君は『竹取物語』を知っているか?

はじめに

 タイトルを見て古典の教科書を思い浮かべたあなた。そうだけどそうじゃない。

 今は昔、遡ることン十年前、日本が世界に誇る巨匠・市川崑氏が手掛けた伝説的大作映画『竹取物語』のことである。

 映画公開当時、CMが盛んに流れ、テーマ曲が掛けられ、それはそれは大変な話題になっていた……気がする。
 仕方がない。ン十年前の記憶なんだから。

 テレビでも放送されたはずなのだが、その時でさえン十年前なので色々と覚束ないのだが、強烈に覚えていることがある。

「しまった、ちゃんと見ればよかった……!」

 CMの記憶なのか、テレビ放映時に途中から見た記憶なのか良く分からないが、「ちゃんと見ていない」ことだけは強烈に脳に焼き付いてしまった。

 さて、時が過ぎ。あるドラマが始まった。そう、それは……。

〈主演・沢口靖子『科捜研の女』シリーズ〉

 昼下がりの再放送も木曜夜のリアタイも楽しむうちに、徐々に一つの欲求が高まっていった。

『竹取物語』観たいなあ……!

 近所のレンタルショップで借りられないかと探しても見つからず、「天下の市川崑だぞ!」と胸の内で毒づき、とはいえ購入するほど見たいのかと言われると疑問符が付き、リサイクルショップで安く手に入れるという発想にも至らず……。

 そんな風にふと思い出してはしばらく悶々として、やがて落ち着きを取り戻して忘れ……と言う日々を繰り返していたこの数年。

 ついに、見つけたぞ!U-NEXTで!

 色々あって入会したU-NEXTの中で、配信されていたのである!「配信はなあ……作品があったりなかったり消えたりするって言うしなあ……」と今まで二の足を踏んでいたのだが、まさかのビンゴだったのである!

 ダウンロードすればオフラインでどこでも見られるよ、というわけでダウンロードして、準備万端!

 あ、映画だし有料配信してるから、そんな細かく書かないよ?

色々ちゃんとしている!

 出演している俳優が、三船敏郎とか若尾文子とか岸田今日子とか(敬称略)、何だとかかんだとか、凄いことスゴイ事。春風亭小朝や中井貴一が若手枠なんだから(実際若い)。

 当時にして製作費がン十億だったというこの作品、その費用のうち十二単に2億円ほど使ったとか(作品説明にそう書いてあった)。
 その甲斐あって、高貴な身分の方々の衣装が豪奢でありながら上品である。下々の民もそれなりにボロいけど、映画鑑賞の邪魔にならないバランスを押さえてある。
 衣装デザインがワダエミさんということで、それも納得。

 セットもすごい。竹取の翁夫婦が住んでいたボロ小屋も、その後夫婦が新築したお屋敷も、細かい所まで作りこまれていて、手抜きがない。
 何に驚いたって、都の大路を駆け抜ける牛車である。牛車!
 ホンモノの牛が車を引いているのだ!おまけに爆走している!スゲエ!!
 牛車はやんごとなきお方の乗り物なので、もちろん従者がたくさんいて、その従者たちも爆走している。迫力がスゴイ。
 21世紀でコレ撮れるかな?動物愛護関係に怒られそう。

 特撮もスゴい。何を隠そう、この『竹取物語』は「もしもかぐや姫が宇宙人だったら」をガチで実写化したSF映画である。宇宙船だって宇宙人だって出てくるのだ。

 ン十年前の当時は全てがアナログなので、逆に特殊効果の演出や撮影方法に感嘆する。特に宇宙船の造形が素晴らしい。映画館の大きなスクリーンにどアップで投影されることを前提にしているのだから当たり前なんだけど、細かいパーツまできちんと作られていて美しい。
 ダサいCGで中途半端なリメイクしないでほしいと切に願う。

