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知らなかった、風景


 長く使っていた、座卓タイプのパソコンデスクを買い替える事にした。

 弟が使っていたものをもらい受け、自分が使うようになって…かれこれ三年。

 もともとかなり年季のはいったものだったこともあり、スライダーはぎこちなく稼働し、デスク面が湾曲している。

 使おうと思えばまだ使えるのだが、このところ胡坐をかいてパソコン作業をしていると股関節のあたりが痛むようになってきたので、思い切ってチェアタイプのデスクを買う事に決めたのである。

 デスクとチェアを組み立て、パソコンや周辺機器を設置した。

 年末にはまだ少し時間があるが、大掃除も兼ねて部屋の模様替えも行った。
 朝一から始めて、午後のおやつの時間になる頃にすべての作業が完了した。

 ほこりのない、掃除の行き届いた部屋にテンションが上がる。

 気分が高揚したまま、しゃんと背中を伸ばして新しい椅子に座り、調子に乗ってキーボードを叩いていたら…ついつい夢中になってしまったらしい。はっと気づくと部屋の中はずいぶん暗くなっていて……、慌てて部屋の電気を付けようと、したのだが。

「……うん?なんだ、あれは」

 ふと、目の端に…きらきらとしたものが、見えた。

 首を斜め右方向に向け、自分の目が捕らえたものの正体を…探る。

 レースのカーテンの向こう側に透ける、夜の街並み。
 白い色の向こう側に広がる、夜の闇の黒。
 小さな明かり、大きな照明、孤独な光、賑やかな輝き、彩られた夜の風景。

 今までフローリングの上に腰を下ろしていた時とは違う、景色があった。

 低い視線で見ていた窓からは、夜空しか見えていなかったのだ。
 低い視点から見上げていた窓の外は、ベランダの壁で遮られていて見えなかったのだ。

 ゴルフの打ちっぱなし、カラオケ店、飲食チェーン店の看板、マンションの部屋、街灯、飛行機‥‥‥、夜の帳に映える、煌びやかな灯り。

 このマンションに移り住んで、三年。

 初めて知る風景に、心が躍る。

 ……闇しか感じていなかった世界に、光があることを知った。

 闇に輝く、光の物語が浮かびそうだ。
 光り輝く、新しい物語が生まれそうだ。

 私は、夜景を望みながら……。

 新しい世界の可能性に、胸を、熱く、した。

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