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【徹底解説】キャリア構築理論とは何か?(3)3つの自己:Savickas(2013)

引き続き、キャリア構築理論をマニアックに読み込みます。前回は自己を形作ること(self-making)について扱いました。今回は、この自己について、サビカス先生が3つの観点で捉えているというポイントについてまとめていきます。

Savickas, M. L. (2013). Career construction theory and practice. Career development and counseling- Putting theory and research to work, 2, 147-183.


メタ理論としての社会構成主義

3つの自己について述べる前に、その前提となるメタ理論は社会構成主義であることを宣言しています。

To move toward the goal of crafting a comprehensive theory that includes all three views, I use social constructionism as a metatheory. Social constructionism asserts that reality does not exist independent of us. Rather, we construct reality through social processes and interpersonal relationships.
(ざっくり和訳)
これら3 つの見解すべて(引用者註:客体、主体、プロジェクトとしての自己)を含む包括的な理論を作成するという目標に向かって進むために、私は社会構成主義をメタ理論として使用する。社会構成主義は、現実は私たちから独立して存在しないと主張する。むしろ、私たちは社会プロセスや対人関係を通じて現実を構築するとしている。

p.148-149

社会構成主義における記述には、特に引用が記載されていませんが、書かれている内容からするとケネス・ガーゲンの影響を受けているようです。

メタ理論は社会構成主義ですよと言った後、サビカス先生は、職業行動やキャリア構築を検討する枠組みとして、①客体としての自己、②主体としての自己、③プロジェクトとしての自己、という3つの自己の捉え方が役立つとしています。

①客体としての自己

環境において客体として存在する自己という捉え方は、個人―環境適合(person-environment fit)に影響を受けているとしています。言い方を変えれば、環境の中におけるactorとして個人を客観的に捉え、個人と職業との適合を図るという観点でHollandのRIASEC(俗称「六角形モデル」)に基づいてマッチング的に個人を職業機会に適合させるという考え方を取ります。

Hollandはサビカス先生の師匠筋に当たる研究者の一人なのですが、客体としての自己という観点で受け継いでいることが考えられます。

②主体としての自己

上述した①と対比的な捉え方が主体としての自己です。ここでは、サビカス先生のもう一人の師匠筋に当たるSuperが依拠したキャリアを発達段階で捉えるモデルの影響を受けており、agentとしての自己が発達していくという捉え方をしています。

サビカス先生は、SuperだけではなくMaslowも引用していますので、内的な発達という意味合いで主体としての自己をイメージしているようです。

③プロジェクトとしての自己

3つ目の捉え方は、私たちの多くが無期雇用で同一の企業に働き続けるという状況が少数派になることを踏まえています。固定的な仕事に就いて働くというスタイルよりも、柔軟性の高いプロジェクト・ベースで働くスタイルがより主流になると捉えています。

Rather than developing a stable life based on secure employment, today insecure workers must be flexible in maintaining employability through lifelong learning and adapting to occupational transitions. Rather than make plans, individuals must prepare themselves for possibilities.
(ざっくり和訳)
現在、雇用が不安定な労働者は、安定した雇用に基づいて安定した生活を築くのではなく、生涯学習を通じて雇用適性を維持し、職業のトランジションに適応する柔軟性を持たなければならない。個人は、計画を立てるのではなく、可能性に対して準備する必要がある。

p.149

こうしたプロジェクト型の働き方におけるキャリアにおいては、職業選択の課題に対応するために生涯を通じた学習が必要となるとサビカス先生はしています。さらに、計画を立てるのではなく可能性に対して準備をするとしているあたりは、プランド・ハプンスタンス理論の捉え方と近しいと評価できそうです。

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