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500円玉貯金

気が向いたので、500円玉貯金を始めた。

千円札で買い物をして、なるべく500円玉を手に入れるような小銭の出し方をして。

やり始めると、結構楽しいもんだ。

そろそろずいぶん、たまってる頃なんじゃあるまいか。

そう思って、貯めてる貯金箱を開けてみた。


…おや、案外少ないぞ。どうしたことだ。


もしや誰かが持っていってるんじゃあるまいか。

許可なく人のものを持っていくのはよろしくないな。


…よし。


私は貯金箱の中に紙を入れた。

――許可なく持っていくことを禁止します――



三日後、私のもとによくわからないものがやってきた。


「許可をもらいに来ました。」

「あんた誰。」


これははたして人?いや妖怪、おばけ、ええと…。


「誰というより、存在ですかね。もらえませんかね。」

「あんた人のもの勝手に持ってってたのかい。」


表情が無いからいまいち読めないな、いきなり食われたら困るけど、うーん。


「使ってないから、使ってもいいと思ってました、ごめんなさい。」

「まあ使ってなかったことは事実だけどさ、貯めたかったっていうか…。」


そうだな、貯めるっていう事は、使わないってことだもんね。

使わないものなら、使いたい人が使った方がいいって思うかも。


「使ったら、なくなる、使わないと、なくならない、だったら使った方がいいんじゃないんですか。」

「使ったら、使いたいときに使える分が無いから困っちゃうんだよ。」


そうか、使わないと意味がないと思う感じなんだね、ふうむ。


「それはお金って言ってね、貯めておかないとなくなっちゃうものなんだよね。」

「こんなにあるのに、使いたいときに使えなくなることがあるんですね。」


よくわからないものは、なんだか感心してるみたいだ。


「もらったら、だめですか?」

「なんでほしいの。」


お菓子でも買うのかな。


「これがあると、美味しいものが食べられます。」

「うーん、あげたいけど、それを手に入れるためにね、私も働いててね、うーん、どうしようかな。」


あげることはできる、しかし甘やかしてしまうのもな。ただ、なければないで、多分欲しがりはしないな、この存在は。あるから使ってもいい、そういう認識だからね。


「なにかと交換しますか?」

「別に欲しいものはないんだけどね、ううむ、困ったな。」


おかしなものを交換品として持ってこられても困っちゃうからなあ。魂とか浮遊霊とか…福とか幸運とかならまだしも、厄災とか持ってこられたらどうすんだ…。


「牛丼が買いたいです、ダメですか。」

「そうだね、じゃあ、勝手に持っていくのやはめにして、毎回ねだりにおいでよ。そしたらあげるから。」


私は500円をおかしな存在に手渡した。


「牛丼一杯なら買えるからね。お釣りをもらうから、ちゃんとためておきなね?…そういや、お釣り、もらわなかったの?」

「ありがとう!おつり…いろんなお金ですね、アレは神様の箱に入れておきました。ダメでしたか。」


神様の箱?…ああ、賽銭箱かな。


「入れてもいいけど、貯めといたらまた何か買えるよ。あと、神様の箱に入れるときは、神様に挨拶しといたほうがいいかも。」

「わかりました。」


おかしな存在はお辞儀をして消えていった。

礼儀正しいな、あれはいったい何なんだ。



「こんにちは。この前はありがとう。おいしい牛丼が食べられました。」

「それはよかった。今日は何、またもらいにきたの。」


あれ、なんかこの前よりもこう、人っぽくなってるというか。


「もらってもいいですか、今日は牛のお乳が飲みたいです。」

「ああ、牛乳ね、あ、でもうちに牛乳ならあるけど、飲む?」


人っぽい影はなんだか少し戸惑ってるみたいだ。


「いいんですか。」

「うん、ちょっと待ってなよ、持ってくるから。」


コップに牛乳を入れて差し出すと、人っぽい影はぐびぐびと飲み干した。


「ご馳走様でした、ありがとう。」

「いえいえ。」


人っぽい影はお辞儀をして消えていった。

相変わらず礼儀正しいな、結局あれはいったい何なんだ。



「こんにちは、この前はありがとう。ようやく神になれました。」

「ハア?!ってゆっかあんた誰!!!」


なんかえらく神々しい兄ちゃんが二人やってきたぞ?!


「やあやあ、どうも、お世話になりましたね。ええと、この子が使ったお金、返しますね。」


なんだこの絶世のイケメンは!!…むむ、結構お金返ってきたな。こんなに持ってってたのかい!!!


