への注目度が弱まる可能性がある。特にスレッタとミオリネは女性同士の同性愛であり、彼女たちの関係性が物語の中心でもあるので、はっきり言って他に恋愛関係はいらないんですよね。邪魔ですらある。

だからシャディク、グエル、エランと、恋愛関係はスレッタとミオリネへ向けられるベクトルで、この周りで完結するものです。

で、そこでお出しされるのがサブキャラクター同士の恋愛って、どうよと。ラブロマンスものなので、どんな恋愛であれ恋愛である以上は丁寧に扱われなければならない。サブキャラクターの恋愛模様に割く尺があるかというと、無い。主人公二人は途中で結ばれるのではなく、最後にあらゆる障壁を乗り越えてようやく結ばれるものなので、他の恋愛を描いている余裕はないんですよ。それぐらいだったら、他に恋愛で結ばれるキャラを何組も作って、いっそラブロマンスとして完成させておいた方がいい。

普通の恋愛ものと違って、スレッタとミオリネが必ず結ばれるし、ほぼわき目も振らない状態なので、多数が求婚してそれにぐらつく、というのがほとんどない。割と最初から最後まで、恋愛というには薄い感情だけれどもという二人が、試練を乗り越えるたびに愛を深めていくという、割と王道な進み方をしている。主人公一人に恋人候補が複数、という状況ではないんですよね。それに一期時点で二人はもうお互いをパートナーとしてはっきり認めていて、二期からはそれを現実が邪魔をするという構図なので、間に割って入るのは恋人候補ではなくままならない現実や大人たちです。

だったら恋愛描写満載にやりたいなとなったら、主人公たちをベッタベタにするか、多種多様なカップルを作って恋愛模様を作るか、どうするかしかない。

しかし、水星の魔女ではそういう露骨なベタベタ路線もないし、結局ハッキリ描かれた主人公以外の恋愛関係はラウダとペトラだけです。恋愛ものと言うには中途半端というか、何がしたいのかまるでわからん。

硬派なのか恋愛なのかはっきりしろと。多分愛情や信頼関係というのは根底にあるもので、人前でベタベタするとか、そういうものではない、と思っていたと思うのですが、じゃあペトラは割とベタベタにさせてんのはなんでじゃい。

よぅわからんのですよね。

水星の魔女の恋愛描写って、実は誠実じゃなくない?というのは後でやろうと思いますが(ラウダとペトラ以外にも言いたいことは山ほどあるので)じゃあペトラとラウダをこうして特別に絡ませる理屈も理由もないんですよね。だって適任は他にいるので。

同じ三年生、チーフメカニックとして弟であるラウダと同じくグエルを密にサポートする役、精神的に安定している友達。ラウダのメンタルケアの相手としては最適です。大人には言えない小さなストレスや、下らない雑談なども気軽に行える。これはペトラでは多分できない。

彼女はあくまで後輩なので、身にならない会話をするのは憚れるし、愚痴や相談などはもっとしづらい。むしろペトラの愚痴などを受ける立場ですからね、ラウダは。

だから、ここはカミルであった、と思うんですよね。

カミルなら、もっとラウダは頼れるし、下らない会話などでストレスも少しは減らせる。カミルはシャディクのことも知っているし、ラウダのことはもっとよく知っているから、彼のことがよくわかる。彼が苛立つポイント、疲れるポイント、そういうところがよくわかる。

ラウダの内心を代弁することも、気遣っているのだって不自然ではなく表せる。二人は友達で、恐らく親友だから。

15話でラウダがミオリネにチクチク言いに行っていましたが、あそこむしろカミルだったんじゃないかな~って。

あの時のミオリネの態度は、株式会社ガンダムの社員に対しても酷いし、ラウダに対してはもっと酷い。ラウダが皮肉を言っているのは、まぁあまり褒められたものではないですが、それでも彼は父親を失い、それからずっと会社存続のために頑張ってきたんですよね。それに対して、疲れた様子で皮肉を返すというのは、ちょっと酷くない?と私は感じてしまったのですが。

なにせミオリネの父親は曲がりなりにも生きていて、ラウダと違ってきっちりきっかりCEOなのに、会社のためにやっていることは現時点でゼロですからね。クレーム対応を指示することもなければ、現状確認すらしていない。ラジャンに尋ねたのはクワイエット・ゼロのことだけなので。

それでミオリネから皮肉をふっかけるのはどうなんよと。

だから、あそこにいたのはカミルで、そういう態度をとる彼女に対して一言言ったんじゃないかな~と。彼は間近でラウダを見ていて、彼が苦労して大人たちの心理戦とも日々戦っているのも知っている。なのに悲劇のヒロインを気取るなよ、会社のために何かしろよと、従業員の立場として、ラウダという経営者を傍で見てきた者として多分思う。思ってくれ~。

そしてミオリネが批判されることが少なかったり、こういうことをチクリと言われることが少ないというのも、少しカバーできる。第三者から見てもお前ヤバイぞ、と言われれば、そりゃヤバイわなと視聴者にも伝わる。

何でカミルが来たかと言えば、シャディクがこのタイミングでラウダに接触を図らせたからという理由も作れます。

ラウダがドミニコス隊からの警戒リストから外された以上、ヴィムをテロの首謀者として糾弾したら何でそれをこいつが知ってる?裏で手を結んでいたのはこいつか、とバレる。何か怪しい動きをしても同様に。

しかしドミニコス隊がラウダと手を組んでいないという確証を得られたら話は別です。シャディクにはラウダを動かす究極カード、「フォルドの夜明けがグエルを確保している」という情報を持っている。グエルが父殺しをしていることを知っているし、ナジとツーカーであれば、これらも当然報告されているはずです。ヴィムの悪行よりも、よっぽどラウダを動かすことのできる究極の切り札です。

やつれて茫然自失としている頃のグエルの映像をラウダに見せる。そうすればラウダはシャディクの言うことを聞くしかなくなる。フォルドの夜明けの窓口はシャディクがしている。テロリストに囚われて、劣悪な環境にいるグエルを助けるには、シャディクの要求に従うしかない。

ではシャディクの要求とは何かといえば、順当に考えれば総裁選の協力です。

それはペイル社に頼んでいますが、普通に考えてろくに接点がなく、常に四人組という集団でいて、きな臭い動きばかりしているペイルCEOより、組むなら断然ラウダです。ラウダとは3年間一緒に過ごして性格や行動パターンはある程度知っている。決闘委員会などでさらに密にかかわる機会が増えましたし、実際に手を組んで、彼の泣き所を確実に把握した。つまり、グエル。彼を掌握していればラウダは意のままに操れる。

同時にこのカードを切る最後のチャンスでした。グエルが逃げたという一報が届いてるかは知りませんが、もし届いていればグエルが万が一にも戻ってくる前に交渉を済ませなければならない。グエルが来たら当然ラウダはグエルを助けるために動く必要はなくなりますし、むしろこんなことを言ってきたシャディクを軽蔑し警戒するでしょう。

しかし、交渉を済ませた後にグエルが来る分には、すでに契約を交わしているのでラウダの方で一方的に反故にすることはできない。ジェターク社を引き入れられれば、芋づる式にペイル社もある程度の条件で自分を推薦してくれるでしょう。グラスレー社推薦6位も、ジェターク社を仲間に引き入れられれば一気に大逆転できる。

しかしそうは問屋はおろさずグエルは間一髪戻ってくる。とするか、ラウダはグエルの命をちらつかせても泥船に乗るようなことはしなかった、という選択を取るかもしれない。

グエルの命惜しさにグラスレー社に弱みを握られるのは、あくまでラウダの都合でしかない。ジェターク社のことを考えるのであれば、きっとエスカレートするであろうテロ組織の要求をのむことも、グラスレー社に弱味を握らせてもいけない。この関係はこれだけではなく、両方から無茶な要求をされ続ける可能性はゼロじゃない。

もちろんグラスレー社が総裁になることで得られるメリットももちろんあります。本編であったようにベネリットグループの援助を優先して受けられるとか。しかし総裁選を手伝うということは、こちらでもいくらかは身銭を切ったり、そちらに労力を割かなければならない。それよりは、中立を保って自社の力を温存し、御三家という立場を生かして存在感をアピールする方がよいのではないでしょうか。新総裁に誰がなろうと、ジェターク社は媚びを売らない。自分たちは自分たちで立ち続ける。

そういうメッセージを送れる。そして、ラウダは後者を取った。テロリストに屈することも、会社に負債を負わせる道を選ぶのでもなく、どこの援助を借りなくともジェターク社を支えてくれる人たちとならば、必ずこの窮地を脱出できる。彼らを信じる。という道を選んだ。

そんなかっこいいことできんのかいってところですが、社内の人々と良好な関係を築いていれば十分この結論に至る可能性は高いですし、グエルと真逆の判断を下すことになる。

やはりグエルとラウダは性質というか下す判断が結構正反対なキャラクターなんじゃないか、と思います。グエルはすぐに感情が怒りになり行動してしまいますが、ラウダは怒っても実力行使をするのは限界まで我慢してそれができなくなってからです。

そして、ラウダの判断は結構正しい。一期では感情のままに決闘を受けるなというのから始まり、二期でもミオリネを殺すという判断は究極的に間違いではない。詳しくはこちらの考察を見ていただきたいですが、傍から見ればグエルはミオリネに突然傾倒し始めたように見えるので、ミオリネがグエルをたぶらかした魔女に見える側面は確実にあるので。

だから、社員を信じると判断したラウダと、ミオリネと手を組むと判断したグエルでは、ラウダの方が正しかった、とすることもできる。グエル、ミオリネと手を組むのも相談する前にしているでしょうしね、決闘準備が始まっているんで。多分事後報告はしたでしょうが、間違いなくラウダを切り離すというのは相談していませんしね。そのせいでラウダが情緒不安定になって最終的に限界を超えてしまうので。

っていう風に使えるから、な~って。

ペトラでもできない?ってところなんですが、カミルの方がやりやすいところはもう一つあって。

私、最初に見た時、なんでこんなペイル社のおばさんたちがラウダにこんなネチネチ絡むのかよくわからなかったんですよね。ものすごいねっとり見てきたりとか。え、なんで?って。

で、これってもしかして、ペイル社の女CEOたちにラウダ本当はセクハラ受ける予定だった?って。もちろん、これは私の二百パーセント想像ですが、あまり表ざたにはならない、つまり声を上げづらいけれども現実問題として起こっている大きな問題として、女性から男性への性加害があります。セクハラは必ず男性から女性へやられるものではなく、女性から男性へももちろん行われる。けれどもそれは、女性からされているのであまり大きく問題視されず、男性も「このぐらいで」と声をあげない。

これをラウダでやるつもりだったのではないか?と。

推測ならばいくらでもできますが、エランたちの顔って、中性的な整った顔立ちで、それは可愛い系ではなく、少し鋭利な冷たさを感じる、クールビューティーな顔立ちです。オリジナルももちろん、同じ顔立ちなんですから黙ってりゃ4号のように冷たさを感じる美人です。

で、ラウダもそういうタイプの涼しい目元をしたタイプの美形に、私は見えるんですがひいき目なんですかね……。ただ、エラン4号もラウダも「氷の君」と言われていたり、「冷静」とプロフィールにあったり、冷たい印象があるとあります。

で、ペイル社のCEOは、内心どう思っていても、オリジナルのエランに対して敬語を使っているので、下の立場というか、よいしょしている。性格が悪いということはわかっていてもそうするより他はないというのは、直球にストレスになりますし、ただこれ彼女たちが望んでやっていることである可能性もあります。

ペイル社の意思決定機関はペイルグレードというAIらしいのですが、結局最後まで影も形も出てこなかったんですよね。オリジナルのエランが会社を見捨てたのも彼の意思であり、引き抜きがあったから。

……ペイルグレード、本当に機能してる?

彼女たちの服装がシスターっぽく見えますが、シスターは神の教えを広めるものでもあります。つまり、神の言葉を伝えるものである。本編でもペイルグレードの色々を伝える役割をしていますが、じゃあペイルグレードに実際にアクセスした人ってこの四人以外いるのかいな。もしいないのだとしたら、いくらでもでっち上げられるんですよね。つまり生臭坊主です。

エランはモビルスーツ操縦技能だけがドベで、それ以外はかなりの高水準です。もちろん経営者としてはパイロットよりも経営者としての能力が優れていた方がいいですが、別に参謀でもいいんですよね。

それこそ影武者を立てているように、すべてがAな人間を立てて、裏で操る。そういうこともできる。CEOとは社の顔なので、人を食うエランではなく、もっと性格のいい人間を選んでもいい。能力だけで評価するのはAIらしいですが、そこに人の意思が入っていないか?というのは誰もわからない。

そしてすべてがトップクラスの能力を持っているのがエランだけか、というのもわからない。もし何人かいて、ペイルCEOがわざわざパイロット適性がないエランを選んだとしたら、それはすなわち何かが好ましかったからで、こういう時だいたい「容姿が好みだったから」になるんですよね。同じ成績の人間が並んでいて、能力も同程度なら、どれを選ぶか?と言われたら、自分に好ましい人を選ぶのではないでしょうか。

もしエランがそうやって選ばれていたとしたら、ラウダもまた彼女たちのアンテナに引っかかる可能性はゼロじゃない。いや、むしろエランと違って大っぴらに自分たちがちょっかいをかけられる相手になる。気を遣う必要はないし、ラウダはあれでかなりまっすぐな性格なので、回りくどいセクハラなど気づかない。弟としてグエルに守られてきたのなら、そういうものに対して免疫もない。それに、今現実の男性のように「自分は男なのだからそのような目にはあわない」という意識があれば、「いやだな」とは思えど「性加害を受けている」とは気づかない。

会話に下ネタを混ぜる、軽くボディタッチを行う、お酌をさせる、用もないのに傍に来るように言う、困らせてその反応を楽しむ。肉欲を持って行われるこれらのことはセクハラに抵触します。

加えて今ラウダはジェターク社という弱味があり、情報を渡すだのなんだの適当なことを言ったり、噂を流すなどを言えば断りきれない立場です。多少不愉快だったり、何か変だなと思ってもそれに目をつぶったり、自分を性対象にするような年齢ではない、母親と同じかそれ以上の年齢のおばさんに肉欲を向けられているなど、思いもしないでしょう。彼はまだ18歳で、学生なのですから。

で、これらのことはあの年齢の男の子にとっては、笑って済ませられる冗談ではないでしょうか。「あのおばさんから触られてさ」「え、キモ!」「キモイだろ~!」程度で終わりますが、これがもし軽い笑い話として話したのがペトラだったら、速攻でセクハラだと気づきますが、カミル相手だったら絶対にお互い気づかない。このぐらい直接的に言うかもわかりませんしね。「あのおばさんたち嫌いなんだよな」ぐらいかもしれない。

ただここに大人がいたとしたら気づく。ペイル社にちょくちょく呼び出されていたのは知っていたとして、その内容がまさか年若い我らのCEOに年配の彼の母か祖母と言ってもよさそうな女性でしかもCEOが、プライベート空間で接触をしているとなったら、それはもう完全にそういうことですし、初めて外に漏らしたのだとすれば、その子が無意識のストレスやおかしいと気づき始めているサインでもある。

気づいたなら守らなければならない。あるいはそれでも見送らなければならない現状に悔しそうにするのでもいい。男性であっても、相手が女性であっても、性加害は起こりうるものであり、それは異常なことなのだと示せる。これは結構画期的なんじゃないでしょうか。そしてアニメという媒体で取り上げるのには意味がある。特に水星の魔女は、対象年齢はまさにラウダたちの年頃の子供たちから大人、もっと幼い子まで幅広い。そこに、現実では見て見ぬふりをされたり、黙殺される、けれども実際に起きている問題を描写する。これは普通ではなく異常で、大人が守るべきであり、またこのような現実は起こっているのだと、声を出すきっかけになる。

