見出し画像

京都サンガF.C.戦の雑感

忙しなさの理由

今節の鹿島は(特に前半30分くらいまで)かなり積極的に縦に速いプレーを選択していた。優磨へのロングボールもあまり躊躇なく蹴っていたし(本職CBの麻田とのバトルは避けるようにしていたが)、左サイドでは藤井にガンガン仕掛けさせ、右サイドではチャヴリッチの裏抜けも早い段階から狙っていたし、濃野がアーリークロスを入れる機会も多かった。

これらのプレーによって、たしかに相手ゴールに迫る機会は連敗中に比べて多くなっていたが、反面デメリットも生まれていた。成功率が低くてもどんどん縦に仕掛けていたため、ボールロストの機会が増え、また個々での即時奪回や高い位置でのボール奪取を狙ったプレーも多かったため、そこを掻い潜られて自陣ゴールに迫られる回数も増えていたのだ。

だが、現地で観ていたポポヴィッチの振る舞いを見る限り、今節においてはそのメリットデメリットを把握した上で、あえてその戦い方を選んでいる節があった。無秩序な状態をあまり好まないポポヴィッチだが、ボールロストからカウンターを食らっても、しっかり守ったことを讃えていたシーンは多かったようにだ。

これには、鹿島がもちろん連敗中でしかもノーゴールが続いていたという事情もある。この悪い状況を抜け出すべく、ゴールが欲しい。そのためには安定している守備を多少のリスクに晒してでも、相手ゴールに迫る回数を増やすことで、ゴールを奪う可能性を上げようというものだ。

ただ、もっと大きいのは相手の京都というチームを見て決めたというところだろう。京都というチームは縦に速いスタイルを志向しているし、そのためにボールを手放すことに躊躇しない。ただ、前線と最終ラインの質を比べた時には鹿島に分がある。そして何より、ガス欠した後半に課題を抱えている。今節を迎えるまで、京都は前半の失点が3に対して、後半の失点が8であり、しかもラスト15分でその半数にあたる4失点を喫している。相手の土俵で勝負しても、鹿島が個々の質で上回ることができるし、消耗戦に持ち込んでも相手が課題としている部分なので、勝算がある。そう見込んで、今節はあえて忙しない展開を選択していたのではないだろうか。

藤井智也の意義

そうしたことを踏まえれば、前半落ち着かない展開になったのも、後半になって決定機が増えてきたのも、理解できる現象ではある。行ったり来たりの展開で相手の体力を削り、落ちてきたところからチャンスを作って、仕留める。本当はもっとギリギリの展開になる前に決めたかったが、結果的に見れば狙い通りの勝ち方である。

ここで個人的には、前半の藤井とチャヴリッチの動きは地味に重要だったと思っている。精度を欠き得点には繋がらなかったが、裏抜けや仕掛けを続けたことで、相手の足を確実に重くしていった。特に藤井は、前半は対面する福田に完璧に抑え込まれていたが、それでもあそこでスプリントし続けたことは後半の下地になっていた。

さらに見逃せないのが、HTでチャヴリッチと藤井のサイドを入れ替えたこと。これで対面する福田にとっては、前半は藤井に対応するために上下動のスプリントだけでよかったのが、後半は中に入り込むチャヴリッチに対応すべく横の動きも増え、重ねて大外から駆け上がってくる安西のケアもしなければならなくなる。下地を作った状態で相手の目線を変えたことで、京都の選手たちから余裕を奪っていくことに鹿島は成功していた。

欲を言えば、藤井には周りに使われることでより自分を活かすことをもう少し覚えてほしいところだ。自分で仕掛け切る、クロスを上げ切る、シュートを打ち切ると潔い判断をしているのは、必ずしも悪いことではない。ただ、今節の藤井の周りには多くのシーンで味方のサポートがあったし、自分でやり切るよりもその味方に預けた方が効果的だなと思うシーンも多かった。自分でやり切って結果を残せるなら文句はないのだが、藤井はこの部分のクオリティに課題がある。それなら、味方にシンプルに預け、もう一度自分は使ってもらうべく動き直すことを意識して欲しい。何度でもスピード持って上下動できるのはそれだけで魅力的なのだから。

師岡柊生台頭のメリット

鹿島の試合終盤の攻勢のきっかけになったのは、師岡の投入だろう。彼が左サイドハーフに入り、チャヴリッチを前線に移したことで、鹿島はより攻撃に勢いが生まれ、結果決勝点へと繋がった。

師岡が良かったのは、やってほしいことをちょうどよくこなしてくれたことである。自ら仕掛けることもできるし、味方を使うこともできる。大外でも、中に入り込んでプレーすることもできる。前を向いてスピード持ってプレーもできるし、多少なら相手を背負ってもプレーできる。今の鹿島のサイドハーフは、何かに秀でている分だけ、他のプレーがあまり得意ではない(やらない)プレイヤーが多かったりする。噛み合わせを注意しないと上手く成り立たない中で、相方を選ばない師岡の存在は大きい。

師岡をサイドで使えるということは、チャヴリッチを中央に置けるようになるということにも繋がってくる。個の力が抜けているためにそこでチャンスメイクやフィニッシュを、現状のチームとして活かしやすい外から担ってもらうためにサイドに置いているが、柔軟にプレーを変えられるだけでなく、単純な自身のクオリティで相手選手を上回ることができるチャヴリッチは、やはりゴールに一番近い中央に置いておいた方が、一番脅威を与えられるのは言うまでもない。ただ、チャヴリッチを中央に置くと、そこまでボールを届ける手段をあまり見出せなかったのがこれまでの鹿島だった。だからこそ、今節師岡が機能した意味は決して小さくない。

前進を感じる大きな勝利

今節勝つと引き分けで終わるとは大違いだったからこそ、今節の勝利は大きい。訪れた決定機を早々に活かし、複数得点を奪えていれば言うことなしだったが、それでも得点力不足以前にチャンスがそもそも少ないということで悩んでいたチームが、チャンスをどう決め切るかの部分で頭を悩ます段階にまで来たのは、確実に前進と言える。

ゴールを決めたのはサイドバックの濃野だったが、状況に合わせて適切なプレーを選択でき、それでいて躊躇なく前に出ることのできる彼は、今のチームで最も「サッカーの上手い選手」と言えるだろう。開幕当初は課題にあったプレーキャンセルの部分も改善されつつある。濃野に限らずだが、今の鹿島のサッカーはサイドバックが攻撃に絡む回数が多いほど、自分たちのペースで試合ができていると言える状況になっている。もっと言えば、サイドバックのゴールやアシストが伸びてくれば、それがチームの成績にも繋がってくる、ということである。今後も期待していきたい。

ここから中3日で八戸、さらに中2日で鳥栖と、アウェイ連戦となる。八戸とのルヴァンカップはスケジュールを考えても、ターンオーバーを敷く可能性が高い。ここまで練習から主力がほぼ固定されてきただけに、控え組からすればアピールの数少ないチャンスの場だ。自らの存在価値を示し、チームの勢いに繋げていきたい。

遠征費とスタグル代に充てるので、恵んでください