見出し画像

ハッピーボックス

 仕事を終え、コンビニでメシを買って帰宅した俺は、おかしなものがあるのを発見した。

 ワンルームの、部屋のど真ん中に……、段ボール箱がある。

 ……なんだ、これは。
 宛名も、メモ書きもない。

 ……母ちゃんが来たのか?
 来るという話は聞いていないけどな。

 とりあえず…開けるか。

 ガムテープを剥がして、開けてみる。
 ……段ボールが入っている。

 壊れ物でも入っているのか?
 近頃の梱包は無駄に厳重だからな……。

 ガムテープを剥がして、開けてみる。
 ……段ボールが入っている。

 なんだ、これは。

 あれか?
 今はやりの、いたずらのつもりか?
 なんか、こういうの、ショート動画で見たような。

 ガムテープを剥がして、開けてみる。
 ……段ボールが入っている。

 なんなんだ、これは。

 ホント…無駄なことをするなあ。
 資源の無駄遣いだってわかんねえのかよ。

 ガムテープを剥がして、開けてみる。
 ……段ボールが入っている。

 おいおい…いい加減にしてくれよ。
 俺は暇じゃねえんだぞ?
 コッチは色々と忙しいのに。

 ガムテープを剥がして、開けてみる。
 ……段ボールが入っている。

 つか、マジでなんなんだ?
 ふざけんなよ?
 せっかくあっちんちんに温めてもらったカツカレーが冷めるだろうが!

 ガムテープを剥がして、開けてみる。

 ……なんだ?
 小さな、メモ帳と…、宛名シール……?

『これは、ハッピーボックスです。この箱を受け取った方は、幸せになれます!今までに53221人の人が幸せになってきました。おめでとうございます!あなたが受け取る番です!
 幸せが約束されたあなたにお願いがあります。幸せは一ヶ所にいることを好みません。3日以内に、誰かにこの箱をお送り下さい。宛名シールに、幸せを届けたい人のお名前を書いてください。箱は自動的にハッピーを届けに行くために、旅立ちます。
 昭和58年3月にとあるお寺の住職さんが始めたこの事業、どうか幸せを独り占めしようと考えて、長い歴史を止めようとしないでください。この箱を止めた千葉県の○○さんは、信じられないくらいの不運に見舞われたそうです。誰かに送りさえすれば防げた事故なのに…。私はあなたに、不幸を体験してほしくありません。ですから、ぜひとも、誰かに幸せを分け与えてあげて下さい。
 最後になりますが、くれぐれも放置/処分をしないでください。幸せは束縛と不変を好みません。幸せが不愉快を感じたら…何が起こってしまうのか、わかりません。どうか、冷静に、正しい判断をしてくださいますようお願い申し上げます・・・』

 うわ!!
 ちょっと待て、これって…いわゆる、不幸の手紙的なやつなんじゃねえの?!誰かに擦り付けないと呪われる的な!!!

 いやしかし…ハッピー、幸せを配るんだから違うのか?というか、自動で旅立つってなんなんだよ!
 ラッキーに見せかけてわりと縁起のワルいことを言っているのも気になるし!!

 ……いずれにせよ、明らかにやばい代物だ!!

 だが、誰かに送らなければ…つか、誰に送るというんだ!!
 俺は友達もいないし、兄弟もいない孤独な人間だ。
 まさかこんな怪しいものを会社の連中に送るわけにもいかないし!!

 実家に…、いや、俺が送ったとバレたら生真面目な母ちゃんが怒り狂うのは目に見えている!
 怪しげな訪問販売や宗教のやつらをことごとく蹴散らせてきたのを間近で見てきたんだ、こんなの絶対に燃やされる!

 …箱が不愉快になる事必至だ、とんでもない不幸がこちらにまで飛び火したらえらいこっちゃだ!

 そもそも誰が俺にこんなもんを送ってきたんだ、全く心当たりがない!!

 ……クソ、アンケートサイトか?
 会社の情報漏えいかも、いや、もしかしたら公共料金関連の…アアッ、もうっ!

 こうなったら適当な名前を書いて送るしか…いや、存在不明で戻ってくるかもしれない。その場合はどうなるんだ?

 ……そうだ、名前を…人を指定しないで送りつけるというのは、どうだろう。
 箱が自動で飛んで行くなんていうありえないシステムならば、おそらくきっちりと氏名を指定しなくても……大丈夫だろ。

 俺はラベルに、『暇人』と記入した。

 すると、空いていた箱が・・・パタパタと閉まっていく!!!

 なんだこれ?!
 本物の……オカルトじゃん!!

 …呆然と目の前の状況を見守ることしかできない。
 人ってのは、あまりにも不可思議な出来事に直面すると、冷静になってしまうものなんだなあ。

 最後のガムテープが元に戻ると、手元に有ったラベルがひらひらと飛んで行き、箱のど真ん中に貼り付いた。段ボールがふわりと空中に浮いて……、ああ、今から誰かのところに飛んで行くんだな。

 …次は、交友関係の広いやつのとこに行けるといいな。

 つぎは、だれが……。

 ……、ええと、なんだっけ?

 ……。

 ……そうだ、腹が…、減ったんだった。

 俺は、買ったばかりのコンビニのカレーを袋から取り出して。

「…なんだ?なんでこんなに冷えてんだろ…」

 カレーは冷えるとまずくなるんだよなあ。

 電子レンジが壊れちまってんだよな、温めなおしができねえってのに…ついてねえ。

 最近いつもこうなんだよ、昨日はきつねうどんが冷たかったし、その前はナポリタンがぼさぼさになってて、そのさらに前は肉まんもカチカチに冷え切っててさあ!!

 ……早く暖かい季節にならないかなあ。

 俺は、水滴だらけのフタをはがして……冷たいカレーにプラスチックスプーンを突き刺し。

 日課のゲームをするために、スマホを手に取ったのだった。

↓【小説家になろう】で毎日短編小説作品(新作)を投稿しています↓ https://mypage.syosetu.com/874484/ ↓【note】で毎日自作品の紹介を投稿しています↓ https://note.com/takasaba/