SNSと密接に絡み合っているのも水星の魔女の特徴なので、そういう幅広いフックを用意すれば見る対象は広がっていきます。

それでペイル社CEOをセクハラ要因にするとしたら、ラウダの周りには男性を配していた方がいい。性加害は男性がするものであるという常識を打ち破ることができるからです。性加害をするのは女性で、それを守ろうとするのは男性という構図ができる。つまり現実とはあべこべの状態を作り出せる。

私は融資元の人も含め、ラウダのことは性対象ではなく、守るべき子供であると見ていたのではないかと思います。

子会社の整理ではなく統合を求め、それができれば支援は続けるし、ヴィムが死んだ瞬間に手を引くのでもなく、乗っ取ろうとするでもなく、代替案を考えて融資をその間も継続してくれている。

ジェターク社の従業員ですが、彼らの個性があまりありませんが、共通していることがあります。それがグエルへのあたりの強さです。

ダリルバルデのスタッフは「御曹司」と言っていたり、グエルに胸倉を掴まれても少しも怯えたり反応したりしない。普通びっくりしたり、グエルは怒るとすごい剣幕になるので、本能的に体が硬くなったりビビりそうですが、全くそんなことはない。リラックスしています。
ヴィムの秘書のようなメガネをかけた男性も、グエルの荷物を床に投げ捨てたり、現場のメカニックも、ビジネスマンも等しくグエルのことに興味がないどころか嫌いな感じを受けます。

あるとすれば、ヴィムに内心反発しているので、息子に八つ当たりをしている可能性ですが、もう一つ可能性としてはあります。

それが、彼らがラウダを気に入って慕っているから、という可能性です。ジェターク社は血族主義で、ヴィムもグエルに跡を継がせる気なので、ラウダはそこから零れ落ちている。けれども、ヴィムの仕事をずっと手伝ってきたのはラウダで、コネクションを築いているのもラウダなので、彼らはラウダと一緒に仕事をしていて、本当はラウダに跡を継いでもらいたいと考えていたら、グエルは直球に邪魔者です。そうでなくとも、兄として偉そうに振る舞っているんじゃないか、とか、グエルのことがラウダは好きすぎるので、たぶらかされているんじゃないかとか、調子に乗るなよと思っていてもおかしくはありません。

もちろんこれは想像ですが、一期では結構出ていた彼らが二期からは全く出てこなくなったので、ラウダと絡ませるつもりで、グエルに対してはむしろ敵対していたとしたら、出せませんので。

いきなりセクハラとか、という感じではありますが、ラウダがいるのは会社、大人の世界なので、こうした理不尽が突然襲いかかることは、実際にあります。そうした時に、周りが守ってあげる。支えてあげる体制があるというのはとても大切なことのはずです。

ラウダは男性だから、女性でやるよりは生々しさが少なくなるかもしれない。けれども、男性であっても女性であっても、周りが助けて守ってあげるべきです。特に大人が。そうした目線で見る人は、きっと少なくない。そうであって欲しいですし、見返したときに、自分がそういう守るものになろうとする子供たちがいるかもしれない、今見る大人たちは自分たちがそういう守る方に回らなければならないと思うかもしれない。

そういう意味で、もしあったとすれば、とても意味があるものになったと思います。

他にも病院のシーンで憶測ではなく確信をもってラウダが過労で倒れるほど頑張っていたり、グエルがどれだけラウダに必要とされているのかを伝えたりもできますし、カミルが傍にいたらいいことがもう一ついいことがあり、グエルとの対比ができるということです。

そうやってラウダを助け、守る中にいても、ラウダが魔女と化した時、カミルはすぐに手を伸ばしなりふり構わず、何を捨ててでも助けることができるのか。

カミルはできない。けれどもグエルはできる。

そういう深みを追加することができる。

ラウダは本編では独りで狂い、誰にも告げずに出撃しましたが、下のような流れもあったのだとしたら、カミルはラウダが魔女になる瞬間を目撃することになる。

レネの男好きがどこから来るものなのかわからない中で、私はトラウマやコンプレックスから来るものであると思ったのですが、それはなぜかというと、彼女は作中ではリリッケとラウダに対してあまりいい感情を抱いていないような描かれ方をしていました。

リリッケには直接宣戦布告に行き、「どっちが上か、わからせてあげる」と、自分の方がお前よりも優れているというようなことを言い、ラウダは彼女が媚びを売るべき男性であるはずなのに「ラウダ・ニール!」とフルネームで罵倒する。

それはなぜか。この二人、体格も性格も性別も何もかも違うのですが、共通している部分があります。

それが、「ありのままの自分が周囲から受け入れられている」というところです。

リリッケは地球出身のアーシアンであることは全員が知っていて、モテているのでこれまでにもアプローチされている。しかしそのすべてを「ランチのお誘いなら断りましたよ~」とあっけらかんと断っていてなお告白されるので、彼女はそのキャラクターごと愛されている。

ラウダもそうです。ラウダは兄であるグエルのことを一番愛していたり、それで過激な手段に出てたり感情的になっても、そういう人間であると許容されている。ジェターク寮生以外にも。

そして何よりラウダは、自分が愛している人に愛されている。自分を偽らず、そのありのままのラウダを、グエルもまた愛していて、大切にしている。

翻ってレネは、男性に対して媚びを売ったキャラクターを作り、それを絶対に崩さないようにしている。なぜか?

そうしないと愛されないから。

レネの本来の性格は、勝ち気で自信家で、強い女性です。しかしそれを男性に対してはひた隠しにする。恋人関係候補の男性たちにすら出すことができない。

この本来の性格が、男性陣はもちろん、シャディクたちに受け入れられ愛されていたかというのも、恐らく否です。

サビーナはたびたびレネのありようを注意していましたし、彼女たちはシャディクの手足であり盾です。家族のようでいて、家族ではない。愛があるようで愛はない。

彼女を彼女として愛してくれる人はどこにもいない。いたかもしれなくても、それは孤児である自分には失ってしまって取り戻せないものです。

だからラウダが許せない。ラウダは男性だけれども、そのありようを受け入れられて、家族が大好きで、その家族から愛されている。守られている。必要とされている。

だから、男であっても許せない。

とはいえレネもまた、誰のことも愛すことはできていなかったと思います。キープ君ということで、何人も本命予定の男の子を囲っているところからも、一番を決めていないし、決められない。

だって彼らは本当のレネを知らない。そのレネを愛してくれるかもわからない。あくまで「可愛い」「レネちゃん」を愛している。だからこそ、自分ではなくリリッケを見た男に強く出れないのだと思います。普通に浮気なのにそれを詰まれない。彼女は素の自分が愛されないということにトラウマを抱えていて、だからといって偽りであっても愛してくれる人がいないのは耐えられない。

でも本当は、誰よりも本当の自分を見て、愛してもらいたい。激しい嫌悪は、渇望の裏返しでもある。

それを見つけて、受け入れるのは、リリッケだったのではないでしょうか。

彼女はチュチュやニカ以外に、瞳の詳細設定のある唯一の地球寮の子です。それはなぜだったのかと言えば、レネを救う一歩抜けた存在だったからなのではないか。

実はリリッケは、彼女自身の恋愛に対して興味を持っているのかはわかりません。他人の恋愛についてはミーハーのような興味を示しますが、彼女自身の恋愛観はわからない。そもそもなぜ他人の恋愛模様に興味があるのか。それもわからない。

リリッケはスレッタには優しいですが、ミオリネに対しては結構辛辣です。スレッタとミオリネが正式な婚約者同士なのに、その恋愛模様ではなく、エランに進むのを応援したり、はしゃいだり。彼女がそういう王道な恋愛が好きだというのもあるかもしれませんが、彼女もしかして恋をする女の子だったり努力する人が好きなんじゃないか?って。

スレッタは努力家で、ミオリネにふさわしい自分になろうとしたり、エランのことを知りたいと悩んだり、頑張る女の子です。そしてリリッケはそんなスレッタを応援している。

もし彼女が、恋をする人は頑張り屋さんで、相手のために必死なところが好きだから応援していたり興味があったりするのだとすれば、追いかけられるばかりで追いかけない(リリッケたちの前では)ミオリネは、リリッケにとってあまり許容できない人間になります。

そんなリリッケがもし、レネが自分を見てもらえないことに悩んでいて、愛されるためにキャラを演じて努力をしている女の子だとしたらどうでしょう。多分頑張り屋さんだと、褒めるのではないでしょうか。男にばかり媚びるキャラクターであるレネを、それでもその寂しさを見て、そうしてしか努力できないレネを、それでも努力しているのだと、その価値を認める。

きっとそれは、誰もやってこなかった。シャディクがやってくれて、だから協力しているのかもしれない。だとしても、利用するのではなくただ純粋に一人の女性として褒めることはしなかったでしょう。レネにとって、リリッケだけが、彼女の価値を認めてくれて、受け入れてくれる人になった。かもしれない。

レネのキャラクターとして、もう一つ矛盾があって、学園を再びガンダムで蹂躙するときに、彼女は全くキープ君たちを気にしなかったんですよね。死ねばまた別の男見つけるか~と思っていたのかもしれませんが、それでも彼女は彼女なりにキープ君たちを大切にしていた。あの時点ではまだプロスペラの裏切りがなく、それが始まってからすぐに動き出すので警告の連絡は間に合わないにしても、シャディクのやり方はアーシアンもスペーシアンも地獄の争いに放り込んで、その果てに平和を築く、おびただしい犠牲の上に立つやり方です。そして彼は、学生であろうと、キープ君であろうと巻き込むことをためらわない。

このまま進んでいけば、きっといつかは彼らも死ぬ。そんな未来がわかっていて、彼女は果たして葛藤せずにいられるのだろうか、と。

その葛藤を偶然リリッケが目的して、悩み苦悩して、愛されたいと渇望している女性を見た時、リリッケはどうするのか。もし受け入れたとすれば、レネにとってそれは、自分の居場所を見つけたに等しいのではないでしょうか。そうして、シャディクが案の定学園を再度ガンダムによって蹂躙すると決めたその間に、リリッケにそれを知らせる、という展開になったかもしれない。

それを知ったリリッケはどうするのか。急に決まり、すぐに動かなければならないから明確なことは伝えられなかったとして、それでもただ事ではないと伝われば、リリッケは動くはずです。ただ、彼女だけでは動かず、先輩に相談するでしょう。

マルタン?アリア?この前に、ラウダがチュチュの謝罪とスレッタとの絡みを行っている。前回のラウダとスレッタの考察で行ったとおり、彼らが「自分たちは同類である」と自覚し、奇妙な連帯感が生まれて、チュチュに対して命を救われた借りを返すのも含めて、「困ったことがあればジェターク寮を頼れ」という約束をしたとしたら、リリッケはラウダに頼むでしょう。

マルタンは頼りにはならないし、アリアは頼りになっても、自分たちが地球寮である以上、グラスレー寮には内情を探ることすらできない。ラウダなら、冷静で頼りになるし、同じ御三家という立場なので、いざとなればグラスレー寮に直接干渉することも含めて動くことができる。

そしてもし、レネがリリッケには生き延びてほしいと「逃げて」なんて殊勝なメッセージをしていたら、ラウダは「逃げる必要のある何かが起こる」と察することができる。

決闘委員会に連絡し、事前に避難勧告を出し、ガンダムが暴れだせばモビルスーツで立ち向かう。兄さんならそうするし、自分はジェタークの人間として人の先頭に立たなければならないし、ランブルリングのリベンジになる。

それから、ラウダが「本当に強いこと」を証明できる。ラウダはヴィムがグエルに「ジェターク家の人間がジェターク社のモビルスーツに乗って負けるだと?」と、ジェタークの人間が負けるなどありえないということを言っているので、負けたことはないはずです。その状態でスレッタから来る前から7位と10位以内に入っていて、グエルがいなくなってからは決闘を挑まれることが多くなったのか順位が4位に上がっていますし、御三家には及ぼないもののかなり強い部類です。

オッズ倍率も6.4で、サビーナがスレッタに集団戦で負けたからにしても、
元々の6.9よりも高いのでかなり期待株であり、
ラグナル君がランク外になっているので2か月か2週間か、
他寮が台頭する乱戦状態の中でも順位を上げていっているのがわかる。

ブリッジでグエルとやり取りをしたり、注意を促しているので、そういう指示を出す能力もある。スレッタと戦うにあたり、フェルシーにつゆ払いをあらかじめ指示したのもラウダでしょうしね。だから、フロント管理の人々に指示を出して、組織立って防衛にあたる、なんてこともできるかもしれない。すぐには出られなかったから間に合わなくても、ほぼフェルシーとチュチュだけでガンヴォルヴァを凌いでいた本編よりも、被害は少なく済んだでしょう。ラウダは彼らよりもはるかに格上の強さを誇るので。

セセリアたちもラウダを頼りにしたでしょう。本来ここでリーダーシップをとるべきシャディクはおらず、ラウダが今のところ最高戦力になる。その中で、もし立て続けの襲撃に学生たちの心が折れてしまい、避難作業が思うように進んでいなかったら、発破をかけるでしょう。しかし彼はジェタークの関係者以外に優しいわけではないので、手厳しいものとなりそうですが。

本編でスレッタに少なからず影響を与えた、ペトラのようなものになるのではないでしょうか。「したいことがあるのなら動け、動けないのならそこで死を待て」とか。スレッタが出した結論である「今できることをしろ」というのも言うかもしれない。現にラウダは今できることをしている。

それで学園でラウダが動くことによって、フェルシーもまたラウダのサポートとして出撃するでしょうし、14話で命を助けたチュチュと助けられたラウダの共闘もできますし、何より、24話で散り散りになったジェタークメンバーで出てきた男の子は、ここで出てくる予定だったのではないか?と。

いや、この子マジで誰?なんですよね。カミルが色々心配しているところでちょくちょく出てきたらしいんですが、セリフもなければ何にもなくて、あとのメンバーはフェルシー、カミル、オペレーターの女の子と、名前が判明していたりかなりセリフのある子ばかりなので、この子マジで何にもないんですよね。まだもう一人のオペレーターの青い髪の女の子出すか、いっそいない方が良かったんじゃ…?

