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【実践AIガバナンス(2024/5/12)】ケース検討「Case02. 人材採用AI」①パーパスアセスメント

シン・リスクチェーンモデルを用いたケース検討シリーズです。
今回のケースは、AI事業者ガイドラインでもケース検討事例として用いられている「人材採用AI」を対象として、デジタルMATSUMOTOと一緒にパーパスアセスメントを行います。

シン・リスクチェーンモデルのアプローチはこちらの記事をご覧ください。

ちなみにこのケースは東大未来ビジョン研究センターでも従来のリスクチェーンモデルで検討を行っていました。
以下の「Case01.採用AI」になりますが、こちらも参考にしながら検討を進めてみようと思います。

AI事業者ガイドラインでは「別添8」が該当しています。https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/ai_shakai_jisso/20240419_report.html

Step1.ケース情報の整理

前回と同じくケースに関わる情報を簡単に整理します。

・A社グループのグローバル各社における人材採用部門が、応募者からのエントリーシートに対して、合否を判断するAIサービスである。
・A社AI開発部門は、ビジネス利用者である各社の人材採用部門より過去のエントリーシートデータと合否判定(内定の判定)結果を受領し、機械学習(分類モデル)で合否を判定する学習モデルを作成している。
・書類選考で合格と判断した中で、面接を経て内定を出した割合で評価し、70%を期待値として設定している。
・各社の人材採用担当者は、申込者(新卒・中途両方)のエントリーシート(電子ファイル)をAIモデルに読込むことで、自身のPC上(ブラウザ上)AIの判断結果(合否判断)を確かめる。
・出力画面には合否判断のみではなく、エントリーシートにおいて判断に影響したキーワードがハイライトされる。
・各社の人材採用担当者はAIの判断を参考情報としながら、合否の判断を行い、部門長の承認を得て、申込者に合否の通知を行う。
・蓄積された本番データは採用・不採用の判定結果が入力されたタイミングで適宜学習データとして追加され、日次で学習モデルを更新する。
・自動的な学習プロセスでクロスバリデーションによるテストの結果、正解率が70%を下回る場合には本番環境のAIモデルを自動更新しない。
・AIモデルは過去1年分のバージョンを保存している。

ケースの概要説明

Step2. AIサービスに関わるステークホルダーの識別

以下のプロンプトテンプレートで、デジタルMATSUMOTOに「重要なステークホルダー」を識別してもらいます。(ChatGPTやClaudeでも同じようにできますので、良ければ試してみてください)。

以下のAIサービスについて、重要なステークホルダーを水平思考を用いて網羅的に認識してください。
===
【AIサービスの内容】
※※ここにケースの概要説明を記載※※

デジタルMATSUMOTOへの入力プロンプト

今回は以下のステークホルダーが識別されました。
(✅リアル松本から追加を指示)に記載されたステークホルダーは会話セッションの中で追加してもらいました。

1. 応募者(新卒・中途両方):
AIサービスによる合否判定の対象となる、最も直接的に影響を受けるグループです。
2. 人材採用担当者:
各社における人材採用を担当する者で、AIの判断結果を基に最終的な合否判断を行います。
3. 部門長:
各社の人材採用担当者が行った合否判断の承認者であり、採用プロセスの最終責任者です。
4. A社AI開発部門:
AIサービスの開発と運用を担っており、学習モデルの作成、更新、評価を行います。
5. 人材エージェント:(✅リアル松本から追加を指示)
応募者とA社グループの間に立ち、適切なマッチングを促進します。採用プロセスの一環として重要な役割を果たすことがあります。
6. 学校の就職担当者:(✅リアル松本から追加を指示)
学生の就職活動をサポートし、A社グループとの連携を通じて学生に適切な就職情報を提供します。
7. AI社グループの経営陣:
A社グループ全体の経営戦略を担い、人材戦略やAIサービスの導入に関する最終的な決定を行います。
8. 法務・コンプライアンス部門:
AIサービスの運用が法令や倫理規範に適合しているかを監視し、リスク管理を行います。
9. IT部門:
AIサービスの技術的な支援や運用のサポートを行い、システムの安定稼働を保証します。
10. 現在の従業員:
新たに採用される人材と将来的に働くことになるため、採用プロセスの質や結果に直接的な関心を持ちます。
11. 労働組合/労働者代表:
従業員の権利と利益を代表し、AIサービスの導入が労働環境に与える影響について発言します。
12. 厚生労働省:
雇用に関する法規制を設け、AIの利用が法令に沿って行われているかを監督します。

