【読書メモ】『ヒューマンカインド(上巻)』(ルトガー・ブレグマン著)
知人から勧められた本書。『サピエンス全史』のハラリ氏の推薦文が帯に載っていて期待値が上がって読み始めましたが、その期待を上回る良書でした!色々な読み方ができると思いますが、個人的には心理学でこれまで有名だった理論が生み出された実験に対する鋭い考察が興味深く、科学知に対する内省を促されました。
善性への信頼
本書の全体を通じてのスタンスは徹底的に性善説であり、メッセージは善性への信頼に溢れています。ただ、ふわふわとしたきれいごとを観念的に書き連ねるのではなく、こうしたメッセージを裏打ちするような具体的なエピソードがふんだんに盛り込まれており納得感があります。
興味を引く具体例が多いのでサクサクと読み進められるのも心地よいです。性善説に基づいているからか、邪念がなくすんなりと読めるのも良いです。
科学的態度への内省
ふんだんなエピソードの多くは、人が性悪説になることを促すような心理学の知見に対する批判的な指摘です。とりわけ、学部時代にチャルディーニの『影響力の武器』を読んで心理学、とりわけ社会心理学と呼ばれる領域に興味を持った身として、ミルグラム実験(権威への服従原理)やキャサリン事件(傍観者効果)に対する著者の舌鋒の鋭さには目が覚める思いでした。
科学知を生み出そうとしている身としては襟が正される想いです。調査する際のマインドと方法について気をつけすぎることはないのでしょう。
社会的学習が人間の特徴
人間は他の動物よりもあらゆる学習能力が高いというわけではないことはよく知られています。本書では、チンパンジーとオランウータンと2歳の子供との学習能力の比較が述べられていて、ほとんどの領域で人間は同等かやや劣っている点が明らかにされています。しかし、社会的学習のみは人間が圧倒的にスコアが高かったということを以下のように示しています。
社会的学習とはすなわち他者に開いた学習であり、他者を真似ることであり、他者にフィードバックするといったことを示すものです。こうした点に人間の学習能力の特徴があり、これが性善説で捉える人間像の源にあるのかもしれません。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?