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【論文レビュー】「この職場に居ていいんだ!」という感覚が中高年社員の仕事ぶりに影響する!?:田中・石山(2020)

本論文では、内閣府の定義に倣って中高年を40-59歳の男女としています。ということは、私も立派な(?)中高年なので、当事者として真剣に読みました。結論を先取りすれば、中高年にとっては働いている職場における居場所役割感が大事で、上司・部下関係や職場のチームワークが職務パフォーマンスに対して影響する際に、居場所役割感を通じて影響が高まったり低くなったりする、ということを明らかにしています。

田中聡, & 石山恒貴. (2020). 職場の人間関係が中高年正社員の職務パフォーマンスに与える影響- 居場所役割感の媒介効果に着目して. 人材育成研究- 人材育成学会機関誌, 15(1), 3-16.

居場所への着目

ビジネスが変化し、働く環境も変化する中で、職場における人間関係も変化します。こうした変化が激しい現代においては、かつての会社=家というメタファーで捉えていた職場に対する捉え方も変わってきていると言えます。このような変化を踏まえて、職場における居場所感を個人のキャリアと結びつけた花田先生の『「働く居場所」の作り方』についてもかつてnoteで扱いましたが、本書でも先行研究の一環で取り上げられています。

また、『活躍する若手社員をどう育てるか:研究データからみる職場学習の未来』の第7章で東大の池田先生が心理的居場所感を扱われている内容も大変興味深いのでオススメです。

個人のキャリアという文脈でも居場所はキーワードになっていますが、キャリア・プラトー(停滞)に陥りやすかったりポスト・オフの前後で職務の役割変更が求められるなど、中高年にとって居場所感はより切実な課題になるのではないでしょうか。こうした問題意識を持って、著者たちは居場所役割感による職務パフォーマンスへの影響を明らかにしています。

居場所役割感とは何か

中村・岡田(2016)は、職場に居場所があるかどうかという概念を心理的居場所感と名づけ、その下位次元として①居場所役割感、②居場所安心感、③居場所本来感、の三つがあることを明らかにしています。本論文では、このうちの居場所役割感について焦点を当てていて、具体的には九つの質問項目から成り立つものです。

中村・岡田(2016)p.53

本論文では、中村・岡田(2016)を用いて、居場所役割感による、LMX(Leader Manager eXchange)職場チームワークから職務パフォーマンスへの影響に関する媒介効果を実証しています。言葉だけだとちょっと小難しいかもしれませんが、以下のモデル図を見れば関係性をお分かりただけるかと思います

田中・石山(2020)p.10

中高年の居場所役割感を高めるには?

本論文での理論的示唆にもあるように、中高年社員は、仕事を一通り一人でできる状態にあることが多いため、上司をはじめとした周囲からのフィードバックの頻度や量が若手社員よりも少なくなりがちです。

しかし、職場を取り巻く環境が変化し、それに対して適応する必要性があるのは中高年社員も同様です。中高年社員が自分の現在および近い将来における役割を理解できていると実感してもらえるようにサポートすることは重要だと言えます。

その際、1on1をただ実施するという安易な施策では解決策にはなりません。中高年社員の居場所役割感は本人の主観であり、かつ変化するものですから、相手がどのように感じているのかを丁寧に上司は聴き取ったうえで対応することが求められます。

居場所役割感を高める1on1の話題

では、1on1では何を話題として取り上げると良いのでしょうか。心理的居場所感の尺度を扱った中村・岡田(2016)によれば、居場所役割感に強く影響を与えているのは仕事の評価職場への適応の二つであることがわかります。

中村・岡田(2016)p.55

具体的に言えば、現在の職務役割においてどのような貢献をしているかを話したり、重要な役割を担っていることを期待として伝えたり、職場や職場の変化に馴染んでいるかや言いたいことを言えているかといった点をケアすると良いことがわかるでしょう。

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