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渡米54〜75日目 「映像と記憶の魔術師」に向き合った6年間

2023年10月15日(日)〜11月5日(日)

この三週間はとにかく忙しすぎてブログを更新する心のゆとりさえなかった。日中はエマーソン大学の大学院プログラムで映画を学び日々押し寄せる大量の課題をこなしながら、夜は東京の制作チームとやり取りをして、10月末に放送予定のあるドキュメンタリー番組の編集の最終段階の仕上げの作業を進めた。それは長年、その晩年を取材させていただいた大林宣彦監督に”遺言”を託された岩井俊二さんに密着した番組で、まさに自分自身のこの6年間の集大成となるドキュメンタリー。岩井さんの最新作「キリエのうた」の制作の舞台裏にも一年半に渡り、密着取材させて頂いた。

ふたりとも「映像の魔術師」であると同時に「記憶の魔術師」とも言える映画作家で、大林監督は幼少期に体験した”戦争”を、岩井さんは故郷を襲った”震災”を、ぞれぞれの表現で伝え切ろうとしていた。私には取材を続いる中で、二人の姿が何度も重なって見える瞬間があった。この6年間の全てに感謝の言葉が見つからないほど、私自身、多くのものを受け取った。

僕自身がその現場にいた唯一のカメラマンであり、ディレクターであり、ジャーナリストであるこの番組では、もちろん一緒に動いてくれる仲間はいるものの、あらゆる最終的な確認作業が一手にのしかかった。一つのミスも許されない、まさに何度も何度も針の穴に糸を通すような慎重な確認作業が続く。東京を発つ前にすでに自分自身のナレーションの収録を含めて9割方の編集作業を終えていたとはいえ、編アップ(ピクチャーロック)、MA、ECSなど、音声と映像を最終的に仕上げる綿密な作業が続いた。

そして迎えた放送日の10月28日。これまでも自らが取材したニュースやドキュメンタリー番組を世に送り出す時はいつもそうだが、今回はいつも以上に期待よりも不安の方が大きく、動悸が止まらない。この番組がどう響くのか、当の岩井さんの目にはどう映るのか。日本時間で28日の23時、ボストンでは朝の10時から放送が始まった。次男をサッカーの試合に送り出した後、僕はリアルタイムで放送を見つめた。

放送終了後、しばらくしてご本人からも感謝と労いのお言葉をいただき、僕は心の底から安堵の声を漏らした。そして番組を見てくれた多くの友人から温かいメッセージを受け取った。ここ数週間の話ではなく、この番組の取材と制作には様々な苦労があったが、その全てが報われた気がした。

その後、緊張の糸が途切れたのか、ようやく体が悲鳴を上げていることに気づいたのか、不覚にも体調を崩してしまった。放送日翌日の日曜日の夜に気管支に異変を感じ始め、翌日にはそれが咳に変わり、それがもう一週間以上続いている。幸い、熱はなくコロナではなさそうだが、この時期にいろんなところで咳をしているのは肩身が狭い。

大学院の監督(Directing)クラスでは、今学期の最後にある映画のワンシーンを監督することになっていて、そのオーディションを済ませたばかり。これからリハーサルなど制作に向けた大切なステップが控えている。

バークリー音楽大学のミュージシャンとも映画音楽の作曲家と出会うワークショップを通じて仲良くなり、よりその絆を深めたいと思い立って、映像音響制作(Foundationクラスの課題として、彼女や彼らのショートドキュメントをシネマカメラで撮影することになった。

脚本(Writing)クラスは相変わらず刺激的で、一本目の脚本の修正を終えて、今、2本目の短編脚本の提出に向けていい意味でクリエイティブに頭を悩ませている。

10月下旬には子供達の学校で、地域を巻き込んだ大規模なパンプキンフェスティバルがあり、様々なハロウィーンパーティーで盛り上がる中、気温はある日真夏のような27度からマイナス1度へと下降した。

先週木曜日に大学院では来年の春学期に向けた履修登録が始まり、僕はライティング・ダーク、シネマトグラフィー、ハイブリッド・ドキュメンタリーの3つのプロダクションクラスを履修することに決めた。来週にはフルブライト奨学生としての経験をプレゼンテーションをしてほしいと大学に依頼されていて、今その準備も進めている。

また11月に入ってようやく眼科の保険も診察に適応できる準備が整い、先週こちらのかかりつけ医となる眼科医を受診し、遺伝子治療研究の第一人者であるMass Eye and Ear病院のEric A. Pierce医師を紹介してもらえることになった。ピアース医師の診察は早くて年明けになりそうだが、世界的な名医の診察を得られることはとてもありがたいことだ。治療法のないこの難病にとって、新たな情報が得られることを願っている。

こうして体調を崩している暇などないほど、沢山の機会や課題があり、今ここにある千載一遇のチャンスをものにして成長したいと心から願っている。今日もこれから子供達を学校に見送り、その足で大学院に向かいます。

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