しかし、ジェターク寮で名前は出ているのに誰かがわからない子が一人います。それが、一期で9位とオッズ表に表示されていたラグナルと呼ぶと思われるジェターク寮の一年生です。彼は一年生ですが、唯一グエルとラウダを除いてオッズ表に登場している子なので、実力はラウダに次いでいます。フェルシーはラウダの考えをよく理解してくれるから必要として、もう一人あの危険なガンヴォルヴァのいるところに送り込むとして、タッグを組む人間、それも実力者が欲しいところと考えると、このラグナル君が一番の適任です。

こうなればセリフもあるし、フェルシーと組んだりラウダが表立って動くのでたくさん交信するとなると、存在感を示すことができる。まぁ私がジェタークが好きだから気になっているとしても、他にオッズ表で出てくるのは、御三家を除いてグラスレーペイルジェタークの中で、サビーナとレネを除いてラグナル君だけで他は他寮生なんですよね。だからわざわざ同じジェターク寮として出していて、それがフェルシーではないということは、結構意味があったのでは?と。

しかしどういう狙いがあれ、ラウダが学園にいるので、グエルにダリルバルデを届けるのはカミルの役割となる。ヴィムを殺してしまったということを聞いてしまうのも。

初動が早く、ラウダという強者が戦うので、学園の被害は恐らくもっと小さい。しかし死傷者数は減らせても、建造物については止めきれないので、復興作業は引き続き継続するとなると、ラウダはグエルのもとへは行かずに、それを行っているでしょう。グエルはジェタークにとっての怨敵であるシャディクを捕まえ、自分は学園を守った。それぞれでやるべき仕事を全うした後なら、それぞれがそれぞれのできることをやればいいと、吹っ切れているかもしれませんし。

ただ、それが気に食わない勢力が出てくる。

シャディクはグエルに敗北しましたが、彼にサビーナたち以外の仲間がいなかったわけではない。継承6位であるシャディクに「すぐに一番になりますよ」と励ましていた男性がいます。彼は数少ないグラスレー社のシャディクの味方です。彼がシャディクのことをどこまで知っていたのかは知りませんが、わざわざ負け馬であるシャディクに乗るぐらいです。その心酔度合いはかなりのものがあるのではないでしょうか。

彼の生まれに同情していたならさらに動機がある。シャディクがテロ組織と繋がってしまったのは生まれのせいでもあるので、彼がテロリストでもそれは軽蔑の理由にはならない。

そしてシャディクがテロリストであることを知っているということは、あの戦いを聞いていたということでもある。グエルが父親を殺したことを知っていて、グエルがシャディクに対してラウダのことで激昂して反撃したのなら、ラウダはグエルにとって弱点です。彼を精神的に不安定にさせればそれはグエルにも伝搬する。

だから、ラウダにもそれを伝える。それをしたところでシャディクは釈放されることなどないとしても、復讐とはえてして「相手に少しでもやり返したいからやる」もので、生産性などないものです。

ラウダは第三者から伝えられたところで信じないでしょう。グエルがどれだけ父親を愛しているのかなど、ラウダは痛いほどよく知っている。けれどもカミルは事実だと知っている。そして突然そんな、グエルがひた隠しにしたかった真実がラウダに伝わってしまって動揺せずにいられるほど、ケナンジのような特別な訓練や場数を踏んでいるわけでもない。そしてカミルが動揺してしまったら、ラウダにそれが真実だと伝わってしまう。他の人間ならいざ知らず、カミルはラウダにとって信用に足る人物であり、直前までグエルと一緒にいた。

そうなったらどうなるかと言えば、21話のラストです。ラウダはグエルがミオリネにたぶらかされてしまって、正常な判断ができないのだと思う。思い込むしかなくなってしまう。そうじゃなければ、グエルが自分の意思で、そんな辛い目にあったというのに自分に頼ってくれなくて、ミオリネに頼ったということになってしまう。そんなこと、ラウダは耐えられない。

あの21話の壮絶な魔女としての覚醒と狂いを見せられて、カミルは果たしてすぐに手を伸ばせるのか。恐らくできない。しかし、グエルはできる。というより本編でできている。ひたすらミオリネを襲う様を見せられて、それから命を削るようなことをし始めたからとはいえ、すぐにラウダの命の方を心配して止めようとする方向にシフトする。

なぜそんなことができるのか。それはラウダを一番愛しているから。カミルはラウダのことは好きでも、一番ではない。けれどもグエルは、ラウダが一番大切で、何よりも愛している。だから魔女に堕ちようと何になってしまっても、手を伸ばすことができる。ここの比較をさらにはっきりさせることで、グエルはラウダを愛していて、最後まで守る存在であることが強調されていく。

そしてそれまで兄弟二人の間にいたカミルも傍観者へと追いやられて、グエルとラウダ、兄弟の物語が幕を開ける。

個人的にはこれぐらいグエルはラウダのことを愛していて、ラウダもまたグエルのことを愛していて、二人の中心はお互いであったのではないかな~と思います。理由としては、その方が物語として一本筋が通るからというのもありますが、この二人は表主人公のミオリネとスレッタの対となる裏主人公であるんじゃないか、と思うんですよね。そして裏主人公が二人にならなかったので、表主人公の物語もな~んかおかしくなっている気がしなくもないんですよね……。いや、そういう問題ですら、そもそもの根本的な、二人が結婚するというその根本的なテーマが弱いどころか消えてね?という感じがありまして。

スレッタとミオリネが立ち向かうべきものは何だったのか


これは私は、まず第一、そして最も大きなものは「母の愛(呪い)」だと思うんですよね。そして、放送された本編では、この「母の愛」とは何なのか、それを解呪できたのかどうかが中途半端になっているように見えます。

まず、母の愛であり呪いとは何だったのか。

これはスレッタとミオリネがどうして女性でなければいけなかったのか、男性ではいけなかったのかに準ずると思うのですが、母から娘への呪いというのは、搾取対象になってしまうというところにあるのではないかと思います。

どういうことかというと、娘というのは「母親の味方であること」を求められます。少し意見を言えば「お父さんの味方をするの!?」「同じ女としてその考えはおかしい」「〇〇ちゃんは私の味方よね」「〇〇ちゃんがやってくれるからお母さん助かるわ」

こういったことを言われた人は多いのではないでしょうか。そしてそれは、愛しているかどうかに関わらない。母が娘を愛していなくても、娘は母親の手伝いをすることを求められる。

家事を手伝うことを求められ、自分と同じ意見を持つことを求められる。母親には必ず同調し、同じ結論を出すことを求められる。

これは「〇〇君はこうしたほうがいいわ」と言われがちな息子とは少し毛色が違う。息子に対しては、彼の自主性を一応尊重しているような言い方ではあるんです。実態は母親の言いなりになることを求められていたとしても。

しかし娘は違う。同じ「女性」という属性として、母親に対する娘として、絶対の隷属を求める。

何でしょうね。子供が違和感を持つ問題のある親というのは大なり小なり、母親から息子は「ペット」「可愛い私の坊や」、母親から娘へは「自分の延長線」「道具」「もう一人の自分」という意識が根底にあるのではないかなと。

私は親ではなく、子供、それも娘の立場でしかないので、そこからの視点でしかありませんが、プロスペラのスレッタへの態度を見て、「ああ、私のとこの母親と同じだな」と思ったんですよね。もちろんあそこまで酷くはありませんけどね。

いつでも自分の味方になってくれて、精神的なメンターや愚痴をいつでも聞いてパーフェクトに返してくれて、自分のやることなすことついて来てくれることを私に求める。私の母はこういう感じの母親です。

プロスペラはメンターとして頼りにしていませんが、スレッタを徹底的に自分の道具であり、手足であり、自分自身であるとして扱っているので、私とは違いますが一人の個人ではなく、自分に都合のいい存在として扱っているのは同じです。自分自身であるから、エリクト(エアリアル)を助けるためにどのような犠牲だって払うのは当たり前で、自分の道具であり手足なのだから自分の言うことを聞くのは当たり前です。

そしてそれは、しばしば母親は非難の対象にならない。いつでも付いていって、お母さんの言うことを聞く子は「いい子」です。支えている子は「いい子」です。いい子と言われれば自分の行為は正しいのだと思うし、そこから外れて反抗してしまうのは「悪い子」になるので、お母さんの都合のいい存在から抜け出せない。

スレッタもそうです。お母さんが望むから、彼女はエアリアルを助ける道具としていい子でい続けています。エアリアルは自分の命を奪うかもしれない存在で、それを隠して乗せていた母親に対して「それは嫌だ」と思っても、「いい子だから」お母さんに求められたら断ることができない。

母親は歴史を持っています。結婚して子供がいる以上、子供を育てるという苦労は最低限背負っている。だから不満を訴えても「育ててくれているんだからわがままを言うな」と封殺される。悪い子だと周りから白い目で見られてしまう。一度でも拒絶されれば「自分が間違っているんだ」「どうしてこんなことを思うのだろう」「そんな自分は悪い子だ」「お母さんごめんなさい」と潰される。

さらにプロスペラは実際に苦労している。家族代わりの人も夫も失い、職場も失い、自分はお尋ね者で、自分たちが仕事としてきたものは禁忌の技術となり、魔女として恩師も自分も世界から差別される日々。水星という辺境に逃げ延びてからも、生きるために苦労したでしょうし、最愛の娘まで失う。その中で正気を保てと言う方が無理なのかもしれませんが……

でもさあ、それって子供に関係ある?

母親がどんな人生を生きてきたのかを知ることはあっても、だから「お前は母親にどんな目にあわされても受け入れろ。だってお前のお母さんはかわいそうな人なんだから」って言われて、受け入れられますか?

私は絶対受け入れられませんね。それとこれとは全然違うじゃないですか。

母親がどんな苦しい人生を生きてきたとしても、子供に辛く当たってしまうという理由にはならない。なってはいけない。

子供への暴力やハラスメントは絶対に行ってはいけませんし、自分の辛い人生への復讐に子供を付き合わせては絶対にいけない。ミオリネも言っていましたが「子供には関係ない」「子供を巻き込んではいけない」

エルノラを助けるような社会的なシステムもなかったという反論もできますが、それも子供には関係ないですよね?悪いのは社会システムであり、生まれた子供には罪はない。デリングに直接復讐すればいいだけで、スレッタをそれに巻き込む必要性は全くない。

しかもスレッタは、プロスペラがエリクトを失ったから、それを取り戻すという妄執を果たすために産み落とされた子供です。元からプロスペラにとってはただの道具であり、エリクトの代わりでしかない。それもエリクトの代わりに愛するのではなく、エリクトが乗り越えられなかった未来を愛でるための存在で、彼女が見ているのは恐らく成長していくスレッタではなく、成長していくエリクトの体です。そのぐらい、スレッタに対する感情は希薄であると思います。

スレッタはエリクトをパーメットスコア8に連れて行き、彼女がもう一度「プロスペラの許容できる人間として」生きられるようにするための外付け装置です。死ぬ可能性があることを知ったスレッタから責められても悪びれないし、彼女を戦いに行かせるのもいささかの躊躇もないし、スレッタを自分たちの復讐にまだ付き合わせるかと尋ねたのはエリクトに対してで、それを娘に言わせるってのもどうだよって感じですが、プロスペラ自身はスレッタを手放したいから言ったのかどうかは実はわからない。最終的な判断をエリクトにゆだねているので。でも、エリクトに尋ねているので、それはスレッタがエリクトのお気に入りの「お人形」だから確認したんじゃないか、と私は思います。プロスペラのセリフとして「そうね。あの子は自由になっていいのよね」というのも、これも「そうね」と同意しているので、エリクトが「スレッタは自由にして」と言ったから「自由になっていいのだ」と改めて言ったということになるので、この時点でプロスペラがスレッタを手放すことを決めていたとしても、それは「自由にするため」「それがあの子のため」と明確に意識できていたわけではない。プロスペラの言葉は、すべてエリクトがスレッタを思い、母親に要求したことでしかない。そして時系列としても、エアリアルがスレッタをコクピットから放り出したのが先です。エリクトが先にスレッタを手放したからプロスペラも突き放したんですよね。

だからもしここでエリイが「やっぱりスレッタと一緒にいたい」と言えばプロスペラはスレッタを回収したんじゃないかと思います。「いいの、エリイ?」と最終確認をわざわざエリクトにしているので。つまりプロスペラの意思はなく、エリイが「欲しい」と言えば与えるし「手放す」と言えば手放す。そういう「物」なんですよね。プロスペラにとってのスレッタは。恐らく。

そしてそれだけ大切なエリクトはどうなのかと言えば、やはり同一視していると思うし、彼女の意思を尊重していないし、見たいように見ているに過ぎないと思います。

エリクトはエアリアルである。プロスペラはスレッタに人を殺すことを教唆しますが、それは「エアリアルに乗って」なので、「エリクトで人を殺せ」なんですよね。あの衝撃的な人間を叩きつけて殺す場面ですが、あれで汚れたのはスレッタの手だけではなく、エリクトの手も汚れた。それどころか、エリクトの手で人を叩き潰したんですよね。

あれの最も重要な意味とは、私はこれだと思います。スレッタ、そしてエリクト、両方の手が汚れた。エリクトはGund-armエアリアルだからスレッタに人を殺させてしまった。スレッタはプロスペラに免罪符を与えられ、ミオリネが危なかったから、エアリアルを操縦できるから人を殺した。そしてこれからも、彼女は人を殺す。プロスペラがいたら、ミオリネがいたら、エリクトがいたら、スレッタはこれからも人を殺してしまう。

だからエリクトはスレッタを手放すことを決めた。スレッタをこれ以上人殺しにしてしまう前に。自分という兵器や、彼女に人を殺させる可能性のあるものから遠ざけた。

エリクトは一貫してスレッタのことを思って行動しています。

「 僕はいいけど、スレッタはダメだ。あのコは、あんなにいいコなんだから。
 復讐なら僕らだけでやろうよ。スレッタを巻き込まないで。」(機動戦士ガンダム水星の魔女公式ホームページ ゆりかごの星より引用 https://g-witch.net/music/novel/)

エリクトはスレッタを巻き込むことだけはずっと反対していた。絶対に人を殺させない、復讐なんて関わらせない。そう誓っていたと思います。けれども結局はこうなってしまった。そしてそれに大きく加担したのはプロスペラです。

この時点で、プロスペラはエリクトのためと言いつつ、エリクトのことを本当に考えているわけではない。エリクトがしたくなかったことをして、復讐に巻き込んでいて、彼女の手をずっと汚させているので、プロスペラもまたエリクトを自分と同一視している。

エリイは、自分と同じように、モビルスーツではなく人間として生き返りたいと望んでいるし、復讐をしたいと望んでいるし、スレッタを自分たちのために利用して構わないと考えている。だって自分の娘だもの。母親である自分と同じように考えている。

そう思っていないと、こんなことできない。そもそも、プロスペラはエアリアルのことをどの時点で「エリイだ」と実感したのかというのも、最初からではなくスコア6を確認してからなのではないかと思えるんですよね。

ゆりかごの星でエアリアルと呼んでいたり、私の最高傑作さんと呼んでいたり、人間扱いしていない。保険をかけていたのではないかと思います。この時のプロスペラはまだエリイの声が届かない、聞こえない状態であると思われます。この設定がどこまで生かされているかわかりませんが、ずっと聞こえていなかったとしたら、プロスペラは本当にエリイがエアリアルにいるのか、確信が持てていないはずです。しかし、スコア6になってからは、間違いなくエリクトがエアリアルです。だから、笑い、歓喜の涙を流した。自分は間違っていない。エリクトは生きている。それを17年越しに確信できた。

それまでは一貫してプロスペラは兵器として扱っているし、エリクトであるとわかってからすら兵器として扱っている。多分彼女にとっては、エリイとはエリクト・サマヤの形をしたもので、エアリアルの形はエリイだと認識していない。だからデータストームの領域を拡張し、エリクトの姿をこの世に顕現させようとしていて、それを世界中に拡張しようとしている。

しかしエアリアルは果たしてエリクトではないのかと言えば、それは多分違います。エリクトは自分が「エアリアル」であるとゆりかごの星で認識していますし、スレッタのガンダムとして生きることについて特に不満はありません。「もうすぐ願いが叶うのに」と言いますが、本当に彼女の願いなのかはわからない。

私の推測としては、彼女はそれが叶うかどうかはどうでもよかったんじゃないかなと思います。スレッタの力で、家族であるエアリアルでいるのは、彼女にとって全然かまわなかった。自分の自認が「エアリアル」になっているくらいですからね。

けれども母親はそれで満足できなかった。だから付き合ってあげようとした。自分の親だから。でもそれにスレッタを巻き込むことだけは許さなかった。やはりエリクトの自認は兵器に寄っていたんじゃないかと思います。自分は兵器だから人を殺しても当たり前だけれども、スレッタは人間だから、人を殺してはいけない。そういう理屈だったのかな、と。

けれどもスレッタにとってそれは看過できない事態のはずです。彼女にとってエアリアルは兵器ではない、家族です。そんな家族が人間を大量に虐殺していたら、それが母親による命令で彼女自身の意思ではないとしたら、助けようと思うのは自然なことのはずです。

現にスレッタは、「お母さんは説得できない」と言いながらも、それでも「話したい」とキャリバーンに乗ることを決めます。だとしたら主に話したいと思い、説得したいと望んだのは、エリクトではないでしょうか。何を説得したいかと言えば、当然人を殺すのはやめてほしい、ということであり、お母さんから自由になっていいんだ、ということではないでしょうか。

スレッタは、エアリアル、エリクトが自分のためにスコアの負荷を肩代わりしていることを知ったし、自分を遠ざけた理由を知った。しかしエリクトは未だに、プロスペラに囚われ続け、自分の代わりに人を殺す道を歩み続けている。もちろん、エリクト自身が望んだことかもしれませんが、ここまでエリクトがプロスペラに付き従っていて、ゆりかごの星では「けど僕は、お母さんに逆らうことはできない。」と言っています。かなり強い口調であり、エリクトは何があろうとも母親に逆らうことができないという感じを受けます。

しかし、彼女は本当はプロスペラに作られたわけではなく、エリクトという一人の人間です。娘という意味でプロスペラに製造されたとしてもいいですが、エリクトはエリクトで、プロスペラに逆らえない理由があったのではないか、と思います。

彼女って本当に宇宙の環境のせいで死んだんでしょうか。

もっと言えば、あの時点で死んでいたのか?

