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【論文レビュー】心理学領域での縦断研究で使われるランダム切片交差遅延パネルモデルとは何か?:宇佐美(2022)

本論文は、心理学の領域での縦断研究において注目されているランダム切片交差遅延パネルモデル(random intercept cross-lagged panel model:以下RI-CLPM)の特徴について、数理的・概念的に説明しています。むちゃくちゃ面白いのですが、数理的な詳細説明はちょっとなに言っているのかわからないので、概念的な部分を主にまとめていることを予めご承知おきくださいませ。

宇佐美慧. (2022). 個人内関係の推測と統計モデル- ランダム切片交差遅延パネルモデルを巡って. Japanese Journal of Developmental Psychology, 33(4).

因果推論のために交絡変数に対応

変数Aと変数Bとに共変関係があるかどうかは相関分析によって簡単に明らかにできますが、因果関係を推論することは難しいものです。これは、両変数の間に交絡の問題があるからなのですが、交絡変数(confounder)について本論文では以下のように定義してくれています。

ある独立(説明)変数Xから従属(目的)変数Yへの効果を推測する際に、Yに影響し、かつXにも影響する(または共変し、共分散がある)ような変数
p.267

RI-CLPMやCLPMは、因果推論のために交絡に対応する縦断研究のモデルであると著者は端的にその特徴を述べています。構造方程式モデリング(structural equation modeling:以下SEM)を用いた分析モデルなのですが、SPSS AmosなどSEMを扱えるソフトウェアの整備とともに2000年頃からCLPMが普及してきたとされています。

CLPMの限界点

本論文によれば、CLPMは個人内関係の因果推論をできないと批判したのはHamaker et al.(2015)だそうです。個人内関係とは個人内の変化プロセスを扱うものであり、集合的な関係とは異なるものです。両者の違いについて、本論文で提示されている例示がわかりやすいので引用します。

ある人が強度の強い運動をすることは心臓発作を引き起こす(=個人内関係)一方で、日常的に運動をしている人ほど平時の心臓発作のリスクは低い(=個人間関係)
p.268

CLPMでは、複数時点での縦断研究によって推論する因果関係の中に個人内関係と個人間関係とが混在しているというのが批判点であり、集団について見るのであれば因果を推論できるものの、個人の中における変化としての因果は推論できないということです。

個人内関係の因果推論を行うRI-CLPM

CLPMが個人内関係を扱えない点を修正したものがRI-CLPMです。では、RI-CLPMはどのようにして個人内関係の因果関係を推論しているのでしょうか。本論文では、端的に、RI-CLPMが時間的に安定した個人差を表す特性因子をモデルの中に組み込んでいるからだとしています。

この部分を数式で著者は説明してくれているのですが、、、私の手には負えられないレベル感なので、補足的に示してくださっているパス図について、CLPM(左)と対比してRI-CLPM(右)をご覧ください。

p.271

ここでの「I」が特性因子を表すものであり、潜在変数としてRI-CLPMのパス図の中に組み込まれていることがおわかりいただけるかと思います。

おまけ1

本論文でRI-CLPMに関する説明の中で言及のあるOrth et al.(2021)については、以前ざっくりとnoteでまとめているので、ご関心のある奇特な方はご笑覧ください。

おまけ2

そもそもSEMってなんでしたっけ?という方は、以下の動画のシリーズがわかりやすいのでおすすめです。


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