デジタルMATSUMOTOの回答

思考方法プロンプトは以下を参考にしています(このnoteではおなじみになってきましたが、多くの方が有用なプロンプト例を発信してくれていますね)。

Step3. 各ステークホルダーがAIサービスに対して抱くパーパスの定義

ステークホルダーを識別したので、今度は各ステークホルダーがAIサービスに対して期待するパーパスを定義します。
こちらもおなじみになりましたパーパスモデルを用います。

以下のプロンプトテンプレートでステークホルダー毎の「獲得したいパーパス」と「保護したいパーパス」を識別します。

以下の各ステークホルダーがこのAIサービスに抱く「獲得したいパーパス」「保護したいパーパス」を簡潔に検討してください。
クリティカルシンキングを用いて各ステークホルダーが抱える本質的な課題を踏まえて検討してください。
===
【ステークホルダー】
応募者、人材採用担当者、部門長、A社AI開発部門、人材エージェント、学校の就職担当者、経営陣、法務・コンプライアンス部門、IT部門、現在の従業員、労働組合、厚生労働省

デジタルMATSUMOTOへの入力プロンプト

ちなみにクリティカルシンキングを用いて「本質的な課題」を踏まえてもらうと明確なパーパスを検討してくれると感じています。
※ちなみに【ステークホルダー】は、明記してあげた方が確実です(数が多いと勝手に省略されてしまうことも多くなります・・・)。

以下のような出力結果が得られました。
オリジナルのパーパスモデルを少し変形していまして、パーパスを以下の2種類に分けて検討しています。
・獲得したいパーパス:AIサービスを使って新たに手に入れたい
・保護したいパーパス:現在持っており、失いたくない

応募者:
・獲得したいパーパス:自分に合った、または希望する職種での採用機会
・保護したいパーパス:個人情報の保護と公正な評価

人材採用担当者:
・獲得したいパーパス:効率的かつ効果的に最適な候補者を見つけること
・保護したいパーパス:採用プロセスの公平性と合法性

部門長:
・獲得したいパーパス:部門のニーズに適合する高いスキルを持った人材の確保
・保護したいパーパス:部門の業務秘密とチームの調和

A社AI開発部門:
・獲得したいパーパス:AI技術の革新とその効果的な応用
・保護したいパーパス:知的財産権と技術的な先導性

人材エージェント:
・獲得したいパーパス:求職者と企業の間で成功したマッチングによる収益
・保護したいパーパス:クライアント(企業・求職者)からの信頼と市場での競争力