「神の卵がご迷惑をおかけしたみたいで。この子は無事普通の神になりました、あなたのおかげです。」

「あたしゃ何もしてないよ!」


ちょっと待て、おかしなことになってきたぞ…。


「いえいえ!この子ははじめ、貧乏神になるところだったんですよ。ところが、貴方がまるで欲を見せずにお金を出してくれたもんですから。」


なにー!貧乏神だと?!


「僕一番はじめについた人、おじさんだったんですけど、お金をね、持って来いって言うから。500円玉を見せられて、同じもん持って来いって。それで、ここから持ち出して、おじさんと一緒においしいもの食べて。でも、おじさんは足りない足りないって言い出して。でも、僕は貴方からお金を貯めること聞いたから、渡すだけじゃだめだって思って。牛乳もらって、僕わかったんです、お金なくても、牛乳のめるんだって。それで、僕はお金の執着を手放したんです。」


なんだそれは。牛乳あげなかったらやばかったやつなのか。


「このところ八百万の神が減少傾向かつ悪神増加傾向でねえ。めっちゃ助かりましたよ。あ、ちなみに僕は追い風の神です、はい。」

「僕はとりあえず、神不在の社に入ることになりました、神社に行くことになります!」

「よ、よかったね。たくさんの人の願い、叶えてあげてね、ガンバ…。」


私の顔は引きつっているに違いない。なんだこのトンでも展開は。


「いやあ、神の箱に賽銭入れた神の卵なんて初めてですよ。本来あの箱には経験を入れるんです。実は神につながっててね、あれ。経験を見て、神はふさわしい担当をさりげなく勧めるんですけど、賽銭入れられて神様呼ばれちゃったら、行かないわけにいかなくなっちゃって。貴方の入れ知恵だったそうですね、おかげで僕が関わる事ができてね、ホントいい風が吹いてねえ。」

「追い風先輩にお世話してもらって、僕神様になれたんです。本当にあなたには頭が上がりません、ありがとうございました!!!」


ひいー!!めっちゃいい顔で頭下げてる!!やーめーてー!!!


「ちょ!!頭上げて!!神様が普通の人に頭下げちゃダメじゃん!!!」

「あ、貴方よかったら神になりません?なれますなれます、僕推薦しますから!」


そんなに簡単に神になれるんかい!ヌル過ぎだろうがっ!神システム!!どこのチートだよ!!!


「なりません!早く自分の神社行って下さい!!!」


あたしは普通に人生終えたいんだってば!!ただでさえこう、おかしなことに巻き込まれがちなんだからさあ…勘弁してー!


「ははは!じゃあまたいずれ!」

「ありがとうございました!!」


騒がしい神様は帰っていった。

…正直げっそりだよ!!!

あいつ絶対私が死んだらスカウトに来るぞ…心しておかないとダメなやつだ!!!

返してもらった五百円玉もなんかこう、きらきらしてるし。

これでロトとか買ったら一等とかすんなり当たりそうで怖いよ!!!


こんなん、使えるかー!!!

私は返ってきた五百円玉を貯金箱に入れて、押入れにしまいこんだ。



後日、娘と近所を散歩していると。


「こんなところに新しい神社できてる!!」


うちからそんな遠くない距離に、新しい神社ができてたけど…これって、まさか…。


「この神社新しいけど、何のご利益あるんだろうね。」


娘がニコニコしているのだけれども。


「新しい神社で、新しい神様が張り切ってるはずだから、何でも叶えようとがんばってくれると思うよ…。」

「ええー、じゃあ、ちょっと寄って行こうよー!あたし今度の漢検自信ないんだ!!!」

「神頼みすんな!!じっくり勉強したら受かる奴じゃん!!!」


手を洗って、社の前に行って、一通りの作法をして、手を合わせる。


――がんばってください。

私は神様にエールを送って、一礼して神社を去った。


――願い!!願い事はー?!


…なんか聞こえたような気もするけど。


お忙しい新人神様の邪魔はするまい。

がんばれ、がんばれ。

ごく普通の一般人は、心より神様のご活躍をお祈りしております。


私が普段使っている五百円玉貯金はこれです。

ちなみにいっぱいになったので、こちらも併用。

真面目な話をすると、いっぱいになった500円玉貯金はいずれもかなりの重量があって、いざという時の殴打の武器として使用できそうです。

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