見出し画像

そもそもクリエイターが著作物の利用を許諾するとはどういうことなのか? 【著作権のライセンスを言語化しておく】

クリエイターの著作権と契約について、特に議論になりやすい部分である、著作物の利用許諾の基本をまとめます。この記事を読めば、著作権に関する契約をする際、譲渡と許諾の判断ができるようになります。

著作権の意味

まず、イラストやデザインにしても、映像やプログラムにしても、多くは著作物であり、著作者は著作物を利用する権利(著作権に含まれる複数の権利)を「専有する」ので、他人に対してその著作物の利用を禁止することができることになります。

「禁止することができる」ということを法的に表現しなおせば、もし勝手に著作物を利用した他人がいたら、その人に対して差止請求権、損害賠償請求権、不当利得返還請求権を行使できる、といえます。つまり「著作権とは、禁止権」なのです。

ところで、禁止する権利があるのですから、逆にいうと、一定の他人による利用を「禁止しない」こともできます。これが、本日のテーマである著作物の利用許諾(ライセンス)です。

譲渡か、利用許諾か

「イラストレーターが作品をクライアントに納入するとき、そのイラストの著作権は誰の(どちらの)ものになる(べき)か?」みたいな議論は、ネット上でもよく見かけます。

「譲渡がいいのか、利用許諾のほうがいいのか」は、どちらかが「良い」とか、「悪い」という正誤の問題ではなく、当事者が目指すものによる、つまり選択の問題です。ただ、クライアントにしても著作権のことがよくわからないために「なんとなく譲渡が良いだろう」と考えているケースもあるようですし、そもそも著作物の利用許諾とはどういうものなのか、クリエイター側もさほど明確ではないのかもしれません。

利用許諾とはなにか

著作物を利用許諾するということは、著作権が禁止権であることからすれば、その禁止権の一部又は全部を行使しないということであり、いわば「不作為の約束」と考えることができます。

さらに著作権法にも、著作物の利用許諾の条文があります。第63条において①他人に著作物の利用を許諾することができることと、②許諾を受けた人が許諾に係る著作物を、その許諾に係る利用方法および条件の範囲内において利用することができること、さらに、③許諾された著作物を利用する権利は、著作権者の承諾がなければ譲渡できないとされています。

(著作物の利用の許諾)
第63条
1 著作権者は、他人に対し、その著作物の利用を許諾することができる。
2 前項の許諾を得た者は、その許諾に係る利用方法及び条件の範囲内において、その許諾に係る著作物を利用することができる。
3 第1項の許諾に係る著作物を利用する権利は、著作権者の承諾を得ない限り、譲渡することができない。

著作権法第63条1項から3項

以上のことからクリエイターはその著作物について、契約(利用許諾契約、ライセンス契約)によって、クライアントに利用させることができるといえます。

ここまではご存じの方が多いと思いますが、ビジネス契約において肝心なのはここからです。

利用許諾の内容を決めて契約する

契約実務の観点で特に重要なことは、当事者が「利用許諾の内容」を決めることができるという、ルールメイキングの部分にあります。

「契約自由の原則」により、契約の当事者はこの利用許諾契約において具体的な「利用権の内容」を自由に議論し、交渉し、定めることができます。単純に著作物の利用を許諾する、というレベルにとどまらず、どのような利用を許諾するかを自由に、具体的に定めることができるところに、この契約の面白さがあります。

つまり、著作物の利用権の種類を、複製、翻案、公衆送信、などのなかから一部だけの許諾をすることもできますし、条件を追加することもできます。ひとつの典型例を挙げれば、たとえば著作物をある商品のパッケージに利用しようとした場合に、その「製造数量」を決めたり(何個製造できるとか、何個以上は製造できない等)、販売できる「地理的な場所に枠組み」を設定したり(日本国内においてのみ許諾するとか、〇〇県内のエリアに限定される等)、さらには発売の「時期的なタイミングや期間」を限定すること(〇年〇月~〇月までの期間限定で許諾する等)も可能です。