PROLOGUEでいた、寝たきりの人たちは一応生きていますし、目を見開いてぎょろぎょろ動かしているので、意識は覚醒していると思われます。その顔にはパーメットの光が浮かんでいました。そして、エリクトにも光が浮かんでいました。気絶したスレッタには光がかなり薄い。……いや、角度の問題なのかもしれませんが、覚醒した瞬間に輝きが強くなっているので、もしこれが覚醒したから、ではなく単なる演出だとしたら、アニメとしての表現をアニメのプロが使わないと思いたくないので思い込むにしますが、もし意識が覚醒する度合いによって光が強くなるのだとしたらこう考えることも可能です。

……つまり、エリクトはあの時点ではまだ死んではおらず、体は動かせなくとも意識は覚醒していたし、生きていたのではないか。そして、パーメットの光が浮かんでいるということは、彼女はスコアを上げ過ぎたせいで死んだのではないのか。

スコアを上げてもエリクトは死なないはずでは?それを言ったのは、カルド博士から「その理論は間違いだ」と言われているベルメリアと、エリクトを失ったプロスペラです。わが子を特別な能力があると思い込むのは親であればある程度することです。実際エリクトはスコア6になっても死ななかった。

しかし、スコアを上げるにはこのように「エリクトでなければならない」などの特別性が必須であったとカルド博士が気づかなかったのか、という点がありますし、エリクトは死んだ当初恐らく八歳です。

となると、このような推測もまた立つんですよね。

日本には七五三という風習があります。女の子は七歳まで神様のものであるというものです。だから、七歳になって神様のものから人のものになったことを祝う。

で、エリクトは八歳ですので、七歳を超えて神様の子ではなく人の子となった。だから、スコアを上げたら普通の人間のようにパーメットに侵され、半死半生の状態となってしまった。

神様の子ではなくなったからなに?ってところなんですが、データストームとはあの世であり、人ならざるものたちの領域なのではないか、というのは以前考察しましたが、簡単に申しますと、私はGund-armに搭載されているAIは魔女にとっての悪魔であり、かつては神としてあがめられた存在として、水星の魔女では描かれているのではないか、という考察です。

つまり、七歳まではエリクトに限らず子供は誰もがGund-armにノーリスクで乗れるのではないか。という推測ですね。

元々カルド博士はどのようなパイロットが乗っても安全であることを証明しようとして、そしてそのためにはスコアを上げずにレイヤー33にアクセスすることが必須であるとしています。まずこのレイヤーとは何なのか、というのが作中で全く明らかにされなかったのですが、エリクトが「外の世界は怖くないって教えてやってくれ」とカルド博士に言われて、エリクトがまるで人間の子に対するように話しかけていたら、ルブリスはレイヤー33どころか34のコールバックを行っています。だからあれもちょっとおかしいんですよね。

なぜ33ではなく34までレイヤーが進んでいるのか、それなのになぜエリクトは死んでいないのかと言えば、ルブリスAIと友達になって心(レイヤー)を開いたから、まだ七歳を超えていないから。この2点ではないか。

ルブリスAIと友達……?心(レイヤー)……?の詳しいところは以前の考察をご覧いただければと思いますが、AIというのは人工知能で、これはアド・ステラのモビルスーツすべてに備わっています。当然ルブリスにも。そして人工知能とは、人間の知性や知能、能力を人工的に再現するものです。そしてGUNDとは人体を人工的に再現したものです。Gund-armとは人間の形をしたモビルスーツにGUNDを搭載するもので、それはもしかしたら巨大な人体と呼称してもいいのではないでしょうか?そこに宿る知能とは、まさに人間と遜色のないものが宿りうるのではないでしょうか。

ならば、Gund-armのAIとは、人間のように思考し、人間のような心を持つけれども、人間ではないものです。人間と意思疎通を図れる、けれども人ではない。神のような悪魔のような存在。ゆえに、そのパイロット、AIに力を借りるもの、使役するものは「魔女」となる。

そしてGund-armが心身へのダメージを与えるかと言えば、莫大な情報がパイロットに流されてしまうからとされています。実際はパーメット自体も悪さをしているような気がしますが、その情報量に耐えられず人体が壊れる。それがデータストーム汚染であるとされています。

その情報量に幼い子供は耐えることができるのではないか?幼い子供の学習速度はとても早く、底なしです。初めて触れる世界、初めてわかる決まり、そうしたものをスポンジのように吸収し、積極的に求めさえする。成長するにしたがって、新しいものを覚えて身に着けていく能力は衰えていきます。だから、スコアを上げてもデータストームの大量の情報も貪欲に吸収したり、適応することができる。そういう可能性です。

そんな中で、七歳八歳というのは、世界が広がり自立心が芽生えてくる年頃でもあります。そんな中で、エリクトが「パパがいない」ことに気づいたら、どうするでしょうか。

エルノラがもう二度とナディムは戻らないと伝えたとしても、まだ四歳五歳の子供にどこまでわかるのか。そしてエリクトは、ガンダムのコクピット内で、別れたはずのパパから誕生日を祝われている。「パパだ!」と驚いていたので、まさかパパの声が聞こえてくるなんて思わなかった。

ママはああ言っているが、もう一度あそこに行けば、パパが呼びかけてくれるのではないか、ハッピーバースデーの歌を歌ってくれるのではないか、と考えたとしても、不思議ではないのではないでしょうか。そして人の子となっていたエリクトはもうノーリスクでスコアを上げることができず、パーメットに汚染されてしまった。

なぜプロスペラがエリクトは過酷な宇宙の環境に耐えられないで死んだのかと思ったかと言えば、そう思わなければ自分が狂ってしまうからだと思います。ガンダムのコクピットに乗ってしまったのは自分の監督不行き届きで、カルド博士のGUNDの理念は人を助けるもののはずなのに最愛の娘を殺して、ヴァナディース事変で自分を助けてくれたエリクトはまさかその時点から本当は苦しんでいたのだろうか、どうしてガンダムをさっさと壊さなかったのだ。

……いいや、違う。エリクトは環境のせいで死んだのだ。避けることができない死だったのだ。GUNDは人を助ける、エリイの命だって救える。救ってみせる。カルド博士の理念を継ぎ、唯一あの惨劇を生き残った自分が、証明してみせる。GUNDは希望だ(エリイは助かる)と。

もしこの通りでなかったとしても、エリイがあの状態でまだ意識があって生きていたのなら、それをGund-armに吸わせて「人間として」殺したのはプロスペラになります。エリイは人間として死に、Gund-armとして生まれ変わった。だから一人称は「僕」になり、自認も「エアリアル」になっていた。人間であるエリクト・サマヤはもう死んでしまった、エルノラ・サマヤが殺した。

……もし、この記憶がエリクトにあったとすれば、母親へ強烈な罪悪感を抱いている。自分がパパに会いたいと思ってしまったから、エリクトは母親から永遠に失われてしまった。自分が、娘を母親から奪った。そのせいでお母さんは、スレッタというリプリチャイルドなんてものを作るほど狂ってしまって、大勢の人間を虐殺してでも自分を生き返らせようとしている。そんな努力をしてしまっている。

じゃあそれに自分は最後まで付き合わなければならない。お母さんの手足となって望むままに殺戮をしなければならない。だってお母さんをそんなものにしてしまったのは自分だから。
だから一緒に地獄に堕ちなければならない。

エリクトが自分が死んだ当時の姿のままなのも、プロスペラの中の「エリクト」は八歳だからだと思います。

あれはホログラムみたいなものですし、パーメットは情報を共有するもので、データストームとは情報の塊なので、成長した自分の姿を現すことは可能なのではないかと思います。エリクトは生きていれば二十五歳ですし、スレッタが無事に成長していっているので、その情報を使えばさらに自分の姿を想像するのは容易いはずです。

でも、エリクトはそれができない。エルノラの娘は、八歳で死んで時間が止まってしまったから。

プロスペラのエリイが幸せに生きるために、というのも、エリクトが本当にそれを望んでいるのかわからないプランです。彼女は別にスレッタがいてくれるのなら、ガンダムの体でも何でも良かったはずです。しかし、プロスペラは違う。エアリアルはエリクトを留めるためのただの器で、彼女の肉体ではない。だってエリクトは人間なのだから。

結局のところ、エアリアルを本当に家族だと思ったのはスレッタ、そして彼女がどれだけ大切にしているのかを改めて聞かされた最終戦のミオリネだけなのだと思います。あれが娘であるのなら、大量虐殺をさせたり、ボロボロになる可能性の高い戦いなどさせられるはずがない。実際シャディク戦や何度も腕を失ったり足を失っている。エリクトの体が損なわれている。それを目の当たりにしても、プロスペラは止まらない。だってこれはしょせん仮の肉体で、彼女にとってはデータストームを泳ぐ薄く発光するあの姿こそが真のエリクトです。

2024/3/6追記

復讐をゆりかごの星では言っていたけれど、本編ではあまり言わなくなっていて、最終的にスレッタが「お母さんは偉いね。エリクトのために、復讐じゃなくて未来を選んだんでしょ?」と言いますが、一応プロスペラはそれに肯定も否定も返していない。「あなたに、何が……」またこれが一線を引くような感じですが、ト書きにどう書かれていたかは知りませんが、これだけでは、本当にプロスペラが復讐ではなく未来を選んだのかはわからない。

復讐ではなくエリクトを生き返らせることをプロスペラは第一に考えた、自分の満足よりも娘をと考えていたよき母になったのだ、というような感じになっていましたが、私はね~、彼女はきっちり復讐をゴールとして考えていたのではなかなと思います。

クワイエット・ゼロの目指すところを聞かされて、ミオリネはデリングに対して「神にでもなりたいのか」と言っていましたが、よくよく考えれば、プロスペラの計画が上手くいけば、神になるのはデリングではなくエリクトです。それもデリングよりもよほど強力な神様です。

スコア6ではなくスコア8の高みにいて、パーメットを使った製品はすべてオーバーライドされるとなれば、直接的に命を握っている。デリングは兵器の無力化を掲げていましたが、エリクトが神様になれば、プロスペラはその母親です。病院の装置を止めるなど造作もなく、GUNDの理念を汚したオックスアースのクズどもを、カルド博士たちを殺す決定をしたカテドラルをすべて殺せる。

エリクト自身、プロスペラがそう望むのならするでしょうし、スレッタという優しい妹が生きるために世界が優しくないのなら書き換えてしまおうとするでしょう。だってエリクトは、スレッタが世界で一番大切なのですから、神様として、スレッタを見守るというのなら、それはそれで受け入れるでしょう。

データストームをふわふわ泳ぎ、およそ人知の及ばない理由で裁きを下す、絶対的な神様。

それはプロスペラにとってこの上ない復讐です。自分たちをごみのように殺した人間たちの命を、今度はごみのように始末する権利を持つ。人間はすべてエリクトに跪き、首を垂れ、その許しを請う。理不尽にエリクトが死ぬことのない世界。エリクトが治めるのなら、戦争などどこにもない平和な世界を実現できる。

それが、プロスペラの復讐であり、もしかしたらエリクトの願いです。しかし二人の願いはやはり溝がある。

プロスペラはエリクトをあくまで「人間である」と思っているでしょう。神様というのは祈りの対象ではなく、あくまで自分の娘、それが神として崇め奉られる。いわば現人神です。

エリクトは自分が真に人ならざるものとなってしまおうと考えている。ただスレッタを守るだけの神様になる。人間になる、なんて考えていないんじゃないんですかね。データストームはデータの領域であって現実ではない。結局エリクトは、データストームを拡張したその範囲でしか実体を持てない。限りある自由でしかない。

でもそれでもいい。だってスレッタを守れるのだから。むしろ一石二鳥かもしれない。お母さんの望みを叶えて、自分はスレッタを見守ることができる。ずっと、永遠に。

そこまで覚悟が決まっていたのではないでしょうかね。彼女にとってスレッタは妹で、兵器としても自分の小さなパイロットさんです。姉として、モビルスーツとして、守ってあげるべき存在です。エリクトにとってスレッタは命に代えても守りたい存在です。

それを守れる。いつでもどこでも守る力を得られるのなら、エリクトはきっとそれを得ることをためらわないのではないか。

そう思うんですよね。

そこまではスレッタはわからないかもしれない。ラウダしかり、スレッタしかり。二人とも兄と姉が命を賭して自分を守ろうとするという発想があまりない。二人ともグエルとエリクトがその判断を下してから驚いている。

でも、エリクトが自分を何よりも愛していて、母親から守ろうと突き放していたのも気づいていて、自分の代わりに手を汚していることも知っている。ならば、スレッタだってエリクトを愛しているし、お母さんから逃れられないエリクトを助けたいと願っているし、自分の代わりに人殺しをすることなんて望まない。エリクトもそれはわかっている。

だから突き崩すのだとしたら、エリクトがひた隠しにしたかった情報です。ラウダは自分の命と引き換えにそれを引き出した。スレッタはエリクトと記憶を共有しました。なら、あの時生きていたエリクトの心の中がわかっているかもしれないし、自分にもガンダムに乗ってでも会って話したい大切な家族がいる。だから、パパに会いたいと無茶をしてしまったことはわかるかもしれない。データストーム汚染を知っている流れであるとしたら、その結果が何を引き起こして、エリクトが何に罪悪感を覚えているのかも。

ベルメリアがいろいろ知っているし、プロスペラの狙いもわかっているのなら、クワイエット・ゼロは本当はちっとも自由じゃない、鳥かごを広くするだけの行為でしかないことをスレッタも知っていたら、きっとそれを伝え、それに不満を抱くでしょう。だからこそ、あれだけクワイエット・ゼロに反発していたのかもしれない。

こんなもの、エリクトを自由になんかしない。エリクトはそんなもの望んでいない。

そして自分はエリクトが神様になることも望まない。復讐なんてしたくない。そのために二人が血にまみれるなんて嫌だし、復讐するということはミオリネを不幸にすることにも繋がる。

