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【論文レビュー】テレワーク下のジョブ・クラフティング:細見(2023)

『ジョブ・クラフティング: 仕事の自律的再創造に向けた理論的・実践的アプローチ』第9章は、コロナ禍という現代的イシューに焦点を当てて、テレワークにおけるジョブ・クラフティング(以下JC)を論じられています。コロナ禍になる以前におけるテレワークの頻度とコロナ禍におけるテレワークの頻度を説明変数に置き、JD-Rモデルが想定する四つのJCを結果変数として、前者が後者にどのように影響するかを明らかにしています。コロナ禍が収束したとしてもテレワークを続ける企業や組織も一定程度は継続するでしょうから、現時点だけではなく今後にも活きる知見を提供してくれている章と言えます。

JD-R系JCの四次元

これまでの章でも何度か取り上げてきましたが、JD-RモデルのJCの四つの次元は、資源(Resource)に関わる二つの次元と、要求度(Demand)に関する二つの次元から成り立ちます。資源に関わるものは、構造的資源向上(increasing structural job resources)と社会的資源向上(increasing social job resources)です。

他方、要求度に関する二つの次元はどのような要求に関わるものかによって分けられます。まず、精神的な健康を損ねる要求度に関するものは妨害的要求度低減(decreasing hindering job demands)で、成長につながる要求度に関するものを挑戦的要求度向上(increasing challenging job demands)と呼んでいます。

在宅勤務利用頻度は挑戦的要求度向上に影響!

本研究の第一の示唆としては、在宅勤務の利用頻度が高いほど、挑戦的要求度向上が高まるという点です。これは、コロナ禍以前の利用頻度も、コロナ禍における利用頻度も、どちらもポジティヴに影響を与えていることが実証されました。

リモートワークでは、上司から常に見られるという状態性から遠ざかります。自律性が高い職務がデザインされるわけで、Hackman & Oldham(1975)の職務特性モデルを出すまでもなく内発的動機づけは高くなります。そのため、挑戦的要求度向上というJCが発揮されやすくなるのではないか、という考察が考えられます。

コロナ禍以前の在宅利用頻度は社会的資源向上に影響する!

第二に明らかになったのは、コロナ禍以前における在宅利用の頻度高いと社会的資源向上が高まるという点です。社会的資源とは、上司や同僚といった周囲のリソースを自ら積極的に獲得しようとすることを指します。コロナ禍以前という、日本企業においてリモートワークの利用者が少数派であった時代において、リモートワークの頻度が高かった人は、こうした行動をとることで社会的資源向上を高めていた、ということが考えられます。

リモートワークは社員間の経験蓄積の差を拡大する!?

上記二つの示唆は、実践的にはそら恐ろしい仮説も導けます。挑戦的要求度向上や社会的資源向上は、リモートワーク下ではそもそもスコアが低いことが本研究でわかっています。それにもかかわらず、在宅勤務利用頻度が高いと二つのJCにポジティヴな影響を与えているということの意味合いはなんでしょうか。

非常に乱暴な仮説ですが、自由にできる状態で自律的に働ける少数の社員は能動的に工夫を凝らす一方で、そうでない多数の社員はダラダラ働いてしまう、というようにも推察できるかもしれません。リモートワークは、職務遂行の場面がブラックボックス化してしまうわけで、その間に何を考えて何を実践しているかは長いスパンでの経験蓄積に大きな影響を与えるのではないでしょうか。


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