いうまでもなく、これらは「契約書」に詳細に定められることによって客観的に、具体的に証明しやすくできますし、そうすべきでもあります。

利用権を第三者に対抗できるか? という問題

ところで、クリエイターから著作物の利用許諾をしてもらうことによって、自らのビジネス(商品等)への付加価値を期待しているクライアント(=ライセンシー)としては、著作権者との契約によって得られたこの権利を、第三者に対しても堂々と主張できるかどうかは重大な問題です。

もともと、許諾による著作物の利用権は、あくまで契約上の権利であるため、当事者間の契約ではもちろん利用権が主張できますが、契約の当事者以外の者(第三者)にたいしては対抗できない(この利用権を主張することができない)というのが、従来の著作権法上の制度でした。契約の当事者間で権利が生じることと、第三者にたいしても同じように主張できるかどうかは、別問題というわけです。この考え方ですと、たとえば第三者に著作権が譲渡されてしまった場合には、先に利用許諾を受けた者としての主張が(その第三者にたいしては)通らないことになります。ようするにクライアントにとっては大変不利な状況なわけです。

ただしこの点は、最近の著作権法の改正(令和2年)によって「当然対抗制度」が導入されたことで、著作権のライセンスも「当然に第三者対抗力を有する」という取扱いに変わりました。

(利用権の対抗力)
第六十三条の二
 利用権は、当該利用権に係る著作物の著作権を取得した者その他の第三者に対抗することができる。

著作権法第63条の2


当然対抗制度により、許諾を受けた者(ライセンシー)にとっては、その利用許諾が守られるという意味での安心材料が増えたともいえますし、逆にいえば、仮に自分よりも先に許諾を受けた者がいれば、そちらの利用権も対抗してこられることになるので「よく調べずに契約したら既に対抗力のある利用権が存在していた」というシーンがうまれるリスクもあります。こちらの点については、慎重な契約相手方の見極めや、表明保証条項のチェックなどによりカバーされていかなければならないでしょう。

まとめ

著作物の利用許諾は、複雑な条件を定めることもできる契約であり、難易度が高いイメージもありますが、著作権「譲渡」以外の道をひらく、可能性に満ちた契約形態だと思います。もちろんビジネス的な観点から、お互いの納得の上に「譲渡」が選択されること自体はまったく問題ありません。しかし、「著作物のみだりな改変を防ぎたい」、「意に染まない使われ方を避けたい」、といったクリエイターのブランドポリシーを考えたとき、許諾もまた重要な選択肢だといえます。

ポイントを以下にまとめます。

・著作物の利用許諾は、著作権を(譲渡せず)著作権者(クリエーター)側に留保しながら、クライアントが利用できるようにする契約方法です。
・利用権の範囲や条件を、権利の種類、数量、期間、地理的範囲などについても、契約でこまかく設定することができます。
・利用許諾により著作権者(クリエーター)側は、自分の作品にたいする一定のコントロールを維持しつつ、クライアントに価値提供できることになります。
・また、当然対抗制度が施行されたことにより、従来の課題であった第三者対抗力の課題が法的にクリアになりました。これによりクライアント側も、より安心して利用権を享受することが期待できます。
・利用権の内容が複雑になりうるため、契約後にクリエイター/クライアント間で「そんな利用方法は認めていない」「利用の制限を超えているから追加料金を支払え」みたいなトラブルが起きないように、利用権の存在と利用方法の範囲を過不足なく立証すべく、注意して契約書を作成しておくべきでしょう。
・また、当然対抗制度の副作用として、許諾を受けるクライアント側は「未知の(既存の)ライセンス契約が存在するリスク」を負うことになるともいえます。

参考になれば幸いです。

用途別に、契約書のひな型をまとめています。あなたのビジネスにお役立てください。


もしこの記事が少しでも「役に立ったな」「有益だな」と思っていただけましたら、サポートをご検討いただけますと大変嬉しいです。どうぞよろしくお願いいたします。