ヴァナディース事変の悲劇を見てすらスレッタはミオリネを愛している。プロスペラが復讐を、デリングの死を、彼の娘であるミオリネに対しても地獄に堕ちろと思っても、スレッタにとっては愛する人です。愛してしまった。それはもうどうしようもない。

だからやっぱり、ミオリネとスレッタはロミオとジュリエットなんですね。別にプロスペラもデリングも結婚に反対しているわけではなさそうだから、これはむしろヴィムのせいでただの仲良し兄弟ではいられないグエルとラウダかなと思っていましたが、スレッタにとってミオリネは母が憎む仇の娘です。利用しては良くても、愛してはいけない相手。プロスペラはどうなっても、ミオリネを好きになることはないでしょう。それは二人が大好きなスレッタにとって苦しい現実です。

それでも、スレッタはミオリネを愛している。お母さんが気に入らなくても、自分は好きだから、結婚したい、傍にいたい。

そういうことなんじゃないかな、と思います。スレッタのミオリネへの愛は。

どうしてそこまで深く、呪縛の中に囚われていても手を伸ばさずにいられないほど愛しているのかと言えば、彼女もまた自分と同じく娘であり、同い年で自分を「水星女」でも「スペーシアン」でもなく、「スレッタ」として見てくれて、友達だったり婚約者だったり、近しいフラットな関係性から「それおかしいんじゃない?」と言ってくれる。しかし「絶対おかしいよ!」ではなく、「あんたがそれでいいならいいけど」と引いてもくれる。過干渉ではなく尊重をしてくれる。

スレッタにとって初めての自分と同い年の同性の子、初めて自分を尊重してくれる子、初めて自分とエアリアルを他人なのに守ろうとしてくれた子、そんな人です、ミオリネは。例え遠ざけられ、手放されても、それは自分を守るためである。だから、スレッタはミオリネがずっと好きです。

ミオリネもまたスレッタが好きです。彼女がどの時点でスレッタを好きになったのか明確に示されてはいませんが、2話の時点でスレッタと彼女が大切にしているエアリアルを救うために、長年の夢である地球行きを蹴ってまで助けに戻っているので、この時点でもうスレッタのことが結構好きです。

私としては、1話でグエルから守ってくれたところから好きになっているのかな~と思います。グエルという絶対的な支配者、シャディクですら助けようとはしてくれない現実を、スレッタだけは戦うことになってでも助けてくれた。それが責任を取ると約束したからにせよ、という思いもあったと思います。学生証を盗んでエアリアルに代わりに乗ったのは、「責任を取る」なんて同情なんてものはいらない。グエルと、ままならない現実と戦うのは自分だ。という思いもあったのかなって。だから「これは私の喧嘩」と言っていたのかなと。

それでもスレッタは飛んできて、そして何で飛んできたかって、エアリアルが、家族が大事だから。ミオリネがかわいそうだからでも、約束したからでもなく、スレッタが来たのは家族であるエアリアルは自分のだから。ここでスレッタが「エアリアル、私のです」っていうのが物扱いっぽい言い方でしたが、多分彼女は妹だから、自分の姉は自分のものだったんか~と今思いました。ミオリネがスレッタのエアリアルは家族、を素直に受け入れているのも、彼女は妹で、お姉ちゃんを奪われないようにやって来たからなのかもなぁ。すみませんね、ミオリネとスレッタはあまり分析ができていないというか、ただ二人が愛し合っているのだけはわかって、それを純粋に楽しんでいただけなので。

運命に流されるだけでなく、自分が嫌だから、ヒーローが囚われのヒロインを助けるのではなく、ただ自分がやりたいからやった。その結果勝利がついてきた。自分をお姫様扱いも、かわいそうな非力な子供扱いもしない。それはきっと、ミオリネにとってシャディク以来か、もしかしたらシャディクですらやらなかったことで、そこにミオリネは惹かれた、のかもしれませんね。なんせ2話の時点から、ミオリネはスレッタを助けよう、彼女の心も大切な家族も守ろうとしていたのだから。

スレッタはそこのところがよくわかっていなくて、明確に示されたのは9話のパーティーで、ミオリネが自分の大切なものを全部守ろうとプライドも何もかも捨ててまでしてくれたのを目の当たりにしてから、ミオリネは自分も自分の大切な人も守ろうとしてくれている、自分を大切にしてくれている、と伝わったのかなぁとは思いますが。それからはエランを自分から探そうとしていないので。

んで、母親と娘としてのミオリネですが、ノートレットさんがかなり学者肌で、もしかしたら人間としてはやべぇ魔女なのかもしれねぇと思いますが、彼女はプロスペラとはまた違うタイプのお母さんというか、真逆のタイプなのではないかなと思います。

両親のうちどちらかが生きていれば十分ねという、子供に対してはかなりドライな要求をしていたり、自分とデリングの恐らく悲願であるクワイエット・ゼロを停止させられる隠しコードを娘に与えていたり、彼女はミオリネのことを一人の人間として見ています。

隠しコードを与えていたら、危険なんですよね。自分たちが完璧でも、ミオリネが止めたいと思えばクワイエット・ゼロは止められる状態にあった。つまり、私たち親がどう思おうと、ミオリネが嫌だ、間違っていると思えば止めてくれて構わない、と、彼女の意思を尊重していたことになります。その隠しコードをトマトの中に埋め込むとか回りくどいことするなと思いますが、彼女は遺伝子研究者であり植物学者で、ミオリネが植物を好きだったら、同じ植物学者になるかもしれないと仕込んでいたのかもしれません。実際にはミオリネはその道に進みませんが、ノートレットの中では、トマトに手を伸ばした小さな娘しか生きているうちは知らないので、成長したらまた別の所に隠しコードを仕込んだかなと思います。

それの是非は置いておいてノートレットはミオリネに自由意思で親に反抗するチャンスを与えている。むしろ、反抗してほしいというか、親とは違う考えを持って欲しいと思っていたりするのではないでしょうか。隠しコードが「愛している」なので。

両親のうちのどちらかが死んでも、どちらかが育てる。それをミオリネだって受け入れられる、というのは、同一視というよりは彼女のことをだいぶ大人であると見積もっていて、デリングの不器用さ加減も低く見積もってしまっていて、これについては完全に大誤算なのですが、デリングがもう少し言葉にしていれば、ミオリネは賢いので納得はできなくても理解はできるはずなので、これは完全にデリングが悪い。

ミオリネに親に反抗するチャンスを与え、ミオリネの賢さを信じて自分たちの振る舞いを定める。ノートレットは、ミオリネを中心に子育てをしている。そう感じます。

スレッタを「あなたは私の可愛い娘」「私の言うことを何でも聞くの」「できるわよね?あなたはいい子だもの」と縛ったプロスペラに対し。
ミオリネを「あなたは私の可愛い娘」「私たちの言うことを聞かなくっても構わない」「賢いあなたならできるわ」と見守ったノートレット。

こういう母親の対比なのではないか、と思います。で、母親対決が行われなかったかというと、実は行われていたんじゃないかなと思います。

エリクトがスレッタの戦う理由をなくすためにミオリネの命を奪おうとしますが、その時クワイエット・ゼロから邪魔が入ります。これはエランではなくノートレットなのではないでしょうか。

理由としては、エランは青い光を宿しているのでスコア6にはなっていますが、スコア8には到達していません。対してエリクトは白い光を宿しているのでスコア8です。

で、ガンダムのオーバーライド勝負は、スコアが高い方が上、低い方が下です。スコア5に上げれば、自分の機体が乗っ取られないよう抵抗はできますが、乗っ取り返したり相手のシステムに干渉することはできない。これはスコアが上がっても恐らく同じです。

だとすれば、スコア6のエランではスコア8のエリクトには勝てない。抵抗して制御を奪い返すのでもなく、完全にガンドノードの機能を停止させているので、オーバーライドの機能乗っ取り勝負に、この時干渉してきた人物は勝っている。その後クワイエット・ゼロはスコア6の青い光を宿して消滅しているので、あれはエランじゃないかと思いますが、その前の抵抗に出てきた光は白い光です。

つまり、スコア8のエリクトに対抗できる、同じくスコア8の何者かがクワイエット・ゼロにはいる。

クワイエット・ゼロには、エランのオルガノイドアーカイブが保存されています。で、この「オルガノイド」というのは、本来人間の細胞から人工的に作った臓器のことを指していて、意味としては「臓器のような」です。それの、情報……?となるのですが、要は「臓器」や「細胞」の情報を入れている、その人の人体を構成するすべての情報を入れている。ということなのかもしれない。

ただそれはそれとして、どうしてクワイエット・ゼロにそんな情報を入れたんだベルメリア……となるのですが、もしこれに先んじて誰かのオルガノイドアーカイブが入っていたらどうでしょう。

ノートレットは植物系の遺伝子工学の専門家です。植生エンジニアリングとか言っていましたが、遺伝子配列の技術から見ても、植物の品種改良をするタイプの人であり、植生エンジニアリングでもあった、なので色々としていそうです。

で、植物学者や生物学者というのは種の保存がたびたびテーマになります。植物であればジーンバンク(種子保存施設)などが、ぱっと思い浮かびますし、動物であっても精子や卵子、遺伝子情報などを保存する施設があります。

ノートレットは、これを人間に適用しようとしていたのではないでしょうか。

どういうことかと言うと、人間一人一人の情報をアーカイブとしてクワイエット・ゼロに記録し、データストーム世界に情報を記録する。そういうことをしようとしたのではないでしょうか。ノートレットは、植物の生存戦略を人間に応用できないかと考えていたり、人間も植物も生命として一緒くたに考えているところがあります。

で、クワイエット・ゼロは不思議なことにこれGUNDなんですよね。ベルメリアがスコア6でも高すぎると言っていましたが、Gund-armのスコアを適用できるということは、これはGUNDを使った技術です。しかしノートレットが発案者なのでカルド博士は関わっていない。

ではヴァナディース機関に所属していたのか?となりますが、ヴァナディース機関は魔女の機関、差別の対象なので「政略結婚」というのはどういうことなのか、敵対組織の者同士の婚姻は確かに政略結婚ですが、その目的は和睦で、変わらずヴァナディース機関は目の敵にされガンダムは魔女の象徴なので、そういうことではないはず。

政略結婚の内容がわからないので断定はできませんが、ノートレットの両親が何かしらの功績を持った人であるから、ただの軍人であるデリングがのし上がるためにもそのコネクションのために結婚した。とミオリネは思っていた。けれどもそれは本当ではなく、デリングはノートレットのクワイエット・ゼロ計画に賛同していた。というのが、ラジャンとミオリネの会話の意味であると解釈できます。あとデリングの苗字であるレンブランですが、これが画家のレンブラントであると考えると、彼の妻であるサスキアの方が裕福であり彼と親交のある画商の姪っ子でもあり、今でいう逆玉婚なので、ノートレットの方が地位が上の可能性は高いです。

彼らが結婚したタイミングがまた謎なので、わかりませんが、しかしノートレットはヴァナディース機関とは関係ないのであれば、彼女は全く違うアプローチからGUNDに行きついた天才です。その全く違うアプローチとは、生物由来のものです。

カルド博士も人間の身体欠損を補う技術としてGUNDを発明しましたが、それは発想としては義肢や人工臓器などの工学的な観点からです。

一方のノートレットは植物の築く生存戦略、恐らく生体ネットワークに着目した、生物学的な観点です。

植物は物言わぬ存在ではなく、化学物質などを使用して、周囲とコミュニケーションを取り、共生している生き物です。これが植物の生存戦略であれば、ノートレットはGUNDとその向こうにあるデータストームネットワークによるコミュニケーションネットワークを作ることを目指していたのではないか?

そしてこれはカルド博士のGUNDの最終到達地点とも恐らく一致している。彼女は「GUNDには、生命圏の拡大だけでなく、地球と宇宙、双方の分断と格差を、融和する可能性をも秘めています」と言っています。双方の分断と格差、それを融和するのが、義肢や人工臓器にあるのでしょうか?

あのプレゼンはスペーシアン向けのもので、宇宙開発において起きる様々な犠牲の解決策があのプレゼンテーションです。しかしパーメットとは、情報を伝達する物質でもあるようで、24話にてその可能性が示されています。

月への遠距離通信、地球を含めた全方位の通信。分断と格差を融和し、最終的に解決する手段とは何かといえば、恐らくそれはコミュニケーションであり、相互理解である。カルド博士の最終的な目標とは、全人類がGUNDを装備し、地球と宇宙という距離でもコミュニケーションを取ることができる、それが究極的な目的だったのではないか。

それはノートレットも同じだったのではないでしょうか。デリングは植物の生存戦略として、抵抗して毒素を生み出したり相手を排除しようとする機構を真似しようとしていましたが、ノートレットはミオリネの言うように優しくて、ラジャンの言うように夢想家であったならば、植物のコミュニケーションによる共生を目指していたのではないか。

そしてデータストームもまた、情報の塊であり死んだあとに記録されたパーメットによって再現される、データ空間、一種のあの世のような世界であるとすれば、種を保存するジーンバンクのように、人間個人を保存する、そういうもののために、オルガノイドアーカイブを蓄積する施設として、クワイエット・ゼロを建造したのではないか。

つまり、大量破壊兵器や、オーバーライドで兵器を無力化するのはクワイエット・ゼロの真の目的ではなく、本来は人間の情報の保存施設であり、人間のネットワークの中心、巨大な植物とその根を形成するための施設だった。

カルド博士もノートレットも、たどり着く先は、人間による相互コミュニケーションを手軽に行い、それによって平和を実現していく、そんな未来であったのではないか。

そしてその被験者第一号として、ノートレットのオルガノイドアーカイブが記録された。長くなりましたが、実はクワイエット・ゼロの中にノートレットはいて、データストームの神髄に近いスコア8をエリクトと同じく獲得していて、あの時エリクトの邪魔をしたのはエランではなくノートレットだったのではないか。

めちゃくちゃ脱線したんですが、こんな感じです!私自身が科学知識がいかんせんないもので、説明が上手く伝わっているかわかりませんが、カルド博士がGUNDはただの義肢ではなく、地球と宇宙の融和のための技術だと言っていること、植物の生存戦略とは、他者を排除するだけではなくコミュニケーションを行い共生を行うこと、という自前知識を合わせて、考察をしてみました、というものです。もちろん、こういうものではない可能性は十二分にあります(それこそ小説で補完されるかもしれないし)

ただ、クワイエット・ゼロがエリクトを止めたタイミングも、エランではなくノートレットの可能性が高いのではないか、という根拠にはなります。エランであれば、彼はスレッタのことを大切に思っていて、「その子」とエリクトを親しげに呼び表しているので、彼女たち姉妹が戦うことを嫌い、最初から妨害しそうな気もしますが、実際にはエリクトがミオリネを殺そうとしたタイミングです。

ノートレットがもしいたのならば、エリクトの望みや、プロスペラのやりたいことというのは、エリクトが神様になって支配するものですが、平和がそれで訪れるならやってみてもいいし、エリクトの境遇を考えれば手を貸してあげてもいい。

けれどもミオリネ、自分の娘を害そうと言うのなら話は別です。それはきっちり止めて、その後の姉妹喧嘩には干渉していないので、ミオリネの無事を見届けて手を引いた可能性もあります。まぁ内部で殺人ハロが起動しているので、それはいいのか?という感じはしますが、エリクトが主導権を握っているので、エリクトが干渉しているものは干渉したり動向を察知することもできるけれど、それ以外はよくわからない、のかもしれません。

