20240320_ケーススタディ(ベネッセのMBOに係るストラクチャーと公開買付価格の均一性規制)
2023年11月10日にベネッセは、経営陣によるMBOの実施を発表した(「MBOの実施の一環としてのブルーム1株式会社による当社株券等に対する 公開買付けの開始予定に関する意見表明のお知らせ」)。
本件のMBOは日経でも一面を飾ったが、ベネッセ創業家とスウェーデンの投資ファンドであるEQTグループが手を組んで進められており、TOB価格は1株2600円(11月9日の終値に45%超のプレミアム)として2024年2月30日から3月4日までに買付が行われ、無事公開買い付けは成立している。
TOBの成立により、スクイーズアウト等の手続きを経て今後上場廃止となる見通しであり、最終的には、ベネッセHD株式を100%保有するSPCの株式をEQTが6割、創業家が4割保有する形となる予定であり、議決権ベースでは5割づつとする予定である。無事TOBは成立し、決済は3月12日を開始日としているが、総額2079億円に及ぶため、国内のMBOとしては、過去最大規模のものとなった。
(https://www.benesse-hd.co.jp/ja/ir/doc/library/sKgs.pdf#page=5)
今後どのように、主力の通信教育「進研ゼミ」などの立て直しを図るなどが図れるか注目していきたい。
私自身、業界に身を置く立場として、この意見表明を読み眺めてみたが、まずはEQTという大型外資ファンドと仕掛けてきた大型案件という点がまず気にかかった。
EQTは2021年に日本法人を設立し、2023年11月には人事評価クラウドのHRBrainが傘下に入るなど、近年動きが出始めたファンドである。2023年10月には、今後2-3年内に日本で30億ドル(約4480億円)規模のプライベートエクイティー投資を行う方針がニュースで出ていたが、2024年中にも、別のファンド案件が公開される可能性がある。
(https://onecapital.jp/perspectives/eqt)
MBOは近年上場会社で実施するケースがよく見受けられ、上場維持にかかるコストの削減や経営の効率化を目的として行われている。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK303JX0Q4A130C2000000/
意見表明を読んでいて気になったことを2点まとめたい。
1. ストラクチャー
本件ストラクチャーはその金額規模やMBOスキームに伴う既存オーナー関連者の整理のために、非常に複雑なものとなっており、M&A関係者の間で話題を読んでいるという記事があるほどである。
以下、意見表明書に記載があるストラクチャー(9段階)を記載しているが、主には創業家一族及び資産管理管理会社等の元に株式が散らばっているため、その整理が必要になること、また、スクイーズアウト手続きの安定的な遂行のため、貸株が実施されることに伴い、ストラクチャーが複雑となっている。本件は、あくまで対象会社の創業系の持分が分散されていたことに伴い生じた複雑さであったと理解している。
1.本公開買付けの実行前
2.本公開買付け
Bezant(HK)は、本公開買付けの決済の開始日前に公開買付者に対する出資を行い、公開買付者のA種種類株式を引き受ける。
3.本再出資(福武財団)
本公開買付けの決済後、福武財団が、公開買付者に対して、本公開買付けにその所有する当社株式を応募することにより受領する対価の相当額の一部を再出資し、公開買付者のB種種類株式を取得する予定である。なお、このB種類株式の割当について、公開買付価格の均一性規制(法第 27 条の2第3項)の論点が生じるが、この点は、次項で説明する。
4. 本貸株取引
efu Investmentは南方ホールディングに本信託分の株式を貸株するが、これは、株式を南方に集約することによって、公開買付者及び南方以外に多く株式を保有する第三者が存在することによりスクイーズアウト手続きが阻害されないようにするために行われた措置である。
5.スクイーズアウト手続の実施
6.本貸株取引の解消
7.本事前株式譲渡
8.本再出資(efu Investment)
9.本吸収合併
そのほか、税務的な論点なども出来れば深堀りたかったが、意見表明のみではあまり深堀できなかった。
2. 公開買付価格の均一性規制(金融商品取引法第 27 条の2第3項)
本件では、A種類株式とB種類株式について、均一性が担保されているという説明があったが、金融商品取引法上、公開買付けの買付価格については、「均一の条件によらなければならない」と定められている(金融商品取引法 27 条の2第3項)。
これは、公開買付けに応募する株主等は公平・平等に取り扱うことが求められている趣旨で定められている(公開買付け価格の具体的な水準は法令上、特段定められていないが、過去のTOB案件の事例等からどのように均一性を担保するかが判断されることとなると思料する)。
https://www.dir.co.jp/report/research/law-research/securities/12080601securities.pdf
本件で、均一性が担保されている根拠の説明は、以下の通りであり、2点明記されていた。丸くまとめると、各取引ごとによって、株主平等原則が担保される買付価格の設定が必要になるということであり、買付者は応募契約を締結する応募株主との間においてのみ、他の対象会社の株主と比較して有利な条件で買付を行うことなどはできないこととなっている。
ただし、以下のような事例の場合(表明保証条項の設定、公開買付実施義務違反による損害賠償)には、あくまで公開買い付けの手続き外の理由によって株主がより多く金銭を得る可能性が生じうるということであるため、均一性の原則に反しないということを、留意されたい。
応募契約において買付者に係る表明保証条項を設けた場合、応募株主は、その違反を理由とする損害賠償請求権(表明保証違反による損害賠償請求権)を、買付者に対して有する可能性があり、その結果、応募契約を締結する応募株主が一般の株主よりも金銭を多く得る可能性があります。もっとも、 応募契約の表明保証条項は、あくまで公開買付けの手続外での買付者及び応募株主の間の合意によ る補償義務であり買付価格の増額ではないため、買付価格の均一性の問題は生じないと解することも可能であると考えられます。
応募契約において買付者の公開買付けの実施義務(一定の条件が整えば公開買付けの実施が義務付けられる条項)を設けた場合、応募株主は、その違反を理由とする損害賠償請求権を、買付者に対して有する可能性があります。たとえば、買付者がそもそも公開買付けを開始しない場合や、合意した 価格よりも低い公開買付価格で公開買付けを開始した場合がこれに該当する可能性がありますが、これについても、あくまで公開買付けの手続外での買付者及び応募株主の間の合意による補償義務であり買付価格の増額ではないと解することも可能であるため(そもそも、買付者が公開買付けを開始しなか った場合には、公開買付けにおける買付価格の均一性の問題ではないとの整理も可能です。)、実務上、買付価格の均一性の問題とは考えられておりません。
参照先:https://www.amt-law.com/asset/pdf/bulletins1_pdf/200804.pdf
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