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【#3】 - My daily thoughts- 失恋博物館 in Zagreb

10月14日、クロアチアの首都ザグレブにあるMuseum of Broken Relationships (失恋博物館)を訪れた。

ぬいぐるみ
ハイヒール
アンティーク時計

世界中から寄贈された“壊れた人間関係”を示す記念品が展示されているこの博物館では、それぞれのモノにまつわるラブストーリーがある。

中でも自分が最も気に入ったのが「Reel-to-reel tape recorder and audio tape (オープンリールプレイヤー)」という日本にまつわる展示品。

以下、展示品とその解説である。

オープンリールプレイヤー / Tokyo, Japan

(失恋博物館, Zagrebにて)

まだ乳飲み子の私と母を残し、父が他界したのは今からちょうど50年前。

その父を弔う仏壇の中には、絶対にあけてはならぬと、幼い頃から母にきつく言い聞かされていた包みがあった。中身は何かと尋ねると、生前の父の声が録音されたテープレコーダーだという。

母がそのテープを"封印"したのは、当時観たイタリア映画のワンシーンが発端だった。

母親を亡くした少年が、愛しい母の声の入ったテープレコーダーを見つけ、寂しさ余って何度も繰り返していくうちに、操作を誤って録音された声を消してしまう。

あまりに衝撃的で切ないそのシーンが心に焼き付けられた母は、我が家も同じ悲劇に見舞われないようにと、テープレコーダーを厳重に包んで仏壇の奥にしまい込んだのだった。

絶対に失いたくない大切な声なのに、聞くことが出来ないという皮肉。

それから数十年後、

私たち母子を蝕 (むしば)む呪縛を解くため、すっかりアンティークと化したそのテープレコーダーを専門の技術者に託し、再生を試みた。

すると聞こえてきたのは、


ちょうど歌を覚え始めた幼い私に、寄ってたかって歌わせようとする、父と母のにぎやかで愛おしい声だった。

--End--


【解説あとがき】

声にまつわる話で真っ先に思い浮かぶのが、小学3年生の時に"聞いたであろう"祖母の涙声だ。

当時通っていた習字教室に行きたくなくて、行くふりをして外出し、夜までひたすら外をフラフラした。祖母は習い事が終わる正午になっても帰ってこない自分を心配し、街中探し回ったらしい。

夜、ケロッと家に帰ってくると、祖母にいきなりビンタをされた。

今まで叱られたことは幾度となくあったが、手を出されたのは初めてだった。そして、涙を流しながら祖母はこう言った。

「うちはな、川に流されて死んでしまったと思って心配したんよ。」

いつも何か悪さをしたり、怠けていたりすると「こらー!」と叱ってきた声は、今でも頭の中で容易に再現できる。

でも、この涙声だけは再生不可能だった。

♣♣♣

祖母が亡くなってから今年で13年、先日に十三回忌(満12年)という一つの節目を迎えた。ここからの供養は、もう行わないという。

大好きな小説「西の魔女が死んだ」の一説にこんな言葉がある。

「身体は生まれてから死ぬまでのお付き合いですけれど、
魂のほうはもっと長い旅を続けなければなりません。(中略)
歳をとって使い古した身体から離れた後も、
まだ魂は旅を続けなければなりません。
死ぬということはずっと身体に縛られていた魂が、
身体から離れて自由になることだと、おばあちゃんは思っています。
きっとどんなにか楽になれてうれしいんじゃないかしら」

僕が年を取るにつれて、祖母の声という記憶は徐々に消えてなくなるだろう。

しかし魂は生き続け、故人を想う記憶の中で旅を続ける。
そして、精一杯の感謝と哀悼の気持ちを込めて伝えたい。


小さい頃から見守ってくれてありがとう。ゆっくり休んでね。

--End--

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