まぁもしあそこにノートレットもいたのなら、母であるプロスペラと娘であるミオリネ、そこにさらに母親であるノートレットが加わって、あれはスレッタの気持ちを代弁するミオリネと母プロスペラと、娘をあるがままに育てたノートレットと娘の自主性を刈り取って育てたプロスペラの、母v.s.娘、母v.s.母という構図になっていた、のかな~って。その方がバランスよくないかな?って。

娘の言っていることはしょせん小娘の言っていることでしかありませんが、母親対決であると、それは育児論の対決になる。で、母親という意味では、プロスペラはノートレットに敗北する。彼女が娘に最後に託した「あなたが間違っていると思うのなら私たちを止めなさい」と与えたピース。娘の自主性に敗北する。

で、スレッタとエリクトにしても、そうだったんじゃないか~と思うんですけどね。

先ほども述べたように、エリクトが死んだのが宇宙の環境ではなく彼女が自分の意思でスコアを上げたせいで、そしてそのために彼女はお母さんを裏切れなくなっている、離れられなくなっているのだとしたら、エリクトは一番自由ではない。

スレッタについては、やり方はどうあれ、エアリアルのコクピットから手放されて、プロスペラが取り戻すかどうかエリクトに確認すると、「あの子は自由に生きていい」と取り戻さないことを決断する。つまりここでも、スレッタを逃がして、自分がプロスペラの元にとどまることを選んでいるので、スレッタの代わりに自分を犠牲にする道を選んでいる。そのことにスレッタが気づいたとしたら、そんなことは望まないはずですし、自分がそうされたように、エリクトを解放したいと望むはずです。

そして罪悪感に苛まれていたとしたら、それも何とかしたいと望むでしょう。スレッタは、母の言いつけに背いてでももう一度エリクトと話をしたいと望んだ。だからパパに会いたいと願ったエリクトの気持ちがわかる。それはエリクトが悪いわけではない。もちろんお母さんも悪くない。誰も悪くない。

まぁ罪悪感の話は五百パーセント私の妄想ですが。

しかしスレッタが、エリクトが人を殺していて、それは自分のためだということがわかっているのは事実であるはずです。そしてずっと、自分が死なないようにスコアを肩代わりしてくれていた、守ってくれていたのもわかった。

だったら今度は、自分が助ける番です。エリクトは言っていました。スレッタを戦いから遠ざけるためにどうしなければならないか。エリクトから、ミオリネから、お母さんから離れろと。ならば、スレッタはどうすればいいのか。

お母さんの呪縛からエリクトを解放しなければならない。エリクトがそうしたように。

自分が勘定に入ってないのか~ってところですが、わかりません。でもスレッタがこれをしようと思ったのなら、自分もエリクトと離れる決意はしていたような気もします。エアリアルという素体に入っていれば、スコア8に覚醒しているエリクトは一人でどこにでも行ける。スレッタが小さなパイロットさんでいる必要はなくなる。

だから、自分といたら人を殺す可能性が発生してしまうのなら、別れる。それでもいい。エリクトはそうしてくれた。だから自分もそうする。

以前ラウダはグエルに殺されるために突撃したのではないか、と書きましたが、この兄弟とこの姉妹はとてもよく似ている。鏡合わせなのではないか、と感じます。

ラウダはグエルが大好きで、彼のことを常に考えていて、彼のために支えてきて、彼のことをヴィムがグエルを退学させるという方針に逆らってでも守ろうとします。

スレッタはエアリアルが大好きで、彼女と一緒なら何も怖くなくて、何かあれば相談し頼って、人見知りで引っ込み思案でもエアリアルを壊せと言う大人たちから守ろうとする。

だからラウダがグエルと一緒にいる未来を諦めたのなら、スレッタもまた、エリクトと一緒にいた未来を諦めたという展開は考えられます。

23話のタイトルは、譲れない優しさです。弟も妹も、兄も姉も、みんな譲れない優しさを持っている。グエルとエリクトがその身を挺して弟妹を守ろうとしたように、ラウダとスレッタにも譲れない優しさがある。彼らもまた、兄姉を守ろうと自分なりに考え、それはグエルとエリクトにとって向けなくていい優しさなのだとしても、譲ることはできない。グエルとエリクトの優しさは、ラウダとスレッタにとって、そんなことまでしなくていい、命なんてかけなくていい、いなくならないでよ。という事態に繋がってしまったので、弟と妹の優しさも、兄と姉にとってはそんなことしなくていい、のオンパレードであるでしょう。

実際、馬鹿野郎、ガンダムなんて早く降りて帰りなさい。というのがグエルとエリクトの訴えていたことです。エリクトは死んじゃうからとは言いませんでしたが、繰り返し自分はもう戻らないから諦めなさいと言っているので、心情としては多分グエルと同じです。冷たく突き放したのだから、その演技を今やめるわけにはいかない。

それだけ優しい姉であり、プロスペラは説得できないと言っていたので説得したいのはエリクトであったでしょうが、途中で「お母さんのこと抱きしめてあげたい!」とかなんとかになってきていて、ん~グエルじゃないですが、スレッタからエリクトへの感情もストレート一本道!ではなく、プロスペラという母親を間に挟んでいて、あれれ?となっているんですよね。

結果的にスレッタは「お母さんの選択を私は肯定します」と言っていて、え、プロスペラのやったことしてきたこと、全部肯定するってことは許すってこと…!?正しいってスレッタは思っているの!?あれだけ人を虐殺して、それをエリクトにさせて!?となっている。ここでスレッタは、またお母さんを全肯定して受け入れるいい子ちゃんになってしまっている。

でももっとスレッタは悪い子になっていただろうし、悪い子になっていいんじゃないのでしょうか。スレッタはずっといい子でした。そのいい子のままでいたから、「人が死……!」「いやだよ、できないよ」と言っていたはずの人殺しすら一歩を踏み出してしまった。「逃げれば一つ、進めば二つ」のお母さんの言うことを聞いてしまういい子になってしまった。でもそれは間違いだった。

だったら、もういい子ではなく、悪い子にならなければいけない。何も犯罪をするという意味の悪い子ではなく、自分の嫌なことは嫌だ、と言って拒絶できるそういう子です。

そのくらい普通?プロスペラはその普通を許しましたか?この期に及んで、クワイエット・ゼロにエリクトは繋がない。自分が助けるというスレッタの言うことを許してあげましたか?

答えは許さなかった。「やめなさい」と高圧的に命じた。まぁでも、スレッタがどうしてクワイエット・ゼロに繋ぎたくなかったのか、もよくわかりませんが。

来た当初はスレッタはお母さんの言うことを聞く気だった。それを突然「嫌だ」と言った。「エリクトは渡せない」となぜ言ったのかが、その後うやむやなんですよね。繋がっていない。

なぜならこの後「お母さんの体は、もうすぐ動かなくなる」というカミングアウトがきて、「エリイを思うのなら、あなたも進めるでしょ?」「違うよ、お母さん。私はお母さんも失いたくない。エリクトもお母さんを失うこと、きっと望んでない」「だから」「クワイエット・ゼロなんかなくったって!」

……うぅ~ん。エリクトは渡せない、というのはプロスペラへの強い拒絶です。で、プロスペラがもう長くないことを聞かされましたが、それと「お母さんを失いたくない」のと「クワイエット・ゼロなんかなくったって」は繋がる……のか?

クワイエット・ゼロに直接プロスペラが繋いだせいでデータストーム汚染とやらが進行していた、のなら、クワイエット・ゼロに頼ったらお母さんの病が進行するから嫌だ。というのならわかるんですが、クワイエット・ゼロ、最近なんですよね……。だましだましやってきたけど、なので、結構長い間かかっているような気がしますし。まぁこの汚染もどういうことなのなんですが、今はそれは置いておいて。

エリクトをクワイエット・ゼロに繋ぐことでプロスペラの汚染が広がるなら、今プロスペラの額で発光してんのはなんじゃらほいってなもんで。もうすでにパーメットが常時光るほど進行してしまっているなら、その進行は止められるようなものじゃないし、やはりクワイエット・ゼロを使わないことによってプロスペラの進行が止まるのはどこ情報なんですかいな。

だからこう、なんだろうな。多分「エリクトは渡せない」が主文で、そこにプロスペラの「もう長くない」が入ってしまったからちょっとここ破綻しているのかなと思います。

「エリクトは渡せない。クワイエット・ゼロなんてなくたって!」エリクトは取り戻せる。お母さんの言いなりにはもうならない。私も、エリクトも。

が、ここのテーマだったんじゃないかな~??嫌だ、は本番で入ったそうですが、呪縛から逃れるのが水星の魔女のテーマでもあるので、ここを日和ったらダメだと思うんですよね。

でも実際は日和ってるようにしか見えないんですよね~。というより、呪縛に戻るも解放されるも、な~んか中途半端では…?いや、エリクトもやはりお母さんの腕の中に戻ってきちゃってますね……。

スレッタは「お母さんの選択を私は肯定します」と言い、エリクトは「僕はこれからもスレッタと一緒にいたい。お母さんとも」ということで、結局二人の娘はどちらもお母さんを肯定して受け入れて、居続けたいと願ってしまっている。

まぁエリクトが生きているから?これからは復讐の道具として扱われることはないとしても、スレッタとエリクトの手を血にまみれさせ、無邪気に人殺しをさせていた事実は変わらない。それを、肯定する……?

娘を道具として扱っていたことなら、「家族」の範疇として片づけられるかもしれませんが、大量虐殺を肯定してはいかんのではないですかね……。そして個人的には、やっぱり娘を道具として扱い、自分に絶対の隷属を強いていたことは肯定されては欲しくないですね……。とても苦しいんですよ、あれ。自分ではなかなか気づけないのに、「それはおかしい」と言ってくれる人は本当に少ない。

けれどもスレッタにはいた。ミオリネはたびたび「それはおかしい」と言ってくれていたので、気づけていたはずなんですが、何でか二人はまたお母さんの理想のいい子ちゃんになってしまうし、プロスペラは二人の娘に肯定されてメンタルが回復してしまう。これさぁ、やっぱり娘に都合のいいメンター役させているようにしか見えないって!

エリクトを見つめるプロスペラへのスレッタの顔よ。こっちの方がお母さんみたいな顔しちゃってるじゃないの。メンターとして完成してしまいましたね……。完璧です。

い、一応「ごめん」って言ったからいいのかな……。どこへのごめんなんだろうか。具体的に二人とも罪に問うようなことは言ってなかったんだけど、どのあたりをちゃんと反省したんですかね。二人を離れ離れにさせたことなのか、ちゃんと二人の要望を聞いていなかったことなのか。

二人ともここ、ここに至るまでプロスペラへ何か謝罪してほしいような罪を言ってたっけ?言って、言ってた?「そのために人を殺すの?」ってところかな、一応。ちゃんと娘二人に人を殺めさせた反省で「ごめん」って言いましたか?何となく雰囲気に流されて言ってません?お母さんってごめんって思ってないのに言ったりしますよね。あとごめんって言って欲しいわけじゃない時とか。

まさかこのエリイの顔見て、エリイ怒ってるのかしら?的な感じで言ってませんよね?具体的にどれにごめんなさいなんだ~!ちゃんと言えよ、お母さん!しっかりしてください!私だったらキレとるわ、主語をちゃんとしろって。二人とも優しいな。

……こういう感じで、なんかこう、呪縛を解くのではなく、呪縛を呪縛として認識して、また絡めとられに自分から子供が行くみたいな感じになってない?って感じに見えちゃうんですよね。だって二人とも最終的に許してしまい、そういう呪縛をかけていたお母さんを彼女に反省を求めることなく、逆に求めてしまったのですから。

間違ったって誰に言われたって、私たちはお母さんの味方。他の誰が敵になっても、私たちだけはお母さんのこと大好き、愛してる。
ずっと一緒にいてね。

おぅ、グロ……。これは、これで、復讐、だな……。今度は娘が捕らえる側かぁ、これはこれで因果応報だけど、あんな感動的な音楽を背景にやることではなくない?プロスペラは車椅子生活で逃げられんし。いや、プロスペラは自業自得だけど、それでスレッタたちはいいんか……?反論できない逃げられないお人形を愛でるごっこをやり返す陰湿で幸せな復讐だけど、そんなもんに囚われて大切な人生を浪費するってのは、まぁ傍目から見たら後味が悪すぎるわな。

いや、スレッタたちにはこういう気持ちは、ない、と思うけど(エリクトは微妙だな)二十代の女の子がネグレクトをしてきた母親を介助しながらでも一緒に生きていきたい、ってのは見てる側としては何とも言えない。いや、幸せなら、OKだよね、うん。

ミオリネは上にも述べましたが、結果としてノートレットが早逝してしまったので呪いになってしまいましたが、母親自体が呪いをかけてはいないので、スレッタの母親からの呪いを解呪するのを手助けするのが彼女の対決すべき母親からの呪いであったと思います。結婚したら相手の家族も家族になりますからね。その中で自らの伴侶が実親に虐げられていたら、助ける覚悟を持って結婚をする、というのも伴侶のやるべきことでしょう。ミオリネはなんせ十二分にその事実を知っていましたし、プロスペラからスレッタを助けようとしていたので。

しかし彼女自身に親の呪いがないかと言えばそうではなく、彼女が克服するべきは父親の呪いだったような気がします。し、これもやはり解呪できてはいないんじゃないかな……。

ミオリネは「相談しない、勝手に決める」というデリングの性質を嫌っていましたが、じゃあ彼女はどうなのかと言えば、勝手に自分で決めて誰にも説明することなく行動するので、多分にこの性質を引き継いでしまっている。

思春期の女の子なので免除されるところもありますが、彼女は株式会社ガンダムという会社を率いるれっきとした経営者なので、報連相ができないのは結構致命的です。

これは会社員や部下への心得で、経営者たるもの相談せずに自分で決めるべし、なのだとしても、報告ができていないのはかなり致命的だし、「自分はこうしたいのでこれからあなたたちはこうなります」という説明なしに放り出してしまうのはあまりにも無責任です。

地球寮のメンバーを株式会社ガンダムに巻き込んだのも、一言の相談もなくただ「私とあなたたちで経営します」と言っただけですし、株式会社ガンダムの経営から遠のいて総裁選に集中するというのも、彼女が勝手に決めて一人でグエルに交渉したことです。地球寮は巻き込まれて始まったことで、総裁選が始まってからはミオリネのカバーはなく、クレームが溜まっていくばかり。

地球寮の子たちがいい子で優しかったから株式会社ガンダムは経営スタートしましたし、途中で見限って離れるようなこともありませんでしたが、普通だったら全員退職していてもおかしくありません。何せ、一番大変な時にかじ取りができない社長というのは存在価値がありませんから。

給料が高い人は責任をその分多く背負っている。権力を人よりも多く持っている人もまたしかり。何かあれば自分の名前で責任を負い、頭を下げ、時には辞任して、会社や、失敗してしまった従業員のダメージをカバーしなければならない。

この点で言うと、デリングには頭を下げているので、できるようになったかと思えば、クインハーバーの代表団には頭を下げて犠牲に哀悼の意を表することもなく、24話でもガンダムに命を奪われた女性が訴えているのに頭を下げていない。この前に頭を下げたのかもしれませんが、そこを描写していないのでは、やっていないのと同じです。アニメなんですから。そこまでちゃんと描写しなければ、私たちに成長は伝わってこない。

一応、最初の株式会社ガンダム経営については、当然ミオリネのワンマン経営では上手くいかず、危うく空中分解するところでしたが、ミオリネが独断で決めるのにみんなで待ったをかけて、ちゃんと議論を経てみんなで納得できる落としどころをミオリネが見つけて、きちんとそこでみんなからの賛同も受けて、リーダーとして認められたので、あれはとても良かったと思います。

