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きらわれもの

「うわ…これマズいんだよね、すてちゃお!!」

「…そう?おいしくはないけど、食べられるよ?」

「こんなマズいもん食べるの?キモっ!!」
「あたしはおいしいモノしか食べたくないの!」
「まずい食べ物なんて大っ嫌い!」
「まずいものが存在しているのが間違ってる!」

「食べものってホントバカ、美味しく生まれて来いっての!」

 食べ物を投げ捨てている子の前に、神様が現れたよ!

「これ、この食べ物を捨てたのは誰ですか」
「この食べ物を、食べられなくしたのは誰ですか」

 食べ物を投げ捨てている子が、逃げ出したよ!

「この食べ物を食べられなくした人、出てきなさい」
「この食べ物から、食べられる役目を奪った人、出てきなさい」

 食べ物を投げ捨てた子が、神様の前につまみ出されたよ!

「あたしは知らない、この子が捨てたの!!」

「ウソをつくのはいけませんね」
「人に罪を擦り付けてはいけませんね」
「悪いことをしているという自覚はあるのですね」

 食べ物を投げ捨てた子が、神様を睨み付けたよ!

「この食べ物がまずいのがいけないんじゃない!」
「この食べ物が悪いんじゃない!」
「この食べ物だけじゃなくて食べ物すべてが悪いのよ!」
「この食べ物以外も全部同じ味だったらよかったのよ!」

「あなたは悪くないというのですか」

「あたしは悪くない!食べ物が悪い!!」
「あたしはかわいそう!食べ物のせいで怒られて!!」
「あたしは食べものなんて大っ嫌い!!」

 食べ物を投げ捨てた子は、神様に訴えたよ!

「あなたは食べものが嫌いなのですね」

 食べ物を投げ捨てた子に、神様は理解を示したよ!

「食べ物に、あなたの気持ちを伝えましたよ」
「食べ物は、あなたの事が嫌いだそうですよ」
「食べ物が、あなたと関わりたくないそうですよ」

 食べ物を投げ捨てた子は、食べ物に嫌われたよ!

 食べ物に嫌われた子は、痩せ始めたよ!
 食べ物に嫌われた子は、何を食べても太らなくなったよ!

 食べ物に嫌われた子は、食べ物に見放されたんだよ!

 食べものは、食べ物が嫌いな子に、食べ物の栄養を与えなくなったんだよ!
 食べものは、食べ物が嫌いな子に、栄養として吸収されるのを拒んだんだよ!

「食べてやってるのに!!」
「おいしいって言ってやってるのに!!」
「食べ物のくせに、食われてなんぼのくせに!!」

 食べ物は、栄養が吸収されて食べ物が嫌いな子の身体になることを拒否したんだよ!!

 やがて食べ物が嫌いな子は干からびた肉片となったんだよ!!

 食べ物に嫌われている食べ物が嫌いだった子は、食べ物の仲間になれなかったんだよ!!
 食べ物に嫌われている食べ物が嫌いだった子は、食べ物の仲間にしてもらえなかったんだよ!!
 食べ物に嫌われている食べ物が嫌いだった子は、人間にも嫌われていたんだよ!!

 人間に嫌われていた子は、海に放り投げられたんだよ!!

 人間に嫌われていた子は海の中で浮いたり沈んだりしていたけれど、どの魚も食べようとしなかったんだよ!!

 魚に嫌われていた子は、小さな島に打ち上げられたよ!!

 砂浜の上で、いつまでたってもカニが寄り付かなかったんだよ!
 砂浜の上で、いつまでたってもヤドカリが寄り付かなかったんだよ!
 砂浜の上で、いつまでたっても虫が寄り付かなかったんだよ!
 砂浜の上で、いつまでたっても微生物が寄り付かなかったんだよ!!

 砂浜の上で波をかぶり続ける得体のしれないものを、誰も食べようとしなかったんだよ!!

 今もどこかで、得体のしれないものが転がっているんだよ!!

「食べ物はおいしくいただきましょうね」
「食べ物に感謝をしましょうね」
「食べ物を大切にしましょうね」

 神様は、みんなに優しく声をかけながら、食べ物を差し出したんだよ!!

「ありがとう!!」
「おいしい!!」
「わおーん!!」
「がお、がおー!!」
「バリ、バリっ!!」
「ぷぅ~ん……」
「じゅわ、じゅわ…びちゅっ……」

 みんな仲良く、食物連鎖の輪の中に混じっていったんだよ!!

 嫌われものだけが、今もまだ、ひとりでぽつんと取り残されているんだよ!!

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