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長年追い求めていたアイツがニューネームを引っ提げて私の前に現れた!

 ……子供の頃、大好きな食べ物があった。

 それは、どこにでもありふれているものではなかった。
 お祭りの時に、たまにボチボチ、姿を現していた。
 和風の平仮名の出店が並ぶ中、やけに陽気にアメリカンな風貌で君臨していた。

 油っぽいベタベタした空気の中にほんのり混じる、香ばしい匂い。
 オレンジ色の三角袋にこんもり盛られた、揚げたてのあっちんちん。
 少々太めの、ほくほくしたスティック状の、カリッとしてるくせに柔らかい、ちょっとしょっぱいやつ。

 マッシュポテト生地を穴の開いた容器から絞り出して細長く成型したのち、煮えたぎる油の中に落としてからりと揚げたスナック……、
ラスポテトである!!!

 普通のポテトもおいしいけれど、私はこのラスポテトというものが大好きだった。

 ポテトのもとを機械に入れてレバーをグイっと引き下ろすと、面白いようにニュルニュルと白いポテトが出てきて…それがたまらなく魅力的だったのだ。
 押し出されたポテトを適度な長さにカットする時にガッチャンガッチャンと派手な音がして、ぼっちゃんぼっちゃんと茶色い油の中に落っこちてゆく…、それが実に豪快で軽快で、一回でいいから作ってみたいなあといつも思っていたのだ。
 ガッチャンガッチャンで切り刻むのもいいけど、いつかにゅる~っとなが~いやつを作ってはくれないか、そんな祈りを込めては、ぶくぶく泡立つ油鍋を見つめていたのだ。

 普通のポテトと違って、やけに早く揚がるのもお気に入りだった。
 いつも人気ですぐになくなっちゃうんだけど、ちょっと待ってたら次のがさぱっと出てくるのだ。

 出来上がるのを見てるのがまた面白いのなんの、揚がったものを網お玉ですくってバットの上にあけ、塩を振ってざっしゅざっしゅと混ぜるのも芸術的だった。とにかく最初から最後までずっと面白くて楽しくて、購入した後も食べながら見学するレベルだったのだ。

 花まつりに海開きに盆踊りに山車祭りに年末年始…、出店が並ぶ時期になると、いつだっていの一番にラスポテトを探して回ったものだ。

 ところが、いつからか、とんとラスポテトの屋台を見なくなってしまった。

 普通のポテトやじゃがバターなんかがどんどん勢力を伸ばし、いつの間にかあの美味くてたまらない粉ポテトのフライは人気メニューの大舞台の枠の中から押しやられてしまったのである!

 ああ、なんとしてもあの美味いポテトが食べたい。
 一体あのポテトは、どこに消えてしまったというのだ。

 ……ラスポテトを求めて、望んで、夢見て、ずいぶん長い時間が過ぎた。

 私の中にあるラスポテト愛がすっかり落ち着いてしまった頃の事だ。

 スーパーでたまたま見つけた、アンパンマンポテトなる冷凍食品と出会った。
 キャラクターの顔を模した、やけにかわいいフォルムのおかずである。娘の保育園の遠足のお弁当に入れたら喜ぶかなと、見た目だけで購入を決めた。

 ……オーブントースターでこんがりと焼き、お弁当箱に入りきらなかった分を何の気なしに口に放り込んだ、その、瞬間。

 ジャガイモ独特の、食欲を掻き立てるにおい!!
 カリッとした表面にもっちりした中身!!
 香ばしさと柔らかさの絶妙なミックス!!

「うん?!こ、これは……ら、ラスポテトだ!!!!」

 私が長年追い求めていたものが、確かに今、口の中で…もぐ、もぐもぐモグモグ!!!

 美味い、うまいぞ、ウマすぎる――――――――――!!!

 実に四半世紀ぶりに、私は恋焦がれた食べ物っぽいものに再会することができたのである!!!

 スーパーの冷凍食品半額デーには必ずアンパンマンポテトを購入するくらい、ハマった。
 食欲にフルブーストでコミットするポテトの香り、愉快な表情でテンションをあげてくれるデザイン、おやつにしてよし、つまみにしてよし、主食にしてよし、腹いっぱい食べてよし!!!

 ……豊かなラスポテトライフを過ごして、ずいぶん時間がたったある日のことだ。

 大きな公園で開かれていた美味いもんフェアの会場を巡っていたら、タピオカ屋に向かっていた娘が歩みを止めた。

「ねえねえ、なんか変なの売ってる!!!もっちりポテトだって!!長っ!!ちょっとキモい!!」
「ずいぶんおもしろい」

 娘と息子の声を聞き、指さす方に目を向けてみると……。

「うん?!ちょ…これ、ラスポテトじゃん!!!長っ!!!うわあ、昔食べたくてたまらなかったやつだ!!!そう、こうやって長ーく伸ばして、ずーっとパクパク食べ続けたかったんだよ!!うっひょ―!!!なになに、プレーンにチーズ、チリソースに明太マヨ、のり塩、チョコなんてのもある!!!ちょ、いろいろ買ったろ!!!」

 幼い頃に叶わなかった、長い、長すぎるラスポテトを食べるという夢。
 それがまさか叶う日がやってこようとは!!

 ただの塩味しか売ってなくて、それでもめちゃめちゃうまかったのに、豊かなフレーバーで再登場だと?!こんなん絶対うまいヤツやんけ!!!

 大喜びで2000円分買い込んで、揚げたてのあっちんちんのちんちこちんのクンクンのサクサクのホクホクのモグモグのむにゅむにゅのやつをガッツガッツと食べ、食べ、食べ、食べ……!

 美味い、たしかに、ウマイ。
 ウマイ、たしかに、美味くてたまらない。

 だがしかし、あれだ。
 うん、なんだ。

 わりと、かなり、飽きるというか。
 なんか、けっこう、重たいというか。

 おかしいな、あんなに子供の頃大量に食べたいと願ったはずなのに、三角袋なんかじゃ全然足りないってひもじい思いをしたのに、身長だって40センチも伸びて容量が増えたはずなのに、体重だって2倍になって消費エネルギー量も倍増して枯渇リスクがあがったはずなのに、なんで、なんでこれしきのラスポテトが食べ切れない?!ぐぬぬ、これが衰えというやつなのか……。

 うん、正直…目測を、あやまった………。

 完全に手が止まってしまった私は、ぬとぬとの口の中と食道を洗い流すべく烏龍茶を一口、二口飲んで、小休憩にはいることにしたのだが。

 そこに、ほこほこしたでっかいじゃがバターと山盛り焼きそば、ハニーチーズナンにげんこつたこ焼き、人形焼にたい焼き、あとよくわかんないまんじゅう?を抱えた旦那がのっしのっしとやってきてですね?!

「うわ!!なんかそれ、昔見たことある!!てゆっか買いすぎじゃん!!食べ切れるの?!じゃがバタ欲しいっていうから一番デカいの貰ってきたのに!!お母さんはたまにこういう大暴走するからさあ…」
「あたしもういいや、ワッフルスティックも五平餅も牛串もチョコバナナも食べたいし!!チーズが一番おいしかったけど、甘いものの方がいいってわかった!チーズナンもーらい!!」
「焼きそばもらっていい?」

 家族がいろんな美味しいものをおおはしゃぎでバクバク食べている横でですね。

 一人で黙々と、温度が下がってフィーバー熱まで冷え切ったポテトを喰む、やらかしがちな人がですね。

 いたんですよって、お話です……。

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