しかしその後はどうにもこうにも……。

そもそも総裁選の前段階である「カテドラルに拘束されている」間も、株式会社ガンダムのためには何も動いていない。昏睡状態の自分の父親、母親も関わったというクワイエット・ゼロ、そしてスレッタのこと。彼女が動いたり調べたりしたのはそれだけです。会社のことは放置。

プロスペラも軟禁されていたようですが、部下であるゴダイとコンタクトを取れていますし、ミオリネもラジャンのところに自分から行けるぐらいに緩いので、会社の状態も何か指示を送るのも彼女はできたはずです。けれどもそれをしていない。自分の家族、自分の大切な人しか調べていない。

それぐらいしかリソースを割けなかった、まだ17歳の子供だぞ、というのはわかります。わかりますが、会社の経営者になった以上、そんな甘えは通用しないんですよ。残念ながら。

それにこの調べ物も、プロスペラに言われたから始めただけで、それまではデリングがどうなってしまうのかと、その心配ばかりをしていたのではないでしょうか。けれどもデリングはどんなに祈っても時がこなければ目覚めない。

ならばその間に、会社のことをやらなければいけません。何があっても、例えデリングが死ぬかもしれなくても。

ラウダはそうしてきたはずです。ラウダは父親が死んでからも、悲しむ暇もなく働いてきた。そうしなければならないんですよ。だって彼が動かなければ会社は潰れてしまうのだから、動くしかない。会社経営を行う、会社を守ると決めたのなら、もちろん周りのサポートに頼っていいですが、それでもCEOとしてふさわしい振る舞いをしなければならない。

ミオリネはそれができないんですよね。

総裁になってからもそうです。地球との交渉はまぁいいとして(あれも勝手にGUNDを交渉カードに使っているので、現場に確認せぇと思いますが。売り込むために行っていたのではないのならなおさら)、多くの犠牲が目の前で、自分のせいで行われたのだとしても、それでも動かなければならないんですよ。むしろ、だからこそ動かなければならない。

自分のせいでそうなるのなら、早く適した人物に退いて、そうした悲劇が行われる原因を取り除かなければならない。止まっていても動いていても犠牲が増えるのなら、動いた方がいいんですよ。犠牲を止めるために。それが上の者の責務です。

だからここの意識が、ミオリネは欠けているというか、まるまる「ない」んですよね。

数百人、あるいは万単位の人間が死んでしまっても、上の人間はそれを止めるために、あるいは利用するために動かなければならない。そうじゃないと、犠牲は積みあがっていってしまう。継戦するにしても停戦するにしても、それを宣言しなければ何にもならない。止まってほしいと祈っても止まったりなんかしない、止まってほしいと言わなければ止まらない。

それは、あらゆる面でそうなんです。だからミオリネが動かないから、ケナンジたちもろくに動けていない。ただ宇宙議会連合が殺されるのを見ているだけです。あそこは部屋から引きずり出してやらせるか、だったら辞任してあそこにいる、まぁ~貧乏くじを引くとしたらグエルですが、グエルに任せるとか、応急処置としてラジャンに任せるとか、そういう宣言をしないといけなかったんですが、みんなミオリネに甘ちゃんだったのでそうはならなかった。でもそれがいい方向に動いたかって言ったら全然動いてないですからね。

あそこはむしろ、厳しく自分の責任と背負ったものを自覚させなければならなかったと思うのですが、ん~……。まぁ結果的には動きましたけど。

ただミオリネってあんなに想像力豊かで他人に同情的だったか?ってのもちょっと疑問なんですよね。

目の前にいる地球寮の子たちに対してめちゃくちゃ配慮のないことを言うし、それに犠牲という意味ではプラント・クエタの犠牲だって犠牲です。少なくない人間が死んでいるし、デリングの護衛の二人組なんかまず間違いなく死んでいるでしょうしね。生きていたらデリングたちに手を貸していたはずですから。

でもそれを気に病む素振りはないんですよね。船を破壊されてもいるので、脱出しようとした人間も死んでいる。その人たちは多くが民間人です。それらは気にしないのに、街が丸焼けになったから罪悪感に~というのも、視覚でしか判断できないってことだし、プラントで今後人が死んでも、人の街の形をしていないと罪の意識にかられんのか?プラントが全部壊れたらわかるか?という気分になっちゃうんですよね。これは私の性格が悪いのかもしれませんが。

それにあれも妙で、なんでミオリネが戦火真っただ中のビルの屋上に一人でいるんだ?という。ミオリネなんて真っ先に避難させなければいけないでしょう。要人で、スペーシアンの親玉で、以前も愚痴として載せましたが、彼女がいる限りスペーシアン側は戦い続けるしかないんですよ、彼女の命は自分たちの命よりも優先されるから。アーシアン側も悪の親玉を殺すまで止まれない。だからとっとと逃げていないといけないし、護衛もたっぷりいなきゃいけないし、そもそも流れ弾が飛んできたらダイレクトアタックされる屋上なんて危険すぎる。ダイレクトアタックされなくてもビルが倒壊したら無事に死にます。

だから要人警護という観点から見ると、え~どうして~となってしまうんですよね。車の中から燃え盛る街を振り返ってんならまだわかるんですが。

ウクライナのゼレンスキー大統領は逃げなかったので、要人は何があっても逃げるなという反論も思い浮かびましたが、あそこはミオリネの国ではなく地球の代表団の街であって、ミオリネはどちらかと言うと侵略者なんですよね。ウクライナの件で例えると、代表団がゼレンスキー大統領で、ミオリネはロシアのプーチン大統領です。とっとと出ていけ!か、自分の命でスペーシアンの非道を許してもらうか、どちらかでしょう。

あそこでミオリネは残っていた、という展開にするとすれば、ミオリネが避難しようとせず残って何とかしようとしたせいで、護衛が自分を守ろうと目の前で戦いに巻き込まれて死亡した、ぐらいのインパクトがあった方が良かったんじゃない?と思うんですよね。だったら、ミオリネは初めて「自分を守ろうとして死んだ人」を目の当たりにするわけで、そうしたら彼女の「私のせいで人が死んだ」という強い悔恨もより深く理解できただろうし、ミオリネのキャラクター的にも合っていたのでは?

ミオリネはリアリストで、目の前で人が叩き潰されて腕が吹っ飛んできても、それで塞いだりトラウマになっている様子もなく、デリングの心配をしたり、それを殺したスレッタの精神状態がどうなっているのかと心配するような、あまり思い悩まないタイプの切り替えが上手いタイプなんじゃないかと思ったんですが、急に「私はもう何もできない、したくない……!」って逃げて隠れちゃっていて、うん?って感じになってしまったんですよね。

急にか弱い女の子になっちゃったというか、別にそれが悪いとは言わないんですが、じゃあトップにいられないならトップから退かないと誰も動けなくて邪魔になっちゃうだけよって感じでしてでね。最終的に動いたんだからいいじゃないというところではあるんですが、動きましたけど、そうなったら今度はスレッタが直接命の危機に陥ってしまったんですが、それに対して一歩も引かないし、スレッタに対して何か言うこともないし、ん~……。

あれだけ無辜の命が自分のせいで死ぬことを気にしているのなら、自分の大切な人で同じく無辜の人であるスレッタが、自分の父親と母親が作ったクワイエット・ゼロのせいで命を削る羽目になっているんだから、それに対して何かご感想はなかったのか……。

スレッタが命をかけるのだから自分はそれを信じる、お嫁さんを信じてくれたスレッタのように、ってなところなんですが、大切であればあるほど割り切ることは簡単ではないはずです。そこでもなぜか、スレッタのライバルというか友人関係に収まり、直接スレッタの強さを思い知らされたグエルが命を気遣い、彼女らの覚悟を知って頬を叩くんですが、むしろスレッタの覚悟の強さを知っているのはグエルなんでは?っていう。

そして命をかける覚悟の強さを知って、背中を押すというのは、男と男のライバル友情関係だと当たり前で、これを男女でやってくれていたらかなり新しいと思ったんですが、ままなりませんな……。

ミオリネの強さというのも、そういうのだったのか?というのもありますし。彼女はスレッタの前では自分をさらけ出して、泣くことさえできる、弱い自分を見せることができていたのに、急にスレッタに対してもめちゃくちゃ強くなるじゃん……。彼女が強いのは、初期は自分を損なう存在に対してで、スレッタと出会ってからは彼女を損なうものに対してより怒りを見せるようになりました。

で、スレッタが今回命をかけるのは、スレッタが自分で決めたことであり、スレッタが損なわれることで、ミオリネにとって本来耐えられるような状態ではないのではないか?と。それこそ、ラウダが命を削る覚悟をして現れたのに、やめてくれと懇願したグエルのように。

愛する人の命が危ない時に、それを心配するというのは弱さではありません。同時に、「やめてほしい」と「信じている」というのは並行して存在できる感情ですし、スレッタをそれだけ深くミオリネは愛していたはずです。

周囲もやめろと言う中、それでもスレッタだけはやめないと言って、じゃあどうするのか。自分がスレッタを失いたくないから、彼女の意思を無視してやめさせようとした。けれども、スレッタを信じて、自分が嫌でも、周りが止めても、信じる。のか。

そういう風に引っ張っても全然良かっただろうと思うんですが。

命の重さがミオリネの中でわからないというのは、シャディクに対してもそうですね。彼に宣誓供述書を書かせていましたが、あれは自分が間違いなく犯罪者であることを広めることでもありますし、宇宙議会連合の巨悪が暴かれる形でもあると思うので、報復がどのようにあるかわからないような危険で攻撃力の高いものでもあるんですよね。ベネリットグループの無罪を証明するというのではあるのですが、犯罪者への証言の何が難しいって、報復がある可能性があることですし、わざわざサインしてもらって公表することを大々的に言うということは、なかなか通常使われない手段ということでもあるので、何かしらの法的な拘束力だったり面倒な処理をしなければならない可能性も高いですし。しかも相手は宇宙議会連合という、どちらかと言えば司法側の世界的な政府組織に近い組織です。現実で例えれば国連や一国を訴えるようなものです。

ただの犯罪組織でさえ、告発というのは、敵が強大であればあるほど、証言者は保護プログラムで守られますし、それが巨悪を倒すのであれば大きなリターンは不可欠です。司法取引というやつですね。しかしそのようなことが行われたような描写はありません。ミオリネも依頼の際に交換条件を口にしてはいないですし、シャディクは「さようなら」と言いました。

それにシャディクが勝手にですが、プロスペラの罪まで被ってしまっていて、司法取引をしていたとしてもその罪状は別問題であり、そもそも訂正しなければならないだろう!

日本は法治国家ですし、個人のお気持ちで刑の裁量が変わってしまうのは、それは独裁国家とか法が機能していないということで、ダメなんですよ。それに罪の所在が変わってしまい、真相がわからなくなってしまうので、遺族に対して失礼というか、無責任というか。

もちろんシャディクにさらに他人の罪まで背負わせて、それにただ乗りする形で私たちは幸せな結婚生活を満喫するっていうのは、相当心情としては地獄な気がしますので、そういうのを背負うのもまた味ではありますが、それで当人が幸せなら何も言えねぇけど、倫理観のレベルがすごいな……。

いや、第一にグエルとシャディクで「自分の罪は自分のものだ」って言ってて、未成年で学生の身でそんなことを言っているのに大人で弱小でも会社のCEOであるプロスペラが自分の罪は自分のものとしていないの、いいのか!?それで!?やっぱりおかしいな!?ということになるんですよね。

地球寮との交流もね~。「ごめん」の一言で終わってしまっていたんですが、もっと「こういうところがダメだった」という反省が必要でしょうし、「お前のために来たわけじゃねぇ」というのはその通りですのでいいんですが、じゃあなぜ来たのか、がまた隠されちゃっているんですよね。

百パーセント「スレッタのため」であって、そして「株式会社ガンダムのCEOとしてのミオリネに従うつもりはない」「でも、スレッタの婚約者であるミオリネ・レンブランとは共に動く」というぐらい言ってもよかったというか、あれも「おやじ、目覚ましたんだろ」というところで、デリングが意識を取り戻したから、まぁ不問にしたるわ、という感じになっちゃってて、それでいいのか……?

でもミオリネって一事が万事こんな感じなんですよね。何となく問題が流されていく。

総裁選もシャディクが自爆したのでミオリネが総裁に繰り上がっただけで、彼女が何か成功を収めたわけじゃない。婚約解除をしたのも、恐らくグエルが気を遣ってくれたからスレッタが正式に婚約者に戻れたわけで、スレッタやミオリネがグエルに縋ってでも頼んだわけでも、婚約解除を依頼したわけでもない。

何となく、すべてが彼女のいいように回っていっている。都合のいい展開が特に後半は続きます。それに対する反省や成長は、あんまり見られないような気がするんですよね。

それは株式会社ガンダムの経営についてもそうで。3年後の段階でまだテスターがようやっと始まるということで、ほぼ彼らの基幹産業は成長していなかったし、GUNDの足自体はすでにできていて、あとは人間に適した装具に作り変えるぐらいの段階な気がしたんですが、あの間株式会社ガンダムって、売れるような製品やサービスもなかったので、どうやって維持していったのか謎なんですよね。

本編の最後は、アド・ステラ世界においてめちゃくちゃ批判されていて、未だにガンダムはいらない運動が行われているぐらいなので、かなり風当たりが強いなか、収入がないので融資に頼っていたはずですが、こんな社会的に落ち目な企業に融資するメリットがなくない?と。

Gund-armを作るわけでもないので、まだまだ混迷の時代にエアリアルのような兵器を持つでもない、医療分野ってそんな儲かるようなもんでもないし、訴求力が強いもんでもないし、誰が金出したんだ?これが実際に販売段階になったってんならまだわかるんですが、しかもテスター段階ということは、これから不具合があったり不都合がないか見ないといけないので、さらに正式販売までは時間がかかるし、量産するための工場もあるんかいな。

まぁ製品開発というのは息が長いですが、あれだけ製品開発どころか試作品の開発段階でボロクソに言われていた製品は、もう企画倒れになるんじゃあないのか……?特に医療品なんて、イメージがなんぼのもので、この段階でイメージ戦略に大失敗している製品をずっと応援し続けるのは、並大抵というかほとんど狂気的な気がしますが……。それより、株式会社ガンダムはすでに買収されていて、ミオリネはCEOではなく一部門長であるのならまだわかりますが。ただそれっぽい描写はあるんですよね。

チュチュは、あれだけ慕っていたニカの三年ぶりの出所だというのに迎えに来ず、なぜかロウジと働いているので、副業もしくは株式会社ガンダムの方が副業のようになっていそうな気がします。他の従業員についてはわかりませんが、上のように財政状況が悪いことが容易に予想されますし、実際GUNDぐらいしか事業も優位性もなく、元となる資産もない以上、「仕事」すらない可能性が高いんですよね。

なので、全員とは言いませんが、彼らが他で仕事を得て自分たちの生活を営み、株式会社ガンダムの給与はあてにしていないどころか、そもそも融資すら彼ら自身が行っているのかもしれません。

ということは、ミオリネは融資を募るというCEOとしての職務ができていないし、株式会社ガンダムは学生ビジネスとしてとん挫したということです。

それに彼らが注力しているGUND自体安全なのか?というところが、疑わしくなったどころか、安全じゃないんじゃないかと思われるような表現をしちゃいましたしね。

プロスペラはGund-armはエリクトが肩代わりしてくれますし、右腕はカルド博士の作ったGUNDですし、頭のやつがいつ入れたのかわからないのですが、いずれにせよGUNDだとしたら絶対に安全じゃなきゃダメなんですよね。安全じゃなかったら、カルド博士が人をいずれ死に至らしめるものを「人類の希望」として広めようとしていたということになるので、Gund-armどころじゃなくなっちゃうんですよ。