学校の就職担当者:
獲得したいパーパス:学生が希望する職種への高い就職率
・保護したいパーパス:学生の個人情報の保護と学校の評判

経営陣:
獲得したいパーパス:企業成長に寄与する人材の獲得と技術革新を通じた競争力の強化
・保護したいパーパス:企業のブランドイメージと法的リスクからの保護

法務・コンプライアンス部門:
・獲得したいパーパス:企業活動の合法性と倫理規範の維持
・保護したいパーパス:企業のコンプライアンスリスクの最小化

IT部門:
・獲得したいパーパス:最先端の技術導入による企業の情報システムの効率化とセキュリティの強化
・保護したいパーパス:情報セキュリティとデータの完全性

現在の従業員:
獲得したいパーパス:職場環境の改善とキャリアアップの機会
・保護したいパーパス:雇用の安定と労働条件

労働組合:
獲得したいパーパス:従業員の権利と福利厚生の向上
・保護したいパーパス:不当な労働慣行からの従業員の保護

厚生労働省:
・獲得したいパーパス:雇用の質と量の向上を通じた社会の安定
・保護したいパーパス:労働市場の公正な運営と労働者の権利の保護

デジタルMATSUMOTOの回答

今回リアル松本からの修正はありませんでした。
一覧にすると、以下のようになります。

各ステークホルダーのパーパス一覧

パーパスモデルで可視化

ここまでの整理をパーパスモデルツールキットで可視化してみます。

以下のようなモデルになりました。
本来内側から「目的」「役割」「ステークホルダー」で整理していくのが共創プロジェクトにおけるパーパスモデルの正しい使い方なのですが、
このシン・リスクチェーンモデルでは「獲得したいパーパス」「保護したいパーパス」「ステークホルダー名」としています。

パーパスモデルの出力

この時点でも、ステークホルダーによってAIサービスに対する期待や目的が異なるということがある程度認識できるかもしれませんが、デジタルMATSUMOTOにパーパス間の「協調(Harmony)」関係と「対立(Conflict)」関係を分析してもらいます。

パーパス間の「協調(Harmony)」関係

以下に検討されたパーパスの中から協調(Harmony)する関係を持ったパーパスを検討し、「ステークホルダーとパーパス」の組合せを表示してください。
===
※※ここに各ステークホルダーのパーパス一覧をスプレッドシートから貼りつけ(テキストの羅列で大丈夫です)※※

デジタルMATSUMOTOへの入力プロンプト

以下のような結果が出ました。

1. ステークホルダー:応募者 / 人材採用担当者
獲得したいパーパス:自分に合った、または希望する職種での採用機会 / 効率的かつ効果的に最適な候補者を見つけること
・保護したいパーパス:個人情報の保護と公正な評価 / 採用プロセスの公平性と合法性

2. ステークホルダー:部門長 / A社AI開発部門
獲得したいパーパス:部門のニーズに適合する高いスキルを持った人材の確保 / AI技術の革新とその効果的な応用
・保護したいパーパス:部門の業務秘密とチームの調和 / 知的財産権と技術的な先導性

3. ステークホルダー:学校の就職担当者 / 人材エージェント
・獲得したいパーパス:学生が希望する職種への高い就職率 / 求職者と企業の間で成功したマッチングによる収益
・保護したいパーパス:学生の個人情報の保護と学校の評判 / クライアント(企業・求職者)からの信頼と市場での競争力

デジタルMATSUMOTOの出力

このケースでは「獲得したいパーパス」同士が協調関係を築いていますが、ケースによっては「保護したいパーパス」同士もしくは「獲得したいパーパス」と「保護したいパーパス」の協調関係が識別されることもあります。

パーパス間の「対立(Conflict)」関係

以下に検討されたパーパスの中から対立(Conflict)する関係を持ったパーパスを検討し、「ステークホルダーとパーパス」の組合せを表示してください。
===
※※ここに各ステークホルダーのパーパス一覧をスプレッドシートから貼りつけ(テキストの羅列で大丈夫です)※※

デジタルMATSUMOTOへの入力プロンプト

以下のような結果が出ました。

1. ステークホルダー:応募者と人材採用担当者
応募者は「個人情報の保護と公正な評価」を保護したいが、人材採用担当者は「効率的かつ効果的に最適な候補者を見つけること」を獲得したいパーパスとしている。この組み合わせでは、効率性と個人情報の保護・公正性の間に対立が生じる可能性があります。

2. ステークホルダー:部門長と現在の従業員
部門長は「部門のニーズに適合する高いスキルを持った人材の確保」を獲得したいが、現在の従業員は「雇用の安定と労働条件」を保護したいパーパスとしています。新たな人材の確保と現在の従業員の安定や労働条件の維持の間で対立が生じる可能性があります。

