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そよ風クリニックの思い出、或いは決意表明

今年の締めくくりに、惜しまれつつも閉院となった化学物質過敏症外来「そよ風クリニック」について。といっても、個人的な思い出話です。

初診は2017年。
発症してすぐに予約を取り付けたのを覚えています。
化学物質過敏症は、その名前に辿り着くまでも険しい道のりで、「どの科を受診しても異常なし、そうこうする間にひどく悪化」ということもあるのですが、発症の経緯や症状で検索したところ結果の上位に出てきたことが幸いして、早期から疑わしく考えていました。
とはいえ素人判断はいけません。

外来は全国で数箇所しかなく、どこも受診までに数ヶ月待ちとあって、まずは近くの病院へ行くとしても、セカンドオピニオン的にも予約しておくに越したことはないだろうと電話したのがそよ風クリニックでした。

その後ひとつめの診療所ではろくに診察せず受動喫煙症と言われ困惑。ふたつめの大学病院では隅々まで検査されて処方された薬でさらにひどい体調不良へ。心身ともに疲れ果てたところで予約の日になりました。

診察は、眼球の動きや瞳孔の開閉、平衡感覚のテストで、「え、こんな簡単なことさえ私できなくなってる?」と驚きました。平衡感覚には自信あったのに、あんなフラフラになってしまうなんて。
問診は、あらかじめ郵送された数ページにわたる質問項目で、生まれてからこれまでの住環境なども確認されました。これはシックハウスとかの絡みかな。

特殊な検査をされているように感じ、「ああ、変な病気になっちゃったんだなぁ」と心細く思ったものです。
宮田先生は、そのような私のやるせない気持ちをよく汲んでくださったように思います。

未知の病を抱え、ともすると自罰的になりがちな患者に対して、「あなたは悪くない」と寄り添ってくれたことで心の平穏を取り戻し、それが回復への第一歩になりました。
「病は気から」であるならば、逆もまた然り。病によって弱り、混乱し、妙に昂り、また落ち込んだ心を落ち着かせ、ネガティブを受け入れてポジティブに働かせる。そよ風クリニックは、最良の伴走者だったと感じています。

治療は、私の希望もあって緩やかな方法になりました。食事を中心に生活習慣を見直し、運動して、「今何かニオイがしていないか?」と常に考え続けてしまっている脳の回路を断つ。自分を責めない。これは翻って、相手を責めないことでもあると捉えました。

ずっと定期検診でお世話になり、一時は耐えられないくらい重篤化したものの、2年ほどで復調し、コロナ禍の前まではマスクをせずに外出できるようになりました。

調子が良くても数値的にはあまり変化がないことも知りました。あくまで私の場合は、かもしれませんが、検査結果の数値と反応の激しさは違うようです。
逆に言えば、宮田先生のおかげで予期不安を取り除き、曝露したときのパニックを抑えられるようになった、ということかもしれません。

それから絵本や漫画を出版する際に監修を担当していただいたことも、忘れられない思い出です。

閉院のお知らせをいただいたのは春だったかな。
受付の方からで、突然のことに「どこかお加減が……?」と思わず問いかけてしまったところ、体調に問題はないとのことで安心しました。
しかし縁起でもないことかもしれませんが正直なところ、やはりご年齢もありますので、いつ閉じられてもおかしくないと覚悟はできておりました。

短い間でしたが、6年間診察してくださってありがとうございます。




我々発症者を取り巻く環境はいまだ厳しく、呼吸という、なににも替えられない命の基礎が脅かされています。

無鉄砲にもがむしゃらに次々と本を書いて……、それでも足りない気がする。けれども、これ以上どうすればいいのだろう。

閉院の知らせを受けたのは、私自身、自分の力不足に打ちのめされているときでした。

その後NHKあさイチで特集されるという連絡をいただき、漫画の続刊も電子書籍のみとはいえ配信されたものの、心底ありがたく思いながらも、それは既に〝作ったもの〟であり、過去のものだという感覚が拭い去れませんでした。

未来に目を向けたとき、そこにあるのは空白。

悔しいという感情は、まだなにかできると余力を感じるからこそ生まれるのだろうけれども……

後日お手紙をやり取りする中で、私はあっと声をあげた。

〝次回作もよろしくお願いしますね〟


私はこの記事をもって、決意表明とします。

先生、承りました。
必ず作ります。

余力を残したまま、悔恨を抱えて終わりたくない。
気持ち新たに今年を締めます。

そんなわけで、来年もどうぞよろしくお引き立てのほどお願い申し上げます。


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