GUNDは安全、Gund-armとして兵器運用をしてしまったから、人間の心身に多大なダメージを与えるだけで、GUNDとして運用をしていれば安全である、というのが大前提なので、GUNDしか装備していないはずのプロスペラがデータストーム汚染を受けているのは、つまりGUNDであってもデータストーム汚染を引き起こしてしまうということで、何も安全ではなくなるんです。

ただ私として、あれはプロスペラがあのヘルメットか何かをGund-armに改造したからデータストーム汚染に侵されてしまったのだと思いますけどね。

プロスペラの仮面からエアリアルを見る、というような表現をされているのがあるんですが、これガンダムの画面に似ていますし。それに一息にフォルドの夜明けの戦闘員を制圧していましたが、あの精密射撃も身のこなしも、Gund-armに改造しているのなら説明もつきますし。射撃の補助とか、GUNDの右腕の補助とか。バッテリーがあまり切れないのも、プロペラが改造したからとか。

Gund-armは、GUNDを兵器転用したものなので、それがモビルスーツじゃなくても、兵器転用していたらそれはGund-armと言えるのだと思います。だとすれば、プロスペラは自分からGUNDをGund-armに改造してしまっていて、そのせいで汚染されたのであって、GUNDは引き続き安全なものになります。

っていうことだとは思うんですが、あそこ説明がなくて良かったのかな……何となく流されましたけど。

まぁそれはミオリネにはあまり関係がないからということだとは思うんですが、GUNDは安全安心で革新的なテクノロジーであるというのが、この世界とこの話の骨子であり、株式会社ガンダムの正当性を担保するのものであるので、安全ではないという描写をそのままにしてしまうというのは、どう考えても悪手でしかありません。

それにプロスペラが「お母さんの体はもうすぐ動かなくなる」から、もしかして動かなくなっちゃったんですかね、最後……。スレッタの体についても、腕を失ったわけじゃないからまだ実物なGUNDは装備できませんが、GUNDは神経系も代替できるはずなのでGUNDで何とかできるはずだと思うのですが、仕方がないとはいえ株式会社ガンダムのペースが遅いし、それに神経系と言えばベルメリアの専門だから、おいベルメリア何やってるんだ~!という感じで、やっぱりあそこの製造ペース遅すぎるし、人材を効率よく使えていないので、会社として融資をする価値は残念ながらないんですよね。

さらに技術もなぜか私たち2000年代と同じになってない?ってところがあり。どうしてペトラもスレッタも電動でもなさそうな義肢で、しかも松葉杖が必要な程度の義肢なんですかね?それしかこの世界にはないんでしょうか。今だって補助具が必要ない義肢があるのに!?両足義肢でも走れる人がいますので、歩ける人もいるはずです。この方は歩いていらっしゃいますし。

リハビリについても、これは片足なので両足を失った場合はもっと時間がかかるかもしれませんが、1~2年、なので、3年あれば恐らくリハビリも終わっているんじゃないでしょうか?GUNDの技術性をアピールするために、普通の義肢では松葉杖がないと歩けないというのは、それは現行の技術を馬鹿にしていることになるんじゃないですかね……。どうして下げる必要があるんでしょうか。もうロボット義肢などもあるところにはあるのに。

それにオルコットが多分バッテリーをもらっているし、彼はまさに電動の義手を使っているんですよね。これはGUNDだったのだとすると、ますますどうしてGUND治療に絡まなかったのか謎。そして21年前のヴァナディース事変の前に腕を失ったことになってしまうと、ドミニコス隊が発足する前のことになってしまって矛盾が生じるので、だとするとこれは普通の義手。となると、アド・ステラの技術レベルは今よりも当然高く、ロボット義手が存在する。

じゃあ何で使わなかったの~!?3年間こんな特に左足は仮のものみたいなもので過ごしてたの!?もっといい義肢出してやってくれぃ!

それにリハビリって自重がキツイと思いますし、転倒の危険性があるので、テスターするなら地球じゃなくて宇宙の方がいいと思うんですが、これ宇宙……なのか?地球だとしたらどうしてそんなキツイ環境でわざわざさせようとしているのか。せっかく宇宙があって、重力調整もできるんならそこでやった方が危なくないのでは?アーシアンの企業が宇宙にあってはいけない理由はありませんし。

一番メインどころの身体の欠損、それを補う技術、GUNDの描写がへんてこりんな気がするんですよね~……。これのせいで、GUND自体が危険なものなのか、あの世界の技術レベルもよくわからない。

なんか話が逸れたような気もしますが、ミオリネのやりたいこと、やっていること、これが運が良かったり流れているだけだったりすることが多い。彼女の手腕によるものではないので、ミオリネなんにもできてないじゃんというところが置いてきぼりです。

で、彼女の人を頼らない癖、相談しない癖もまた全然直っていない。

24話のベネリットグループを解散させるのは地球寮に事前に相談していませんし、学園の子たちも、本社の会議室にいるのであろうベネリットグループの人々も驚いている。合意を得たらしいですが本当に合意を得たんかいな。

だから、彼女の中の父親と同じ部分、父親の圧政に苦しんだのに、同じことを周りに行うことでしか関係を築けない、というところは変わっていないんですよね。

父親からの悪い部分の継承でありますが、ミオリネは恐らく、能力がまだ低く未熟な女性管理職の問題の側面も持っていたのではないか、と思います。

周りに対する高圧的な態度や、周囲からの重圧に弱く、泣けば誰かが助けてくれて、周囲が許さなければならない環境。

これは、能力のない女性管理職についての愚痴でしばしば言われることです。だから、「女性管理職は能力が低い」と、十把一絡げに批判され、そして社会の構造としても女性の出世が阻害されてきました。

しかし、それは「能力が低い」人間が管理職になってしまった弊害であり、「泣けばすべてが許される」という女性の一種の特権意識が許されてしまっているが故の弊害です。

泣こうが喚こうが、ミスをしたり能力が低いままであれば男性と同じく責任を追及される。これがあるべき姿です。もちろんやりすぎだったり、誹謗中傷はダメですが、「女」だから「できなくても仕方ない」「男が尻ぬぐいをしなきゃね」とされる社会というのは、女性にとっても迷惑極まりないもののはずです。要は女性は舐められているのですから。

だから一期で、ミオリネは地球寮、つまり部下たちから容赦なく責め立てられた。ミオリネは「女性」という社会的に甘やかされる立場であることを、利用していたのではないかと思います。

主に、視聴者からの反応として。

あの世界は、同性でも結婚できるのはもちろん、女性が女性を愛することもフラットに受け止められ、ミオリネやペイル、プロスペラもCEOになれ、それについて女性として侮られることはありません。宇宙議会連合の艦長も女性ですし、ベルメリアや宇宙議会連合の穏健派フェンさんなどの重要な情報を持ち、主に主人公勢と関わるのも女性です。なので、要職に女性も平等につけるし、ストーリー的にも主人公を導いたり情報を与えたりする重要なポジションには女性キャラクターが関わっているんですよね。グエルもエランもスレッタによって前に進むキャラですし、シャディクはミオリネに執着し二人の邪魔をするポジションですし。

だから水星の魔女においては、女性蔑視やキャラの配分としても、扱いは悪くはないんですよね。しかしそれと、現実で見ている私たち視聴者は違います。

グエルに跳ねのけられた時、グエルの暴力性が問題にされました。しかし、ミオリネが男性であったとしたらどうでしょう。グエルのミオリネへの態度は確かに問題ですが、グエルが暴力を振るったのは、彼女が挑発したからです。そしてグエルは、まず周りにあたった。恐らく、グエルの力ではミオリネに怪我をさせてしまうからです。だからこそ、止めにきたミオリネを殴るのではなく、払いのけただけに留まっている。

それでも、グエルは「女性に」暴力を振るったとして、非難されています。ミオリネは小さく細く、か弱い女の子で、グエルは高身長で筋骨隆々な男であるという絵面でなければ、ここまで非難されたでしょうか。

もっと言えば、ミオリネがもし男性だったら、グエルはここまで非難されたでしょうか。

男同士の暴力や喧嘩というのは、正当性を持って肯定されることがあります。特にこの場合、ミオリネは小さく細く、か弱くても男で、グエルに対して口で挑発をする、つまり喧嘩を吹っ掛けたのに、実際には腕力で敵わずグエルに一蹴されたにも関わらず、恨んだようにグエルを見つめ、それどころかスレッタに庇われたとしたら、どうでしょう。情けない男にミオリネはなるのではないでしょうか。

あるいはシャディクの件。シャディクがミオリネのために罪を庇ったのは、「惚れた女に尽くすあるいはかっこつけたい男の意地」として称賛や共感を集めていますが、これも、恋愛感情なのでわかりやすく、ミオリネを男として、シャディクを女性にすればどうでしょう。

惚れた男の罪を被り、死刑か終身刑を待つ女と、それを甘んじて受けるばかりで、減刑などの手配もせず、それだけ惚れてくれた女ではなく自分が好きな相手と幸せな結婚生活を送る男。

と書くと、ミオリネは恐らくものすごく批判されたはずです。シャディクが男性のままで、ミオリネも男性だとしても、自分で何も問題を解決せずに解決されるばかりで、涙ながらに別れるなどもしないミオリネは、冷血漢とされたでしょうし、なぜシャディクはそんなに尽くすのかとやはりなるでしょう。

別にミオリネは女性でシャディクは男性だからいいじゃないか、と言うところですが、これはあくまでミオリネとスレッタのロマンスで、シャディクはどちらかと言えば彼こそ百合に干渉してくる男なんですよね。グエルはどちらかと言えば、スレッタへの恋心の自覚が遅かったのもあり、スレッタを奪い取ろうとはあまりしませんが、シャディクは「君から花嫁を奪い取る」という発言の通り、隙あらばミオリネを奪おうとします。これはグエルに対しても行っていましたがスレッタに対しては彼女を認めていないことも合わさり、決闘をして奪おうとしているので、害意は高いです。

なので、最後までシャディクに助けられてしまうミオリネは「そんなに尽くされているのになぜシャディクに報いてやらないのか」という問題が起こります。これはラブロマンスの話であり、愛を真剣に描くのなら、愛を失ったのならそれを克服し、未練を断ち切るまで描く。そうしなければ、ただ愛に囚われる人間が生まれるだけであり、その人は永遠に報われることはない。

そしてミオリネは娘ではなく女経営者や管理職としての側面が強いのであれば、これは結局のところ「女は男の手助けがなければ経営者や管理職としての務めは果たせない」という、女性の自立に対してこの上ない侮辱の部分を描くことになります。

今も、女性管理職というのは、能力が低く、結局男の方がいいとか、男が尻ぬぐいをしてやらなければ仕事ができない。男の頑張りを搾取して大威張りしているだけだ。と批判されがちです。実際にそういう能力のない女性管理職もいるでしょうが、大きく「女」としていることで、「女には管理職としての能力がない」と全体的な話として語られがちです。もちろん男性であっても、能力がなければ管理職にはなれないし、能力がない管理職というのは実際にいます。しかし、「男だから」管理職にふさわしくないとは言われず、管理職にふさわしくないのは「女だから」と女性だけが「女」という性別によって差別をされます。これは、これまで男性管理職ばかりで女性は能力があっても決して登用されない現実を変えよう、と活動をしてきたこれまでの女性たち、フェミニズム運動の否定です。

そして女性の自立というものへの大きな阻害でもあります。本来男性でも女性でも能力がある人が管理職となれます。しかし、「女はそんな能力がないんだから、男が補助してあげるよ」と仕事ややりたいことを取り上げる、一生お前は庇護される立場なのだ、とされている。それに、能力があるというのも、男性であれ女性であれ、最初から管理職として完璧な能力を備えている人間はいないのですから、未熟な人でも経験や周囲からの批評によって管理職となる、という、未熟だからと切り捨てるのではなく、管理職という責任あるポジションに育てあげる環境が必要です。

ミオリネはまさにこのジレンマに陥り、そしてそれを享受してしまっています。シャディクが「義母の罪も被る」というのはミオリネにとっては頼んだものでもないし望んだものでもありません。しかし、シャディクはミオリネのためにという考えでそれを被り、ミオリネもそれに対して何も言わない。

これはミオリネが「プロスペラの逮捕は彼女にとってマイナスになる」とシャディクに考えられていたということであり、ミオリネはそのマイナスを打ち消すことができないと能力を軽んじられたことにもなります。これはまさに、「女性にはそんな能力はない」として、男性が代わりに行ったり、助けを求める前に助けられたり、女性に管理職になる能力などないと最初から決めつけられている現状と根っこは同じです。

グエルやラジャンたちの対応も同じです。ミオリネが「私にはできない」と私情で動けなくなったときに、彼らがその尻ぬぐいをしている。それに対して謝罪もない。後半のミオリネはスレッタという女性に対してもそうですが、男性から守られるばかりの女性となってしまったのですよね。

もちろん、ミオリネというキャラクターがそういう能力しかなくて、最初から株式会社ガンダムのCEOも、ベネリットグループの総裁としての器もない、ということであるのならそれはそれだけの話ですが、もし彼女が女性管理職や経営者としての側面を背負っていたキャラクターなのだとしたら、シャディクという男性に下駄を履かせてもらい、それを甘んじて受け入れたミオリネというのは、男性からいつまでたっても擁護が必要だと下に見られている女性管理職というのを決定させるものでもあります。

ただいずれにせよ、キャラクターにしてもテーマとしても、これがアニメ本編の結論というのはおかしなことではないでしょうか。ミオリネにはそんな能力はなかったのなら、なぜ彼女は秀才であるというキャラクター付けがされていて、彼女自身経営戦略科に所属し、経営の能力があるとされているのでしょうか。どうして未だに株式会社ガンダムのトップとして行動をしていて、周囲からもそれを受け入れられているのでしょうか。女性というものを主人公にしているというのに、その女性単独での自立やキャリアアップを否定するのは、矛盾しているのではないでしょうか。

それでもミオリネは学生時代に起業しCEOとして君臨している、というのは変わりませんが、その内容は果たして伴っているのでしょうか。ガンダムを憎む人との溝は一向に埋まらず、肝心のGUNDは三年後にようやくテスト段階。進んでいないように思うんですよね。

だから、スレッタは物理的に、ミオリネは精神や能力が全く成長していない。24話後にようやく進み始めるけれども、それを私たちが見ることはできない。「This is where the story concludes the Witch from Mercury」というのが24話の最後に出ます。そしてこれの直訳は、「これが、水星から来た魔女の物語の結末です」です。だからあれが、スレッタと、そしてミオリネたちの結末なのです。

女性である彼女たちは、しょせん女性なので自立するだけの力はなく、男や周りに庇われながらでなければ生きてはいけない。それが結論というのは、なんとも……全く新しくなく、希望もない。

そしてメインテーマである親の呪縛からの自立というのも、スレッタはプロスペラの所業すべてを肯定してずっと寄り添い続ける、ミオリネはデリングに虐げられてきたせいで自分だけで生きる力を持っていないのに言うことだけはいっちょ前という、二人ともが母親と父親の呪いから囚われたまま、そのまま大人になって終わってしまった。とすると、なんとも切ないお話ですが、主人公が悪いところ、自分が嫌だったものを受け継いだまま大人になるっていうのも、新しいは新しいけど、なんとも後味の悪い結果じゃないかな……。DVを受けて育った子供が大人になってDVをしてしまうようになってしまったという種類の後味の悪さ。

シャディクの罪