 SF映画だし、宇宙船が出てくるとなると、西洋的な宇宙人との対決話になるのかと思いきや、そんなこともない。
 古典の『竹取物語』やその類話をベースとして、親子モノや恋愛モノ、アクション活劇にファンタジーに政治劇と、エロとグロ以外のジャンルがちょうどよいさじ加減で織り込まれ、ロジックもちゃんとしている。
 ストーリーそのものも変な難解さもなく、見ていてストレスはない。

 つまり、ちゃんと面白かった。

あらすじ

 時は8世紀末の日本。いわゆる平安時代、その前期であろうか。
 都近くの山里で、とある中年夫婦が暮らしている。夫は竹細工の名人、妻は織物や染色が評判をとっているが、貧しい暮らしと縁が切れない。
 夫婦には遅くに授かった娘がいたが、それも病で失ってしまう。妻は毎日毎日娘を偲んで泣き暮らし、家の中が陰気なことこの上ない。夫は妻の泣き言恨み節を半ば聞きながら、竹細工作りに励んでいる。

 そんなある日、空が光り轟音が鳴る。地響きがして、ただでさえ崩れそうな家が振動で揺れる。夫婦が避難のために外に出ると、空へ立ち昇る煙がある。その方角は、夫がいつも竹を取りに行く竹林がある山の方向だった。
 夫は竹林の心配を、妻はその竹林に作った娘の墓の心配をする。

 夫が竹林を見に行くと、これといった被害はなく、娘の墓も無事だった。安心する夫。娘の墓に近づくと、そのそばに見慣れないモノがある。
 見た目はタケノコ、しかしなんか光った。ナンダコレ!?
 すると、タケノコみたいなものの一部がパカッと割れる。しかも中には赤ちゃんがいる!本当に、ナンダコレ!?

 夫は驚きつつも、竹林に赤ちゃんを置いて行く気にはなれず、お寺に預けようと思ってとりあえずタケノコっぽい物を持ち帰ることにする。
 山を下りる途中、夫はうっかりタケノコっぽい物を落とす。入れ物と赤ちゃんを探していた夫は、しかし驚くべきものを目にする。

 夫が家に戻ってくる。小さな女の子を連れて。妻はその女の子を見て、亡くなった娘の名前を呼ぶ。女の子は娘にそっくりだったのだ。
 妻の喜びようは半端ではなく、夫が赤ちゃんだったのがあっという間にこの大きさまで成長したと不思議なことを話しても、全く気にしない。
 こうして女の子は夫婦の娘〈かや〉として育てられることになった。

 都の近くで起きた怪異は、政治の議題にもなる。帝の御前で、太政大臣に右大臣に大納言、皇族も出席して調査の報告と今後の対策を話し合う。
 もう一つ不可解なことがある。国産ではありえない、出所の分からない純金が、下々の間で取引されたという。
 帝は出所不明の純金が出回るなんて、政治や治安に関わる重大事だと懸念を表す。

 謎の純金の出所は、かやが入っていたタケノコっぽい入れ物のカケラだった。それを売って、夫婦は元の家から離れ、都の一等地に新築のお屋敷を建てて暮らしていた。
 異様な早さで成長した娘の素性を探られることを嫌ったこと、高貴な方々や富豪の邸宅の近くに引っ越すことで、かやを通じてお近づきになることなどが(夫の)理由であった。

 しかし引っ越した先で、娘・かやの美しさは評判となり、家の周りには身分の上下関係なく多くの男どもが群れ集うありさまに。
 やがてその評判は高貴な方々の耳にも届き、特に女に目がないという噂の車持の皇子(くらもちのみこ)と安部の右大臣(あべのうだいじん)が会いに来る。二人は噂ほどの美女のはずがないと散々にくさしていたが、いざお目当てのかやが顔を見せると、その美しさの虜になってしまった。

 牛車で外出中だった大伴の大納言(おおとものだいなごん)は、道の途中で反対側から来た人力車に遭遇する。車同士がぶつかり合い、相手の車はぬかるみにはまって動けなくなる。
 大伴の大納言が牛車から降り、急いでいるから通せと言うと、「急いでいるなら、そっちの従者も貸せ(←かなり乱暴な意訳)」という言葉が返ってくる。
 人力車から姿を現したのは、世にも美しい娘・かやだった。
 目が合い、そのまま見つめあう二人。