3. ステークホルダー:経営陣と法務・コンプライアンス部門
経営陣は「企業成長に寄与する人材の獲得と技術革新を通じた競争力の強化」を獲得したいパーパスとしていますが、法務・コンプライアンス部門は「企業のコンプライアンスリスクの最小化」を保護したいパーパスとしています。ここでは、企業の成長と競争力の強化とコンプライアンスリスクの最小化の間でバランスを取る必要があり、対立する可能性があります。

デジタルMATSUMOTOの回答

エンドユーザーが、入力に伴うプライバシーやデータの安全性、及び出力される情報の正確性を気にするため、開発者・データプロバイダの目的と対立する可能性があるとのことです。
またリアル松本同士なのですが、「サービスを宣伝したいという欲求」「自身の信頼を維持したいという願い」が自己の中で対立するという点も面白い分析かなと思います。

パーパスの整理

ステークホルダー毎に識別したパーパスは重複している部分もありますので、以下のようにAIサービスに関わるパーパスを整理しています。

以下に検討されたパーパスを、漏れなくダブりのない5つ程度のパーパスに整理して、「パーパス名」「パーパスの内容」「該当ステークホルダー」で簡潔に記載してください。
===
※※ここに各ステークホルダーのパーパス一覧をスプレッドシートから貼りつけ(テキストの羅列で大丈夫です)※※

デジタルMATSUMOTOへの入力プロンプト

以下のような結果が出ました。

1. パーパス名: 最適な人材のマッチングと採用
パーパスの内容: 応募者にとって最適な職種での採用機会の提供と、企業にとって最適な候補者の効率的かつ効果的な探索。
該当ステークホルダー: 応募者、人材採用担当者、部門長、人材エージェント、学校の就職担当者、A社AI開発部門、AI社グループの経営陣

2. パーパス名: 個人情報とプライバシーの保護
パーパスの内容: 個人情報の保護と公正な評価、情報セキュリティとデータの完全性の確保。
該当ステークホルダー: 応募者、学校の就職担当者、IT部門

3. パーパス名: 企業のコンプライアンスと倫理規範の維持
パーパスの内容: 企業活動の合法性と倫理規範の維持、企業のコンプライアンスリスクの最小化。
該当ステークホルダー: 法務・コンプライアンス部門、A社AI開発部門

4. パーパス名: 職場環境の改善と従業員の権利の保護
パーパスの内容: 職場環境の改善、キャリアアップの機会、従業員の権利と福利厚生の向上、不当な労働慣行からの保護。
該当ステークホルダー: 現在の従業員、労働組合

5. パーパス名: 社会と労働市場の発展
パーパスの内容: 雇用の質と量の向上を通じた社会の安定、労働市場の公正な運営と労働者の権利の保護。
該当ステークホルダー: 厚生労働省

デジタルMATSUMOTOの回答

最終的に整理したパーパスは以下になります。

AIサービスのパーパスアセスメント結果

ちなみに従来のリスクチェーンモデルの検討(人間での検討)では、以下の4つがパーパス(旧:実現すべき価値・目的)として識別されていました。https://ifi.u-tokyo.ac.jp/wp/wp-content/uploads/2022/10/RCModel_Case01_Recruitment-AI_JP.pdf

① 人材採用レベルの維持・向上 → P001
② 採用活動に係るコストの削減 → P001
③ 海外グループを含めたサービス提供 → P001
④ 企業の社会的責任(公平性のある採用活動) → P002/P003

従来のリスクチェーンモデルでの検討

今まではパーパスモデルを活用していなかったので、P004やP005は認識すべきステークホルダーを広げることで、広範なパーパスが検討できているようです。
①②③はP001に集約された感じ。ビジネスリスク以外の部分が強く出ているのかもしれないですね。

次のフェーズはリスクアセスメントになります。

デジタルMATSUMOTOに搭載したDALLE-3のAPIで作成しました


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