 ある満月の夜、かやが赤ちゃんの頃から持っていた水晶玉が光る。それはかやの素性をめぐる出来事のきっかけであった。

 そして、数ある求婚話の中から、最後まであきらめなかった3人が、かやの結婚相手の候補として選ばれる。
 庫持皇子、安倍右大臣、大伴大納言。
 かやは3人の公達に、世にも稀な宝物を持って来た方に嫁ぐと言い、三つの宝物の名を挙げる。
 蓬莱の玉の枝、火鼠の皮衣、龍の首の玉。
 どれも古書に名前が載るものの、実在が疑われているものばかりだ。

  庫持皇子は真っ先に蓬莱の玉の枝を選ぶ。安倍右大臣は火鼠の皮衣を選び、大伴大納言は残った龍の首の玉を持参することを誓う。

 3人はそれぞれに船を仕立てて、意気揚々と出立する……朝廷に無断で。

 帝は政務の重役を担う3人の公達が、これといった届けも出さずに長期の無断欠席をしていることにお怒りであった。そして、そこまで恋に狂わせる都でも評判のかぐや姫ことかやに関心を持つ。

 さてはて、3人の恋のさや当ての行方は?かやはどうなってしまうのか?

 といった感じです。

お気に入りポイント

 第一は、かぐや姫・かや!
 かやは地球人ではないせいか、ちょっと(とても)浮世離れしています。大伴大納言との出会いの場面もそうですが、割とキッパリはっきり自分の意見を言います。古典の『竹取物語』などでも、もちろん劇中においても、帝に対して物おじせずにきっぱり啖呵を切ります。
 一方で、近隣の屋敷で奉公している、明野という盲目の少女とひょんなことから知り合い、姉妹のように仲良しになります。
 人として真っ当な心を持ち合わせながら、この世の者とは違う存在感を持つ美貌の娘……そんなの沢口靖子一択じゃないデスカ!

 清らかで凛とした天上の美貌……大々的なオーディションでもしない限りリメイク不可能じゃないかと思う。

 第二は、大伴大納言!
 中井貴一だから!というのもありますが、大伴大納言は真面目で有能、人としても誠実で、実は戦っても強い。部下にも慕われていて、娘の理想の結婚相手として申し分ない。マジでカッコいい。

 第三は、帝!
 古典の『竹取物語』でも、某有名アニメスタジオの映画でも、帝が妃にしようとしてさんざんにかぐや姫に言い寄り、結局月から迎えが来てしまってその話はおじゃんになる……と言う展開です。
 しかしこの作品の帝は、そういう色恋目的でかやに関心を持っていません。この帝は中々のリアリストであり、日ノ本の統治者としての誇り高さがあるため、かやにまつわる不思議なうわさや、自分の言うことを聞かない存在が許せません。
 しかし、色々あって、世の中には自分の力が及ばないこと、まだまだ知らないことがあるのだと気付きます。賢い。さすが石坂浩二。

おわりに

 世間的には某有名アニメスタジオの映画の方が有名で傑作名作扱いされていると思いますが、あまり好みじゃないんですよね。ストーリーはあるんだかないんだか分かんないし、キャラもパッとしないし、何よりラストが嫌いです。原典通りなんですけど、なんかイヤ。シニカルっていうか意識高いっていうか。
 もともと高○勲氏の作品と私との相性が悪い、というのもありますが……。

 この『竹取物語』は全体的にヒューマニズムと言うか〈善良なものを信じる〉みたいな感じがあって、それが心地いいのだと思います。
 名監督は何故名監督なのか、というのが分かるというか。

 涙を搾り取られるとか、考え方が変わるとか、教訓めいてるとか、考察ポイントにあふれてるとか、もちろん何かのトラウマになるとか、そういう激しさは一切ないです。

 ただエンタテイメントな、良い映画なのです。

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